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しおりを挟むそれは──
夏休みに入る、10日前。
塾終わりに、一人寂しい夜道を急いで帰宅していた女子中学生が、何者かに襲われた。
草むらに連れ込まれ、貞操を奪われた上に首を絞められて殺害される、という凄惨な事件だ。
「ま。あたしらみたいなブスには、関係ないけどね。あはは~」
「……う、うん、」
「ま、まーね……」
膨よかな蘭がそう言って声高らかに笑うと、婦人組の凛と恋が、困ったように苦笑いをする。
「……お前は、気を付けろよ」
長田が、隣にいる背の低い男──千明守の顔を覗き込む。
短く切り揃えられた、サラサラの黒髪。
強い意志を宿す、大きな黒瞳。
幼さの残るその顔は、一見頼りなさそうだが、風紀委員という事もあり、真面目で正義感の強さを醸し出している。
「千明は男にしとくの、勿体ないくらい可愛いからな」
「………ば、バカ。そういうの止めろっ!」
くしゃくしゃと髪を掻き混ぜられた千明先輩が、顔を真っ赤にしながら本気で長田先輩に突っ掛かる。
そんな二人の様子を、麻生の腕に絡み付く山口がじっと見つめていた。
麻生さんを見れば、未だに腕に絡み付く山口には気にも止めず、婦人組のやり取りを聞きながら笑っている。
「……」
みんな、楽しそう。
直ぐ近くで起きた事件にも関わらず、何処か、他人事のようで。
まさか、自分が……という、何故かわからない妙な自信を、各々が少なからず持ち合わせているんだろう。
「……でもさ。この中で一番危ないのは──紗栄子だよね」
山口が、真顔でぽつりと呟く。
その言葉に、一瞬で笑い声が消え、その場にいた全員が一斉に麻生へと視線を向ける。
「………え」
しん、と静まる空気。
集中する視線に、戸惑う麻生。
強張った顔、顔、顔──
たじろいだ麻生の顔に、くっきりと映る提灯の赤と、影の黒。
瞼が更に持ち上がれば……白目が、赤く染まる。
トン……
突然、麻生の肩に男の手が掛かる。
びくん、と小さく跳ね上がる肩。
その肩口の向こうにある暗闇から、影を刻んだ顔が、ゆっくりと現れる。
にたりと歪んだ口。それが、麻生の耳元へと近付く。
「……そう、だよ」
「───!!」
掠れた男の声。
ひっ、と悲鳴を上げ、肩を竦めて青ざめた麻生が、勢いよく振り返った。
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