【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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まんまるトリュフチョコ9

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 部活の練習が終わって晴人が戻ってくるのはいつも午後五時と決まっている。
 だからその三十分後なら確実に帰っていると考えて、僕から晴人の家まで行こうと思っていたのに。
 完全にしてやられた! ナオくんには全部お見通しだったらしい。

 チョコレートを入れた小箱を持って、いそいそ玄関で靴を履いている時に、見計らったかのようにちょうど鳴ったチャイム。
 インターホンを確認しなかったのは僕の落ち度だけど、扉を開けた先にまさか晴人が立っているなんて、いったい誰が想像できただろうか。

「え、晴人?」

 驚きのあまり固まる僕に対し、

「直人の迎えに来たんだけど」

 彼はごく自然な様子で要件を告げるが、ここにお探しのナオくんはいない。

「あれ、聞いてない? 今日は自分でシオちゃん家に行くから迎えだけ来てって言われたんだけどな」

 どういうこと?

 今日のことは確かにナオくんと「お兄ちゃんには内緒」ってことで話がまとまっていたはず。
 ナオくんが家に来ることも、一緒にお菓子を作ったことも、ナオくんが大志くんにチョコレートを渡すことも、バレンタインの計画も、当然僕が晴人に恋心を抱いていることも。

 何もかも二人だけの秘密にして計画を進めてきたわけで、ナオくんは当初の予定通り、

「大志くんと会ってくる!」

 とっくの昔に帰っていった。

 大志くんとの待ち合わせしていたという公園までは僕もついて行ったし、二人が合流したのもこの目でしっかり確認している。
 あれからすでに二時間近く経った今になって「お迎え」というのはおかしな話だ。

 しかも、ナオくんから頼んだって……それってつまり、すべてはナオくんの計画通り。

「はめられた」

 やたらとはりきっていたのはこのためだったのか!
 そうだよ、あの子は子供らしい言動をする割に敏いところがあるから、意気地なしの僕のためにきっと気を回してくれたのだろう。
 だとしても無鉄砲すぎるんだけどさ。

「志音?」

 今更頭を抱えたところで、ここに本人はいないし、これから会いに行こうとしていた人物が自らやって来てくれたことには変わりないし、なんなら二人きりでちょっとラッキーなんて思っちゃっている自分もいるわけで。

 緊張とか、焦りとか、不安とか、感謝とか、なんだかいろんなものがごちゃ混ぜになって、

「これ、バレンタインの」

 僕よりも情況が飲み込めていないはずの晴人に、いきなり箱を突きつけてしまったことは、これから何度も思い返される人生最大の汚点の一つになるに違いない。

 そう思っていたのに、

「ありがとう」

 晴人が微笑んで受け取ってくれたから、つい気が緩んでしまったんだと思う。
 達成感に紛れた失恋の痛手が僕の涙腺を刺激した。

「え、どしたの?」

 何の疑問も抱かず、わざわざバレンタインなんて口にした僕からのチョコレートを手にする彼が憎かったのかもしれない。
 恋愛の「れ」の字すらその気がないくせに、無意識の優しさで初恋を奪ったこの人はなんてずるいんだろう。
 このまま心の奥に閉じ込めて封印するくらいなら、せめて晴人にだけは恋心を伝えてもいいんじゃないか。
 僕の想いも知らないで、素直に渡されたものをもらってくれるほどには積み重ねてきた友情とか信頼とか、そういうの全部もう崩してしまってもいいんじゃないか。

 言葉にしていいことなど何もないとわかっているのに。
 つい魔が差した、とでも言うのだろうか。

 嗚咽の合間につい喉奥から漏れ出た、

「すき」

 という二文字は耳を澄ませていないと到底聞こえないような声にもなりきれない微かな音だった。

 だけど、晴人にはきちんと届いていたらしい。

「今、好きって言ってくれた?」

 混乱に乗じて誤魔化されてくれないかな。
 そう思う一方で気づいてほしかったはずなのに、いざ願っていたことが現実のものになると、息が詰まって胸が苦しくなる。

 本当に矛盾だらけ。
 穏便に終わらせようとか、最初から無理だったんだ。

 黙りこくってしまった僕の肩を晴人が掴む。

「もう一度言って」

 次また声に出したら、今度こそもう後戻りできなくなる。

「ごめん、晴人」

 今ならまだなかったことにできる。
 だけど好きな人から懇願するように迫られたら、もう太刀打ちしようもなくて、とうとう白状するしかなくなった。

「友達なのに、好きになってごめん」

 打ち明けてみて初めて知った。
 彼への恋心は罪悪感に染まりきっていたらしい。

 流れる涙は体温よりずっと熱くて、頬が冷え切っているとこの時やっと気がついた。

 怖い。嫌われるのも、気味悪がられるのも、友情を失うのも、何もかもが初恋の代償なのだとしたら、秘密にするのが正解だったのだろうか。

 後ろ暗い気持ちを彼にぶつけたことが申し訳なくて、また「ごめん」と口にしかけたその場所に、

「んぅ!?」

 突如として押し当てられた唇。
 それは紛れもなく晴人のものだった。

 見た目よりもずっと柔らかく、温かい。涙の味がする、僕のファーストキス。
 あまりのことに頭の中が真っ白を通り越して、かえって冷静になっていく。
 わかっていたことだけれど、晴人は距離感がおかしい。

 普通、告白されてからって友達同士はここまでしないんだよ。
 傷ついているのか、降って湧いたラッキーを楽しむべきなのか。

 息ができなくなる直前で離れていった唇を目で追ってから見上げると、僕の目線がちょうど彼の瞳と行き当たった。

「はると?」

 いつになく丸く開いた瞳孔に、驚きの色が滲んでいる。

「ごめん」

 あーあ、謝られちゃった。

「なにが?」

 その気はないのにキスしたこと?
 思わせぶりな態度を取ったこと?
 それとも、僕の気持ちには応えられないこと?

 どちらにせよ、僕の初恋が散ったことに変わりはない。
 彼なりの餞別のつもりだったのかもしれない。

 お礼を言うべきか思案し始めたところで、先に晴人が口を開く。

「がっつきすぎた」

 初めてだったから、と添えられたのは聞き間違えだろうか。
 あまりの展開に、頭の中で「?」マークが踊り出す。

 晴人には彼女がいて、キスくらいもう済ませているものだとばかり思っていたけど、

「え、でも……はじめてって……?」

 どういうことだ。

「正真正銘これがファーストキスなんだけど、志音は違った?」
「ううん! 僕だって初めて」

 もしかして、とんでもない勘違いをしていたとか?
 いやいや、まさか。それこそ都合が良すぎるもの。
 だけど、もしかするのかも。

「良かった。これからよろしくね」

 いつになく、ふにゃりと安心したように笑う晴人。
 疑惑が確信に変わる音がした。

「えっと、それって、つまり……」
「付き合おうってことじゃないの?」
「で、でも……!」

 彼女はどうするの? それに、付き合うって晴人は僕のこと好きってこと?

 様々な疑問が相変わらず脳内に充満しているのに、喉元引っかかって上手く吐き出せない。

「俺は志音が好きで、志音は俺が好きなんでしょ?」

 晴人って僕のこと好きだったんだ!

 彼主導で話が進んでいくのについて行くのが精一杯で、反応さえちゃんとは返せない。

「それで告白してくれたわけだし」
「う、うん?」

 一つ一つ丁寧に言質を取るように確認され、明らかになっていく現状。
 聞きたいことはたくさんあるのに目先の言葉が嬉しくて何も考えられなくなっちゃいそうだ。

「じゃあ、付き合わない選択肢ってなくない?」

 それって、晴人と恋人同士になるってことだよね。
 この出来事自体、本当に現実か疑わしくなって頬をつねってみるけど、

「いひゃい」

 しっかり痛い。

「何やってるの」
「びっくりしすぎて、夢じゃないか心配になって」
「大丈夫、夢じゃないよ」

 冷たい指先が、赤くなったほっぺたに押し当てられる。

「晴人、僕のこと好きなの?」
「今更? かなりわかりやすかったと思うんだけどな」

 好きな子以外にこんなことしないでしょ、とぎゅっと抱きしめられれば、もう何だってよかった。
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