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ふんわりシフォンケーキ2
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図々しい後輩として、案内するように前を行く山村さんの後を着いて行ったその先にあったのは、有名なコーヒーチェーン店だった。
チェーン店と一口で言っても、なぜだか「出来る人御用達」って感じが否めなくて、実は一度も入ったことがない。
「本当に僕なんかがいいんですかね?」
さっさと店内に足を踏み入れた山村さんに置いて行かれないよう続いたはいいものの、カウンターの頭上に設置された難しげなメニュー表を前に混乱を隠しきれない。
「なんか、ってなんだ」
「ほら、ドレスコードとか」
「いや、ないから」
大丈夫だと宥められても不安しかない。
ただでさえ場違い感が否めないのに、サイズからしてS・M・Lじゃないなんて!
パッと見で唯一わかるのはアメリカンとブレンドの二種類くらいだろうか。
結局アワアワしている間に順番が来てしまい、
「何にする?」
「えっと、あの、ホットコーヒーで」
急かされるままに適当に答えた僕の手に、いつの間にかブレンドで満たされたカップが収まっていた。
「本当にすみません!」
もう何度目かになる謝罪に山村さんは「気にするな」と言ってくれるけど、僕としては何度謝っても足りないくらいだ。
あの後、注文ごときで頭が真っ白になってフリーズした僕を山村さんは確保した席まで促してくれただけじゃなく、またもやご馳走してくれたのだ。
いくらなんでも大事な局面でお財布を出しそびれるなんて、我ながらマヌケすぎる。
「いいから飲んで落ち着け」
「でも!」
「冷めるから」
「はい……」
圧を感じて大人しくカップに口をつける。
温かくほろ苦いコーヒーが胃に流れ込んでくると、ホッと息が緩んだ。
「俺が勝手に連れて来たんだから気にしなくていい。何か言うなら礼で頼む」
確かに善行を積んでおいて謝罪されるのは嫌だよね。
ここは大人しくしておいて、今度改めてお礼をさせてもらおうかな。
「はい、ありがとうございます」
「おう」
さっぱりとした返事に添えられた笑顔。やっぱり山村さんは男気があるなあ。
もうすぐ最終学年に達する先輩の余裕に感心しつつ、ちょっと緊張が緩んだところで改めて店内を見回す。
落ち着いて観察してみれば意外にも一人の客が多い。ノートパソコンを開いていたり、読書に没頭していたり様々。
もちろんお喋りに興じる者も多く、彼らは年代も性別もバラバラで、中には僕とそう変わらない属性の持ち主もいた。
案外気負うような場所じゃないのかもしれない。
注文の仕方もなんとなくわかったし、これなら次からは一人でも平気そうだ。
と、思ってレジに目を向けると、まだ肌寒いのにも関わらず明らかに冷たい飲み物が入ったプラスティックのカップがやたらと出ていることに気がついた。
「あれ、人気なんですか?」
「どれだ?」
「ほら、あの、あの人が持ってるやつです」
隣に座る山村さんの目線を、たった今レジからこちらに歩き始めた人物に誘導する。
「あーあれじゃないか」
「あれ?」
「ほら、そこに出てるだろ」
今度は山村さんの指差す方を窺う。
なんで気づかなかったんだろう。
遠目からでも目立つポスターには堂々と「期間限定」の文字が躍っていた。
「この時期は毎年人気みたいだな」
なるほど、皆この季節だけのメニューが目当てだったらしい。
しかも、春のフレーバーは桜。
まさかこんなところで出会えるとは!
「あの、山村さん。僕ちょっとあれ買って来ていいですか?」
「は?」
「実は桜味のお菓子を作りたくて、桜の葉の塩漬けとか探していたんですけど見つからず……でも、あれを生地に混ぜればきっと良い感じになりますよね!」
すでに纏まってしまっている桜餅を解体するのは難しいけど、ドリンクなら液体だし牛乳みたいな扱いでいけるはず。
見た目からして甘そうだが、砂糖の量を調整すればそう悪いことにはならなさそうだし最高のアイデアだと思ったんだけど、
「馬鹿! あんなカロリー爆弾、菓子にぶち込んでどうする!」
どうやらそうでもなかったらしい。
「あれだけで四〇〇キロカロリーくらいあるんだぞ!」
「え、そんなに!?」
飲み物でラーメン一杯分。そう考えると、小麦粉やらなんやらに組み合わせるなんてあり得ないってわかる。
せっかく良い案を思いついたと喜んだのに、これじゃあダメだ。
目に見えて落ち込む僕に、
「す、すまん」
山村さんが気を遣ってくれているのがむしろ申し訳ない。
「いえ……こちらこそ、すみません」
はっきり数字で教えられれば、さすがの僕でもダイエットのお手伝いをしてくれた方にしちゃいけない提案だったと反省する他ない。
地獄みたいな空気が流れて数十秒。
山村さんはしばらく何かを考える素振りを見せてから、
「桜味になれば良いんだよな?」
何やら策ありげにニヤリと笑った。
チェーン店と一口で言っても、なぜだか「出来る人御用達」って感じが否めなくて、実は一度も入ったことがない。
「本当に僕なんかがいいんですかね?」
さっさと店内に足を踏み入れた山村さんに置いて行かれないよう続いたはいいものの、カウンターの頭上に設置された難しげなメニュー表を前に混乱を隠しきれない。
「なんか、ってなんだ」
「ほら、ドレスコードとか」
「いや、ないから」
大丈夫だと宥められても不安しかない。
ただでさえ場違い感が否めないのに、サイズからしてS・M・Lじゃないなんて!
パッと見で唯一わかるのはアメリカンとブレンドの二種類くらいだろうか。
結局アワアワしている間に順番が来てしまい、
「何にする?」
「えっと、あの、ホットコーヒーで」
急かされるままに適当に答えた僕の手に、いつの間にかブレンドで満たされたカップが収まっていた。
「本当にすみません!」
もう何度目かになる謝罪に山村さんは「気にするな」と言ってくれるけど、僕としては何度謝っても足りないくらいだ。
あの後、注文ごときで頭が真っ白になってフリーズした僕を山村さんは確保した席まで促してくれただけじゃなく、またもやご馳走してくれたのだ。
いくらなんでも大事な局面でお財布を出しそびれるなんて、我ながらマヌケすぎる。
「いいから飲んで落ち着け」
「でも!」
「冷めるから」
「はい……」
圧を感じて大人しくカップに口をつける。
温かくほろ苦いコーヒーが胃に流れ込んでくると、ホッと息が緩んだ。
「俺が勝手に連れて来たんだから気にしなくていい。何か言うなら礼で頼む」
確かに善行を積んでおいて謝罪されるのは嫌だよね。
ここは大人しくしておいて、今度改めてお礼をさせてもらおうかな。
「はい、ありがとうございます」
「おう」
さっぱりとした返事に添えられた笑顔。やっぱり山村さんは男気があるなあ。
もうすぐ最終学年に達する先輩の余裕に感心しつつ、ちょっと緊張が緩んだところで改めて店内を見回す。
落ち着いて観察してみれば意外にも一人の客が多い。ノートパソコンを開いていたり、読書に没頭していたり様々。
もちろんお喋りに興じる者も多く、彼らは年代も性別もバラバラで、中には僕とそう変わらない属性の持ち主もいた。
案外気負うような場所じゃないのかもしれない。
注文の仕方もなんとなくわかったし、これなら次からは一人でも平気そうだ。
と、思ってレジに目を向けると、まだ肌寒いのにも関わらず明らかに冷たい飲み物が入ったプラスティックのカップがやたらと出ていることに気がついた。
「あれ、人気なんですか?」
「どれだ?」
「ほら、あの、あの人が持ってるやつです」
隣に座る山村さんの目線を、たった今レジからこちらに歩き始めた人物に誘導する。
「あーあれじゃないか」
「あれ?」
「ほら、そこに出てるだろ」
今度は山村さんの指差す方を窺う。
なんで気づかなかったんだろう。
遠目からでも目立つポスターには堂々と「期間限定」の文字が躍っていた。
「この時期は毎年人気みたいだな」
なるほど、皆この季節だけのメニューが目当てだったらしい。
しかも、春のフレーバーは桜。
まさかこんなところで出会えるとは!
「あの、山村さん。僕ちょっとあれ買って来ていいですか?」
「は?」
「実は桜味のお菓子を作りたくて、桜の葉の塩漬けとか探していたんですけど見つからず……でも、あれを生地に混ぜればきっと良い感じになりますよね!」
すでに纏まってしまっている桜餅を解体するのは難しいけど、ドリンクなら液体だし牛乳みたいな扱いでいけるはず。
見た目からして甘そうだが、砂糖の量を調整すればそう悪いことにはならなさそうだし最高のアイデアだと思ったんだけど、
「馬鹿! あんなカロリー爆弾、菓子にぶち込んでどうする!」
どうやらそうでもなかったらしい。
「あれだけで四〇〇キロカロリーくらいあるんだぞ!」
「え、そんなに!?」
飲み物でラーメン一杯分。そう考えると、小麦粉やらなんやらに組み合わせるなんてあり得ないってわかる。
せっかく良い案を思いついたと喜んだのに、これじゃあダメだ。
目に見えて落ち込む僕に、
「す、すまん」
山村さんが気を遣ってくれているのがむしろ申し訳ない。
「いえ……こちらこそ、すみません」
はっきり数字で教えられれば、さすがの僕でもダイエットのお手伝いをしてくれた方にしちゃいけない提案だったと反省する他ない。
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