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ふんわりシフォンケーキ6
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「お、桜庭じゃん。花見か?」
レジャーシートの上でゆっくりくつろいでいると、犬を連れた山村さんが近くを通りかかった。
どうやら散歩の最中らしい。
「あ! ちょうどいいところに。よかったらどうぞ」
帰りにお宅に寄らせてもらうつもりだったからラッキーだ。
「ありがとう。いただくよ」
ラッピングを施したした包みを渡していると、なにやら不穏な気配を感じた。
言うなれば闇のオーラ的な……でも、こんなの発するような人なんてここにはいないはず。
そう不思議に思いつつ、背中に刺さる気配を探るように振り向けば、明らかに不機嫌そうな晴人が先輩にジト目を向けていた。
「は、晴人?」
いったいどうしたんだろう。
山村さんのことはすでに知っているはずだし、僕が散々お世話になっていることも承知のはずだ。
それなのに、そんな不躾な態度を取るなんて彼らしくない。
「志音がいつもお世話になっています」
丁寧なはずの言葉に若干の棘が潜んでいるのはたぶん気のせいじゃない。
しかし、豪胆なところのある山村さんは気に留めていないのか、はたまた気がついていないだけなのか、
「可愛い後輩の世話なんてそんな大したことじゃない」
さらりと躱している。
二人は初対面のはずなのに、もうすでに相性が悪そうでひやひやしてしまうが、ここで救世主登場がした。
遊具で遊んでいたナオくんたちが帰ってきたのだ。
「あ! 水羊羹の時のお兄さんだ!」
「おう」
トテトテと駆け寄るナオくんの後ろを大志くんがゆっくりと歩いている。
二人は近づくにつれ何か異常事態を察したのだろう、依然として険しい雰囲気を纏う晴人を一瞥してから、
「しゅらば?」
どこで学んだのか、大人の世界の単語を放った。
「ち、ちがうよ!」
慌てて否定するけれど、こんな見え透いた嘘などませた小学生には通用しない。
「シオちゃんはお兄ちゃんのコイビトだから取っちゃダメなんだよ!」
なんとナオくん、山村さんをビシッと指さして、爆弾発言をしてしまった。
これには僕も冷や汗たらたら。
加えて大志くんまで、
「バレンタインから付き合ってんだってさ。あっちぃ」
ぶっきらぼうながら、とんでもないことを言ってのける。
二学期にクラスメイトといざこざがあったなんて二人は知らないんだろうけど、あの出来事もあって僕と晴人はこの関係をおおっぴろにするのは厳しいと考えていた。
だから、今のところ僕らがお付き合いしているって伝えているのはナオくんと大志くんだけ。
特にナオくんは協力してくれた立役者だし、そんな彼と仲良しの大志くんとはこれからも行動を共にするから、早々に報告したんだ。
幸い偏見などないようで、あっさりと受け入れてもらえたんだけど……山村さんはどうだろう。
恐る恐る顔色を窺えば、
「そうだったのか、良かったな」
何のことはない。いつもと変わらぬごく自然な様子で祝福の言葉を述べている。
「ダイエット頑張ってたもんな」
うんうん、と頷くその姿に晴人の警戒心に満ちた闇のオーラが解ける。
「あ、あの、気持ち悪いとか思わないんですか……?」
藪蛇だとわかっている。だけど聞かずにはいられなかった。
「別に。俺に害とかないし。そもそも、桜庭だってそう思っていないんだろ?」
男同士で付き合っているって判明したところで、これまで見て来たお前の何かが変わるってわけじゃない。
そう断言されて、屋上で僕が晴人にかけた言葉を思い出す。
自分で言うのもなんだけど、あの時なんの気もなく発したことが本当に晴人の救いになっていたんだって、今ならよくわかる。
「確かに、そうですよね」
「当たり前だろ」
その当たり前をくれる人はきっとまだ多くはない。
だけど、傍で支えてくれる人だけでも、そういう風に捉えてくれていたらいいなと思った。
「彼氏くんもさ、桜庭のこと好きなのはわかったから、そんな警戒しなくていいって」
「すみません」
「まあ、あれだ。気にすんな」
爽やかに去っていった山村さんの背中を目で追いながら、晴人と並んで囁き合う。
「山村さん、いい人でしょ?」
「そうだね。直人たち犬も触らせてもらってたし」
「僕が焦ってる間にね」
「ホントだよ」
世界は僕らが思っているより案外優しいのかもしれない。
「新学期、クラスが離れても一緒でも友達作ってみようかな」
去年一人でできなかったことのリベンジ。
お菓子作りに逃げた先で、今こうして素敵な人たちに恵まれているのだから、ちょっと勇気を出せばもっとたくさんの輪が広がっていくはず。
「応援してくれる?」
「もちろん」
晴人の指が僕の指を絡まって、ぎゅっと握られる。
彼も山村さんの言葉で考えることがあったのかもしれない。
可愛いな。
「それから、ご両親にも会わせてね。僕もちゃんと紹介するから」
僕のせいでうやむやになっていた希望を叶えてあげたいって思っちゃうくらい愛おしい。
「いいの?」
そう言って見開かれる瞳がキラキラしていて、泣いているように見えた。
「いいよ、晴人は?」
「嬉しいけど、ちょっと怖い」
「一緒に乗り越えればいいよ」
何事も二人で。
大変なことも、理解してもらえないことも、これから先たくさんあるだろう。
でも、その度にこうして手を取り合えばきっと上手くいく。
背中を押すように吹いた風が「幸あれ」と僕らの上に花吹雪を降らしてくれた。
レジャーシートの上でゆっくりくつろいでいると、犬を連れた山村さんが近くを通りかかった。
どうやら散歩の最中らしい。
「あ! ちょうどいいところに。よかったらどうぞ」
帰りにお宅に寄らせてもらうつもりだったからラッキーだ。
「ありがとう。いただくよ」
ラッピングを施したした包みを渡していると、なにやら不穏な気配を感じた。
言うなれば闇のオーラ的な……でも、こんなの発するような人なんてここにはいないはず。
そう不思議に思いつつ、背中に刺さる気配を探るように振り向けば、明らかに不機嫌そうな晴人が先輩にジト目を向けていた。
「は、晴人?」
いったいどうしたんだろう。
山村さんのことはすでに知っているはずだし、僕が散々お世話になっていることも承知のはずだ。
それなのに、そんな不躾な態度を取るなんて彼らしくない。
「志音がいつもお世話になっています」
丁寧なはずの言葉に若干の棘が潜んでいるのはたぶん気のせいじゃない。
しかし、豪胆なところのある山村さんは気に留めていないのか、はたまた気がついていないだけなのか、
「可愛い後輩の世話なんてそんな大したことじゃない」
さらりと躱している。
二人は初対面のはずなのに、もうすでに相性が悪そうでひやひやしてしまうが、ここで救世主登場がした。
遊具で遊んでいたナオくんたちが帰ってきたのだ。
「あ! 水羊羹の時のお兄さんだ!」
「おう」
トテトテと駆け寄るナオくんの後ろを大志くんがゆっくりと歩いている。
二人は近づくにつれ何か異常事態を察したのだろう、依然として険しい雰囲気を纏う晴人を一瞥してから、
「しゅらば?」
どこで学んだのか、大人の世界の単語を放った。
「ち、ちがうよ!」
慌てて否定するけれど、こんな見え透いた嘘などませた小学生には通用しない。
「シオちゃんはお兄ちゃんのコイビトだから取っちゃダメなんだよ!」
なんとナオくん、山村さんをビシッと指さして、爆弾発言をしてしまった。
これには僕も冷や汗たらたら。
加えて大志くんまで、
「バレンタインから付き合ってんだってさ。あっちぃ」
ぶっきらぼうながら、とんでもないことを言ってのける。
二学期にクラスメイトといざこざがあったなんて二人は知らないんだろうけど、あの出来事もあって僕と晴人はこの関係をおおっぴろにするのは厳しいと考えていた。
だから、今のところ僕らがお付き合いしているって伝えているのはナオくんと大志くんだけ。
特にナオくんは協力してくれた立役者だし、そんな彼と仲良しの大志くんとはこれからも行動を共にするから、早々に報告したんだ。
幸い偏見などないようで、あっさりと受け入れてもらえたんだけど……山村さんはどうだろう。
恐る恐る顔色を窺えば、
「そうだったのか、良かったな」
何のことはない。いつもと変わらぬごく自然な様子で祝福の言葉を述べている。
「ダイエット頑張ってたもんな」
うんうん、と頷くその姿に晴人の警戒心に満ちた闇のオーラが解ける。
「あ、あの、気持ち悪いとか思わないんですか……?」
藪蛇だとわかっている。だけど聞かずにはいられなかった。
「別に。俺に害とかないし。そもそも、桜庭だってそう思っていないんだろ?」
男同士で付き合っているって判明したところで、これまで見て来たお前の何かが変わるってわけじゃない。
そう断言されて、屋上で僕が晴人にかけた言葉を思い出す。
自分で言うのもなんだけど、あの時なんの気もなく発したことが本当に晴人の救いになっていたんだって、今ならよくわかる。
「確かに、そうですよね」
「当たり前だろ」
その当たり前をくれる人はきっとまだ多くはない。
だけど、傍で支えてくれる人だけでも、そういう風に捉えてくれていたらいいなと思った。
「彼氏くんもさ、桜庭のこと好きなのはわかったから、そんな警戒しなくていいって」
「すみません」
「まあ、あれだ。気にすんな」
爽やかに去っていった山村さんの背中を目で追いながら、晴人と並んで囁き合う。
「山村さん、いい人でしょ?」
「そうだね。直人たち犬も触らせてもらってたし」
「僕が焦ってる間にね」
「ホントだよ」
世界は僕らが思っているより案外優しいのかもしれない。
「新学期、クラスが離れても一緒でも友達作ってみようかな」
去年一人でできなかったことのリベンジ。
お菓子作りに逃げた先で、今こうして素敵な人たちに恵まれているのだから、ちょっと勇気を出せばもっとたくさんの輪が広がっていくはず。
「応援してくれる?」
「もちろん」
晴人の指が僕の指を絡まって、ぎゅっと握られる。
彼も山村さんの言葉で考えることがあったのかもしれない。
可愛いな。
「それから、ご両親にも会わせてね。僕もちゃんと紹介するから」
僕のせいでうやむやになっていた希望を叶えてあげたいって思っちゃうくらい愛おしい。
「いいの?」
そう言って見開かれる瞳がキラキラしていて、泣いているように見えた。
「いいよ、晴人は?」
「嬉しいけど、ちょっと怖い」
「一緒に乗り越えればいいよ」
何事も二人で。
大変なことも、理解してもらえないことも、これから先たくさんあるだろう。
でも、その度にこうして手を取り合えばきっと上手くいく。
背中を押すように吹いた風が「幸あれ」と僕らの上に花吹雪を降らしてくれた。
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