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第5話 迷走するティープラン
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「申し訳ないけど、うちはそういうの興味ないから。客じゃないなら行った、行った!」
「……あっ……」
冷たく突き放され、私は肩を落とした。
(これで何軒目……?)
アレクシスと別れた後、紅茶に合いそうなお菓子を出している屋台に片っ端から声をかけ、相乗りの相談を持ち掛けた。しかし、どこもいい返事をくれない。……いや、それどころか、まともに話を聞いてすらもらえない。
「は? 屋台で紅茶? ……あんた、バカじゃないの?」
「お嬢さん、悪いけど、うちは家族でやってるからね。余所者にスペースを貸す余裕なんてないよ」
「水だってタダじゃないし、火を使うにも許可がいるんだ。それを君が全部用意できるなら別だけど?」
「そもそも、紅茶なんてゆっくり飲むもんを屋台で売るなんて、誰が買うのさ」
言い返したい。でも、投げかけられる言葉はどれも、的を射ている。『紅茶を屋台で売る』ということが、想像以上に難しいことを痛感させられる。
「……そうですか。ありがとうございました」
私は精一杯の笑顔を作り、軽く頭を下げて屋台を後にした。けれど、気づけば拳をぎゅっと握りしめていた。
ふと、転生前、何度も企画を立てては却下されてきたことを思い出す。この世界でも、私のアイディアは上手くいかないのだろうか……。そんな考えが頭をよぎる。
(……いや、諦めてる場合じゃない。明日までに紅茶を売る目途を立てなきゃ、ティーセットが売られてしまう……!)
私はなんとか自分を奮い立たせ、次のターゲットを探しはじめた——その時だった。
ふわりと、どこか懐かしいバターの香りが鼻をくすぐった。
(……この匂いは……?)
一瞬、足が止まる。甘く、香ばしく、それでいて優雅な香り——。けれど、何かが違う。こんな香り、さっきまでの屋台では嗅いだことがない。
(まるで、昔、執事喫茶で食べた極上のスコーンの匂い……!)
頭の中に、かつて紅茶とともに味わった焼きたてスコーンの記憶が蘇る。サクサクの食感、バターの風味、クロテッドクリームとジャムの絶妙なハーモニー……。あの幸せな味を、もう一度味わいたい——。
私はごくりと生唾を飲み込み、香りの元を探す。そして、メインストリートの少し外れた場所に、立派な屋台を見つけた。カウンターには焼きたての菓子パンやペストリーそしてこんがりと焼き色のついたスコーンが並んでいた! けれど、なぜか店の周りにはほとんど客がいない。
(こんなに美味しそうなのに、どうして……?)
理由は分からない。けれど、今はそれよりも、相乗り先を確保することが先決だ。
「——まずは話を聞いてもらわなきゃ」
そう決意し、屋台へ向かおうとしたその時——。
「ようやく見つけましたよ、シエナ様」
低く、けれどどこか甘く響く声が、ざわめく人混みの中でもはっきりと耳に届いた。まるで背後からそっと囁かれたような感覚に、背筋が震える。
(えっ……もう追いついたの?!)
驚いて振り返ると、そこには息を切らしたアレクシスが立っていた。微かに乱れた黒髪、わずかに開いた唇から整った呼吸を整えようとする気配が伝わってくる。その姿に、思わず見惚れそうになる。
「……どこへ行かれたのかと、随分探しました」
わずかに乱れた黒髪が、彼がどれほど急いでここにたどり着いたのかを物語っている。
「勝手にどこかへ行ったのは私なのに、探してくれるなんて最高!」
つい本音が漏れてしまったので、慌てて咳払いして誤魔化す。
「……じゃない。アレクシスが反対ばかりするから、一人で頑張ろうと思って……」
私が少し拗ねたように言うと、アレクシスは静かにため息をついた。
「……一人で街を歩くのは危険すぎます。せめて、最低限の護衛だけはつけて下さい」
彼の菫色の瞳が、ふと遠くを見つめる。
「この国は、お嬢様が思っているほど、穏やかではありませんから」
「……え?」
「一度転がり落ちた貴族が、二度と這い上がれない理由。お嬢様は、お分かりですか?」
「……貴族が、商売することが卑しいとされているから?」
アレクシスは静かに首を横に振る。
「それもあります。しかし——」
そこまで言いかけたところで、ふっと口をつぐむ。一瞬、彼の瞳に影が差した気がした。
(アレクシスに悲しき過去……?! 気になる……!)
「しかしって何?」と、追及したい衝動に駆られる。しかし、バターの香りが再び漂い、私を目の前の問題へと引き戻す。今はアレクシスの過去を探るよりも、紅茶を売る手段を見つける方が先決だ。
「アレクシスが私を心配してくれることはよく分かったわ。でも、大丈夫。私は必ずやり遂げるわ」
そして私は屋台を指さし、宣言する。
「今からこの店主を説得してみせる! アレクシス、護衛しながらでいいから、私の雄姿をしっかり見届けて!」
「……あっ……」
冷たく突き放され、私は肩を落とした。
(これで何軒目……?)
アレクシスと別れた後、紅茶に合いそうなお菓子を出している屋台に片っ端から声をかけ、相乗りの相談を持ち掛けた。しかし、どこもいい返事をくれない。……いや、それどころか、まともに話を聞いてすらもらえない。
「は? 屋台で紅茶? ……あんた、バカじゃないの?」
「お嬢さん、悪いけど、うちは家族でやってるからね。余所者にスペースを貸す余裕なんてないよ」
「水だってタダじゃないし、火を使うにも許可がいるんだ。それを君が全部用意できるなら別だけど?」
「そもそも、紅茶なんてゆっくり飲むもんを屋台で売るなんて、誰が買うのさ」
言い返したい。でも、投げかけられる言葉はどれも、的を射ている。『紅茶を屋台で売る』ということが、想像以上に難しいことを痛感させられる。
「……そうですか。ありがとうございました」
私は精一杯の笑顔を作り、軽く頭を下げて屋台を後にした。けれど、気づけば拳をぎゅっと握りしめていた。
ふと、転生前、何度も企画を立てては却下されてきたことを思い出す。この世界でも、私のアイディアは上手くいかないのだろうか……。そんな考えが頭をよぎる。
(……いや、諦めてる場合じゃない。明日までに紅茶を売る目途を立てなきゃ、ティーセットが売られてしまう……!)
私はなんとか自分を奮い立たせ、次のターゲットを探しはじめた——その時だった。
ふわりと、どこか懐かしいバターの香りが鼻をくすぐった。
(……この匂いは……?)
一瞬、足が止まる。甘く、香ばしく、それでいて優雅な香り——。けれど、何かが違う。こんな香り、さっきまでの屋台では嗅いだことがない。
(まるで、昔、執事喫茶で食べた極上のスコーンの匂い……!)
頭の中に、かつて紅茶とともに味わった焼きたてスコーンの記憶が蘇る。サクサクの食感、バターの風味、クロテッドクリームとジャムの絶妙なハーモニー……。あの幸せな味を、もう一度味わいたい——。
私はごくりと生唾を飲み込み、香りの元を探す。そして、メインストリートの少し外れた場所に、立派な屋台を見つけた。カウンターには焼きたての菓子パンやペストリーそしてこんがりと焼き色のついたスコーンが並んでいた! けれど、なぜか店の周りにはほとんど客がいない。
(こんなに美味しそうなのに、どうして……?)
理由は分からない。けれど、今はそれよりも、相乗り先を確保することが先決だ。
「——まずは話を聞いてもらわなきゃ」
そう決意し、屋台へ向かおうとしたその時——。
「ようやく見つけましたよ、シエナ様」
低く、けれどどこか甘く響く声が、ざわめく人混みの中でもはっきりと耳に届いた。まるで背後からそっと囁かれたような感覚に、背筋が震える。
(えっ……もう追いついたの?!)
驚いて振り返ると、そこには息を切らしたアレクシスが立っていた。微かに乱れた黒髪、わずかに開いた唇から整った呼吸を整えようとする気配が伝わってくる。その姿に、思わず見惚れそうになる。
「……どこへ行かれたのかと、随分探しました」
わずかに乱れた黒髪が、彼がどれほど急いでここにたどり着いたのかを物語っている。
「勝手にどこかへ行ったのは私なのに、探してくれるなんて最高!」
つい本音が漏れてしまったので、慌てて咳払いして誤魔化す。
「……じゃない。アレクシスが反対ばかりするから、一人で頑張ろうと思って……」
私が少し拗ねたように言うと、アレクシスは静かにため息をついた。
「……一人で街を歩くのは危険すぎます。せめて、最低限の護衛だけはつけて下さい」
彼の菫色の瞳が、ふと遠くを見つめる。
「この国は、お嬢様が思っているほど、穏やかではありませんから」
「……え?」
「一度転がり落ちた貴族が、二度と這い上がれない理由。お嬢様は、お分かりですか?」
「……貴族が、商売することが卑しいとされているから?」
アレクシスは静かに首を横に振る。
「それもあります。しかし——」
そこまで言いかけたところで、ふっと口をつぐむ。一瞬、彼の瞳に影が差した気がした。
(アレクシスに悲しき過去……?! 気になる……!)
「しかしって何?」と、追及したい衝動に駆られる。しかし、バターの香りが再び漂い、私を目の前の問題へと引き戻す。今はアレクシスの過去を探るよりも、紅茶を売る手段を見つける方が先決だ。
「アレクシスが私を心配してくれることはよく分かったわ。でも、大丈夫。私は必ずやり遂げるわ」
そして私は屋台を指さし、宣言する。
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