【完結】男装ホスト令嬢は今宵も愛を売る-婚約破棄?ご自由に。私には仕事《ホスト》がありますので。-

天堂 サーモン

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第18話 【エリナ視点】もう一つの再会

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 ついに……帰ってきた!

 久しぶりの王都の空気は、もう最高だ。
 香ばしい焼き菓子の匂いと、馬車の蹄の音、誰かの笑い声がごちゃ混ぜになって、全部が生きてるって感じ。あの田舎の修道院じゃこんな賑やかな空気、絶対吸えない。

 辺境の修道院に送られてから早数年。

 表向きには完全無欠の修道女として振る舞いつつ、裏では修道院の司祭様なんかに私的な場で親密な『お願い』を根気強くしてきた結果……私はめでたく王都へ返り咲くことができたのだ!

 ……まあ、実際には王都にある別の修道院に届け物をする役目を申し付かっただけなんだけど。それでも、ここまで、本当に長かった……。



 修道院でのとにかく退屈で、辛くて、厳しい生活に耐えられたのは、すべてクロードのおかげだった。


 何年か前、私はクロードに手紙を出した。
 私のいる修道院は基本的に、外部との接触を許さない。だから返事がくるはずはなかったのに……ある日、私のベッドの下に、一通のいい香りのする手紙が現れた。

 慌てて開くと、それはクロードからの手紙だった!

 完璧に美しく整っているけど「C」の文字だけ少しクセのある素敵な筆跡。内容は、私の手紙へのお礼と、リオンの手紙を姉に届けたという報告。

 あの日の感動は、今なお胸にしっかりと刻まれている。手紙の内容を見た後は嬉しさのあまりベッドで転げまわって、小躍りして――今でも、やれと言われたらその動きを再現できるだろう。


 返事がきただけでも天に昇るほど嬉しかったのに、クロードはそれからもたまに、私に手紙を送ってくれるようになった。


 内容は毎回ほんの短くて、たわいもないことばかり。

 たとえば、「最近、日が短くなったね」とか、「風が冷たくなってきたけど、体調は大丈夫?」とか。手紙を読むたび、クロードとの新しい思い出がひとつ増えるたびに、胸がいっぱいになった。



 そういうわけで、クロードへの想いをいっそう募らせた私は、より脱出のチャンスを得やすいように、『完璧』な修道女を演じるようになった――というわけ。



 司祭様からの言付けをさっさと終わらせ、修道院を出る。
 その間際、車輪のついた珍しい椅子に乗せられたお嬢さんとすれ違った。

 足が悪いのかしら? ……そういえば、リオン――いや、本人はリリィとか言ってたっけ? は今、どうしてるんだろう。クロードの手紙が届く少し前に誰かに引き取られていったけど……。まあきっと、元気にしてるでしょ。


 用事を済ませた私が向かう先はひとつ、『ルクレール』だ。

 修道院の門を出て、大通りをまっすぐ進む。
 政庁や館の並ぶ区画を抜け、いくつか角を曲がった先――貴族街の外れに、目的の場所はあるはずだ。

 今はまだ昼間だから、当然店はやってない。きっと、クロードもいない。
 けれど、もうすぐ私は王都から出なくてはいけない。夜まで待つことはできない。

 だから……せめて、お店の看板だけでも一目見て、帰りたかった。


 ふと、視線の端に白金の看板が目に入る。
 ――『ルクレール』!

 外観は控えめで、一見、特別な場所には見えない。でもよく見ると細かいところまで手入れが行き届いていて、オーナー――つまり、クロードの人柄が垣間見えるその建物を見上げると、思わずため息がでた。


 私の王子様のいる夢の城。
 ようやく、ようやく、ようやく――戻って来られた!



「おや、お客様でしょうか?」

 あまりの感動にしばらくぼうっと立ったまま看板を眺めていると、後ろから不意に声がかかった。

 え、うそ。この静かで、耳に甘く余韻が残る声は……
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