深海の貝

ただのA

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深海の貝

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高校生の由佳は、都会の喧騒から逃れるため、海辺の小さな村での夏休みのアルバイトを始めた。村は静かで、観光客もほとんどいない。しかし、村には何か不穏な空気が漂っていた。特に年配の村人たちは、やけに警戒心が強く、誰もが口にしないが、ある古い伝説を伝えていた。

その伝説は「深海の貝」というもので、村の浜辺に紫色の貝が打ち上げられると、その貝に触れた者は必ず不幸に見舞われ、最終的には海に消えると言われていた。由佳は最初、この話が単なる迷信だと思っていたが、次第に村人たちの態度がその話を現実のものとして感じさせるようになった。

ある日、由佳は浜辺で真珠のように輝く紫色の貝を見つける。それは他の貝とはまったく異なり、表面が不自然に滑らかで、まるで生きているかのように震えていた。好奇心から手に取った瞬間、冷たい震えが体を貫き、耳元でかすかな囁き声が聞こえた。

「お前も、こっちに来るか?」

由佳はその瞬間、引き寄せられるような感覚を覚え、手を放そうとしても、貝は彼女の手に戻ってきてしまう。恐怖と興奮が入り混じる中、由佳は貝を再び海に戻そうと試みるが、どれだけ遠くに投げても、貝は元の場所に戻るのだった。

夜、由佳は深い海の底で目を覚ます夢を見た。暗い深海の中に立ち、足元には無数の貝殻が広がっている。その中に一つ、紫色の光を放つ貝があり、それがゆっくりと開くと、内部から黒い液体が流れ出してきた。その液体は冷たく、不吉な恐怖を呼び起こす。由佳はその液体に触れることなく、恐怖で目が覚めた。

目を覚ますと、貝が手元に戻ってきていることに気づく。心臓が高鳴り、村人たちの警告が頭をよぎる。次の日、由佳は村の年配の男性から、貝に触れることがどれほど危険かを聞かされる。

「深海の貝に触れる者は、必ず呪われる。それがどうしても避けられないなら、せめて手を伸ばしてはならん。」

その言葉を聞いた瞬間、由佳は背筋に寒気が走り、心の中で貝を捨てようと決意する。しかし、彼女の手は再び貝に触れてしまう。

その日から、由佳の周りで不安な出来事が次々と起こる。電気が突然消えたり、耳元でささやく声が聞こえたり、影が見え隠れしたりする。彼女はどんどん追い詰められ、やがて自分が貝に引き寄せられていることを自覚する。しかし、貝に関する記憶が次第に薄れていき、村人たちが言うように、由佳もまた海の深みに引き込まれていく。

ある晩、由佳は再び夢の中で海底に立っていた。周りには無数の貝が広がり、紫色の貝がゆっくりと開くと、貝の中から出てきたのは、失踪した村人たちの姿だった。彼らの目は空虚で、貝に触れたことで消えていったことを告げる。

「もう遅い。お前も同じだ。」

その言葉が響くと同時に、由佳は引き寄せられるように深海の闇に落ちていく。彼女はただ、無限に広がる海の底で、貝が静かに閉じる音を聞きながら沈んでいった。
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