追憶の天河

ネロ

文字の大きさ
6 / 7

第五話 小朧

しおりを挟む

 嵐の闇の中、清王朝の官僚服を身にまとった黒い小さな人影が、田舎の一本道を一心に走っている。
 道沿いに並び立つ家々の戸はどこも閉まっていて、そこには門の神や護符が貼られている。人影は横目でそれを見ながら町はずれまで走ってくると、朱塗りの建物が目に入った。門は開け放たれているが、その小さな人影は入るのを躊躇している。
 後ろを振り返ると、視界が霞むほどの雨の向こうに、黒い影がせまってきているのが見える。
 あわてて辺りを見回すと、外壁の下のほうに小さな穴が開いていた。猫ならば優に通れるその隙間に頭を突っ込むと、懸命に身をよじらせながら這い進んでいった。

 黄擣良ホアン・タオリャンは窓越しに降りしきる雨を見つめながら、さっきから何度も大きなため息をついている。夕食の片付けをしている李思然リー・スーランが、「お前も手伝えよ!」と度々叫んでいるが、黄の耳には届いていないようだ。
「雨ってさ、誰かの心の涙なのかもしれない…」
「はぁ?なんじゃそりゃ」
「ふん!バカめ!つまり俺の心は雨模様ってことだよ!」
 しびれを切らして黄が怒鳴り声をあげると同時に、雷威レイ・ウェイがひょっこりと顔を覗かせた。「リンはいるか?」
 黄は煮えたぎるように顔を赤くすると、わざとらしく窓の方に顔をそむけてしまった。
「なんだ?黄は何怒ってんだ?」
 あきれた顔で李が代わりに返答する。
「たぶんこの前の一件なんじゃないですかね。師傅シーフゥ(師匠)の誕生会にきてたでしょう、かわいい子が」
「ああ!あのおさげの娘か!フラれたのか?」
「しかもその娘、鈴に惚れちまって」
 黄は李を睨みつけると、「余計なこと言うな!」とドスドス足を踏み鳴らしながら二人に迫ってくる。雷威はあごに手をあて、神妙な顔で続けた。
「実はな、昼間鈴と町に買い物に行ったんだが、その時妙に女たちから視線を感じたんだなぁ。あれは俺に向けられたものだったのか」
「なんでそうなるんですか…違うでしょう。鈴ですよ」
「あの野郎、色目使いやがって!」と、黄は地団駄を踏んでいる。
「心配するな、黄。あいつはタマなしだから、女もすぐにわかるさ」
「そういやこの間も女相手にヘタレてたぞ。そんな奴、襲るるに足らずだろう」
 二人の言葉に、黄の顔が少しずつ明るくなっていく。「それもそうだな」
 李は思い出したように、上背のある雷威を見上げた。
「ところでセンセイ、用事ってなんですか?」
「ああ…近くに霊気を感じるんだよ…ちょっと妙なんだがな。こんな雨の中外に出るのも嫌だから、鈴に行かせようと思って」
 薄ら笑いを浮かべた黄が、「それは名案ですね。あの野郎、片付けも手伝わねえし…」と言いかけたのを、雷威が後ろから黄と李の口を手で抑え込んだ。
「しっ!二人とも静かしろ」
 翠色すいしょくの瞳を細めながら窓の外を凝視している。「何かくる」
 李が小声で雷威に耳打ちした。
「さっきおっしゃっていた霊気ですかね?」
「いや…違うような気がする…」
「ここは廟だから入って来られないと思うけどな」
「招き入れなきゃな。師傅シーフゥ老馬ラオマー(馬さん)達と麻雀だし、この雨じゃ帰ってこれんだろう。俺はこの前のこともあるから、キョンシーの所に行ってみる。李思然リー・スーランリンを探せ。黄擣良ホアン・タオリャンは門を閉めてこい」
 雷威レイ・ウェイが部屋を出ると、李は持っていた皿を黄に押し付けた。
「これ頼んだぞ。井戸は門のそばだからな。置いといてくれりゃあそれでいい。どうせこの雨じゃ洗わなくたって平気だろ」
 言うなり李は大声で「おーい、鈴!!」と叫びながら、部屋を出て行ってしまった。
 残された黄もしぶしぶ外に出ると、すごい勢いで降りしきる雨を見上げて顔をしかめた。とりあえず傘でも探すかと言い訳するように、再び部屋に引っ込んだのだった。

 三人が食卓で話している時分、リンは安置所にいるキョンシー達に、彼らの食べ物である線香を焚いていた。薄暗い部屋には額に霊符を貼られたキョンシーが何体も直立しており、その奥には棺も置かれ、遺体が眠っている。
 雨のせいだろうか。いつもより湿り気を帯びた空気が、妙に重く感じられる。
 不意にろうそくの火が消えた。気配を探ろうとしたその時、雨の間を縫って自分を呼ぶ声が聞こえてくる。鈴はとっさに外へ走り出した。
 そのすぐ後に雷威レイ・ウェイが安置所に飛び込んでくるのだが、今になって思えばこの妖怪退治が、鈴と雷威の命運を分けたのではないだろうか。

 先程よりも勢いを増した雨の中で、リンは異様な霊気が混ざりあっていることにようやく気がついた。
「おい!鈴!」振り返ると朱塗りの回廊から、李思然リー・スーランが手招きしている。
「お前を探してた。センセイが様子がおかしいってよ。雷威センセイはキョンシーんとこ行ったから、俺たちは黄の方に加勢しに行くか」
「キョンシーには異常はなかった。黄擣良ホアン・タオリャンはどこだ?」
「門を閉めに行った。ちょっと待ってろ、傘を探してくるから。これじゃ風邪ひいちまう」
 降りしきる雨を見上げて苦い顔をする李の腕を、鈴は無言で引っ張ると、土砂降りの雨の中を走り出した。

 安置所はろうそくの火こそ消えてはいたが、キョンシー達は静かに整列しており、特に変わった様子はなかった。
(おかしい…外からも妖気を感じるが、ここにいるのはそんなもんじゃない)
 雷威レイ・ウェイはろうそくに火を灯して辺りを見回すと、水に濡れた足跡がキョンシーの列の方へと続いているのが目に入った。
「おい、まぬけ。ばれてるぞ」
 壁にかかっていた八卦鏡を取ると、キョンシー達の足元へと滑らせる。
「鏡だ!!」
 小さな悲鳴とともに、キョンシーの足元から黒いかたまりが這い出してくる。雷威は構えていた桃剣を振り下ろそうとしたが、「待って!待ってください!」と声をかけられて、すんでのところで止まった。
「子ども!?」
 這い出してきたのはキョンシーと同じ補服を着て、床までつくほどの長い辮髪べんぱつを垂らした十歳前後の男の子だった。彼は必死に頭を下げて懇願し始めた。
「道士様、お願いです!僕は良いキョンシーなんです!退治しないで!」
「自分で自分のことを良い奴なんて言ってる奴が、一番あやしい」
「そんな!!」
「それにお前、見たところ相当強そうなキョンシーって感じがする。すごい霊気だぜ」
 すると雷威は感心したようにしみじみと、「強いってよく言われないか?」と続けた。
 道士の砕けた口調に釣られて子どもは満面の笑みになると、エッヘンと胸をそらせた。
「はい!僕、生きてるときから霊能力はすごかったんです!死んでも衰えておりませんよ!」
 道士はハハハと空笑いすると、再び桃剣を構えた。「墓穴だ」
「えっ!?」
「お前みたいに強い奴を野放しにはできない」
 小さなキョンシーは目に涙をいっぱいに溜め、再びペコペコと謝り出した。
 あまりにもキョンシーらしからぬ言動に、さすがの雷威も拍子抜けしてくる。
「参ったな…」
 いったん近くの机に剣を置くと、泣きわめく子どもに落ち着くように諭した。雷威はその泣きべその顔を見ながら、驚くべき違和感の正体に気がついた。
「お前、魂があるのか?」
 通常キョンシーは“魂”は天に昇って抜けてしまい、肉体を動かす“魄”のみが残された状態である。だがしかし、目の前の少年キョンシーには魂魄が宿っているようなのだ。死んでもなお、まるで存命しているかのように振る舞っているのが何よりもの証拠だった。しかも彼の額には、(お札)すら付いていないのだ。
「…魂ですか…そうですね。おそらくそういうことになりましょうや。しかしながら、生きていた時のことは、途切れ途切れにしか覚えておりません。思い出そうとしても、肝心なところが抜けているようなのです…」
 ひくひくと涙をすすりながらも、ひどく明瞭に返すこの少年は一体何者であろうか。雷威はにわかに子どもの肩を掴むと、切羽詰まったような声を出した。
「どうやってそうなった!?どんな術を使ったんだ!?お前を蘇らせた道士は誰だ!?」
 子どもは再び泣きそうになる。それでも翠色の瞳は一心不乱に少年をとらえ続けた。
「その道士は左目に眼帯をしていなかったか!?」
「ぼ…僕…」
 キョンシーはまたもや大泣きして謝り始めた。「僕はただ父上、母上に会いたくて…」
 先ほどから妙に大人びた受け答えをする少年の素朴な願いに、雷威はようやく我に返った。泣きわめいている子どもをあやそうと、道長(キョンシーを率いる先達)がキョンシーを連れて歩くときに使う三清鈴(三叉鈴)を鳴らしてみせた。「ほーら、これ何だろうなぁ」
 途端に少年は頭を抱えて苦しみだした。
「ぐあああっ頭に響く!!」
「すまん、キョンシーだったな」

 リン李思然リー・スーランが門までくると黄擣良ホアン・タオリャンの姿はなく、代わりに開け放たれた門の外に傘をさした女性が立っていた。こんな嵐の晩に女一人といういかにも怪しげな様子ではあるが、女を無視するのも忍びないため、念のため門の内側から李が声をかけた。
「何かご用ですか?」
 傘で顔は見えないが、すらりとした美しい体形にねずみ色の(ズボン)の上に囲裙いくん(前掛け)を締めた粗末な格好で、まるで下女が仕事を抜け出してきたような風体であった。
 彼女は何か小声で呟いているようだが、降りしきる雨音で全く聞き取れない。鈴と李はしばらく顔を見合わせていたが、埒が明かないので門を越えて彼女のそばまで近づいて行った。
「どうかされましたか?」
「もっと腹から声を出せ」
 すると彼女は傘を後ろに傾け、ぱっと顔をあげた。女の顔を見た鈴と李思然は、あまりの衝撃にたじろいだ。その隙に、女は鈴の唇に自身の唇を重ねたのだった。

 雨音に混じってすずの音が聞こえてくる。雷威レイ・ウェイは桃剣を取り直すと、少年キョンシーへ目配せをした。
「君はここで待ってろ。色々聞きたいことがあるからな」
「こんな所で!?僕、キョンシー怖いですよ!!できるなら客間で待たせてもらえませんかね…」
「お前もキョンシーだろう?図々しい奴だな。あんま調子に乗るなよ」
 部屋を出て行こうとする雷威の黒い長袍チャンパオの裾を、少年はあわてて掴んだ。
「妖怪はここまでは入ってこられませんよ」
「なに?お前知ってるのか?」
「はい。画皮ホァーピーに追われて、僕はここまで逃げてきたのですから」
「画皮?」
「ご存知ありませんか?画皮というのは人間の皮にきれいな女の人の絵を描いて、それを被っている妖怪です。だまされた男の人を食べてしまうんですよ」
「……お前名前は?」
小朧シャオロンです」
「俺は雷威レイ・ウェイだ。つまり小朧、画皮ホァーピーの狙いはお前ということだな?だってお前は強いもんな。その霊力目当てに、さぞや他の妖怪たちからも狙われたりするんじゃないの?」
 少年キョンシーはまたもや道士の言葉にのせられて、「よくおわかりで!」と嬉しそうである。雷威は小朧の小さな手を握ると、ニヤリと微笑みかけた。
哈哈ハーハー(はは)、また墓穴だ。強いんなら問題ないな。それにお前が連れてきたんだから、自分で落とし前つけなきゃな」
「そんなぁ!!」
 小朧は途端に真っ青になって抗議の視線を送ったが、時すでに遅しであった。

 黄擣良ホアン・タオリャンはやっと探し出した傘を広げると、皿を左わきに抱えて外へ出た。
 開け放たれた門の外に人影が見えるが、どうも様子がおかしい。立っているのは一人だけで足元に黒い塊が見える。黄が駆け寄ると、傘を差した女の足元で、リン李思然リー・スーランが倒れているではないか。
 女が傘を後ろへそらせた。その姿に黄は目を見張った。
 そこに立っていたのは鈴であった。…いや、違う。鈴の顔をした女だ。
(双子…?)
 彼女は柳眉をひそめて、「助けてください。この人たち急に倒れてしまって…」と歌うように黄にささやきかけた。
 普段の黄なら、双子説で押し切って手を差し伸べただろう。しかしおさげ髪の少女を横取りされ、今は顔も見たくない相手である。
 黄は持っていた皿を彼女に投げつけたが、女は身を翻して避けると、さっきまでの柔和な様子が消えて薄気味悪く笑い始めた。
「化けの皮を剝がしてやる!」
 黄は傘を下に置くと構えの姿勢をとった。女に手をあげるというのには一瞬躊躇したが、鈴の顔というのが後押しして、黄は間合いをつめると拳を突き出した。女はとっさに傘を前にして防御の姿勢をとったが、黄にはこれが狙いであった。突き出された傘を力任せに引っ張ると、つられて女もバランスを崩して前のめりになった。その背中に、用心のために持ってきていた符を貼り付ければ、女はすごい声で悲鳴をあげてのたうち回った。背中の服が溶けて皮膚が焼けただれている。そこに容赦なく雨が打ちつけ、女の顔や服をさらにどろどろと流し始めた。
「やっぱり妖怪だったな!」
「…お前のせいだ…お前のせいだ」
 人間の皮がむき出しになった状態で、女はよろよろと倒れた。黄がとどめを刺そうと近づいても、力なく呟いている。
「この娘、男みんな恋をする…描いた…人間食べられるから…」
「残念だったな。その顔じゃあ、俺はだませねえよ」
 勝利を確信した黄は油断していた。女は急に身を反転させると、地面に倒れている鈴と李を両脇に抱え上げ、ものすごい速さで逃げ去っていった。
「あっ!!待て!!」
 あわてて後を追う黄だが雨で視界も奪われ、徐々に引き離されていく。女の半身はすでに人間の皮が剝がれかけており、むき出しになった部分からは青色の皮膚が覗いていた。
 必死で追いかける黄の頭上から、急に声がした。
「あなたの狙いは僕でしょう」
 すると雨粒とともに天から雷威レイ・ウェイが舞い降りてきて、そのまま桃剣で女の皮を縦に切り裂いた。断末魔の叫びをあげながら、中から青色の鬼が這い出てくる。雷威は符を燃やすと桃剣の先端に付けて、そのまま画皮の心臓を貫いた。青い炎が一気に鬼の体を包み、道士は人差し指と中指を立てた右手で振り払う。あっという間に妖怪の姿は消え、後には煙が漂うだけとなった。
黄擣良ホアン・タオリャン!ケガはないか!?」
 雷威が振り返ると、黄は地面に転がっているリン李思然リー・スーランを抱き寄せて二人の頬を引っ叩いている。
「センセイ、こいつらが目を覚ましません!」
 すると再び頭上から声がした。「生気を吸い取られていますね」
 見上げると、空から子どものキョンシーが降りてくるではないか。
「キョンシー!?」
 驚く黄の肩を雷威が叩いた。「こいつは大丈夫だ」
「えへへ。僕、小朧シャオロンっていいます。よろしくどうぞ」
 呆気に取られた黄を無視して、小朧と名乗る少年キョンシーは続けた。
「気を失う程度ですから、休ませれば問題ありません。でも良かったですね。心臓を取られていたら死んでいましたよ」
「助かったぞ、小朧」雷威はかがんで少年の頭をなでた。小朧はすかさず胸をそらせて、誇らしげにしている。
「僕がいてよかったですね!」
「そもそもお前が逃げ込んで来なきゃ、こんな面倒は起きなかっただろ」
 黄擣良も続けて釘をさす。「おいチビ、調子乗んなよ!」
 もっともらしい指摘をされ、小朧はあわてて話題を変えようと、「そんなことよりお二人を運びましょうよ。弱ってしまいます」と二人を促したのだった。
 
 びしょ濡れの状態で部屋に戻った一行は、先にリン李思然リー・スーランを休ませることにしたが、その際小朧シャオロンは改めて鈴の顔を見て腰を抜かした。
「こっこの人!!画皮ホァーピーだ!!」
「残念だがこっちは男だ」と、鈴の服を着替えさせながら黄擣良ホアン・タオリャンが答えた。
「本当だ…」
 二人の会話を聞いていた雷威レイ・ウェイが、怪訝そうな顔で寄ってくる。「黄、どういうことだ?」
「ああ、センセイは絵の具がとれた姿しか見てないですからね。あの画皮って妖怪、鈴の姿に化けていたんですよ。って言っても体は女でしたけどね」
「…そうか、それで鈴があっさりやられたのか」
「俺も最初はびっくりしましたよ。双子かなって思ったんですけど、そういやあの妖怪なんか言ってたな…この娘に男はみんな惚れるから描いたんだ、みたいなこと言ってましたよ」
 着替えさせた鈴を乱暴にベッドへ放り込むと、黄は今度は自分が着替えながら苦笑している。
「悪趣味ですよね。よりによってこいつですよ。きっとどこかで鈴を見かけて女だと思ったんですよ。それで描いて化けたんだ。ま、おかげで俺は命拾いしましたけど」
 深い翠色の瞳が、鈴と黄を交互に見つめている。
「だが黄、こうも考えられないか。俺たちは鈴を知っているから自動的に鈴だと思うが、そうじゃなくて、鈴そっくりの別の誰かを手本に描いたものかもしれないだろう」
 それを聞いた黄の顔は、みるみる青ざめていった。
「大変だ!!あんな美しい双子の姉妹がいたなんて!!妖怪に自分の姿を描かれて、さぞや困っていることだろう!!」
 取り乱す黄を椅子に座らせると、雷威はいきなり両手を前に広げ、左右同時に中指と薬指を輪にして親指にくっつけた。「これが狐狸フーリー(狐)」
「はぁ?」
 困惑する黄を尻目に、さらに右手をひっくり返して耳の部分を組み合わせ、丸くしていた中指と薬指を広げそこに親指を組んだ。組み合わせた指で出来た中央の穴から、美しい翠色の瞳を覗かせる。
「俺の言いたいことがわかるか、黄擣良ホアン・タオリャン。お前も危なかったってことだ。これは“狐の窓”。日本の呪術的な手遊びで、この穴から覗けば、相手の正体を見破れる」
「日本ってセンセイの故郷ですか?」
「まあな。お前は女のこととなるとすぐうわべだけ見る癖がある。だが、一番大事なのはそこじゃない」
 先生は組んだ指を解いて、李思然リー・スーランの介抱している小朧シャオロンを手伝おうと腰をあげた。
「修行が足らんと言うことだ。わかったらさっさと湯を沸かしてこい。寒くて風邪をひきそうだ」
 ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がった黄の背中に、雷威レイ・ウェイの声が追いかけた。「おい!」
「えーまだ何かあるんですか?」
「肝心なことを忘れてた。さっきの狐の窓、安易にやるなよ。覗くときは覚悟しろ。お前が見えるということは、向こうもお前を見つめていることになる」
 この時、黄擣良ホアン・タオリャンは軽く返事をした程度であったが、彼はこの夜のことを生涯忘れるとこはなかった。そしてずっと後のことだが、彼は人生でたった一度だけ、狐の窓を実践することになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...