弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

文字の大きさ
11 / 79

ルチーズの教え その1

しおりを挟む
 コロネを幼い時から導いてくれた教師は、ルチーズ・ラフレスシア伯爵令嬢だ。

 本来なら彼女の身分はルチーズ・マリーナ侯爵令嬢となるはずだったが、母であるクリーミーが嫁ぎ先から追い出されたことで、ラフレスシアの姓に戻ったのである。

 その理由は、クリーミーの夫であるパワブルが病死したことで、パワブルの妹夫婦が侯爵家を継ぎたいと、義両親に訴えたことで始まる。

 クリーミーと義両親前侯爵夫妻との仲は良好であり、既に4歳になるルチーズがいる為、マリーナ侯爵家を継ぐのは我が子だと信じていた彼女。

 だがそれは、簡単に覆ることになる。

 そもそもパワブルの妹アーリオは、ブリズ伯爵家の次男ピマンに嫁入りしていた。爵位は領地のない男爵位を何とか貰い受け、ブリズ伯爵家の執務を補佐する形で生計を立てていた。
 その時点で王宮にも仕えることもできず、騎士でもない、優秀ではないことがうっすらと分かるだろう。
 
 優秀な嫡男のパワブルと才女のクリーミーが結婚し、マリーナ侯爵家は安泰のはずだった。けれど頼りにしていたその嫡男パワブルが早世してしまった前侯爵夫妻。

 悲しみに耽ることは罪ではないが、前侯爵は判断を誤ってしまう。健気に励ましてくれる娘アーリオの言葉に、深く傾倒してしまったのだから。


「クリーミーお義姉様は確かに優秀ですが、少し冷静過ぎますわ。まるでお兄様なんて愛していなかったみたいに。私ならこんな時に仕事なんか手につきませんわ。……お父様もお母様もお可哀想に」

 その言葉の後には「こんな嫁を持って」と聞こえる。
 嫁は侯爵夫人の地位だけが大事で、息子などどうでもいい存在だったのかと、魔が差し疑うことになる。今まで築いてきた絆も、簡単にほどけてしまうほどに。

「残されたクリーミーの私がマリーナ侯爵家を支え、ルチーズを育てていかなければ」と奮闘する気持ちを理解しては貰えないまま、「冷たい嫁はいらないわ。私達にはアーリオがいるもの」と、婚家を追われたのだった。


「ねえ、お母さま。お祖父さまとお祖母さまは、もうルチーズのことを嫌いになったの? 私はもうあの家に行けないの? お父さまの部屋にも入れないの? うえ~ん、悲しいよぉ、お母さまぁ」
「ごめんなさい、ルチーズ。お母様が誤解されたせいなの。貴女は悪くないの。ごめんなさい、ごめんなさい、あぁ」

 まだまだパワブルの死が辛いのに、素直に悲しむことさえ許されない母子は、抱きあって慟哭する。

 政敵結婚ではあったがクリーミーはパワブルを尊敬し、深く愛していた。だからこそ尚更辛く、義両親に信じて貰えないことが惨めだった。

 ルチーズは優しく微笑む父親が、「おいで、僕の愛しい子」と抱きしめてくれる逞しい腕の中が、世界で一番好きだった。それなのにその思い出ごと貶されたのだ。祖父母達の冷たい態度のせいで。


 このことはクリーミーとルチーズの深い傷となり、ラフレスシア伯爵家、並びに親族をも敵にまわす事態となった。

「許さんぞ、マリーナ侯爵家。もう2人から何も奪わせはしない!」
「勿論ですわ、旦那様我が夫。私も怒っておりますもの」


 ラフレスシア伯爵家は王太子と王太子妃教育も手掛ける、王家との縁故が深い間柄だ。それは前侯爵夫妻も分かっていたはずなのに。


 アーリオに唆され感情にままに、クリーミーへの慰謝料やルチーズの養育費と継承権も放棄する書類にサインをさせ、裸同然に彼女達を追い出した前侯爵夫妻。

 ここで彼らとの縁は完全に切れた。



 後に冷静となっても、完全に後の祭り。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

彼のいない夏

月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。 卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。 沈丁花の花の香りが好きだった彼。 沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。 母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。 だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。 あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

処理中です...