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慈愛のシスター『チェルシー』 その2
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孤児院へ介入する貴族の悪い噂はどこででも囁かれていたが、国が助けるようなことはなかった。
子供達を生かすには、莫大な資金がいる。国はそれを出さない代わりに、寄付をする貴族達にも煩く言わなかったのだ。
その悪い例の一つが、美しい子供を養子として引き取ることだった。その他にも労働力としてまるで家畜のような扱いの引き取り先や、女性の尊厳を貶める仕事に就かせることも容易に考えられた。
一部の堕ちた神父は嘘の書類で、子供達を金と引き換えて肥え太り、神から見放される行為を繰り返す。
チェルシーは子供を幼くして亡くし、孤児院の現状を知ってからは、自らが経営者となる孤児院を作った。そんな彼女でも歯が立たない権力を持つ相手に対し、ミカヌレとの出会いは大きな力となるのだった。
その彼女の子供であるコロネが訪問し、自分との取り引きを願うことになるなんて。人生は何が起こるか、本当に分からない。
同時にミカヌレの出奔のことも聞いたので、いろんな感情が駆け巡るチェルシー。
「チェルシー様。どうか私の提案に目を通して頂けませんか? 費用の負担は私が行いますし、危険は殆どありませんから」
金髪碧眼の美しい猫目の少女。ミカヌレとは似ていないが、彼女の抱える信念をコロネにも感じた。
だから徐に頷いてから、その気持ちを聞こうと覚悟を決めた。
「お聞かせ下さい。神に背かないことであれば、是非協力いたしましょう」
そしてこの瞬間から、コロネが暖めていた計画が動き出すことになる。既に目星を付けていた養蜂の協力者達は、既に街の宿屋に待機しており、道具類は商業ギルドに発注し、倉庫に保管済みである。
ゴーサインが出れば、明日から作業する体制に入れる状態だ。
そんなチェルシーは微笑んで提案に合意する。そして「明日から作業に入るのですか? まあなんて素敵なのかしら♪」と、驚きながらも感嘆するのだった。
(フフッ。顔は似てないのに、行動力はミカヌレと同じくらい俊敏だわ。やっぱり親子なのね)
幼くして亡くした娘を思い出し、目頭が熱くなる。「お転婆な我が娘が生きていたなら、きっと良い友人になれたでしょうね」と、コロネを微笑ましく見つめながら。
これは孤児院と周囲の山を購入する少し前の出来事。土地購入などの書類関係の下準備も水面下で進めており、チェルシーがサインをすれば作業に移る手はずが整っていた。
◇◇◇
さらにコロネはこの山の購入のもっと前から、孤児院の子供達におやつと言う報酬を渡して、ある準備も行っていた。
それは毒花の除去だ。
日本だと「レンゲツツジ」や「シャクナゲ」などのツツジ科の植物の蜜が、特に人に対して有毒であることが知られており、毒のある蜜は蜜蜂さえ麻痺をさせるらしい。
コロネとアンナで毒花数種の絵を書き、子供達にそれを探させた。探すことでキャンディを5つ渡し、見つけ出せば銅貨1枚を渡す契約。やる気があれば、幼い子でも参加できる作業。施しではない正式な仕事としての依頼だ。
山は広く野放図で、危険な花や木も生え放題だ。
けれど養蜂をしたり遊ぶ場所に毒花は邪魔な為、根こそぎ掘り起こし植物ギルドに売ることにする。
花の可憐さの他に、多くの毒花などには薬効もある。
利尿作用や関節痛の緩和などの目的で、医学的に利用されることも。花自体にも毒があり、特に葉に、さらに茎や根にも毒性があり、下痢や嘔吐、痙攣などを引き起こすので素人には扱えない植物。反面、専門知識がある医師や暗殺者は、高額でも手に入れたい逸品だ。
コロネは養蜂の為に、毒性のある植物を全て切り捨てることにした。いくら高額になっても口に入れて危険なものは、子供達の周囲にはいらないのだ。勿論養蜂にも。
山を全部回った後、お金を払って専門ギルド職員に依頼し、除去が完了したかを確認して貰っている。それは今後の養蜂で得た蜂蜜の取り引きにも関わって来るので、高ランクの者へと依頼したのだ。
冒険者ギルドの会長モロコシが来た時は、チェルシーと共に驚いたコロネとアンナだが、今はお互いに信頼できる仲間となっている。
養蜂の道具は、巣箱、燻煙器、金属の特殊なヘラ、蜂ブラシ、防護服(面布、手袋など)が基本で、採蜜には分離器や蜜刀などが追加され、蜜蜂の管理や巣箱の拡張には給餌器や隔王板、継箱などが使われる。
それらが山の中腹にセットされ、専門家に指導を受けながら蜜が集まる装置を孤児院の者全体で見守る。
春から夏の収穫で大量の蜜が収穫され、みんなでホットケーキにかけて食した後、残りを売却することになる。コロネにとって、最初の資金確保ができた瞬間だった。
「美味しかったね。また来年が楽しみだ」
「ありがとうね、コロネちゃん」
「こちらこそ、ありがとうね。またいろいろお手伝いしてね」
「良いよ。任せておいて!」
「たくさん美味しいものを作ろうね」
なんて感じでワイワイと賑やかな様子に、チェルシーと同僚のシスターアイス、護衛のラメンとチャーシも満面の笑顔だった。
仕事を通して、自立に目を輝かせる子供達。蜂蜜は高級食材だから、ご褒美は一回だけだけど、それはみんなの希望になっていく。
コロネにちょこちょこと依頼される他の仕事も、年上の子供達がみんなに依頼文を読んで教えてあげていた。そのことで全員が文字や計算に興味を持ち、学んでいく足掛かりになるのだった。
世界一距離が近い公爵令嬢と孤児院の子供達の交流は、今後もいろんなことを巻き起こす。
ここではアンナも、言葉遣いや態度を注意することもない。それがコロネにはこの上ない救いだった。
子供達を生かすには、莫大な資金がいる。国はそれを出さない代わりに、寄付をする貴族達にも煩く言わなかったのだ。
その悪い例の一つが、美しい子供を養子として引き取ることだった。その他にも労働力としてまるで家畜のような扱いの引き取り先や、女性の尊厳を貶める仕事に就かせることも容易に考えられた。
一部の堕ちた神父は嘘の書類で、子供達を金と引き換えて肥え太り、神から見放される行為を繰り返す。
チェルシーは子供を幼くして亡くし、孤児院の現状を知ってからは、自らが経営者となる孤児院を作った。そんな彼女でも歯が立たない権力を持つ相手に対し、ミカヌレとの出会いは大きな力となるのだった。
その彼女の子供であるコロネが訪問し、自分との取り引きを願うことになるなんて。人生は何が起こるか、本当に分からない。
同時にミカヌレの出奔のことも聞いたので、いろんな感情が駆け巡るチェルシー。
「チェルシー様。どうか私の提案に目を通して頂けませんか? 費用の負担は私が行いますし、危険は殆どありませんから」
金髪碧眼の美しい猫目の少女。ミカヌレとは似ていないが、彼女の抱える信念をコロネにも感じた。
だから徐に頷いてから、その気持ちを聞こうと覚悟を決めた。
「お聞かせ下さい。神に背かないことであれば、是非協力いたしましょう」
そしてこの瞬間から、コロネが暖めていた計画が動き出すことになる。既に目星を付けていた養蜂の協力者達は、既に街の宿屋に待機しており、道具類は商業ギルドに発注し、倉庫に保管済みである。
ゴーサインが出れば、明日から作業する体制に入れる状態だ。
そんなチェルシーは微笑んで提案に合意する。そして「明日から作業に入るのですか? まあなんて素敵なのかしら♪」と、驚きながらも感嘆するのだった。
(フフッ。顔は似てないのに、行動力はミカヌレと同じくらい俊敏だわ。やっぱり親子なのね)
幼くして亡くした娘を思い出し、目頭が熱くなる。「お転婆な我が娘が生きていたなら、きっと良い友人になれたでしょうね」と、コロネを微笑ましく見つめながら。
これは孤児院と周囲の山を購入する少し前の出来事。土地購入などの書類関係の下準備も水面下で進めており、チェルシーがサインをすれば作業に移る手はずが整っていた。
◇◇◇
さらにコロネはこの山の購入のもっと前から、孤児院の子供達におやつと言う報酬を渡して、ある準備も行っていた。
それは毒花の除去だ。
日本だと「レンゲツツジ」や「シャクナゲ」などのツツジ科の植物の蜜が、特に人に対して有毒であることが知られており、毒のある蜜は蜜蜂さえ麻痺をさせるらしい。
コロネとアンナで毒花数種の絵を書き、子供達にそれを探させた。探すことでキャンディを5つ渡し、見つけ出せば銅貨1枚を渡す契約。やる気があれば、幼い子でも参加できる作業。施しではない正式な仕事としての依頼だ。
山は広く野放図で、危険な花や木も生え放題だ。
けれど養蜂をしたり遊ぶ場所に毒花は邪魔な為、根こそぎ掘り起こし植物ギルドに売ることにする。
花の可憐さの他に、多くの毒花などには薬効もある。
利尿作用や関節痛の緩和などの目的で、医学的に利用されることも。花自体にも毒があり、特に葉に、さらに茎や根にも毒性があり、下痢や嘔吐、痙攣などを引き起こすので素人には扱えない植物。反面、専門知識がある医師や暗殺者は、高額でも手に入れたい逸品だ。
コロネは養蜂の為に、毒性のある植物を全て切り捨てることにした。いくら高額になっても口に入れて危険なものは、子供達の周囲にはいらないのだ。勿論養蜂にも。
山を全部回った後、お金を払って専門ギルド職員に依頼し、除去が完了したかを確認して貰っている。それは今後の養蜂で得た蜂蜜の取り引きにも関わって来るので、高ランクの者へと依頼したのだ。
冒険者ギルドの会長モロコシが来た時は、チェルシーと共に驚いたコロネとアンナだが、今はお互いに信頼できる仲間となっている。
養蜂の道具は、巣箱、燻煙器、金属の特殊なヘラ、蜂ブラシ、防護服(面布、手袋など)が基本で、採蜜には分離器や蜜刀などが追加され、蜜蜂の管理や巣箱の拡張には給餌器や隔王板、継箱などが使われる。
それらが山の中腹にセットされ、専門家に指導を受けながら蜜が集まる装置を孤児院の者全体で見守る。
春から夏の収穫で大量の蜜が収穫され、みんなでホットケーキにかけて食した後、残りを売却することになる。コロネにとって、最初の資金確保ができた瞬間だった。
「美味しかったね。また来年が楽しみだ」
「ありがとうね、コロネちゃん」
「こちらこそ、ありがとうね。またいろいろお手伝いしてね」
「良いよ。任せておいて!」
「たくさん美味しいものを作ろうね」
なんて感じでワイワイと賑やかな様子に、チェルシーと同僚のシスターアイス、護衛のラメンとチャーシも満面の笑顔だった。
仕事を通して、自立に目を輝かせる子供達。蜂蜜は高級食材だから、ご褒美は一回だけだけど、それはみんなの希望になっていく。
コロネにちょこちょこと依頼される他の仕事も、年上の子供達がみんなに依頼文を読んで教えてあげていた。そのことで全員が文字や計算に興味を持ち、学んでいく足掛かりになるのだった。
世界一距離が近い公爵令嬢と孤児院の子供達の交流は、今後もいろんなことを巻き起こす。
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