弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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ミカヌレの生い立ち その3

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 ウォンディーヌは自らが生き延びて知った世界情勢や国内貴族の力関係など、様々な危険から身を守る術を彼女に伝えた。




 色恋専任の隠密ハニートラップ要員は、任務で死ぬことは少なくても、年を経ると役を退くことになる。

 男性ならば年かさを増しても需要はあるが、女性の場合そうはいかない。

 最終的には良くても、適当な下位貴族の妻にさせられ、その手練手管で家を乗っ取り、ミズーレン伯爵派閥を盛り立てる役割を課される。
 その他は高級娼婦や普通の娼婦のような、ただの身売りをさせる立場に貶める道しか残っていない。

 もっと酷い時は、隠密達の性処理と家政婦に成り下がるのだ。だから生き残っても碌な人生は残っていないと思われていた。

 普通の隠密が見下すのも、理由があったのだ。


 そのくらいなら隠密だと正体がバレて、殺された方がマシだと思えた。自死するのでなければ、亡くなった仲間にも顔向けできる。


 勿論、(色恋選任の隠密だけではなく、普通の隠密でも)逃亡する者は多くいたが、残された仲間達は自分達が罰せられないように、死にもの狂いで捜索するのだから、その殆どが見つかってしまう。
 さすがにその際に自害した場合のみ、捜索した者達は罰せられなかった。


 ただそれを見せしめのように、立場が上の者が嘲り、「馬鹿な奴らだ」と吐き捨てる。

 生まれの差でそこまでされ、いっそのことのみんなで戦って散ろうかと考える一方、残された幼子達のことを思えば道ずれで死ぬのも悲惨だと思われた。


 どうしたって、一緒に暮らすうちに情が湧くものだ。どんなに苦しい世界でも、良いも悪いも知らぬまま死ぬのは忍びないと思い。


 恐らくミズーレン伯爵達は、そこまで考えて隠密と言う組織を維持しているのだろう。家族のような存在が人質となるように。




 そんな管理された状況下にいた為、ウォンディーヌがミカヌレに情報を与えるのは違反行為と等しい。
 だから彼女ウォンディーヌは、夜にみんなが寝静まった後か、紙に書いて外のことをミカヌレに教えたのだ。
 最初は亡くした妹の代わりに、そして次第に大事な友人と思いながら、ミカヌレがいつか外に逃げられるように。

 逃がした後の責任を自分一人が背負い、戦って逝くのも良いだろう。
 どうせこの世界に、最愛の妹はいないのだから。


「憎い奴らの眼球一つでも奪い、あの世への手土産にしてやろう。そうすれば妹も笑って、天国から地上に、その眼球を投げて笑う筈だ。『こんな汚い肉、いらないわ』と大笑いして。

 特にミズーレン伯爵の紅い眼ならば、ルビーのように美しいと言われていたから、笑い話に丁度良い余興になるのに」



 そんな風に考えていたウォンディーヌだが、密告によりある日惨殺された。

 面倒見の良い彼女は、多くの子供に慕われていた。密告者はその子供のうちの、一人だった。

 いや、恐らく密告などという意識はない筈だ。ただ剣の腕が立つ、まだ幼さの残る少年ヴィーンスは。

 まさかウォンディーヌが殺されると思わずに、ただ彼の信じる剣の教師のようなもの(名をラムシューと言う)に漏らした世間話。


「ウォンディーヌはミカヌレにだけ、いろんなことを教えている。羨ましい、僕にも教えて欲しい」と。



 ラムシューは、嬉々として口角をあげて上の者に報告し、ウォンディーヌは拷問されて死んでいった。

「ミカヌレにだけ、特別なことはしていない。誤解だ」と最期まで彼女を庇って。



 ミカヌレは泣き叫び、多くの子供達も泣いていた。ヴィーンスは呆然として放心していた。自分がラムシューに、話をしたせいだと分かって。


「怪しい奴がいたらまた教えてくれよ。そうすれば俺(の地位)は上に上がれるからよ。くくっ」

 
 そう言われ悔やんでも、もうウォンディーヌは戻らない。密告者の名は伏せられていても、ヴィーンスは自分が許せなかった。
 
 その時から彼は笑わなくなり、ひたすら剣の修業にのめり込んだ。




◇◇◇
 水色の髪と瞳を持つ、美しいミカヌレの容疑は晴れず、最後の任務となるスライスト籠絡作戦が開始された。


 ミカヌレはミズーレン伯爵を憎み、弱味を握ろうとしてベグルに近付いた。誤算だったのは彼が、純粋で優しくて、そして親に愛されずに育ったことを知ってしまったことだ。

 ただ彼は、純粋に愛する者を求めていたのだ。

 いつの間にかミカヌレはベグルに惹かれ、復讐を辞めようと思っていた。


「どうせ、ワッサンモフ小公爵の籠絡など無理に決まっている。公爵家の隠密に切られて終わるだろう。ならば最期に、恋くらいしても良いだろう」


 ウォンディーヌから得た知識は数多く彼女ミカヌレを助け、そして諦めも与えていた。きっと自分は捨て駒。
 今や彼女ミカヌレは、ウォンディーヌに余計な知識を与えられ、他の隠密にも影響を与えかねない不穏分子。そんな者は消されるだけなのだ。


 それにターゲット対象者は、他でもないワッサンモフ公爵家の人間なのだ。ウォンディーヌから以前に聞いた情報だと、ただ贅沢に溺れるクロダイン公爵よりも格段に上で、決して侮れない家門なのだ。
 それをミズーレン伯爵は知っているが、口に出さないだけだ。邪魔者を確実に処分する為に。


 仮にミカヌレが、「ミズーレン伯爵から頼まれた」と言ったところで、ワッサンモフ公爵側が公にするメリットもなく、消されることを知っているのだ。


 もし上手く入り込めれば、もう少し生かしておこうかとなるだけで。



◇◇◇
 ミズーレン伯爵の思惑は、外れることになる。

 ミカヌレはスライストに愛され、セサミは面白がって放置を決め隠密達は静観した。

 そして妊娠し、コロネが生まれたのだ。


 その後家族のことを大事に思い、公爵邸を後にしたミカヌレだったが、追いかけて来たスライストに捕まり、現在に至るのだ。






◇◇◇
 ベグルは後にミカヌレが隠密だったことを、クロダイン公爵より知らされ 「諦めるように」と、きつく言われ傷心する。
 しかし自らが政略結婚させられる前の調査で、子種がない体だと分かり廃嫡され、家を追われたのだ。

 彼はその後モロコシに拾われ、彼の商会で懸命に働いていた。荷運びから仕事を開始し、今では優秀な人材として、他国を飛び回っている。






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