お父様は惚れっぽい!

ねこまんまときみどりのことり

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リーネと使用人達 その1

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 リーネは生後1年で、ネルフィスと共に使用人棟へ移動となった。
 その為に豪華な生活とは無縁で育ったのだ。

 公爵夫人には常に侍女が付いており、邸内での不貞などを行うことは不可能だ。
 男性と二人きりになれることはなく、もしそんなことがあれば侍女の怠慢となり処罰されるだろう。
 そもそも伯爵家から連れてきた侍女ではなく、公爵家の侍女が付き添っているのだ。

 それは前公爵夫人も当然既知のこと。
 だが一人息子を奪った、優秀で美しいネルフィスを敵視していたので、歯止めがきかなかった。


◇◇◇
 使用人棟に送られて賃金も使用人程度しか貰えなかったネルフィスは、リーネの養育に苦心した。
 
 長男のブルーノの時は、乳母やメイドが育児をしていてくれた為、ネルフィスは公爵夫人の仕事や社交を熟していた。
 赤ん坊のミルクやオムツも公爵家持ちである。
 ブルーノには乳母は付いたが、リーネにはそれも勿論いないのだ。


 だからリーネの時には全部自分で購入し、育児も家事も洗濯も自力で行い、ミルクや離乳食も全部自分で準備して、その上で公爵家の執務を行うことになった。

 まさに寝る暇もない状態だった。

 さらに姑は、ネルフィスの持つ宝石や貴金属類を全て奪った。それこそ婚約指輪や結婚指輪までも。
 だがドレスなどの衣類だけは、不浄だと言って彼女ネルフィスに片付けるように言った。

「貴女が着たものなんていらないわ。着るなり捨てるなりして片付けて頂戴。でも価値のある宝石は私が身に付けるわ。当然よね」

 思い出のあるアクセサリーは全て奪われたが、衣類だけは残された。
 それを可能な限り売却し、リーネの物を買う資金に当てた。公爵夫人用の資金が貰えなくなり、一気に収入が途絶えたからだ。

 それでも手元に残った金額は少なく、仕事で得た収入は貯蓄しながら、リーネの為だけに生活を続けていた。

「この子にひもじい思いはさせたくないから、頑張らないとね」

 にこにこと笑う赤ん坊のリーネに癒されて、慣れないながらも懸命に頑張る姿は、公爵家の使用人の涙を誘った。
 陰ながら洗濯をしてあげたり、ネルフィスがうたた寝している時はリーネを抱いてあやしていた使用人達。
 あからさまには出来ないけれど、ネルフィスの姑であるダルサミレも、夫のナユタも使用人棟は来ないのでその点は安心だった。
 
 その後に気づいたネルフィスは使用人達にお礼を言うが、口に指を当てて“勝手にやってるから良いんだよ”と微笑まれたのだ。
 それでも小声で何度も“ありがとうございます”と繰り返したのは、言うまでもない。

 そのうちに歩きだし喋りだすリーネは、使用人達に可愛がられて育っていった。

 
 ネルフィス付きの言動から、侍女やメイド達だけではなく、彼女が不貞してないことは使用人全員が知るところだが、公爵家に対して強い訴えは行えなかった。

 ダルサミレの姉は先々代国王の側妃であった為、いつも高圧的に振る舞っていたからだ。
 口癖はいつも、“私の姉は王族なんだから”である。
 優秀な姉にコンプレックスを持ち僻んでいた癖に、そんなところだけ利用する女なのだ。
 まるで虎の威を借る狐である。

 学生時代ネルフィスに憧れていた者や、委員会などで親切にされた年下の学生達も侍女や執事勤めでここ公爵家にいる。
 彼らは何とか、彼女の力になりたいと思っていた。

 比較的常識人が集まる公爵家だから、公爵夫人であるネルフィスを理不尽に痛め付けられるのは辛いものだった。
 その代わりと言うように、いろいろと手助けだけは続けた行為だったが、それがリーネとネルフィスを何とか生かしたのだった。



◇◇◇
「まったくダルサミレ様は、染みったれだね。宝石の一つでも売れば、ネルフィス様も少しは休みながら働けるのに」

「わざとかもよ。お金がなければ、働かないといけないでしょ? 押し付けようとしているのよ、きっと」

「嫌だわね、みみっちいこと。自分達が優秀でないから、嫁に当たるなんて。ネルフィス様の生家がまともなら、すぐに帰してやれるのにね」

「本当そうだな。せっかく優しいネルフィス様が嫁いでくれて、公爵家も穏やかになると思ってたのに。これから、どうなることやら?」

「マザコンと親馬鹿(母のみ)が酷いからな。こんなだから旦那様が騎士団から帰って来ないのよ。爵位をナユタ様に譲ってから騎士団の寮に入って、指南役を続けているのでしょ?」

「そうだ。もうダルサミレ様の小言を聞き飽きたって言ってたからな。清廉潔白なダルナン様とは水と油だったんだよ。今までよく我慢したもんさ」

「でも旦那様がいれば、こんなことにはならなかったんじゃない?」

「ああ、そうだな。一度でも顔を見せてくれれば良いのに」

「家令が連絡しようとしたんだが、ダルサミレ様専属の護衛に邪魔されたそうだ。それからクビになりたいのかと脅されたみたいだ」

「酷いな、古くから仕える家令にさえその程度とは。件の事が知られれば、もっと大事になるかもしれないのに」

「あの奥様ダルサミレだからな。深く考えてないだろ?」

「違いないわね。もう、私達から個人的にお手紙でも送っておこうかしら?」

「良いかもな。でも今はスタンピード魔物の繁殖と暴走で、旦那様も辺境まで討伐に行ってるらしい。まだまだ現役だな」

「……そうか。じゃあ、戻るのに少し時間がかかるな」

「ご無事だと良いのだが。余計な心配をかけづらいな」

「どうしたもんかね」


 なんて様子を見ているうちに、あっと言う間に時間が経っていたのだ。

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