見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり

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マイナリーの場合 前編

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 マイナリーは、今でも時々あの夢を見る。

「あんな女、愛せるとは思えないよ。メロディと比べたらデブ過ぎる!」
「「「ははははははっ」」」

 元婚約者のハーディー・アルベローニ侯爵令息に言われたことを。彼の友人達がそれを聞いて、嘲笑っていたことを。


「ああ、またあの夢。もう吹っ切れたと思っていたのに…………」

 遠くまで晴れ渡る爽やかな空なのに、彼女の気分は晴れない。

 彼のことはもう何とも思っていないし、離れられて良かったと思っているのに、婚活に専念できないのだ。

「またこんなことがあったら、辛いなぁ」


 マイナリーはロゼクローズ女伯爵となり、仕事をバリバリ熟すが、恋愛には未だ消極的だった。


 22歳、婚約者なし。乙女の悩みは深い。



◇◇◇
 そんな彼女を見守る影が一つ。

 マイナリーの母であるアメルダの執事、クラウディである。彼はアメルダの心配の種である、マイナリーの婚活状況を調べていた。

「あの馬鹿息子ハーディーのせいで、マイナリー様が傷ついている。やっぱりあの時、始末しておけば良かった。どうするべきか……ブツブツ」

 勝手に行動しているので、アメルダには報告できないが、今後も調査を続けていくつもりだ。

 クラウディは若い頃、ガトークラシャ大国の貴族に仕えていた隠密だった。雇い主の公爵が国庫の横領で捕まり、隠密達はチリジリとなり、彼はこの国へ流れて来た。

 丁度働き始めた先こそ、アメルダの両親の商会だったのだ。彼女の父親は大商人だけあり、すぐににクラウディの素性を調べていた為、隠密をしていたことも知っていた。隠密だと調査したのも、またアメルダ父の隠密だった。

 実力主義な両親は、細かい経歴は気にしていない。
 その上で「私のアメルダは頭は良いんだが、時々抜けているのだ。何気なく様子を見てくれないかな? その分給料に上乗せするから。どうだろう?」とクラウディに提案を持ちかけた。

「う~ん、今は金もないし、良いですよ」
 そう返事をして、護衛もすることになったクラウディが、その後に恋に堕ちることになる。まあ気付いたのは、彼女が結婚してからだった。

 23歳で就職時、アメルダはその時7歳。
 16歳で結婚したアメルダは、17歳でマイナリーを出産する。

 その後にサンダーの悪行を目にし、何度彼を消そうとしたことだろう。けれどアメルダが泣くと思い、そして手を下したことがバレれば傍にいられないと血の涙を流しながら、見守ってきたのだ。

 時々人ごみの中で蹴飛ばしたり、飲み物に下剤を盛って嫌がらせはしたが、クラウディの中ではノーカンだった。
「フンッ。こんなもの、お嬢さんが受けた仕打ちに比べれば、無きことと同じことだ」

 地味にジンワリくる苦痛を与えていた。





◇◇◇
 マイナリーは性格も良く、両親共に美形である為美人の部類である。

 けれど妹が、女優みたいに美しいメロディだった為、自分の容姿に自信がなかった。

 妹は天使、母はクールビューティー、父はワイルドイケおじ、自分は普通顔だと思っている。

 普段の生活で僻むことはないが、いざ婿を見つけるとなれば顔の美醜が気になり弱気となる。


 本人はそんな感じだが、彼女は婚活市場で大人気だ。ただ周囲からはほぼ公認で、チュートリナ公爵家の三男アルバートが有力と見られていて、婿入り希望者は次々に諦めていった。

 公爵家と伯爵家に伝手があり、領地経営が成功している女伯爵の夫。おまけに悪い噂のあった父親とは縁を切っている。
 これだけカードが揃っていれば両親の離婚など、何の支障にもならないだろう。



◇◇◇
 そんなある日、王宮からパーティーの紹介状が来た。

 メロディの件で、王族には苦手意識を持っているロゼクローズ伯爵家の面々。

「王家で信用できるのは王妃だけね。国王と王太子も心を入れ替えたと言うけど、以前の印象が最悪だから。いまいち尊敬できないのよ」

 アメルダの言葉にマイナリーも頷き、「メロディはあと半年で結婚なのだから、王家からもめ事なんて起こさないと良いけど」と、招待状を摘まんで振っていた。

「ふふふっ。心配して下さって、ありがとう。でも今回はマロンもエスコートしてくれるし、大丈夫だと思いますよ」

 嬉しそうに微笑むメロディに、マイナリーは油断しないようにと顔を覗き込む。
「メロディはとっても綺麗なんだから、マロンから離れちゃだめよ。化粧室に行く時は、必ず声をかけてね」

「分かりましたわ、お姉様。うふふ」
「絶対だよ。もう、危機感がないわね~」

 そんないつもの日常だった。




◇◇◇
 そしてパーティー当日。

 アメルダはクラウディに、メロディはマロンに、そしてマイナリーはアルバートにエスコートされ、会場へと足を踏み入れた。
 きらびやかなシャンデリアの下、既に多くの貴族がワインを片手に会話を楽しんでいる。

 そしてその宴が大国ガトークラシャの王子 クリフティーと王女 エルメルダの、婚約者探しではないかと密かに囁かれた。公には国交のある国との、外交だとしか発表さていないのに。



「まあ。お二人とも綺麗なプラチナブロンドですわ。エメラルドのように澄んだ瞳。肌が白くて神話の神々のようですわ」

「王太子様は決まっているので、大公や公爵になるそうですね。男女に継承権は与えられるので、エルメルダ様も職位を持たれるのだそう」

「クリフティー様は背も高くて、標高の高い山に住む魔獣と戦う騎士団長なのだとか」
「まあ、勇ましいのね。でも魔獣は怖いですわね」

「ええ、私もそう思いますわ。けれどその山があることで、他国はその山を避けての攻撃しかできないそうですから、軍事力が抑えられているそうですわ」
「う~ん、難しいところですわね。ですが私達が選ばれることはないでしょう?」

「そうですね。少し残念な気もしますが」
「この国でも、婚約者が見つかるかも分かりませんし」

「婚約者のいない未婚女性は少ないですわ。爵位もそこそこないとダメでしょうし」
「わざわざ大国から来たのですから、並みの方を選ばないわよね。それくらいなら他国にも、条件の合う方はおられるでしょ?」

「メロディ様なら……庶子ですが目映い美しさと慈愛が知られておりますし、反対は起きない気もしますわ」
「でも、もう結婚が秒読みですから。無理でしょ?」

「それなら、メロディ様のお姉様はどうかしら? マイナリー様は確か、婚約者はいないですわよね。正当な嫡子ですし」
「でもあの方、女伯爵でしょ? 王子が婿養子なんて無理ですわ。あの方はきっと、ガトークラシャ王国の大公になるのですもの」

「そうですわよね。それにここだけの話ですが、メロディ様の美しさには及ばないですし」
「ま、まあ。不敬ですわよ、夫人ってば。でも分かりますわ」
「「「ホホホホホホッ」」」


 婚約者のいる令嬢や爵位の低い令嬢、娘がその婚姻に関係のない夫人達は、面白おかしく囁き合う。

 同時に王女の降嫁についてもそう。
 大国の王女の嫁ぎ先ならば、王族、大公、公爵、低くても侯爵までしか関係がない。

 しかも婚約者がいない者や、結婚していない者は僅かだ。その中で問題のあるもの(経済的、精神的など)を除けば数人だ。

 だからこそ、夫人達の会話は盛り上がるのだ。



 だが該当しそうな、貴族家は息を殺していた。
 王女の降嫁など、裕福な彼らには重荷でしかない。
 失礼があれば開戦にもなりかねないのだ。

 魔獣と互角に戦えるガトークラシャ王国だ。
 軍人の数、戦闘力共に、我が国ファルマー王国では歯が立たないと、戦々恐々だった。

 ただ国としては今までよりも友好的な輸出入(魔物の上質な素材を安く手に入れ、豊かな作物をもっと購入してもらう)を望めるなら、悪い話ではない。

 ちなみに王族には王太子以外に王子はおらず、嫁いでいない王女もいなかった。

 そして王家もそれほど馬鹿ではない。
 別にこの国から、無理をして婚約者を出そうとしてはいないのだ。
 そうなったら良いなくらいは思っているが、あくまでもこの国は通過点に過ぎなかった。本当に外交目的だったのだ。


 ただ国王はほんの少し、チュートリナ公爵家の三男であるアルバートと、ロゼクローズ伯爵家の長女であるマイナリーが優秀で見目も美しい為、「何とかならないかな~」と思っていた。

 王妃は影からの報告で、この2人が良い感じと言うことを聞いていたから、特に王子や王女には紹介もしなかった。
 同じ報告を国王も受けていたのに何故か忘れていたようで、積極的にアピールし始めていた時には、扇で頭を叩きそうになった王妃だ。

(このくそリーフ国王が! あれっだけ、ロゼクローズ伯爵家に迷惑をかけたのに、もう忘れたの? もう、駄目だわ。謝罪に行かなきゃ!)

 王妃が苦悩しているうちに、マイナリーとアルバートの情報が王子クリフティーと王女エルメルダへと伝わっていく。


 その言葉を受けてクリフティーは、マイナリーを見つめた。

「海に沈む夕日のような美しい髪だ。その上学業が優秀で女伯爵として領地を治めているとは。容姿共に素晴らしい女性だ」

「アルバートだったかしら? 金髪碧眼で稀な美男子ね。三男だからと家業を手伝ってフラフラしているくらいなら、私の夫にしてあげても良いわね。ふふっ」


 特に期待していなかった国に立ち寄り、掘り出し物と言わんばかりの宝を見つけた王子と王女。



 近くにいてその発言を聞いていたブルガリアと、聞き耳を立てていたクラウディ。

「これは一大事よ。2人に知らせなきゃ!」
「あの国王の頭はカニ味噌か? 伯爵家に迷惑ばかり押し付けおって! いや、それよりもアメルダ様に報告せねば!」


 呑気に食事を楽しむマイナリー達に、不穏な話が伝わるのだった。




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