見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり

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マイナリーの場合 中編

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「海に沈む夕日のような美しい髪だ。その上学業が優秀で女伯爵として領地を治めているとは。容姿共に素晴らしい女性だ」

 クリフティーがマイナリーの髪を褒めたのは、お世辞ではない。本心からだ。

 大国ガトークラシャの王族は、父方の血が容姿に遺伝する。すなわち王族は皆、プラチナブロンドとエメラルドの瞳。その肌は白く透き通っていた。

 ただ当たり前のことだが、大国である為に政略結婚も多い。嫁いだ者の子が王族の色を受け継がない場合、即座に不義の子だと断定され、縁を切り遠くの国に捨てられることになる。

 クリフティーエルメルダの末妹であるバルセナは、オレンジの髪と朱の瞳を持っていた。
 それは正妃であるカルデナの色。

 けれど王族の子ならば、あり得ない色だった。
 
 これも大国の権力闘争にありがちな裏切り。国王と愛人の親貴族が仕組んだ酷い策略。

「我が国の王子をもう一人欲しいが、カルデナはもう自然妊娠は難しいであろう。だから義務として、人工受精で子を孕むのだ。拒否は許さん」

 王太子ニルスと第二王子クリフティー、第一王女エルメルダと3人の子を生んだカルデナ。 
 そもそも国王であるタガヌメは、エルメルダが生まれてからは愛人のカーマインだけに情愛を注ぎ、カルデナに指一本触れていない。
 今さら何をと、カルデナだけでなく主要な大臣達も首を傾げる要求だった。

 カルデナは既に35歳になる。
 国王の分まで政務も多忙に熟す隣国の元公爵令嬢。元より浮気者のタガヌメを愛すことはなく、和平の為だけに嫁ぎ国に尽くしてきた女傑。

 だがそれは同時に、タガヌメのプライドを大きく傷つけることになった。

「俺を愛さず、国と結婚した女。そんな道具はもう不要だ。王太子が成人した今、カルデナ等おらずとも困らぬ。用済みじゃ。俺は漸く、カーマインとの愛に生きられる!」
「嬉しいですわ、タガヌメ様ぁ。私は愛人でも、幸せで御座いましたのに。感激して死にそうです~♡」

「あぁ。可愛らしいな、わが最愛は」
「そんな…でも、すごく嬉しいですわ♡」

 ピロートークで平然と妻を貶す夫に、彼を守らなければならない隠密は心底軽蔑のまなざしを向ける。
(情交の後の話は、大げさに相手を喜ばすものが多い。これが王妃様の排除になる発言とは言えないだろう。……けれど国に尽くすお方に、何と品が感謝もない国王だ。仕事が選べるなら、国王等を守りたくはないのに)


 カーマインはカルデナと敵対する派閥で、トークラシャ王国のアカシア公爵家の娘だ。
 もしカーマインに、男児が生まれれば王位は覆ることになりかねない。そして隣国との抗争にも発展することだろう。


 そんな思惑の中でカルデナは、国王とは別の精子を人工受精させられ、妊娠し出産。当然その子供は、王家の色を受け継がなかった為、秘密裏にファルマー王国に捨てられていた。
 カルデナは出産後の出血で死亡し、弁明の機会も与えられずに。その出血も、本当に出産だけのものだろうかと、疑惑は尽きない。

 王妃が不貞を犯す筈がないと誰もが分かっていたが、タガヌメの持つ権力には逆らえずに沈黙。
 タガヌメからは温情のように、「王子や王女には咎は与えない」と声明のみで罰せられず、反面詳しい調査は行われずカルデナだけが汚名を被った。
 その後の政務は無能な国王に押し付けられた、王太子ニルスが一手に担うことに。

 カルデナの生家、故国ダンジアナとは今も一瞬即発の状態である。

 だがダンジアナ王国は王子(ニルスとクリフティー)と王女(エルメルダ)がいることで、容易に攻め入ることもできない状態だった。トークラシャ王国を裁くには、対等以上の力がいる。

 だからこそクリフティーとエルメルダは、王太子ニルスを助ける為にも他国に出向き、表向きは外交をしながら信じられる者へは援助を求めていたのだ。


 異父妹となるバルセナが、この国(ファルマー王国)にいることも知らずに……。

 
 そんな彼がマイナリーを美しいと思ったのは、亡き母と面差しが似ていたせいもあった。彼が14歳の時に亡くした愛する母に。
 美しくも誇りに満ちた彼女に、再び会いたいと思う気持ちは尽きない。

 そして妹のエルメルダはわざと我が儘を言い、優秀なクリフティーに窘められることが定番であった。その様に振るまいながら、相手の油断を誘ってきた。

『優秀な兄に、我が儘な妹。二人とも気品があり優秀だが、母親を早くに亡くしたことで、妹に甘い兄』なんて言われるように、印象を操作して。


 しかし彼と彼女の何気ない発言は、マイナリー達を大切に思うブルガリアとクラウディによって、瞬く間に広がることになる。

 大いなる牽制と心配の元に。



◇◇◇
 焦ってマイナリー達のところに現れたブルガリアは、彼らをこっそりと庭園に呼び出し、先程の話を伝えた。

「なんですって。クリフティー王子に、マイナリーが気に入られたと言うのですか? ……僕がエスコートしているというのに」

 ブルガリアの言葉に憤るアルバートだが、国王への抗議は単独では行えないと思い、拳を強く握りしめ冷静になった。
 マイナリーにはパーティーでのエスコートは受けて貰えても、正式に婚約している訳ではないのだ。

 マイナリーから信頼されているからこそ、エスコートを受け入れて貰えていることは分かっている。けれどそれ以上前に進めないのは、マイナリーの気持ちをを考えているからだ。

 アルバートは結婚を焦ってはいない。 
 強引に迫り拒否されるくらいなら、ゆっくりと距離を詰めたいと考えていたのだ。

 それがここに来て、大国の見目麗しい第二王子に望まれたと言うのだから、心は酷くざわめく。
(もう悠長にしていられない。マイナリーに気持ちを伝えなければ)


 そんなアルバートとは対照的に、マイナリーは「きっと誤解だわ。私なんかに大国の美しい王子が、興味を持つ筈がないもの」と、呑気に笑っていた。いつもの自己評価の低さが、つい口に出てしまったのだ。

 自虐的に否定する彼女をもどかしい思いで見つめ、みんなは言葉を探す。マイナリーには綺麗だと言っても、「慰めはいらないわ。お世辞は言わないで」と、受け止めて貰えないでいた為だ。

 けれどアルバートは、真剣な表情でマイナリーに向き合った。

「マイナリー、よく聞いて。お世辞ではなく、君は美しいよ。……姿形のことを除いても、とても優秀で気品溢れる淑女だ。ずっと共に学園で過ごした僕は、君の頑張りも理解しているつもりだ。ここで言うのは正しくないと思うが、言わせて貰うね。

 ずっと君を愛している。クリフティー王子より、僕を選んで欲しい」

 衝撃の告白に、全身が硬直するマイナリー。
 いつもはソフトな関わりしかなかったアルバートが、突然愛を囁くのだから。

 けれど高等部に進学し、領地経営クラスで学んできた仲間の1人から、今はエスコートをしてくれる仲になった。
 ハーディーのこと、父のこと、メロディのこと、たくさんの相談に乗って貰った。
 伯爵領に学校を作る時も資金繰りや将来的な展望等、具体的な意見を交わしながら構想をする私を、いつも真剣な眼差しで支えてくれた。

 結婚適齢期をお互いに過ぎても、急かすことなく傍にいてくれた。

(その彼が私に、愛しているって。選んで欲しいって。私に決めて欲しいなんて…………)

 
 瞬時に今までの出来事が蘇り、彼の献身と共に自分の気持ちを確認することが出来た。

「私が選ぶとか……そんなの烏滸がましいことだと思ってるの。でも言わせて…………私もずっとアルバートが好きだったみたい。選んでくれて、ありがとう」

 言葉に詰まりながらも、緊張で顔を朱に染めて言葉を紡いだマイナリーに、歓喜の表情を浮かべたアルバートは思わず彼女を抱きしめた。

「ありがとう、マイナリー。無理に答えさせてごめんね。でもとっても嬉しいんだ。今日は人生最高の日だ!」
「あ、あ、アルバート、は、恥ずかしいわ」
「ごめんね。でももう少しだけ、このままいさせて」
「はぃ(恥ずかしいよぉ)…………」

 関係者は全員、アルバートの気持ちもマイナリーの気持ちも知っていたから、声を出さずにうんうんと頷き笑顔で見守っていた。

 彼の腕に抱かれゆでダコのように真っ赤な娘に、「よく言ったわ。さすが私の娘ね」と、小声でサムズアップするアメルダ。
 そして(もう私だけのお姉様じゃないのね。でも幸せそうで良かった)と、少し寂しいメロディ。


 ブルガリア、マロン、クラウディは、漸く纏まったと安堵するのだった。



◇◇◇
 翌日。
 王妃が国王の失言に頭を痛めながら書いた書簡が、ロゼクローズ伯爵家とチュートリナ公爵家に届く。

 クリフティーとエルメルダが、マイナリーとアルバートに会って話をしたいと綴られた旨が。

 王家の要請に断ることは出来ず、2人と家族は王宮に赴くことになるのだった。







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