見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり

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アメルダの場合 閑話(本編から離れた内容の為、中編とは別にしました)

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 サンダーが子猫のクロを助けた時、アメルダに倒された三人はクラウディに捕縛されて子爵邸へ。


 そしてブリザードの執務室に連行され、床に転がされた。

「お前ら、俺のアメルダに絡んだそうじゃないか。誰かに頼まれたのか? もし隠しているなら、五体満足なうちに話した方が良いぞ。フシシッ」

 ブリザードの整っている強面と、さらに地獄のように低い声は若い少年達を心底震えさせる。
 ややつり上がった眼光の鋭い眼差しは、全てを見透かしているようだ。嘘なんてつける訳がない。

 圧倒的に邪悪顔過ぎて、絶望しか思い付かない。


「何だよ、あんた。俺はただ、猫に八つ当たりしただけだ。それを邪魔したから男は殴ったけど、女は狙ってねえ。勝手に邪魔して来たんだよ。
 確かに男を殴り過ぎたのは謝る、けど俺達だって苦しかったんだ。朝から晩まで働いても給料を中抜きされて、僅かな金しか貰えないんだ。雇い主の貴族は、俺が字が読めないからいつもバカにして!」

「俺だってそうだ。働いても働いても、義理の父親に給料を取られて、文句を言ったら殴られて。苦しかった」

「僕だって。お母さんが兄ちゃんばっかり贔屓して、構ってくれなくて。いつも二人で出かけて、何日もご飯も食べれなくて空腹で……。この兄ちゃん達がご飯をくれなきゃ、今頃死んでたよ」

 この男の子達の名前は上から順番に、フラン(10歳)、シウム(14歳)、エボマ(6歳)だった。

 ガラナント子爵領で子供の福祉に力を入れているブリザードには、信じられないことだった。

「王都では、まだ子供達がこんな目にあっているのか? 子は国の宝だと言うのに!」
「……あんた、貴族の癖に変わってんな。そんなこと言われた事なんかないぜ。いつも邪魔者扱いされて」

 一番年上のシウムが、ポツポツと呟いた。





◇◇◇
 もともと子爵領主は善政を引き継いできていた為、マリリアールが幼い時に拐われそうだった事態は、異例中の異例だった。

 正確に言えば、特徴的な髪と瞳、そして美しい容姿を利用しようとした悪い貴族が、ならず者を雇ったようだ。
 何故分かったと言うと、ブリザードの隠密達の拷問……いや聞き取りから判明した為、嫌がらせの手紙を相手に認めたブリザード(当時7歳)だ。

『ヤンバレナ伯爵へ

 お前の悪事は知っている
 子供の誘拐を企む変態め
 お前の小飼のならず者は、全てを吐いた
 誘拐以外にも、ずいぶんと面白いことをしているな

 お前の首がいつまでついているか、仲間で賭けの最中なんだ
 せいぜい長生きしろよ』

 黒封筒に入った、不吉すぎる手紙だ。
 マリリアールの誘拐のことがバレている。
 そしてならず者が自分の雇ったと言うことも。
 彼らから他に依頼した件も露呈している可能性も大きい。

「俺の首が繋がっているか、賭けてるだと……。まさか既に警らの手に? 嘘だろ、あいつらはB級冒険者だぞ! どうして…………」

 死んだように顔を白くし、放心するヤンバレナ伯爵。
 いつ摘発されるか、震えると良い。
 


 孤児院での出来事(誘拐騒ぎ)は、全員で秘匿すると決めていた。マリリアールが目立つことを防ぐ為に。

 どこでならず者が捕縛されたか分からなければ、伯爵が所在を探ることは出来ないだろう。

 結果それが、功を奏した。
 仮にも伯爵相手なら、子爵家は強く出られないからだ。だからこそ手紙を送り、隠密を張り付けた。

 伯爵に直接読まれない可能性はあったが、捨てるにしても家令は確認すると踏んだ。慌てた家令が伯爵へ報告するのも、天井から隠密が確認している。たぶん暫くは、次の悪事を起こさないだろう。

 別にガラナント子爵家は、正義の味方ではない。
 マリリアールに手を出さないか、確認しているだけだった。

 忘れた頃に、黒封筒を送るのを忘れないブリザード。
 今度は隠密が直接置いてくるから、家令によるワンクッションなしだ。




◇◇◇
「船が上陸している時だったので、丁度良かったですね。間違いなくお預かりします」

 爽やかに微笑み、ならず者三人の捕縛縄の持ち手を握り、無理やり船に引き摺っていく船長。その横には彼の部下で強面の副船長の姿があった。

「逃げようとしたら殺すからな。しっかりやれよ!」
「「「ヒイィィ、分かりました!!!」」」

 バリトンでドスの利いた声の主に、船長よりも恐怖を感じるならず者達だ。

 二人とも筋肉隆々で日に焼け、いかにも海の男に見えた。


 
 ………………その後40年が経った。
 海と厳しい自然に向き合って、自分の罪と向き合った三人は心から反省し、被害に合った者達に謝罪の手紙と弁償金を送っていた。
 仲介はブリザードの部下達が行った。

 船に乗せて20年経った頃、その様子を確認したブリザードは下船許可を出した。

 二人は船を降り、一人はそのまま漁師を続けた。
 残った船員はバラダックと言う。   
 乗船初期に嵐の船から海面に落ち、流木で太ももが刺さった傷は今も消えずに残っている。



 そして今、船長になったバラダックは、シウム(14歳)を預かることになった。

「お前の親は、金を貪って殴る酷い奴だそうだね。最悪だ」
「そうだ、俺は悪くねえ。……優しそうにして、何無駄なこと聞いてくんだよ。殺すんなら、早く殺せよ!」

 既に陸から離れ、強い風で帆を上げた船は沖まであっという間だった。灯台さえ豆粒程に見える。
 天候良くまだ海も穏やかだが、凍える海は泳げはしない。
 逃げられない。


「弱い動物を虐めたそうだな。それは悪いと思わないのか? それも力の弱い子猫に……打ち所が悪ければ死んでいただろう? 痛みは人間も動物も同じだぞ」
「…………だって、不公平だろ? 俺だけが殴られて。どんなに痛くても、親父が死んで再婚した母さんは何もしてくれなかった。くそ野郎(義父)の言いなりでさ。俺が殴られても蹴られても止めてくれないし、傷の手当てもしてくれない、労る言葉さえかけてくれないんだ……。心配してくれたのは、仲間だけだ」 

「だから子猫を痛ぶったのか? それでお前は楽になったのか?」
「…………」
「苦しがるものを増やして、それで満足か?」
「…………」

 俯く彼は目を強く瞑り、口を一文字に結んでいた。
 悪いと思っているのだろう。

「俺は家の借金を返す為に、いろんな悪事を犯した。昔は借金の金利も酷くて、姉は体を売る仕事をさせられていたから、早く助けたかった。両親は真面目な農民だったけど、税金が高くて生活が苦しくて。俺達だけじゃなく、みんな悲惨だった。餓死した者だってたくさんいて、それを弔う元気もなくて。そのままにしておくと、ネズミが湧いて疫病も流行って、悪いことばかりだった。
 だからってやったことに言い訳はしねえ。俺はお前よりずっとロクデナシだったよ」

「っ、でも……家族の為なんだろ? 俺は八つ当たりで、子猫を傷付けた。酷い奴さ……」
「まあでも途中からは俺も自暴自棄で、欲望のままに動いた。人の為じゃなくて欲で動いた時もあった。しょうもない弱い人間だよ」

「(そうか。俺が一番不幸だと思っていたけど、もっと悲惨な現実もあったんだな)俺は……最低だな」
 ボソッと囁く声が聞こえたのか、バラダックは微笑んだ。

「俺もブリザード様に捕まったんだ。軽い拷問の後にこの船に乗せられてさ。もう30年くらいが経つよ。お前は二人の少年を育てる為にこの船に乗ったと聞いぞ、立派だな」

「え、育てる?」
「違うのか?」

「俺は……仲間を助けたいなら、言うことを聞けと言われて。それで……」
「詳しい話しも聞かずに、船に乗ったのか?」
「うん」
「良い奴だな」
「良い奴なら、弱いもの虐めなんてしないよ」
「まあ、そうだな」

 
 何となく話が纏まった時、副船長が甲板の背後から低い声をかけてきた。

「話しは纏まったか? もうすぐ網を揚げる場所に着く。ガキは下がらせろ」
「そうか、もう。教えてくれてありがとう。じゃあ、シウムは中に入ってろ」
「え、えっ、何があるの?」

 副船長は呆れたように、シウムに答えた。
「漁船は魚を捕まえるに決まってるだろ? そんなことも知らないのか?」
「っ…(だって、殺されると思ったから。まさか漁船だとは思わなかったし)」

 シウムは無言で船内に入ると、逆にわらわらと出てくる船員に珍しそうに見られていた。

(何で子供が?)
(目茶苦茶悪くて、ブリザード様に乗せられたのか?)
(極寒の海で、子供が漁師なんて無理だろ? すぐ死ぬぞ、可哀想に)


 シウムは男達を見て愕然とした。
「すごい筋肉だ。やっぱり大変なのかな?」

 そう思い丸ガラスから外を見ると、壮絶な光景が目に飛び込んできた。

 天候は急激に変わり嵐となって波は高く、船が飲まれそうに揺れている。
「うわぁ、船が沈む。みんな流されちゃうよ!」

 けれど広い甲板の上には命綱を腰に付けた男達がずぶ濡れになりながら、懸命に網を引き揚げている姿があった。

「早く引っ張れ。雨が船内に入るから、終わったらすぐ掻き出すぞ!」
「分かってる。うるせえぞ、バラダック。何、張り切ってんだよ!」
「だってあいつ不安だろ? いろいろ説明してやらないと。うわっ、冷てぇ」
「口閉じろ、アホが。真面目にやれ! いくぞ!」
「「「「おりゃあああああああ、たくさん入ってろよ! ぅおいしょー!!!」」」」

 大きな網で魚を掬い、氷結の魔道具コンテナに入れる作業。
 荒海へと変化した波は、船舶よりも高く上がり、入ってきた海水をバケツで必死に掻いて捨てるを、船員交代で繰り返す。
 
 凍えるような雨を浴びながら、揺れる甲板の上を必死に作業を続けるバラダック達。


「すごい、みんな。あんなに大きな網を引っ張って、魚を取るんだね。すごい、すごいよ!!!」


 シウムは海の驚異に怯えながらも、懸命に働く男達を見て感動していた。義父のように人にたかり生きることとは真逆の、命がけの仕事に。
 
「俺もこんな風に、みんなと働きたい。格好良い!」


 ここにいる漁師には、まともな理由で乗っている者は皆無で、気絶しているうちに勝手に乗せられていた者も数人いる。
 けれどシウムは、とても眩しい仕事に思えたのだった。

 最初は食事の賄い作りと洗濯や部屋の掃除の雑用から開始し、徐々に漁師の仕事を覚えていった。

 その後年齢を理由に船を降りたバラダックは、ガラナント子爵家商会の鮮魚部門の担当者となり、シウムと交流を続けている。


 シウムはブリザードの庇護下に入った、フランとエボマに手紙とお金を送金し続けた。そして猫への慰謝料として一生困らない金銭をブリザードに渡し、使い道を託した。

 フランとエボマは親から離れられた。貴族には逆らえない彼らの両親達は、金蔓を失ったと悔しがるも、同情する者はいなかった。
 そもそも強く見えるシウムの罰は、親から引き離す意味もあった。


「僕達の罪も被って、荒れる海で漁師なんて……。僕だって猫のこと(暴行)を止めなかったのに……お金だって送ってくれて、うっ」
「俺だって当たらなかったけど、石を投げたんだ。なのに……」

 彼らは逃げた二人の大人に誘導されて、子猫へと狂暴性を向けさせた。端金で働かせている子供達のガス抜きに、罪のない動物を使ったのだ。
 サンダーを殴ったのも、殆どこの大人達だった。

 ちなみにその大人にも子供達の両親にも、後に私刑が下されている。子供達の手によりコッソリと、可愛い?仕返しが。


 シウムの苦労を知り涙が溢れ出すフランとエボマは、ブリザードの提案に乗って、隠密になることにした。シウムが早く船から降りられるように、そして船から降りたシウムがゆっくり暮らせるように、お金を貯める為に。

 ただシウムは漁師が好きな為、止め時を失っていた。10年で下船許可が降りたが、そのまま彼は船に乗り続けた。

「貯金も出来るし、漁師の仕事が好きなんです。半年毎にフランとエボマと豪遊して、彼らの状況を聞くのが楽しいから。もう少し年を取ったら、止めようと思ってます。フランとエボマは、俺の老後の心配なんてしないで、結婚して幸せになって欲しい。そうじゃないと陸に上がって俺が結婚したら、恨まれそうだし」

 直接船まで出向いたブリザードに明るく話すシウムは、フランとエボマにも内容を伝えて貰ったのだった。


「シウムらしいな……。ありがとうね、いつも心配してくれて」
「本当だな。じゃあ俺達は、あいつが安心して羨ましいと思うように、結婚して待つか」
「ふふふっ、もうそんなこと言って。でも僕達の幸せをシウムが望むなら、好きな人を作っても良いよね」
「ああ。俺達の兄ちゃんには、感謝だな。あいつが結婚する時は、思いっきり祝福してやろうぜ!」
「うん、そうしよう!」


 こうしていくつもの後悔と感謝をしながら、子供達は成長していった。
 漁師や隠密の人員を確保をしながら…………。





 
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