#黒歴史消去しました

丹慈恵 りん

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第五話:暴かれる記録

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サッカー部の朝練を終えて教室へ向かう。校舎の階段を登っているときから、妙なざわめきには気がついていた。

「おはよ」

挨拶しながら教室へ入る。ざわめきからちらほら返事はあったけれど、それらの目線はスマホから離れなかった。

「また増えてる」
「え、更新されてんの?」
「うわ、マジか」


自分の席にたどりついた春翔は、すぐ前の席にいた植原に声をかけた。

「ウエ、おはよ。……なんかあった?」

「おはよ。これ。まっつー、まだ見てない?」

植原が見せてきたのは校内SNSの“タイムライン”だ。

作成されたばかりを示す「New」の表示がついた、アカウント。
名前は《@削除済みにしてやる》。
アイコンは、テレビドラマなんかで見たことのある指名手配犯みたいな画像で、
その両目を塗りつぶしたような奇妙なものだった。

投稿には、ぼかしも前置きもなく写真が貼られていた。

見ろよ、と差し出された画面には、三人ほどの生徒が映っている。

つけられたタグは、
#これ、ほんとに消したつもり?
#三人仲良く黒歴史
#見える?見えない?

それは夜の校内プールで、三人の男子生徒が裸になって泳いでいるものだった。
確か陸上部の三年生だ。
夜、プールに忍び込み、真っ裸ではしゃぐ三人。

「これ、まさに黒歴史だよな」

そう言って、植原は二本の指で画像を拡大する。
迫り出されたのは一人の局部だった。

「おい、やめろって」

「これはやばいだろ、こんなの出されたら俺なら死ぬわ。あとさ、こっちも」

植原がニヤつきながら他の画像も見せてきたが、春翔は首を振って制した。

校内のざわつきはこれだったのか。


植原の様子から、暴露アカウントが投稿した画像はまだ他にもあるのだろう。
ざわめきが落ち着かないまま、授業が始まる。春翔も自分の席に座った。



二限目が終わった休憩時間、そのざわめきは再びボルテージを上げた。


#これはガチで消したかったやつ?
#消しても消えない
#黒すぎ歴史


「えっ」
「これって……」
「副会長じゃん…?」


副生徒会長である二年生女子がくわえタバコをしている写真だ。
制服で、場所はカラオケルームだろうか。
画像は二枚添付され、もう一枚は、ビールグラスを煽るポーズ。

「がちでやばい」

「わ、こっちも」



続く投稿。

#消したつもりだった?
#てか誰が撮ったの
#泣き虫黒歴史


体育館の非常口で、泣いている誰か。
男子バレー部の練習着。
顔を真っ赤にし、泣きじゃくっている。

「……っ!」

教室の中から声にならない声がして、走り去る音が響く。
この泣き顔写真は、クラスメイトの一人のものだった。


ざわめきが一瞬凍りつき、そして、確信に変わる。


「え、この暴露アカウントえぐすぎん?」
「怖…」


ひそひそ声をかき消すように授業開始のチャイムが鳴った。

クラスメイトたちが何かを諦めるように席へ戻る。


三限目が終わった瞬間、誰もが自分のスマホを見る。
あのアカウントがまた投稿しているか、
そして次の“暴露”は何なのか


「あ、これサッカー部のやつ?」

どこかから声が立った。

春翔もスマホを操作し、校内SNSのタイムラインを表示させる。

(これって……)

あれだ。
去年の文化祭の、サッカー部の模擬店写真。

春翔たちが映っていて、そして、後ろの方に川瀬早織がいる、あの。


「これって本物の画像?」
「合成とかじゃなくて?」
「てか、これが暴露?普通の写真じゃん?」


口々に噂するクラスメイトたち。
すぐには去年の文化祭のものだと気づかないようだ。
写真部の公開ページやSNSではあれほど閲覧されていたのに。

つまり、記憶が曖昧になっている――

川瀬早織がアプリを使って消したから、だ。


「でも怖いね、このアカウント、どんな写真持ってるのか分かんない」
「なんでこんなのいっぱい持ってるんだろ?スクショして残してたのかな」

誰かがつぶやく。

いつの、誰の、どんな写真が、次に“暴露”されるのか。

そしてそれは本物なのかどうかの記憶も曖昧で。



またチャイムが鳴る。四限目は数学だ。
各々がため息とともに席につく。


教師が入ってくる直前、静かに響く声があった。

「今日、優亜ちゃん休み、だね?」
「そういえば今日はまだ優亜ちゃんの投稿ないよね」
「昨日は普通に画像もあげてたのにね」

瞬時に広まった衝撃は、教師が開けたドアの音で消えた。






(第五話・了)
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