#黒歴史消去しました

丹慈恵 りん

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第六話:ずれていく輪郭

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四限目終了のチャイムと同時に春翔は席を立った。

向かう先は隣のクラス。
一度訪問しているため、目的の人物の席は分かっている。

「川瀬」

呼ぶと、窓際の席で昼食を広げかけていた川瀬早織が顔を上げた。

「……あ、松崎くん」

「ごめん、ちょっといい?」

早織は、一緒にいた女子に断りを入れてこちらへ早足で近づいてくる。

「どうかした?」

「あれ、見た?」

春翔の言う、あれ、が暴露アカウントのことだとすぐに気づいたらしい早織は黙ってうなづく。



今朝と同じ場所、校舎角の階段の踊り場で、春翔と早織は向かい合って座っていた。
春翔はパンをかじりながら、スマホを取り出す。

「暴露アカウントのやつ、川瀬も見た?」

「うん……」

春翔はスマホ画面を向ける。
サッカー部の模擬店写真。
春翔と仲間たち、そして右奥には、ストローをくわえようとする女子の横顔――

「私……が、消したやつ」

小さな声を漏らす早織。

「でも、また出てきた」

「消した…のに。広告にも使われてて……もう何がなんだか」

「それもあるけど……俺、ちょっと気になってることがあって」

春翔がスマホをスクロールさせる。
タイムラインには、ついさっき投稿された新たな画像が表示されていた。

「これ、見て」

春翔がスクロールの指を止める。


#黒歴史ってどこからが黒なの?
#お姫様は泣いてない
#春翔♡優亜


添付された画像、それは、去年の体育祭、借り物競争での一場面だ。
障害物競走に出場した春翔が引いたカード。そこには『クラスメイト、出席番号3番をお姫様抱っこしてゴール』

ルールに従い、春翔がクラスメイトの優亜、石川優亜を抱えてゴールした瞬間だった。

障害物競走は校内のほとんどの生徒が見ていたし、
写真部の撮ったこの写真は、写真部の公開ページでも校内SNSでも見れた。
当時、かなり閲覧された、校内では有名な一枚。

「これって…、体育祭の」

怪訝そうな早織に春翔もうなづいた。

「うん。川瀬も覚えてるだろ?」

「うん、でもこれって別に」

「ああ。黒歴史でもなんでもない」


この画像は今は写真部の公開ページにもSNSにもない。
それは、優亜が写真部に頼んで消してもらったからだ。
春翔も知っている。相談されたからだ。


『康太が見たらイヤな気分になるかな…。康太が嫌な気分にならなくても、私は見られるの嫌だな。あ、別に春翔が嫌いってわけじゃないよ?』


優亜はそう悩んでいた。だから、春翔は「じゃあ写真部に頼んで消してもらおう」と言ったのだ。
写真部に行った優亜は、理由を話して消してもらった。

優亜と康太、春翔は同じ中学出身で仲もいい。
春翔からも、康太にこんなことがあったと話した。


でも、アプリは使っていないはずだ。
このお姫様抱っこ写真なんて、アプリで消す意味も必要もない。
春翔も優亜も、早織も全校生徒も、単なる体育祭のワンシーンだと知っている。優亜の彼氏の康太も知っている。
これは“黒歴史”でもなければ、秘密でもない。


(じゃあ、なんで、このアカウントが“暴露”したんだ?)


優亜と、康太と、自分との関係を知らない誰か、か?




春翔はスマホの表示を消す。頭の中ではある考えにいきついていた。

「川瀬も覚えてただろ、この俺と優亜の画像」

「え?うん、覚えてるよ」

「これ、優亜が写真部に頼んで消してもらってただけなんだ。川瀬もみんなもこの画像の記憶が残ってる。だからつまり」

「……アプリで消したものじゃないってこと?」

「たぶん」

春翔の肯定に早織も息をのんだ。

「……え、じゃあ、あのアプリとこのアカウント、関係ないってことなの?」

「その可能性、あるよな」

早織が眉をひそめる。

春翔はパンの空袋を丸めながら言った。

「優亜が、自分が頼んで消してもらった写真を広めるなんて、おかしい。そんなこと、するか?」

「……する必要ないよね……」

「じゃあ、このアカウント、どこから画像持ってきてんだよ」

早織の顔がまた険しくなる。
春翔も喉が乾いてくるような気がした。

早織が、自分の言葉を確かめるようにゆっくりと言う。

「もしかしたら…、校内SNSにアップされたものを勝手に使ってる…とか?」

「プール侵入のやつも、カラオケのやつも、なんかスクショっぽかったろ?一回SNSにアップして消したやつなんじゃないかな」

早織が戸惑いながらうなづく。

「校内SNSを管理してるのはプログラミング部だろ。調べてもらえば暴露アカウントが誰なのか分かるかも」

春翔の言葉にも、早織は小さく二回首肯する。

「だから俺、放課後プログラミング部行ってみるよ」

「私も行く」

即座に言った早織の目に、迷いは感じられなかった。






(第六話・了)

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