俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

文字の大きさ
1 / 79

剛の想い

しおりを挟む
俺の名は「佐久間 剛」17歳だ。現在、猛烈に好きな奴がいる。好きというよりは惚れている。どうしようもないぐらいに惚れまくっている。


いつもの学食、端のテーブルのイスに座って弘人を待つ。ザッと見渡してみたものの、まだその姿はない。腕を組んで俯向いてぼんやりと物思いにふける。
視線を感じて顔を上げる。その視線の方に少し目をやる。少し離れた場所に座っている…男だ。

《知らない顔だ、気のせいか?》

視線を戻す。

《まだ見てる…?》

もう一度見る。視線がぶつかる。そいつは慌てて視線を逸して俯向いた。

《弘人ならいいのに…》

その顔に弘人を重ねる。

《似てない。何考えてんだ俺…》

俺の口元がフッと緩んだ。視線を外す。

また別の視線。顔を上げると女子が3人。バチンと目が合った。何やら騒いでいる。

《何なんだ?目がキラキラしてる》

弘人のキラキラした瞳を思い出す。少し口元が緩む。

《弘人、まだ来ねぇ。早く顔が見たい》

視線を外す。何やら小さく甲高い声が聞こえたような気がした。

俺は、数々の視線の中から弘人を探す。弘人以外はニンジンやカボチャにしか見えない。

《弘人…。お前の顔が見たい…。》

緩む顔を見られないように俯向きながら髪をかき上げる。また、遠くで甲高く騒ぐ声がした。俺には関係ない雑音の一つだ。

「おい、剛。待たせたな。」

背後から愛おしい声がする。俺の胸が小さくキュンとなる。

「ああ、弘人。待ってたぜ。」

親友の弘人が向かい側の席に座る。相変わらず元気いっぱいの表情に俺の口元が微笑む。その瞳が俺を見つめて少しだけゆらめいた。

《やっぱ、可愛い》

俺の顔が一瞬だけニヤけてしまう。

ドヤドヤと押しかけてきた他の奴等に囲まれて、いつもの昼食タイムが始まる。

学校では親友だ。部屋で2人きりの時以外は…。弘人がそれを望んでいる。だから俺もそれに従う。俺との事で嫌な思いをさせたくはない。その笑顔を失わせたくはない。そして、距離を置かれたくはない。

《俺は、弘人を手放したくない》

弘人は俺を受け入れてくれた。その笑顔は今も変わらず俺に向けてくれている。それが嬉しくてならない。

《俺って、すげぇ幸せ者》

だが、俺には弘人を振り向かせ続ける自信がない。俺は男だ。弘人の前で女になりたいと思った事もない。弘人が女だったら…と考えてみた事はあるが、そんな事は関係ないらしい。俺にとってはどうでも良い事だ。

《俺は、弘人だから…好きなんだ》


部室の更衣室、ロッカーの前に立ちユニフォームを脱ぐ弘人の姿。俺の一番のお楽しみだ。
中学生の時から見てきた身体。日に焼けて香ばしくて美味そうだ。その首すじを流れる汗…弘人の体内から滲み出たもの…その首すじ、張りのある肌、濡れてまとわりついた髪の毛先で粒になって光る汗…今すぐにでも食らいついて舐めたくなる。

《俺は…変態か…》

着替えの時にだけ見られる弘人の裸。筋肉がついて男らしい身体になってきている。肩から上腕にかけて少し盛り上がる筋肉がしなやかに動く。前腕の筋肉もそれなりに盛り上がり、その腕すじが逞しく見える。胸筋も鍛えているのだろう、少し盛り上がった筋肉がまた動く。

《……舐めたい…》

俺は視線を外す。俺が見下ろす形になるので弘人は全く気付いていない。

《背が高くて良かった…》

周りの奴等は俺の長身を羨む。俺としては、弘人と目線が合いにくいので不便でしかない。だが、弘人に気付かれずにその姿を見る事が出来る。軽く目を伏せて視線を落とせば視界に入る弘人の身体。

《……抱きしめたい……》


弘人が変声期を向かえた時は大変だった。少し高めで張りがあり良く通る声だったのだが、それがしゃがれてかすれる。魅惑のハスキーボイス。

《ヤバイ…。色気ありすぎ…》

その声で名前を呼ばれるだけで、脳が異常に興奮して俺の身体の奥が疼く。耳元で話しかけられたりすると耳の奥が性感帯になるほどだ。弘人の息が俺の耳の穴を犯す。肌がざわついて毛穴が開いて総毛立つ。

《弘人、俺に近付くな…。ある意味、それは拷問だろ…?!》

変声期を終えた弘人の声は低めに響く。まだ少しガラガラした感じが残るその声が…男らしさを増す。

《その声で喘いでくれ》

もう、ムラムラして仕方がない。毎日、それを抑える為に発散する。そうしなければ、俺の頭がおかしくなりそうだ。身体が怠くなるまで内なる欲望を鎮めようと吐き出す。息が乱れる。苦しい。胸が…苦しい…。

《心が…苦しい…》

足も腰もガクガク震える。身体中が小刻みに震える。汗が頬を伝う。荒々しく息を吐く。肺が酸素を求めてあえぐ。苦しい…。胸が押し潰されそうだ…。

「……弘人…、弘…人…、ひ…ろ…と……」

愛おしいその名を呼ぶ。脳が痺れる。胸の奥が熱くなる。

「ああっ!う、うぅ…、はああっ……ぁぁ……」

熱く弾ける欲望が俺の指を伝って流れてゆく。もう何度目かも分からない。遠のくような意識の中で…弘人の顔が明るく笑いかけてくる。

「弘人…。」

力が抜けてガクリと蹲る。温かな浴槽に身体をあずけて頬を寄せる。

《温かい…。弘人の肌みたいだ…》

俺の頬を汗と涙が伝って落ちる。


そんな拷問のような日々だった。内なる欲望を抑える為に腰が抜けるまで吐き出す。学校で下手に興奮させるわけにはいかない。

《大人しくしていろ…俺の股間》

弘人が傍に居る時は、必要以上に接近せずにやり過ごす。俺は、弘人の親友として上手くやれているらしい。

高2になって選別クラスに振り分けられた俺の教室は、弘人のクラスとはかなり離れた場所になる。それはある意味幸いなのだろう。登下校と昼休みと部活動で一緒に居られる。授業中まで一緒だと俺は耐えられないだろう。

俺の周りにはいつも誰かが居る。ふざけて話す日常会話、意識しなくて良いから有り難い。仲間の顔を眺めてみる。どいつもこいつも男、男、男だ。

《別に何とも思わない。興奮する要素もない。俺はノーマルでいいのか?》

チラチラとこちらに向けられる視線。同じクラスの女子数名、そして廊下側の窓の外にも…何故か女子数名。

《何なんだ?》

視線をやる。

《別段代わり映えしない、何処にでもいる普通の女子高生だな。特に興奮する要素はない。何だよ?ジロジロみるなよ…俺は、見せ物じゃねぇ》

ゆっくりと視線を戻す。

俺の眼中にあるのは弘人だけだ。ただ、周りに気付かれないようにしている。そして、それは弘人も同じだ。

2人きりになった時のあいつは可愛らしくて仕方がない。同じ男だ。弘人の身体が疼いているのも分かる。俺に気付かれないように必死に抑えている時は最高だ。あいつはウブな方だ。いや、俺がエロすぎるのかもしれない。直ぐにでもあいつの全てを自分だけのものにしたくなる。頭の中では何度も何度も抱いている。だが、実際には手が出せないでいる。

無理矢理に奪えるものではないのだ。俺は、あいつの心ごと…この腕に抱きしめたい。
今は、傍に居られるだけで俺の心は満たされている。これを幸せと言わずして…何が幸せと言えるのだろう。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...