俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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相澤と速水〈11〉隠れた本音

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取り敢えず、訳の分からない部分は速水のせいにしてぶつけておく。そうすれば、一旦は解決した気分になる。軽い「リセット」感覚だ。
多分、今までもそうやって来たのだろう。だが、間が持たなくなっている。さすがに、この逃げ道にも限界があるらしい。

結局、自分が抱える問題からは逃げられないという事だ。日々のツケが一気に回って来たという所だろう。なにしろ、平日は疲れてバタンキューだった。そして、翌日には速水と顔を突き合わせる事になる。考える時間も余裕も体力も気力も使い果たしていたのだからどうにもならない。今更、それを引き合いに出したところで何がどう変わる訳でもない。俺は文句無しにやって来たからだ。自分の行動に反省すべき点など一つも無い。

だが、その結果として追い詰められているのは事実だ。

《一体、俺が何をしたって言うんだ?!》

頭の中に浮かぶのはそればかりだ。俺の思考は完全に行き詰まっている。その矛先を速水にぶつけるしかない。まるで「堂々巡り」状態だ。

考えてみれば変な話だ。今では、自分の中にある苦しみを速水にぶつけまくっている。だが、その苦しみの原因が速水でもある。これはどういう現象なのだろう…?
速水は逃げ道のようでもあり、全ての引き金でもある。これは未だかつてない究極の「速水ループ」だ。まるで「卵が先か鶏が先か」問題に近い。この謎を解明するのは不可能に近いだろう。

何故、これほどまで深く絡み付いてきてしまったのだろう…?

その答えは一体何処にあるのだろうか…?


《ハァ……、疲れてきたな…》

脳みそをボロ雑巾のようにギュウギュウ絞られる感覚に溜め息を吐く。今まで、これほど思考を働かせた事がない。
俺の言う「思考」とは、自分が意識的に使う脳の一部分の事だ。脳の大半は勝手に働く仕組みになっている。それがマニュアル化された思考になる。敢えて言葉にするならば「既存脳」とでも言っておこう。

既に、常人とは違う自分を解析する事は非常に難しい。俺は自分で自分を作り上げて来た。いや、自然とそうなった。又は、否応なく成らざるを得なかった。今では、それさえも分からない。全ては過去の産物だ。

孤独に生きる俺の意識は独特な世界の中にある。頭の中で考えているようでありながらも、何処までが自分の思考なのか分からない所がある。自分で脳を使って考えているのか?既に染み付いた感覚的なものなのか?その境界線がハッキリしなくなっている。

考えているようで考えていない。考えていないようでも常に思考は働いている。自分の考えに従って行動している事に間違いはない。その証拠に、俺は誰とも会話をしない。全く喋らない訳ではなく日常生活上で必要な言葉は使う。ただ、それも必要最低限の対処法でしかない。
つまり、何を言いたいかといえば、俺は自分自身に関する事で誰にも相談した事がない。全て自分の中で決定して処理して行動する。ハッキリ言えば、誰にも頼った事はない。それが俺の行動実績であり強い確信に繋がっている。


《クソ…!速水のせいで何もかもが駄目になってるじゃないか!大体、アイツは復讐のターゲットにもならない奴だろ!》

俺は苦悩する自分に怒りを向ける。速水にぶつける一時的な回避行動も効果が持続しなくなっている。目の前に速水が居ない以上、吐き出す場所が見当たらない。

《クソッ!何で速水なんだよ!?》

その顔を思い出せば腹が立ち、居なければ居ないで腹が立つ。もう、訳が分からないとしか言いようがない。速水のせいで苦しんでいるだけに、当の本人が居ない事に腹が立つ。これはもう救いようがない事態だ。
しかも、思い出すまでもなく速水の横顔がチラついている。それを無理矢理に頭の中から追い払い続けているのだ。自分でも何がどうなっているのかさえ分からなくなりつつある。

《ああぁ~!嫌だ嫌だ嫌だ!速水の事なんか考えたくもない!》

その映像を振り払うように頭をブンブン振り回し、髪の毛をグシャグシャと掻き回す。ベッドの上で何度も寝返りを打ち、枕に顔を埋めて唸る。

「うぅぅ……ぅぅ……」

こんな自分も初めてだ。もう、どうして良いかも分からない。

《何で…こんなになったんだ…?俺は、一体…どうなってる…?》

気を抜けば、俺の意識はどんどん深い闇の中へと落ちて行く。まるで、自分の深層部分へと入り込んで行くような感覚だ。答えを探ろうとすればするほど奥深くへと侵入して行く。それがとても恐ろしい。

《……誰か……居ないのか……》

《……助けてくれる……誰か……》


「……?!」

ハッとして瞬間的に跳ね起きる。

とても信じ難い事なのだが、俺は初めて誰かの救いを必要としたのだ。多分、昔はそうだったのだろう。だが、誰も助けてはくれなかった。そして独りになった。
孤独になってからの俺は誰の助けも必要としなくなっていた。全てを拒み遠ざけてきた。その根底が大きく揺らぎ始めている。

《冗談じゃない!ふざけるな!》

一瞬だけ小さくかすめた思考を強制的に払い除ける。これは既存脳の働きだ。

《俺は誰の助けも要らない!自分の事は自分で決める!速水の事も関係ない!》

一気に思考を引き締める。完全なる防御態勢だ。気を抜けば崩れてしまいそうになる。今更、他人の手によって崩される訳にはいかない。

《速水によって惑わされる所だった。危ない。奴は要注意だ…!》

冷静な思考が処理を開始する。速水に乱される感情を追いやるように現状を解析し始める。

正直なところ、俺は速水によってかなりの感情を剥き出しにされていた。あまりの疲労度に全てを投げ出してしまいたい気持ちもあった。何も無い日常に飲み込まれてしまいそうな所もあった。復讐とかけ離れた場所に居る事に慣れ始めていた部分もあった。

ただ、それを認めたくない気持ちが強かった。それを認めれば、自分が自分で無くなるような気がしたからだ。存在する意味を成さない自分など存在しないのと同じに思えた。

だが、それさえも速水の存在が邪魔をする。俺を孤独の中から引きずり出し、あらゆる面を引っ掻き回し、挙げ句の果てにはチャッカリと居座っている。

孤独でありながら孤独でない。果たして、そんな孤独があるのだろうか…?

速水を無視して孤独を感じようとしている事自体が孤独で無くなっている証拠だろう。独りで過ごしていた時には感じる事も無かった感覚は修行僧の気分に近い。風を感じ、光を感じ、匂いを嗅ぎ分け、鳥の囀りを聴く。自分は一体何をやっているのだろうか?と疑問に思えてくる。

冷静になればムキになる必要もないのだが、速水の存在がそれを掻き乱す。そもそも、ゲイというだけでも影響力が大きい。ゲイでさえなければ、これほど問題視する事もないのだろう。

《やっぱり、ゲイが問題なんだ》

次々と解析されてゆく現状を静かに受け止める。それと同時に、速水への強い感情も薄れてゆく。

《速水に慣らされてしまう所だったな》

深夜の静寂と深まる闇の中で、俺も静けさを取り戻す。

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