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第二章 元冒険者、弓の騎士になる
23:冒険者にも広まる、女性騎士誕生の朗報
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「はぁ!? あいつが騎士に!?」
冒険者ギルドにも、歴史あるベーム騎士団に初の女性騎士が生まれたという情報が入った。
もちろんディエゴたちの耳にも入っていた。
「どういうことだ。あんな奴が騎士になれるわけがないだろ! ド下手くそが」
「あんな奴を迎え入れた騎士団も、落ちぶれたものだな」
ディエゴはまだ信じられない様子。イアンはやけに冷静になり、騎士団を侮辱する。
「どうしてクリスタルと騎士団が関わってんのよ! まさか、あの三兄弟に媚びたとか?」
理解しがたい事実に、ジェシカはあるわけがないことをでっちあげる。
「だから言ったでしょ? クリスタルは格段にうまくなってるって」
このパーティで一人だけ余裕そうな表情を浮かべているのは、唯一その目で真の実力を見たクロエだった。
「にしても、冒険者から騎士かー。騎士なんて雲の上の存在だと思ってたのに、まさか妹がなるとは思ってなかったよ」
ディエゴは足と腕を組み、イスの背もたれに寄りかかって、吐き捨てるようにクロエに尋ねる。
「……そんなにあいつはうまいのか」
「まるで別人のようにうまいから」
「妹だからって、そういう言い方してるんだろ」
「そこまで言うなら、自分から騎士団寮に行って見てきなよ。庭で練習してれば外から見えるし」
ディエゴは何かを言いかけたが、飲みこんだ。相変わらず不機嫌そうなディエゴに、クロエが言い放つ。
「そうだ。もう私がこのパーティにいる必要はなくなったんだった。今日から討伐は三人で頑張ってねー!」
あらかじめ荷物がまとめられているので、少なくとも昨日までにはこのパーティを抜けようと考えていたのだろう。
クロエは荷物と弓道具をさっとかつぐ。
「そんなこと急に言うんじゃねぇ!」
「あれ、妹のときも急に言ったんじゃなかったの?」
「追放する前の夜に言った。急に言わなかっただけ、情けはかけてあげたんだが」
「あぁ、やっぱりダメだ。この期に及んでそんなこと言うなんて」
大げさにため息をついたクロエは、「じゃあね~」とのんきそうな言葉を残してパーティを去っていった。
見習い期間なしで騎士になれたものの、見習いのときに慣れなければいけないことがある。鎧だ。
しかし、クリスタルを騎士にするという決定があまりにも急だったため、女性用の鎧が用意できないでいた。
騎士になって一週間でやっと、女性用の鎧ができあがった。それでも特注のわりにかなり早くできたようだ。
騎士団長に呼ばれ、この前の応接室に入る。
「これが、私のですか」
騎士団長の隣に、私の鎧が鎮座していた。私の体に合わせて作られているので、あまりにも自分の体格とそっくりである。はぁ……と感嘆するしかない。
「さっそく着てみようか。女性の鎧姿は私も初めて見るから楽しみだ」
うなずいて、まずは胴の鎧を手に取った。かなり重たい。服と違って伸びないのでかなり着づらい。
腕や足の鎧もつけ終わった。顔を除き、体のほとんどを金属に守られている。
というより。
「冗談じゃないくらい重いですね……」
立っているだけで全身に金属の重みがのしかかる。頭では分かっていたが、いざ着てみると想像以上だった。
「やっぱり騎士ってすごいです。こんなに重い装備で戦うんですもんね」
「何を言ってる? クリスタル君も騎士なんだよ」
「あっ」
さらっと当たり前のことを言われてしまった。そうだよ、他人事じゃないんだよ。
「まぁ、鎧に着られている感じだな。この姿が様になるのが楽しみだね」
「はい、頑張ります」
「えっと……ちょっとそこら辺を歩いてみて」
言われたとおりに、歩こうと足を上げようとするが、重い。上がらない。
お年寄りがイスから立ち上がるときのように、よいしょと心の中で言わないと動けないのだ。
「最初は歩くのでさえ大変でしょ? まずは歩けるように、次に走れるように、あとは素早く方向転換したり、寝そべった状態からすぐに立ち上がったり。見習いの間は、鎧を着ても素早い動きができるような訓練もするんだよ」
それを私は飛ばしてしまったので、なるべく早く慣れて、騎士たちの武術訓練に混ざらなければならない。
「じゃあ、頑張ってね」
初めて鎧を着た次の日、私は全身の筋肉痛に襲われ、エラに心配されるハメになったのだった。
「セス、あれじゃないか」
「あの身長と髪は、確かにクリスタルですね」
騎士団寮の塀の外から、庭をのぞいている男が二人。クリスタルの二人の兄であるサムとセスだ。
鎧を着たクリスタルは、他の騎士と混ざって弓の練習をしている。クリスタルの順番がきた。
二人の方に体を向けるがクリスタルは気づかない。的だけを見据えて、見たことのない黒い弓をスッと引いた。何度言われても直せなかった左肩が上がっていない。あれが妹だと信じたくないくらい、明らかに自分たちよりもフォームが整っている。
「ホントだな」
あちこちに矢が飛んでいたはずのクリスタルだが、まっすぐに、しかも的に命中している。
「お姉さまが言っていたとおりですね。はるかにうまくなってますね」
聞き耳を立てると、「さすが、団長とリッカルド隊長に認められた腕だな」と褒められている声が聞こえる。
「騎士団長とリッカルドにか。リッカルドって、あのリッカルドだろ?」
「王国一と名高い弓使いですよね」
「だよな。……そんなにうまいのか」
そのあとはしばらく黙って、他の騎士の弓さばきも見ていた。
冒険者の中では名高いアーチャー家の人なので、弓の上手い下手は見ていれば分かる。他の騎士は正直、自分たちの方がうまいと感じる人が多い。
だが、クリスタルは……自分たちよりうまく見えた。認めたくないが、別人のようにうまい。
「これを見せられては、見習いをすっ飛ばして騎士になれたのに納得するしかないな」
クリスタルがパーティと家を追放されてから、まだ二カ月くらいしか経っていない。これではまるで、追放されたおかげでクリスタルの本当の実力が発揮されたようである。
いや、そうなのかもしれない。
「なんか、生き生きとしてるように見えますね」
「俺もそう思った。あんな表情見たことない」
クロエから過去の行いを戒められ、クリスタルが見違えるようになったと散々聞かされていたが、サムもセスもようやくクロエの言葉に納得できた。
「言葉が合ってるか分からないが、よかったな。だが……」
そのあとの言葉が出てこないサム。
「いや、これは直接クリスタルに言わなきゃいけないやつだ。ここでは言わない」
伏せていた目を再びクリスタルに向けたとたん、目が合ってしまった。「えっ」というようなぽかんとした顔でこちらを見つめている。
「見つかった」
兄二人はすぐさま塀から離れ、騎士団寮が見えないところまで逃げていってしまった。
「クリスタル、どこを見ている。集中しろ」
「あっ、ごめんなさい」
リッカルドから注意されるものの、心の中ではもやもやと二人の姿が残り続けた。
「どうしてお兄さまたちはここへ? 騎士になった私をからかいにきたのかな」
冒険者ギルドにも、歴史あるベーム騎士団に初の女性騎士が生まれたという情報が入った。
もちろんディエゴたちの耳にも入っていた。
「どういうことだ。あんな奴が騎士になれるわけがないだろ! ド下手くそが」
「あんな奴を迎え入れた騎士団も、落ちぶれたものだな」
ディエゴはまだ信じられない様子。イアンはやけに冷静になり、騎士団を侮辱する。
「どうしてクリスタルと騎士団が関わってんのよ! まさか、あの三兄弟に媚びたとか?」
理解しがたい事実に、ジェシカはあるわけがないことをでっちあげる。
「だから言ったでしょ? クリスタルは格段にうまくなってるって」
このパーティで一人だけ余裕そうな表情を浮かべているのは、唯一その目で真の実力を見たクロエだった。
「にしても、冒険者から騎士かー。騎士なんて雲の上の存在だと思ってたのに、まさか妹がなるとは思ってなかったよ」
ディエゴは足と腕を組み、イスの背もたれに寄りかかって、吐き捨てるようにクロエに尋ねる。
「……そんなにあいつはうまいのか」
「まるで別人のようにうまいから」
「妹だからって、そういう言い方してるんだろ」
「そこまで言うなら、自分から騎士団寮に行って見てきなよ。庭で練習してれば外から見えるし」
ディエゴは何かを言いかけたが、飲みこんだ。相変わらず不機嫌そうなディエゴに、クロエが言い放つ。
「そうだ。もう私がこのパーティにいる必要はなくなったんだった。今日から討伐は三人で頑張ってねー!」
あらかじめ荷物がまとめられているので、少なくとも昨日までにはこのパーティを抜けようと考えていたのだろう。
クロエは荷物と弓道具をさっとかつぐ。
「そんなこと急に言うんじゃねぇ!」
「あれ、妹のときも急に言ったんじゃなかったの?」
「追放する前の夜に言った。急に言わなかっただけ、情けはかけてあげたんだが」
「あぁ、やっぱりダメだ。この期に及んでそんなこと言うなんて」
大げさにため息をついたクロエは、「じゃあね~」とのんきそうな言葉を残してパーティを去っていった。
見習い期間なしで騎士になれたものの、見習いのときに慣れなければいけないことがある。鎧だ。
しかし、クリスタルを騎士にするという決定があまりにも急だったため、女性用の鎧が用意できないでいた。
騎士になって一週間でやっと、女性用の鎧ができあがった。それでも特注のわりにかなり早くできたようだ。
騎士団長に呼ばれ、この前の応接室に入る。
「これが、私のですか」
騎士団長の隣に、私の鎧が鎮座していた。私の体に合わせて作られているので、あまりにも自分の体格とそっくりである。はぁ……と感嘆するしかない。
「さっそく着てみようか。女性の鎧姿は私も初めて見るから楽しみだ」
うなずいて、まずは胴の鎧を手に取った。かなり重たい。服と違って伸びないのでかなり着づらい。
腕や足の鎧もつけ終わった。顔を除き、体のほとんどを金属に守られている。
というより。
「冗談じゃないくらい重いですね……」
立っているだけで全身に金属の重みがのしかかる。頭では分かっていたが、いざ着てみると想像以上だった。
「やっぱり騎士ってすごいです。こんなに重い装備で戦うんですもんね」
「何を言ってる? クリスタル君も騎士なんだよ」
「あっ」
さらっと当たり前のことを言われてしまった。そうだよ、他人事じゃないんだよ。
「まぁ、鎧に着られている感じだな。この姿が様になるのが楽しみだね」
「はい、頑張ります」
「えっと……ちょっとそこら辺を歩いてみて」
言われたとおりに、歩こうと足を上げようとするが、重い。上がらない。
お年寄りがイスから立ち上がるときのように、よいしょと心の中で言わないと動けないのだ。
「最初は歩くのでさえ大変でしょ? まずは歩けるように、次に走れるように、あとは素早く方向転換したり、寝そべった状態からすぐに立ち上がったり。見習いの間は、鎧を着ても素早い動きができるような訓練もするんだよ」
それを私は飛ばしてしまったので、なるべく早く慣れて、騎士たちの武術訓練に混ざらなければならない。
「じゃあ、頑張ってね」
初めて鎧を着た次の日、私は全身の筋肉痛に襲われ、エラに心配されるハメになったのだった。
「セス、あれじゃないか」
「あの身長と髪は、確かにクリスタルですね」
騎士団寮の塀の外から、庭をのぞいている男が二人。クリスタルの二人の兄であるサムとセスだ。
鎧を着たクリスタルは、他の騎士と混ざって弓の練習をしている。クリスタルの順番がきた。
二人の方に体を向けるがクリスタルは気づかない。的だけを見据えて、見たことのない黒い弓をスッと引いた。何度言われても直せなかった左肩が上がっていない。あれが妹だと信じたくないくらい、明らかに自分たちよりもフォームが整っている。
「ホントだな」
あちこちに矢が飛んでいたはずのクリスタルだが、まっすぐに、しかも的に命中している。
「お姉さまが言っていたとおりですね。はるかにうまくなってますね」
聞き耳を立てると、「さすが、団長とリッカルド隊長に認められた腕だな」と褒められている声が聞こえる。
「騎士団長とリッカルドにか。リッカルドって、あのリッカルドだろ?」
「王国一と名高い弓使いですよね」
「だよな。……そんなにうまいのか」
そのあとはしばらく黙って、他の騎士の弓さばきも見ていた。
冒険者の中では名高いアーチャー家の人なので、弓の上手い下手は見ていれば分かる。他の騎士は正直、自分たちの方がうまいと感じる人が多い。
だが、クリスタルは……自分たちよりうまく見えた。認めたくないが、別人のようにうまい。
「これを見せられては、見習いをすっ飛ばして騎士になれたのに納得するしかないな」
クリスタルがパーティと家を追放されてから、まだ二カ月くらいしか経っていない。これではまるで、追放されたおかげでクリスタルの本当の実力が発揮されたようである。
いや、そうなのかもしれない。
「なんか、生き生きとしてるように見えますね」
「俺もそう思った。あんな表情見たことない」
クロエから過去の行いを戒められ、クリスタルが見違えるようになったと散々聞かされていたが、サムもセスもようやくクロエの言葉に納得できた。
「言葉が合ってるか分からないが、よかったな。だが……」
そのあとの言葉が出てこないサム。
「いや、これは直接クリスタルに言わなきゃいけないやつだ。ここでは言わない」
伏せていた目を再びクリスタルに向けたとたん、目が合ってしまった。「えっ」というようなぽかんとした顔でこちらを見つめている。
「見つかった」
兄二人はすぐさま塀から離れ、騎士団寮が見えないところまで逃げていってしまった。
「クリスタル、どこを見ている。集中しろ」
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