41 / 49
第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

41:これにて証明、謝罪の返答

しおりを挟む
 兄たちの無事を確認し、今度は姉の部屋に向かう。サム兄と同じくらいのケガをしているそうだが、どれほどのケガなのだろうか。

 不安げな表情を浮かべて、姉の部屋のドアをたたく。

 コンコンコン

「ごめんください、クリスタルです」
「えっ、クリスタル!?」

 ガバッと布団か何かをはいだような音がした直後、「あっ、やっちゃった。痛てて……」ともだえ苦しむような声がし、私はドアノブに手をかけた。

 ガチャ

 兄たちと同じく、部屋の鍵は開いていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 姉はベッドの下でうずくまっていた。
 私は開けたドアも閉めずに、真っ先に姉に駆け寄る。

「クリスタルが来て……うれしくなって……足首の骨が折れてること……忘れてた……」
 
 そう言われて姉の右足首を見てみると、包帯はもちろんのこと、その下に何かで足を固定されているようだった。石膏せっこうだろうか。
 サム兄のように頭はやられていないが、右半身が全体的にやられているようだ。肩も腕も手首も足首も。

「とりあえず、ベッドに戻します」
「運べる?」
「頑張ります」

 弓と双剣で鍛えた両腕が、まさかこういう時に役立つなんて。

 掛け布団をいったんテーブルに置くと、私より背の高い姉をお姫様だっこした(顔には出ていないが、実は歯を食いしばっている)。そっとベッドに寝かせ、布団をかけてやる。
 そして何事もなかったかのようにドアを閉めにいく。

「なんか妹にこうされるなんて、お姉ちゃんなのに情けないね」

 力なく笑う姉に「こういうのはお互い様ですよ」と返しておく。その返答になぜか目を丸くする姉。

「……この前会ったときから、また変わってる」
「まぁ、騎士になったっていうのが大きいですね」
「そうだよ! クリスタルが騎士になれちゃったこと!」

 私は今、本来の姉の姿をひしひしと感じている。あの時から『隠しているようだが漏れ出ていたもの』があるが、その答え合わせをしているようだ。ちょっとドジで、おしゃべりで、積極的で、好奇心旺盛で、他人思いで。
 あぁ、小さいころからこういう風に話したかった。

「しかも双剣も扱えるなんて……。ますますお父さまのせいで才能の芽が踏みつぶされてたんだなって思ったよ」

 こんなにも父の悪口を言う姉を初めて見た。私がそれを苦笑いでごまかす。数秒の静寂のあと、言いづらそうに姉が口を開く。

「でも……どうしてギルドに来てくれたの? 増援とはいえ、他の人に任せることもできただろうに」

 やはり一番気になるところだろう。思っていることをそのまま話すことにした。

「この前、お姉さまが店に来て私に謝りましたよね。そのあとお兄さまたちも謝りにきましたが、誰にも返答をしていなくて。謝罪の返答として、ここに来ることを決めました」
「ここに来たっていうことは……?」
「お許しします。よくよく考えてみたら、お父さまが元凶だと気づきました。お兄さまたちはお父さまに従っただけで、お姉さまはお父さまとお兄さまに従っただけなので」

 ぱぁっと明るくなる姉の顔。その中には安堵あんども含まれていた。

 本当はついこの間までは許すつもりはなかった。いくら父が元凶とはいえ、私にしたことは言うまでもない事実だからだ。このまま縁を切って騎士に専念しようとも考えていた。
 だが、この増援要請をきっかけに考え直してみた。三人とも生きてくれててよかった。

「ありがとう……。許してくれて、しかもここに来てくれて。そうだ、いいこと教えてあげる」

 一瞬ではつらつとした雰囲気に戻った姉は、若干声をひそめながら言った。

「私ね、実はクリスタルが追放されてから先日まで、ディエゴのパーティにいたの。クリスタルにしてきたことを色々暴いてやったから、クリスタルがどういう状況だったのか分かった」

 と、何か企んでいそうな怪しい笑みを浮かべる姉。

「実はクリスタルを追放してから、ディエゴたち苦労してるそうよ~。どうなってるかは、自分の目で確かめてみて」

 あのディエゴたちが、苦労することってあるの!? むしろ、あのときは私が下手すぎてそのフォローに苦労してたくらいなのに。

「えっ、どうして私を追放したのに苦労してるんですか」
「あの三人とも剣使いでしょ? だから飛行モンスターが狩れなくなったらしいの」

 私の下手な弓でもあるのとないのとでは、少しは違かったのだろうか。そんなはずはないだろうに。

「あとはうわさだけど、クリスタルが何かの能力を持ってて、その能力でディエゴたちを助けてたんじゃないかっていう話」

 能力と聞いて、姉にバレない程度にビビる。
 こっちにも、そういう話が出てたの?

 リッカルドにも「超能力か実力かは分からないけれど、他の弓使いにはない力を持っている」と言われ、風のこどもというものに話しかけられ、冒険者の間でも超能力の話が出ている。
 しかもさっき、三体のアウバールの真ん中に矢を当てると、その両隣にいたアウバールもなぜかバランスを崩していた。

 デス・トリブラスのことも、ディエゴたちのことも、噂されている超能力も、ふいに全部知りたくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...