43 / 49
第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

43:デス・トリブラス戦、前日

 あれから三週間後。私が思っていたより上級冒険者たちのケガは早く治ってくれた。
 いつも冒険者ギルドに到着すると討伐前の作戦立てをするのだが、今日からはそこに上級冒険者も加わっている。

「今日から一週間は、戦闘の感覚を取り戻してもらう期間とする。一週間後の今日、デス・トリブラスに挑む」
「一週間と短い期間だが、冒険者の中でも優秀な人たちだ。感覚を取り戻すのも早いと考えている」
「この一週間でデス・トリブラスに備えるように」

 三兄弟が冒険者へ順に言葉を述べていくと、返事をすることに慣れていない冒険者たちは、私たちにつられたのか小さく返事をした。

「えぇ、もう死にたくないのに」
「それは分かっている。もちろんこの一週間で作戦を立てていく」
「げっ」

 冒険者の誰かが小声で言ったことが、リッカルドには丸聞こえだったらしい。

「今日は初日だ。いきなり上級ダンジョンに行くのは危険だろう。初級や中級にした方がいい」

 気をつかってディスモンドは提案するが、「それじゃあ換金額が足りない」と冒険者は文句を言う。

「それを話してなかったな。俺たち騎士団は毎月給与があるから、モンスターを討伐しても換金額の一割しかもらっていない。残りはギルドに寄付して、君たちの治療費や食事代にしてもらっていた」

 言われてみれば、というような顔をする冒険者たち。
 ケガをしても、普通は自分たちで布などを買って手当てをする。それだけの大ケガとなると莫大ばくだいな治療費になるだろうが、どこから出ていると思っていたのだろうか。

「つまりだな、今日からも一割は騎士団が、九割は冒険者たちで平等分配してくれ」
「え~平等分配か~」
「デス・トリブラスを倒すまでの一週間だけだ。それまでの辛抱だ」

 もしここにいる冒険者たちが初級や中級の人ならば、平等分配と知ったとたんに討伐をサボるだろう。だが、私は知っている。上級冒険者はみんな、戦うことに一種のプライドを持っている。

「……もし『サボる』というようなことがあれば、多額の報酬が見込めるデス・トリブラス戦に連れて行かないことにする」

 リッカルドの重く低い声で告げられ、冒険者たちの顔が引き締まった。
 そんなことを言わなくても、しっかり戦ってくれると思うけど。

 冒険者たちが騎士団の洗礼を受けているようで、私は心の中で少しだけ笑っていた。





 デス・トリブラス戦前日。三兄弟の見立てどおり、冒険者たちは凄まじい速度で元の戦闘感覚を取り戻した。
 討伐が終わり、食堂を一時間だけ貸し切って、明日に向けての作戦会議をする。

 増援初日から上級ダンジョンの討伐のリーダーをした、ディスモンドを中心に行われている。

「今日はデス・トリブラスの潜伏場所の手前まで行ったな。そこまではここにいる騎士の三分の一と上級冒険者だけで行けたが、前回の討伐のときはどうだったか?」

 ここでサム兄が発言する。上級冒険者の中では一番うまい弓使いだからであろう。

「正直、この前は手前まで来るのにも苦労しました。モンスターが多く、無駄に体力を減らされました」
「今日はどうだったか?」
「今日は人数が倍になったので、体力は温存できました」

 父以外にサム兄が敬語を使っているのを見たことがなかったので、違和感を覚えつつ話を聞いていく。

「それなら安心だ。明日はその倍だから、しっかり体力を温存してデス・トリブラスに挑めるな」

 ということは、明日は増援の騎士全員と、上級冒険者全員でやっていくっていうことだよね。

 私はスッと手を挙げた。

「どうした、クリスタル」
「明日は、今日まで初級と中級のダンジョンに行っていた騎士も、デス・トリブラス戦に行くということですよね。明日のその二つのダンジョンは誰が討伐するんですか」

 我ながらなかなかよいところを突けたと思った。……が。

「そこは大丈夫だ。我々がこの一カ月で根気よく討伐した結果、モンスターがもともとの強さに戻っているらしい。明日からは冒険者たちに引き渡しても大丈夫だろう」

 ディスモンドには、私の思考の先を行かれていた。何か悔しい。

「デス・トリブラス戦のことだけではなく、そういうことも考える必要がある。なかなかいい質問だったな」

 遠回しにディスモンドから褒められたついでに兄や姉をちらりと見ると、三人とも同じように目を見張っている。
 そう、怖がらずにちゃんと自分の意見を言えるようになったよ。

「我々の話に戻るが、明日の隊形は変更なしでいいか?」

 私も含めたみんながうなずき合う。ディスモンドが全員の顔をなめるように見ていくが、何か言いたそうな顔をしている人はいなさそうだ。

「分かった、変更なしでいく。デス・トリブラスまでは、前衛は剣使いで後衛は弓使いだ。奇襲対策で、我々騎士団の遊撃隊で後衛の弓使いを囲って守るようにする」

 この隊形は、初日に私たちが実戦で使っていたものをもとに編み出したものである。そのあとに細かいところを修正したものを、明日実践する予定だ。

「デス・トリブラス戦は、近距離攻撃ができないから、まずは弓使いが攻撃する。弱点を突いてひるんだスキに、剣使いが一斉攻撃だ」

 ちなみに、私は無駄に体力があるので、弓でも双剣でも攻撃することになっている。

「今夜はみんな武器の手入れをしっかりしてから、十分に休むこと。騎士は初めてデス・トリブラスと対峙たいじすることになるが、怖気づくな。一回戦った冒険者たちを信じること」
「「「「はいっ!」」」 

 ディスモンドが私たち団員に鼓舞すると、腹からはっきり出された返事がそろう。
 今度は顔を冒険者たちに向ける。

「明日は冒険者と俺で引っ張ることになる。このように俺たちは初めてデス・トリブラスと戦う。だから、一回戦ったことのある冒険者たちを頼りにしている。君たちの動きを見て団員に指示をすることになるから、よろしく頼む」
「了解しました」

 敬語で返すサム兄に私はいちいち反応してしまう。

 作戦会議が終わると、私はまた別行動をとった。冒険者時代に慣らしをしていた庭に赴く。

 巻藁まきわらに向けて一発、弓を放った。ねらい通りのところに矢は刺さった。
 よかった。ここでもちゃんとコントロールできてる。

 そこでふと視線をギルドの建物の方に移すと、こちらを見る人影が三つ。

「ねぇ、あれクリスタルじゃない!?」

 その声を聞いたとたん、私の皮膚という皮膚全体に鳥肌が立った。
 夕日で逆光になっているため顔までは見えないが、あのシルエット……。

「ジェシカ……?」

 あの声を忘れるわけがない。

「あれが、クリスタルなのか」

 ディエゴの声だ。

「うまいといううわさは本当だったんだな」

 その声はイアンだ。
 ディエゴとイアンはぼそぼそとしゃべっているが、私の地獄耳が鮮明に言葉を捉えてしまっている。

 全身から血の気が引くのが分かる。

 あぁ、ここに一カ月通ったけど、私はまだ克服できてなかったんだ。
 逃げたい。逃げたい。

 私は無造作に道具をつかむと、恐怖のままに走りだした。気づいたときには騎士団寮の前にいた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」 王立学院の舞踏会。 全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。 努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。 だが、カロスタークは折れなかった。 「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」 怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。 舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。 差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける! これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。 誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
【毎日12:10更新!】 松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

​「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です

まさき
恋愛
​「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」 ​十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。 しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 ​捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。 死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。 ​(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!) ​清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。 彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。 ​「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」 ​バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。 ​一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。 「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。 ​「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」 ​仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕! ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

静かなる才女は、すべてを見通す

しばゎんゎん
ファンタジー
突然婚約破棄を言い渡される伯爵家の長女エリシア。 理由は、義妹ミレーユを虐げていたという偽りのものだった。 エリシアの社交界における評価は「地味な令嬢」。 だが実際には、婚約者である侯爵家の長男レオナルトを陰で支え続けていた才女だった。 やがて明らかになる「本当に優れていたのは誰か」という事実。 エリシアを失い崩れてゆく、レオナルト。 無知さと我儘で評判を落とす、ミレーユ。 一方で彼女は、第二王子に見出される。 これは、愚かな選択をした者たちがすべてを失い、静かなる才女が正当に評価される物語。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!