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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

48:あの人たちの赤ら顔(後編)

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 姉が「ねぇねぇ」と私に問いかける。

「矢から風を出す能力……もしかしてそれ、クリスタルが冒険者のときから知らないうちに使ってて、ディエゴたちを補佐してたんじゃ?」

 場が静まりかえった。

「あ、ごめんなさい! 私変なこと言っちゃっ――」
「それが真実ではないか?」

 謝ろうとする姉をディスモンドが制止する。

「いっそのこと、話してしまおう。俺の双子の弟・ディエゴにもな」

 双子の弟という言葉に今度は場が騒がしくなるが、ディスモンドが話し始めると再び静まった。

「愚かな弟とそれに群がる二人、よく聞け。クリスタルをパーティから追放したのは、クリスタルが下手だったからだったな。だがクリスタルは、敵に矢が当たらなくても、超能力のおかげで敵にかすめさえすれば、敵の姿勢を崩すことは可能だった。それがお前たちの手助けとなっていたはずだ。そうだろう?」

 思い当たることがあるのか、うなずく例の三人。

「それにもかかわらず、お前たちは矢の軌道しか見ていなかった。知らない間に助けられていたと自覚しないまま、クリスタルを無能だと追放した。何か勘違いしていたようだが、『俺たちが無能なクリスタルの尻ぬぐいをした』のではない。逆に『クリスタルに助けられていた』んだ。追放したあとはクリスタルの助けがなくなって、とたんに上級ダンジョンを攻略できなくなったようだな。当たり前だ」

 騎士から発せられる言葉の、なんと重いことだろうか。
 三人の顔は真っ赤で、恥ずかしいという感覚すらも通り越しているようであった。

「……クリスタル、すまなかった。もとから持っているそんな能力に気づけなかった。能なしではなかったな」

 なんと、ディエゴが謝ってきたのだ。イアンもジェシカもばつの悪そうな顔をして、私を見ている。

「だから、やり直そう。クリスタルが優秀だというのは十分に分かった。俺のパーティに戻ってこないか――」

 え、それ本気で言ってる?
 さっきの討伐で乱入してきたときのこともあり、怒りが再びこみあげてきたのだ。

「戻るわけない! 私はもう冒険者じゃなくて、騎士なの。この際だから言うけど、三人ともぜーんぜん強くない。自分たちは強いんだって、なんか勘違いしてるようだけど」

 怒りにまかせ、出てくる言葉に身を委ねてみる。

「今日久しぶりにちゃんと会って、びっくりした。中級冒険者に成り下がったのに、言動は上からで、根拠のない自信に満ちあふれてて、まっっっったくあのときから変わってなかった。中級者になったって聞いてたから、少しはおとなしくなってるのかと思ったのに」

 かつて自分たちが追放した人に言われる屈辱といったら。しかと味わってもらおう。

「あなたたちに追放されたおかげで、広ーい外の世界を知ることができました。ありがとうございました」

 言ってやった。言いたいことはちゃんと言う。これも成長した私の姿だ。

「……すみません、つい」
「大丈夫~、聞いてるこっちもすっきりしたから~」

 最初に肯定してくれたのはオズワルドだった。

「逆にクリスタルちゃんが冒険者に戻るって言うなら、僕は全力で止めるから~」

 ディスモンドは鼻で笑っている。

「手放した方が悪い。クリスタルのような逸材をやすやすと渡すわけがないだろう」

 リッカルドは凍てつくような視線をディエゴたちに注いでいた。

「貴様らにもうちの騎士道をたたきこんでやるか。俺は一応剣も教えられるぞ。その前にその曲がった性格から手をつけなくてはな。ちなみに、クリスタルも通った道だが」
「「「けっ、結構です」」」

 おびえる三人に、騎士も上級冒険者も笑っていた。もちろん私も。
 訓練の厳しさを知っているからこそ、この乾いた笑いが出てきた。

「さて、ようやく己を知ったところで、クリスタルの話の続きを聞くんだな」

 リッカルドにうながされたので、興奮を鎮めて続きを話していった。





 次に、超能力の実験をした帰りに起こったことを語った。
 神殿に行ったら誰かがささやくような声がしたこと、その声は複数人だが人間ではないこと、エラに話してみたら『風の子ども』ではないかと言われたこと。

「風の子どもの声が聞こえる人間は、風の神子みこと呼ばれるらしいんです。それで、私がデス・トリブラスを倒す前、自分が風の神子なんだとお告げを受けました」
「あの、竜巻みたいなものの中にいたときか?」
「そうです」

 倒す瞬間を見ているセスが確認する。

「私の『王国を守りたい』っていう気持ちに、風の神・ウィンブレス様が応えてくださいました。私は風の能力ちからを得て、デス・トリブラスを倒すことができました」

 私が非常識だっただけで、私以外は風の神や風の子ども、風の神子のことも知っていたので、話が早かった。
 どうして私は知らなかったのか、未だに分からない。

「その、風の能力っていうのを使ったけど、最後クリスタルちゃんが切り刻むところもかっこよかったね~!」

 いきなり話しだしたかと思いきや、私を褒める言葉だった。いやいやぁ……。

「オズワルドさんが師匠だったからですよ」
「そうだった、僕が教えたんだった」

 騎士団の内輪ネタだが、冒険者も巻きこんだ爆笑になった。
 あぁ、たぶんオズワルドは笑いをとりたかったんだろう。私がこう返すと知っていて、話題をふっている気がする。

 そんな中、圧倒的に話に乗れていないあの三人。
 三兄弟や私のきょうだいからの圧が、あの三人にかかっている。しゃべらすまいと。

 このあとも、表向きでは『討伐成功を祝う宴会』が、本当は『クリスタルを追放した奴を居心地の悪いところにいさせる会』が続いた。
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