あの角を曲がれば、美少女とモンスター

桐坂数也

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巻き込まれ少女、集団で異世界。

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「あらあら、ずいぶん仲がいいのね。いつの間にそんな仲になったのかしら? おふたりさん?」
由梨亜と二人下校中、後ろから声がした。
(ニーナ?)
声の主は、ニーナにそっくりだった。違うのは,髪の色。碧のストレートな髪。

「わたしにひと言もないなんて、ずいぶんつれないじゃない?やっぱりユリも、男ができたら変わってしまうのね。しょせん女同士の友情なんて」
「ニナ。そんなんじゃないから」

志朗も名前は知っていた。由里絵の友だち、蜷川明穂だ。

「ラブラブな二人は、これからどこへ行くのかしら?」
「べつに。異世界に行くだけよ」
「なになに? 二人っきりで、二人だけの異世界に旅立つ? なんてリア充な言いぐさ。ああ、しょせん女同士の友情なんて」
よよよ……と泣き崩れる真似をする明穂。


「……ニーナ以上なんじゃね?」
「由里絵の記憶より、さらにぶっとんでるわね」
ひそひそと会話を交わす二人を見て、さらに明穂がたたみかける。
「また二人きりの世界に浸っているのね。ああこれだから、しょせん女同士の友情なんて」
「ああ、わかった、わかったわ。じゃあんたも一緒に来なさい」
 由梨亜は明穂の手に件の十円玉を握らせると、手をひいて歩き出す。

そしていつもの角を曲がる。


虹色の道。原色の葉っぱ。
その間を由梨亜はすたすたと歩いていく。

「……なに、ここ?」
「だから言ったでしょ。異世界よ」
由梨亜は急いでいた。毎回そうそう都合よくニーナと合流できるものでもない。彼女はどこにいるだろう。

ほどなく現れたのは、小くて黒くてまん丸な、長い毛並みのモンスターだった。黒くてふさふさのみたいな物体が数個、目の前でうごめいている。
「なにこれ? かわいい~」
手を伸ばす明穂に、
「気をつけて。そいつ、時々噛むわよ」
由梨亜の警告にびくっとして手を引っ込めた。

「だけど……」
由梨亜はおもむろに折りたたみ傘を取り出すと、
「傘持っててよかったあっ!」
抜刀するかのごとく勢いよく柄を伸ばし、黒い毛むくじゃらの物体に振り下ろした。
黒い丸が潰れ、光になって弾ける。二個、三個。その跡には小さなアイテム。

「ああ、よかった。これで少しは身を守れるわ」
数個のアイテムをゲットして、由梨亜はにっこりと振り返った。
「おつかれ。今のうちにニーナと合流しよう」
「そうね」
志朗の言葉に、今日は由梨亜もかみつかなかった。

「なに、今の? モンスター退治?」
明穂が不思議そうに訊いた。
「そうよ。この世界ではよくあること。ていうか、毎日の日課ね」
「へえ。面白そう」
興味深そうな表情の明穂の向こうの茂みに、由梨亜は視線を向けた。

「でも本当のモンスター退治は、これからよ」
そう言うと、茂みに駆け寄り、跳び上がって傘を振り下ろした。
ばしっ!と傘が弾き返される。由梨亜は跳びすさって、素早く元いた場所に戻った。

茂みから現れたのは、ヒト型二足歩行の、雪男のようなモンスター。短い脚に四本の腕がついている。
「こいつはちょっと手ごわいわね」
由梨亜は不敵に笑うと、傘を降ろして左手にアイテムを持ち、右手を横にぱっと払った。
「スパイキー!」
ぱん!と乾いた音がして、モンスターが顔を押さえる。
「走って! こいつは足が遅いから。逃げるわよ!」
三人は駆け出した。

「さっき投げたのは何だい?」
走りながら志朗が訊いた。
「初歩的な魔法よ。圧縮した空気の玉。ぶつかると壊れる、ちょうど風船が割れるみたいな感じ。びっくりするけど、実害はほとんどないわ。めくらましよ」
説明のあと、由梨亜は叫んだ。

「ニーナぁあああっ!!!」
家の方へ向かっているが、果たして合流できるだろうか。
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