あの角を曲がれば、美少女とモンスター

桐坂数也

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つかの間の幸せ、リア充な夕べ。

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 (しかしこれって、世間一般でいうところの、デートというものなのでは?)
 美少女と二人、遊園地。けちのつけようがないくらいリア充な生活。このままこんな生活が続くといいな……。
 ふと志朗は、由里絵を思い出した。今現在、異世界で剣士をやっている少女。どうしているだろう?異世界生活を楽しんでいるだろうか。それとも……。

 「お待たせ」
 我に返って顔を上げると、私服姿の由梨亜。
 (可愛い……。)
 いつもの金髪ツーサイドアップを可愛らしいリボンで留め、裾がふわり拡がった水色のワンピースの上に薄手のカーディガン。黒のニーハイにヒールの少し高いショートブーツ。制服姿よりさらに可愛い。

 「……どうかな?由里絵の服から選んだんだけど……似合ってる?」
 無言で志朗に見つめられて、由梨亜は居心地悪そうに身じろぎした。
 見上げるような視線が、さらにやばい。狙ってやっているなら完璧に悪女だ。
 「うん。とっても、その、可愛いよ。可愛いけど……。」
 志朗が無言であったもうひとつの理由。
 「今日って、雨だっけ?」
 「あ。えーと、これは……。」
 由梨亜の手には、傘。白の可愛い傘なので似合ってはいるのだが。
 「……剣の、代わりよ」
 (やっぱり)

 左手でわしづかみにしているさまが、まさに剣だ。飾りのついた傘の細い柄(え)が、仕込み杖の柄(つか)に見えてくる。
 「だって、なんか心許なくて。ほんとは腰に吊りたいんだけど……。」
 「やめなさい」

 いっそ本当に刀をしょわせてやれば、「歴女」で通るかもしれない、と志朗は思った。その代わり今日のコーディネートはまことに残念なことになってしまうだろうが。
 「まあそれで気が済むなら、いいよ持ってて」
 「わーい。ありがと。それじゃ、夢のない世界の夢の国へ、よろしくっ!!」
 「……おまえ本当に容赦ないな」

 そして、文句なしに楽しい一日だった。
 由梨亜ははしゃいで、驚いて、怖がって、笑い転げて、本当に楽しそうだった。そんな由梨亜を見ているのも楽しかった。

 「あー、楽しかった」
 夕暮れ時のカフェコーナーで大きなパフェをつつきながら、由梨亜は独り言のように続けた。
 「本当にこんな生活がずっと続けばいいのにな」
 はっとして志朗は由梨亜を見た。

 「ねえ、由梨亜」
 「なに?」
 「きみは、こっちの世界に住みたい?」
 由梨亜は、自分が不用意な言葉を漏らしてしまったことに気づいた。視線を落として黙り込む。
 唇をきゅっと噛んで、やがて小さく答えた。
 「……うん」
 その理由が自分ではないことは、志朗にもわかっていた。そんなにうぬぼれてはいないつもりだ。
 由梨亜は両手をぎゅっと握りしめている。思いの強さを感じて、志朗は胸がしめつけられるような気がした。好きとか好きじゃないとか関係なく、この娘の力になりたい、と思った。

 「わかった。明日ニーナに会いに行こう。それで、ちゃんと話そう」
 「……うん」
 由梨亜は泣き笑いのような表情になり、やがて笑顔になった。そして言った。
 「ありがとね。志朗」
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