7 / 16
異世界の少女と、放課後デート。
しおりを挟む
「おはよう、志朗」
「おはようユーリ、じゃなくて由梨亜さん。制服はどう?この世界の感覚はどうかな?」
朝の駅。志朗はエスコートという名目でユーリ=狩野由梨亜と共に登校することにしていた。
「ええと、その」
由梨亜は急に恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「このスカート、短かすぎない?すごく頼りないんだけど」
そう言って由梨亜は、スカートの前を鞄で隠した。
(可愛い……。)
「とっても似合ってるよ。だいたい露出度で言ったら、前の服の方のがよっぽど派手だったと思うけど?」
「だってあれはちゃんとアーマーでよろっていたもの」
二人並んで歩きながら、こんな役得は二度とないかも知れないな、などと志朗は思った。同時に、今異世界にいる由里絵を思い出していた。自分は由里絵のどこが好きだったんだろう?由里絵と、目の前にいる由梨亜を、自分はどう感じているんだろう?
「……あんた今、由里絵のこと考えてたでしょ?」
「え?いや、そんな事ないって」
あせる志朗を疑わしげににらむ由梨亜。まったくこの娘は、どうしてこんなに勘が鋭いんだろう。 由梨亜の表情は、女の勘というより磨き抜かれた野生の勘、という言葉を連想させた。
登校してみると、ユーリは狩野由梨亜としてちゃんと受け入れられていた。金髪のツーサイドアップも誰も気にしていない。まあすれ違うすべての男どもが振り返って二度見してしまうのは、当然なのだが。
「アーマーがないのって、気楽でいいわぁ。物陰のモンスターにおびえなくてすむし」
一日が終わる頃には、この世界にすっかりなじんだようだ。由梨亜は楽しそうに笑っていた。最初に会った時は快活だが、もっと野性的でとげとげしかった。今はその角が取れて、自然に柔らかい明るさになっている。
(こんな娘だったんだ)
これでは男どもが群がってくるのは時間の問題だ。かくいう自分もその一人だと、志朗は認めざるを得なかった。ずっと一緒にいて、話をしていたい。
「そんなにいつも警戒してたの?」
「そりゃそうよ。下手すれば命にかかわるもの」
「敵のいない世界で、剣士さまはすっかりだらけているな」
「えー、なにその言い方、ひどい」
怒ってみせても、それすら可愛くみえる。
だが、だらけているというのは間違いだ。曲がり角や物陰など、視線の届かない所の手前では必ず、由梨亜は一瞬動きを止める。身体が危機回避を覚えているのだ。
「ところでさ、志朗。この世界を案内してくれない?」
帰り道に由梨亜が言い出した。
「知識は由里絵からもらったけど、やっぱり実際に見てみたいし、感じてみたいわ」
知識や技能はあっても、感情は別物であるらしい。
「そうだね。どこに行きたい?」
「牛丼屋っ!」
「……それはきみのような娘にはちょっと」
可愛い娘、という形容詞はとても恥ずかしくて口に出せなかった。
「えー、ご飯たらふく食べてみたいのに」
口を尖らせて文句を言う姿は可愛いのだが、口にしたセリフには色気のかけらもない。もしかして痩せの大食いとかいうやつ?フードファイター系?
「むこうじゃ、ゆっくり食べられないのよ。いつも臨戦態勢だから」
可愛くても、やはり生粋の剣士なんだ、と志朗は改めて知らされた。しかしさすがに牛丼はどうかと思う。
「ええと、手始めにハンバーガーとか、どう?」
「あ、そっちでもいいや。案内して」
そして二人とも、昨日の曲がり角は避けてハンバーガーショップに向かった。今日は異世界に行きたくなかった。特に志朗は、久しぶりに普通の日常生活―――それもとびきりシアワセな―――で一日を終えたかった。
由梨亜によれば、向こうにも牛丼屋やハンバーガーショップはあるという。
「でもこっちの世界は、人通りが多いわ」
「そうだね。ごみごみしてる」
「ううん。なんか、安心する」
由梨亜の感じ方、口にする感想が、どれも志朗には新鮮だった。
そして由梨亜にさらに惹かれていく自分を感じていた。
「そう言えば、昨日ニーナがくれたものは、なに?」
「ああ、あれはね」
由梨亜は小銭入れを取り出した。開けてみると中には例の、昭和65年の硬貨が何枚か入っている。
「これをこの世界に蒔いていくのよ。あの世界とつながる種になるから」
「それって、意味があるのか?」
「由里絵みたいに、あの世界に行きたい人がいっぱいいるでしょ?その人たちのための種であり、鍵となるものよ。だから今も、これで買ってきた」
いたずらっぽく由梨亜が笑う。
「ふーん。ユーリはやっぱり、あっちの世界に戻りたい?」
「んー、あたしはこっちがいいかな。魔法は使えないし不便なことも多いけど、こっちがいい」
それはおれがいるから?と訊けるほどの勇気は、志朗にはなかった。取り敢えずこちらの世界の生活に満足してくれているようなので、よしとしよう。
「でもそんなに熱心にこっちの人を呼んで、何か得することでもあるのかな?」
「さあ?ニーナの考えてることだから、詳しくは分からないけど」
そういえばニーナは、こっちの世界の元号を知っていた。どこで知ったのだろう?こっちに来たことがあるのだろうか。
「それよりさあ」
二段重ねビッグサイズのハンバーガーをほおばりながら、由梨亜が言う。
「もっといろいろ見てみたいな。図書館とか、美術館とか。そうそう遊園地も。魔法がない国の魔法の国って、どんなかしら?」
(身もふたもない言い方だな)
リアル魔法の国のアトラクションに較べたら、この国のアトラクションなんて子供だましにすぎないのでは?と思ったが、それはそれで楽しみたいらしい。
「じゃ、週末の予定は決まりね。よろしくっ!」
由梨亜は大喜びで、元気よくおねだりしたのだった。
「おはようユーリ、じゃなくて由梨亜さん。制服はどう?この世界の感覚はどうかな?」
朝の駅。志朗はエスコートという名目でユーリ=狩野由梨亜と共に登校することにしていた。
「ええと、その」
由梨亜は急に恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「このスカート、短かすぎない?すごく頼りないんだけど」
そう言って由梨亜は、スカートの前を鞄で隠した。
(可愛い……。)
「とっても似合ってるよ。だいたい露出度で言ったら、前の服の方のがよっぽど派手だったと思うけど?」
「だってあれはちゃんとアーマーでよろっていたもの」
二人並んで歩きながら、こんな役得は二度とないかも知れないな、などと志朗は思った。同時に、今異世界にいる由里絵を思い出していた。自分は由里絵のどこが好きだったんだろう?由里絵と、目の前にいる由梨亜を、自分はどう感じているんだろう?
「……あんた今、由里絵のこと考えてたでしょ?」
「え?いや、そんな事ないって」
あせる志朗を疑わしげににらむ由梨亜。まったくこの娘は、どうしてこんなに勘が鋭いんだろう。 由梨亜の表情は、女の勘というより磨き抜かれた野生の勘、という言葉を連想させた。
登校してみると、ユーリは狩野由梨亜としてちゃんと受け入れられていた。金髪のツーサイドアップも誰も気にしていない。まあすれ違うすべての男どもが振り返って二度見してしまうのは、当然なのだが。
「アーマーがないのって、気楽でいいわぁ。物陰のモンスターにおびえなくてすむし」
一日が終わる頃には、この世界にすっかりなじんだようだ。由梨亜は楽しそうに笑っていた。最初に会った時は快活だが、もっと野性的でとげとげしかった。今はその角が取れて、自然に柔らかい明るさになっている。
(こんな娘だったんだ)
これでは男どもが群がってくるのは時間の問題だ。かくいう自分もその一人だと、志朗は認めざるを得なかった。ずっと一緒にいて、話をしていたい。
「そんなにいつも警戒してたの?」
「そりゃそうよ。下手すれば命にかかわるもの」
「敵のいない世界で、剣士さまはすっかりだらけているな」
「えー、なにその言い方、ひどい」
怒ってみせても、それすら可愛くみえる。
だが、だらけているというのは間違いだ。曲がり角や物陰など、視線の届かない所の手前では必ず、由梨亜は一瞬動きを止める。身体が危機回避を覚えているのだ。
「ところでさ、志朗。この世界を案内してくれない?」
帰り道に由梨亜が言い出した。
「知識は由里絵からもらったけど、やっぱり実際に見てみたいし、感じてみたいわ」
知識や技能はあっても、感情は別物であるらしい。
「そうだね。どこに行きたい?」
「牛丼屋っ!」
「……それはきみのような娘にはちょっと」
可愛い娘、という形容詞はとても恥ずかしくて口に出せなかった。
「えー、ご飯たらふく食べてみたいのに」
口を尖らせて文句を言う姿は可愛いのだが、口にしたセリフには色気のかけらもない。もしかして痩せの大食いとかいうやつ?フードファイター系?
「むこうじゃ、ゆっくり食べられないのよ。いつも臨戦態勢だから」
可愛くても、やはり生粋の剣士なんだ、と志朗は改めて知らされた。しかしさすがに牛丼はどうかと思う。
「ええと、手始めにハンバーガーとか、どう?」
「あ、そっちでもいいや。案内して」
そして二人とも、昨日の曲がり角は避けてハンバーガーショップに向かった。今日は異世界に行きたくなかった。特に志朗は、久しぶりに普通の日常生活―――それもとびきりシアワセな―――で一日を終えたかった。
由梨亜によれば、向こうにも牛丼屋やハンバーガーショップはあるという。
「でもこっちの世界は、人通りが多いわ」
「そうだね。ごみごみしてる」
「ううん。なんか、安心する」
由梨亜の感じ方、口にする感想が、どれも志朗には新鮮だった。
そして由梨亜にさらに惹かれていく自分を感じていた。
「そう言えば、昨日ニーナがくれたものは、なに?」
「ああ、あれはね」
由梨亜は小銭入れを取り出した。開けてみると中には例の、昭和65年の硬貨が何枚か入っている。
「これをこの世界に蒔いていくのよ。あの世界とつながる種になるから」
「それって、意味があるのか?」
「由里絵みたいに、あの世界に行きたい人がいっぱいいるでしょ?その人たちのための種であり、鍵となるものよ。だから今も、これで買ってきた」
いたずらっぽく由梨亜が笑う。
「ふーん。ユーリはやっぱり、あっちの世界に戻りたい?」
「んー、あたしはこっちがいいかな。魔法は使えないし不便なことも多いけど、こっちがいい」
それはおれがいるから?と訊けるほどの勇気は、志朗にはなかった。取り敢えずこちらの世界の生活に満足してくれているようなので、よしとしよう。
「でもそんなに熱心にこっちの人を呼んで、何か得することでもあるのかな?」
「さあ?ニーナの考えてることだから、詳しくは分からないけど」
そういえばニーナは、こっちの世界の元号を知っていた。どこで知ったのだろう?こっちに来たことがあるのだろうか。
「それよりさあ」
二段重ねビッグサイズのハンバーガーをほおばりながら、由梨亜が言う。
「もっといろいろ見てみたいな。図書館とか、美術館とか。そうそう遊園地も。魔法がない国の魔法の国って、どんなかしら?」
(身もふたもない言い方だな)
リアル魔法の国のアトラクションに較べたら、この国のアトラクションなんて子供だましにすぎないのでは?と思ったが、それはそれで楽しみたいらしい。
「じゃ、週末の予定は決まりね。よろしくっ!」
由梨亜は大喜びで、元気よくおねだりしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる