あの角を曲がれば、美少女とモンスター

桐坂数也

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それでも少女は、剣士を目指す。

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「なれるんじゃない?」
ユーリがいとも簡単に答える。
「いちおうあたしは剣士ユニオンに加入してるけど、別に特別な試験があるわけじゃないし。あ、ニーナは全魔連の役員ね」
「連合とも言うわ。全日本魔術師連合。これでもジュニアの地方委員なのよ」
「……あたし、この世界に住んでみたい」
由里絵の言葉に志朗は驚いた。由里絵さんて、ゲームやる人だっけ?
「ちょっと、由里絵さん……?」
「この世界で剣を振るって思い切り生きてみたい。毎日なんの目的もなく生きてくなんて、いやなの。さっきモンスターに襲われた時、怖かった。どきどきした。そう、生きてる実感。それを感じてみたいの」
「ふうん」
熱っぽく語る由里絵に、ユーリはあまり同調しなかった。
「あんたの世界はさ、つまんないの?」
「つまんないわ。平凡な毎日。同じことの繰り返し。退屈だわ」
「そうなんだ?平凡なことって、素晴らしいことだと思うけど?」
「なら、試しに二人、入れ替わってみたら?」

ニーナの提案に、一同しばし沈黙。が、少しして。
「それだわ!!」
がばと同時に立ち上がり、同時に叫んだユーリと由里絵。
(いやほんと、生き写しだよきみたち)
と心の中で突っ込みながら、志朗はニーナに確認してみる。
「おいおいニーナ。そんなことできるのか?」
(ていうか、しちゃっていいんですかそんなこと?)
「できるわよ。ジョブチェンジの魔法があったはず。ちょっと待ってて。」

ニーナは奥に行って、分厚い百科事典のような本を持ってきた。
「ええと、スキルや知識を他人から得たり、分けてあげたりする技法。今回はちょうど入れ換えだから、多分ほとんどそっくり交換できるわ。あ、服はめんどくさいから自分たちで交換してね」
「わかったっ!」
叫ぶなり由里絵は制服の上着を脱ぎすてた。

「うわ!ちょ、ちょっと待って!」
あわてた志朗におかまいなしに、由里絵は襟元のリボンをむしり取り、ブラウスのボタンに手をかける。志朗は大急ぎで後ろを向いた。

「これ、どう着けるの?」
「ああ、これはこうやって、こうするの」
「ちっちゃ!こんなひらひら、役に立つの?」

ふたりの女の子が真後ろで楽しそうに着替えをしている。想像するな、と言われても想像してしまう。声はまさかよく似ているなあ、などと志朗はうわのの空で考えていた。そんな志朗のことなど、少女たちは眼中にないようだ。

その間にニーナが分厚い魔法マニュアルとおぼしき書物を読みあげながら、ぶつぶつと呟いている。

「うーん、アイテムは必要だけど、そんなにたくさんは要らないわね。ユーリ、さっきゲットしたのがあるでしょ」
「あんなんでいいの?安上がりね」
ユーリの声も弾んでいる。エキサイトした由里絵の感情が伝染したか、未知の異世界への興味をかき立てられたか。

「あ、志朗くん。着替え終わったみたいだから、こっち向いていいわよ」
ニーナに言われて、志朗は何気なく見えるようにゆっくり振り返った。

栗色の髪の剣士と、金髪の女子高生がそこにいた。

剣士となった由里絵は、凛々しかった。可愛らしい大きな目が、ワイルドな輝きを放っている。今にも抜刀して暴れまわりたい。そんなやる気満々のオーラを感じる。
(もっとお淑やかだと思ったんだけどなあ)

一方、女子高生姿のユーリも、映画の中から飛び出てきたようだ。これなら男どもの視線を一人残らず釘付けにせずにはおくまい。
「で、このアイテムを触媒に、ジョブを~、ちぇ~んじっ!」
(そんな手抜きでいいんですかニーナさん?)
ともかくもこれで女子高生菅野由里絵は剣士ユーリへ、剣士ユーリは女子高生狩野由梨亜となった。お互いしばらくはベータテスト期間。それぞれの世界で生活してみることになる。

「じゃ、志朗くん。ユーリ、じゃない、由梨亜をよろしく頼むわね。可愛いからって帰り道に襲っちゃだめよ」
「冗談もほどほどにして下さい仁科明子さん」
「きゃっ。そんな怖い顔しちゃ、いや」
しなをつくって、ニーナはどこまでも面白がっていた。が、目は笑っていなかった。

「それとユーリ、これ忘れないでね」
ニーナがユーリに渡したものは、小さな小銭入れ。それをしっかりと両手で手渡すニーナの表情は真剣だった。なんだろう。志朗は妙な違和感をおぼえた。だがそれも一瞬。ニーナはにっこりと、剣士になった由里絵の方を向いた。
「そして由里絵さん。いちおうわたしが相棒になるけど、いいかしら?」
「ええ。わかったわ」
「よかった。この世界を気に入ってもらえたら嬉しいわ。今日は遅いから、明日案内するわね。
じゃあみんな、気をつけて帰ってね」

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