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魔女の茶の間は、意外にも普通。
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「魔女の家」は、エキセントリックな外観のマンションだった。
が、中の部屋はいたって普通。畳敷きに障子の仕切りと、今どき珍しいほどの純和風だった。その和室に、魔法使いと異国風の鎧の女剣士。これまた強烈なミスマッチだ。
「どうぞ。お座りくださいな」
ニーナがお茶を淹れてガラステーブルに置き、クッション―――いや、はっきり言おう、座布団をすすめた。
「中はいいんだけれど、外はしょうがないのよね。モンスター用のアラームとかトラップとか、いろいろ付いているから」
帽子とローブを取って部屋着になったニーナは、やっと和室の雰囲気に収まった。
「で、この世界はなに?なんでこんなになっちゃったの?ここに住むのって、どんな感じ?」
我慢しきれず、由里絵が矢継ぎ早に訊いてくる。
「ていうか」
と、ユーリ。こちらも防具は外して、普段着になっている。
「あたしの方が訊きたいわ。あんた誰?なんであたしにそっくりなの?あんたの住む世界って、どんなとこ?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
ニーナが間に入ってなだめにかかった。
はらはらしながら見ていた志朗は内心ほっと一息ついた。一方で、自分の世界をどう説明したらいいだろう、と考えあぐねてもいた。
モンスターのいない平和な世界?
魔法の使えない退屈な世界?
「そうね。さっきみたいなモンスターが出始めたのは、平成が始まった頃らしいわ。その頃は珍しい外来種くらいの扱いだったんだけど、放っておくと危ないんで見つけるつど退治してた。けどそのうち土着の物の怪や妖怪を駆逐して爆発的に増え出したのよね。1999年くらいと聞いているわ。退治しきれなくなって、人間の生活も大混乱したみたい。
外来のモンスターがどこから来ているのか、いまだにわかってないんだけど、これを倒すとアイテムが手に入ることはわかってた。それを使うと、他の便利アイテムに転用できたり、魔法が使えたりするの。そのうちモンスターを狩ってアイテムをゲットする戦士や、それを取り引きする商人、さらにそれを使って魔法を体系化した魔法使いという仕事が発生して、今の社会経済が成り立っている、という感じかしら」
うん、よくあるゲーム世界ですね、と志朗は心の中でつぶやいた。どうやら物の怪とか、元々不思議なものが多い世界らしい。それにしても、世界丸ごとゲーム界だなんて。
「世界中がこんな感じなの?こんな、ゲームの中みたいな?」
由里絵も同じ感想を抱いたようだ。それに答えたのはユーリだった。
「そう。だから正直に言うと、二十世紀みたいな経済活動は立ち行かなくなって、やっと新しい経済モデルができつつある。そんな感じかな?大人たちは『失われた二十年』とよく言うけどね」
おお、ユーリがなんか高度なお話をしている。
「……あんた今、『こいつ頭悪そうなのに何だか難しいことしゃべってる』とか思ったでしょ?」
「思ってない! すごく頭いいなって感心してただけだ!! だいたいなんで、ユーリはいつもおれにからむんだよ!?」
「ユーリはほら、志朗くんが大好きだから」
「違う!!」
からかうニーナに真っ赤になって反論するユーリ。同じく真っ赤になってうつむく志朗。
「剣士だって頭使うのよ。モンスターにも悪知恵のはたらくやついるし。スキル上げる効率だってちゃんと考えてるし、経済だってテレビ見てちゃんと勉強してるわよ」
「テレビ?」
「そうよ。あんたの世界にもあるでしょ、テレビくらい」
言われてみれば、この部屋もちゃんと電気が点いているし、窓から見える夜の街もたくさんの灯りがともっている。
「電気、あるんだ」
「うん、原発がちゃんと動いているからね」
またしてもすごい違和感のある単語。この違和感をどうしてくれよう?
「もう燃料もあんまり入ってこないから、火力発電所はほとんどだめなのよ」
「魔法でなんとかならないのか?」
「魔法は、物の形を変えたり直したりはできるけど、無から何かを作ることはできないわ。ほんとは出来ない事もないんだけど、ものすごくたくさんの魔法力が必要なの。だから石油も天然ガスも、人が使えるほど作ることはできないの。
でも直すことは出来る。で、ウランも多少なら何とかなったし。だから一部のマニアが原子炉を魔改造して、発電効率がすごいみたいよ」
なんだか胡散くさいセールストークに引っかかっているような気がしないでもないが、電気が主なエネルギーなのは確からしい。
「そんなわけで、ビルも道路も、新しいものはなかなか作れないの。だから『失われた二十年』になっちゃったのよね。このマンションだって昭和の築造だし」
嘆息するニーナに、今まで黙って聞いていた由里絵が問いかけた。
「ねえ、あたしでも剣士になれる?」
が、中の部屋はいたって普通。畳敷きに障子の仕切りと、今どき珍しいほどの純和風だった。その和室に、魔法使いと異国風の鎧の女剣士。これまた強烈なミスマッチだ。
「どうぞ。お座りくださいな」
ニーナがお茶を淹れてガラステーブルに置き、クッション―――いや、はっきり言おう、座布団をすすめた。
「中はいいんだけれど、外はしょうがないのよね。モンスター用のアラームとかトラップとか、いろいろ付いているから」
帽子とローブを取って部屋着になったニーナは、やっと和室の雰囲気に収まった。
「で、この世界はなに?なんでこんなになっちゃったの?ここに住むのって、どんな感じ?」
我慢しきれず、由里絵が矢継ぎ早に訊いてくる。
「ていうか」
と、ユーリ。こちらも防具は外して、普段着になっている。
「あたしの方が訊きたいわ。あんた誰?なんであたしにそっくりなの?あんたの住む世界って、どんなとこ?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
ニーナが間に入ってなだめにかかった。
はらはらしながら見ていた志朗は内心ほっと一息ついた。一方で、自分の世界をどう説明したらいいだろう、と考えあぐねてもいた。
モンスターのいない平和な世界?
魔法の使えない退屈な世界?
「そうね。さっきみたいなモンスターが出始めたのは、平成が始まった頃らしいわ。その頃は珍しい外来種くらいの扱いだったんだけど、放っておくと危ないんで見つけるつど退治してた。けどそのうち土着の物の怪や妖怪を駆逐して爆発的に増え出したのよね。1999年くらいと聞いているわ。退治しきれなくなって、人間の生活も大混乱したみたい。
外来のモンスターがどこから来ているのか、いまだにわかってないんだけど、これを倒すとアイテムが手に入ることはわかってた。それを使うと、他の便利アイテムに転用できたり、魔法が使えたりするの。そのうちモンスターを狩ってアイテムをゲットする戦士や、それを取り引きする商人、さらにそれを使って魔法を体系化した魔法使いという仕事が発生して、今の社会経済が成り立っている、という感じかしら」
うん、よくあるゲーム世界ですね、と志朗は心の中でつぶやいた。どうやら物の怪とか、元々不思議なものが多い世界らしい。それにしても、世界丸ごとゲーム界だなんて。
「世界中がこんな感じなの?こんな、ゲームの中みたいな?」
由里絵も同じ感想を抱いたようだ。それに答えたのはユーリだった。
「そう。だから正直に言うと、二十世紀みたいな経済活動は立ち行かなくなって、やっと新しい経済モデルができつつある。そんな感じかな?大人たちは『失われた二十年』とよく言うけどね」
おお、ユーリがなんか高度なお話をしている。
「……あんた今、『こいつ頭悪そうなのに何だか難しいことしゃべってる』とか思ったでしょ?」
「思ってない! すごく頭いいなって感心してただけだ!! だいたいなんで、ユーリはいつもおれにからむんだよ!?」
「ユーリはほら、志朗くんが大好きだから」
「違う!!」
からかうニーナに真っ赤になって反論するユーリ。同じく真っ赤になってうつむく志朗。
「剣士だって頭使うのよ。モンスターにも悪知恵のはたらくやついるし。スキル上げる効率だってちゃんと考えてるし、経済だってテレビ見てちゃんと勉強してるわよ」
「テレビ?」
「そうよ。あんたの世界にもあるでしょ、テレビくらい」
言われてみれば、この部屋もちゃんと電気が点いているし、窓から見える夜の街もたくさんの灯りがともっている。
「電気、あるんだ」
「うん、原発がちゃんと動いているからね」
またしてもすごい違和感のある単語。この違和感をどうしてくれよう?
「もう燃料もあんまり入ってこないから、火力発電所はほとんどだめなのよ」
「魔法でなんとかならないのか?」
「魔法は、物の形を変えたり直したりはできるけど、無から何かを作ることはできないわ。ほんとは出来ない事もないんだけど、ものすごくたくさんの魔法力が必要なの。だから石油も天然ガスも、人が使えるほど作ることはできないの。
でも直すことは出来る。で、ウランも多少なら何とかなったし。だから一部のマニアが原子炉を魔改造して、発電効率がすごいみたいよ」
なんだか胡散くさいセールストークに引っかかっているような気がしないでもないが、電気が主なエネルギーなのは確からしい。
「そんなわけで、ビルも道路も、新しいものはなかなか作れないの。だから『失われた二十年』になっちゃったのよね。このマンションだって昭和の築造だし」
嘆息するニーナに、今まで黙って聞いていた由里絵が問いかけた。
「ねえ、あたしでも剣士になれる?」
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