あなたの人生、なまくらですか?

桐坂数也

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神のしもべを看護、で思案。

1.救助

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「御使いさま!」
「ご無事ですか?」

俊哉を助けた男衆は、木々にまぎれて移動し、俊哉と合流した。


「ああ、ありがとう。助かったよ。しかし、しのぎが怪我をしている」

「しのぎどのが……」

しのぎの痛々しい姿を見て、みな言葉につまる。
目を閉じたまま動かないしのぎを見て、俊哉もいたたまれなかった。

(おやしろ・・・それでは間に合わない)

早急に止血と縫合をする必要がある。俊哉は気が急いていた。
この傷の手当てには、それなりの設備と道具が要る。

「どこかに医務所はないか?」

俊哉はつき従う者に訊いた。男衆は顔を見合わせる。

と、その中のひとりが進み出る。名を紅乃(こうの)という若者である。

「確か、更美さらびの村には医務所があったはずです」

「場所はわかるか?」

「あいにくと、詳しくは……」

「そうか」

「とりあえず、追手を避けるためにも、今はここを離れた方がよろしいかと思います」

「そうだな」

俊哉は男衆を振り返って指示を出す。

「すまないが、医務所の場所を訊いてきてくれないか」

うなずいて、二騎が駆け出した。俊哉も後を追い、紅乃ともう一人が後ろにつき従う。



戦刃せんじん神刃しんじん天刃てんじんよ。汝らのしもべをどうか見捨てないでくれ)

焦る気持ちを必死で鎮め、俊哉は心の中で、この世界の神々に祈った。おれなんかの命と引き換えに、この健気な少女が命を落とすなんて、あんまりだ。

俊哉の焦りを敏感に察し、ともすれば馬が早足になる。それをなだめながら進む。

道の分岐に差し掛かった。そこで立ち止まり、待つことしばし。


ひとりが勢い込んで駆け戻ってきた。

「ありました!」

「そうか! 案内を頼む」

(神々に感謝すべきなのだろうか)

そんなことを考えながら速駈ける。

ほどなく、それらしき建物が目に入った。馬群は一団となって、そこへ転がり込む。



突然の騎馬の乱入に、医務所は騒然となった。

立派とは言いがたいが、確かに医務所だ。刃医じんい薬婦やくふ看取人みとりにん、医務に携わる専門家が、みなびっくりして俊哉を見つめている。

刃医は執刀医。薬婦は看護師だ。看取人は麻酔医の役割。

この世界でも俊哉の世界と同じく、外科手術のためのシステムが出来ている。かなり近代的であり、人数は充分だ。


「頼む! 怪我人だ。医刀いとうを貸してくれ!」

「何をばかな」

ここの主とおぼしき、一番年かさに見える白髪混じりの男が答えた。

「怪我人なら我々に任せたまえ。ここは小さいが設備は万全……」

「おれは外科医だ!」


俊哉の剣幕にみな押し黙った。言葉の意味は理解できなかったが。

そのことに気がついた俊哉は、ひと呼吸ついて、できるだけ落ち着いた声で伝えた。

「おれには刃医の心得がある。あいにく医刀には気に入ってもらえなかったが、それでもこの娘を助けたい。おれの手で、だ。

だから頼む。医刀を貸してくれ」


しのぎを救うこと。それが今、俊哉が願うすべてだった。


俊哉の剣幕に押されて、医務所の主は黙って半身を引いた。

不承不承だと言いたげだったが、それでも俊哉は素直に感謝し、頭を下げた。


しのぎを抱えて、建屋の中に踏み入る。

土間から上がった、中央の処置室。広さは十畳くらいだろうか。若干薄暗い板張りの部屋だ。

真ん中に、ベッドのような医務台があった。医務台には白い敷布がかけられ、使用の準備はされているものと見受けられた。

だがそこに移す前に、泥やほこりにまみれたしのぎの身体を清めてやらねばならなかった。



「こちらへ」

薬婦にうながされ、俊哉は脇の部屋へと進んだ。

部屋に上がり込み、薄い布団の上にそっとしのぎを横たえる。

「しのぎ。よく頑張ったな。今助けてやるからな」

俊哉はそっと、しのぎの前髪をなでた。

返事はない。顔色も土気色だ。命に別状はないと思うが、かといって安心できる状態でもない。


薬婦の女性が二、三人、前掛けを付けながらあわてて入ってきた。

しのぎをのぞき込み、様子を確かめると、白い布きれでしのぎの身体を拭き始める。


それを見届けてから、俊哉は外に出た。


治療の準備をしなければならない。


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