あなたの人生、なまくらですか?

桐坂数也

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神のしもべを看護、で思案。

7.考察

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暗がりでひとり、落ち着いていると、いろいろな考えが浮かんでは消える。

俊哉は館脇のことを考えていた。


元いた世界の彼とは明らかに違ってしまった人物。

ぎらぎらした野望にとりつかれ、おのれを召喚した神の意向を体現しようとしている人物。


なぜ彼がそんな風に変わってしまったのか、俊哉には理解できなかった。

あるいは元からそういう志があったのかも知れないし、環境が変わって意識も変わったのかもしれない。

本当のところは本人にしかわからない。


問題は彼が、彼の率いる組織が、俊哉と俊哉の属する組織とどのように関わるか、だった。


今日の短い対面の間も、俊哉は館脇の意識を誘導するべく、言葉を選んでいた。

俊哉の狙いは、館脇が自分に拘ることなく都を目指し、彼の望む覇の道をまっとうしてくれることだった。


実際、戦略目的を考えれば、一刻も早く都に上り、権力を掌握するべきだ。その方が効率的でもある。

だから、俊哉の存在は二の次で、今は都が最優先、と思わせるよう、苦心して言葉を選んでいたのだ。


それが功を奏したかは、明日にでもわかるだろう。

俊哉としては、あの剣刃けんじんの集団が都を目指してくれるよう、祈るしかなかった。

こちらを向かれては、もうなす術もない。


(それは今、思いわずらっても仕方ないな)


そして思うのは、その後のことである。


今、この国は、都という中央の権力が統括している。

だがその権力が強固であり、あまねく支配を及ぼしているかと言えば、そうとも言えない。

あちらこちらでいさかいの種はあり、反目、造反、小競り合い、何かともめ事がつきないのが現状だ。


それを戦国時代と称していいかは、いささか悩む。

しかし、日本の戦国時代も、のべつまくなしに戦闘に明け暮れていたわけではない。

大きな戦など、年に数度がいいところ。

田植えや刈り入れなど繁忙期にはそちらが優先されたし、外歩きに向かない冬は休みだ。

だから、中央の支配が緩んでいるという点では、群雄割拠の時代と言っていいかもしれない。


そこに現れた、神々の召喚者。群雄となりえる者たちだ。

もちろん、俊哉もその中に入る。


そして神々が望むこともまた、まちまちでとりとめがない。

あるものは、おのが威光がいや増すことを望み、あるものは何の見通しもなく、ただ時代が動けばいいと言う。

またあるものは、どうすべきか分からず様子をうかがっている(らしい)。


誰が勝ち残るのか。状況はどう転ぶのか。

その結果、どういう時代が訪れるのか。


先も見えずにもがいている者たちの中で、館脇は明確にビジョンを定め、一貫した行動を取っているようにも見える。

彼こそは、のちの世に革命児、改革者として称揚される人物なのかも知れない。

それが論評されるのは数十年、数百年のちのことだ。



しかし、である。

仮に館脇が天下を統一したとしよう。


武の時代は終わり、太平の世が訪れる。

天下の乱を収めた覇者として、館脇の名は栄誉をもって語り継がれるかも知れない。


平和な時代。

人々は安心して娯楽や芸術に興じ、多彩な文化が花開き、多様な価値観が現れる。

すると、どうなるか。



神々の凋落である。



多様な価値観の前に神の威光は薄れ、神々に頼らずとも人は生きていけるようになる。

洋の東西を問わず、必ずたどってきた歴史の必然だ。

もちろん即座に神々が死んでしまうというわけではない。

だが、何百年の歳月を経るうちには、必ずたどる道だ。避ける方法はない。


つまり、覇を求める館脇の行動は、一時的には神刃しんじんの威光を際立たせるかも知れないが、最終的にはその威光の衰退につながる、その道程を速める行為にほかならない。

(そのことに、あいつは気づいているのだろうか)

百年のスパンで眺めれば、時代は我らが茜の神の意図するところへ収束するのだ。

皮肉な結末、と言うべきだろうか。


その結末を回避する手立てがあるとするならば。

混乱を起こし、戦乱を長引かせ、剣に頼る時代をできるだけ長く続かせること。

つまり、天下を統一する道を選ばず、一地域の豪族として勢力を確保し、戦に明け暮れる日々を送ること。

それが彼を召喚した神――緋の神の意向にもっとも適った生き方であるだろう。



そう気づいた時、なんとも言えない複雑な感情の波が俊哉を捉えた。

本当に、なんと言っていいのかわからない。強いて言うなら「途方に暮れた」というところだろうか。


この感情を誰かと共有したい、と思った。

一番に思いついたのがしのぎだったが、彼女は今、床に伏せっている。

もちろん彼女の容態は心配ではあったものの、とても残念に感じたことは事実だ。

彼女ならきっと、手を叩いておもしろがり、そして考え込み、俊哉の満足いくような答えを一緒に考えてくれたに違いない。

(それは後々の楽しみにとっておこう)

しのぎの知恵や行動を必要とすることはまだまだあるはずだ。


この状況を、自分は、自分たちはどう活かすべきだろうか。

現状を踏まえたうえで、自分はどう動くのか。どう生きるのか。


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