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女槍つかいと決闘、で調略。
6.臣従
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「おかわりっ!」
いきおいよく差し出された茶碗を、しのぎは黙って受け取る。
ほむらは、ちゃっかりとお社の食客になっていた。
いわく、
「俊哉に従うと言っただろ? あるじの側に侍るのは当たり前だ」
なにかいろいろと突っ込みどころ満載な気がするが、にこにことご飯を頬張っているさまは無邪気な子供のようで、あまり邪険にするのも可哀想な気がしてくる。
「御使いどのの客人ならば大歓迎」と、神官どのは鷹揚に受け入れてくれたが、今目の前に座っているしのぎの心中は、怖くて聞けなかった。
「何度も言うが」
いちおう俊哉も抵抗を試みる。
「おまえだって自分のお役目があるだろう。放っておいていいのか?」
「そっちは大丈夫だよ。当分戦なんかないだろ。平時のあたしが頼りにならないのはみんな知ってるからさあ。あははは」
(あはははじゃない)
俊哉はひとつため息をついて追及をあきらめ、もうひとつ気になっていたことを訊いてみた。
「山交の村なら、街道のすぐ近くのはずだ。例の、刃の集団には会わなかったのか?」
「遣いだけはきたよ。我に従えとね」
「で?」
「その判断をするのはうちの領主さまだからね」
それはそうだ。槍の豪傑とはいえ、ほむらはまだ年若い。
実働部隊では実権を任されているだろうが、領地の意思決定にはまだ関与できないだろう。
「当面は様子見、となったよ。もちろん攻め込んでくれば相手するつもりだったけどね」
だがそうはならなかった。
「横からあんたがかっさらって行っちゃったからさあ。せっかくこっちはやる気で待ち構えてたのに」
「なるほど。それはすまなかった」
俊哉は苦笑して頭を下げる。
数こそ少なかったが、館脇率いる一団は戦力としてかなり脅威だったはずだ。
結果としてそれを戦わずに追い払えたのだから、近隣諸国としては重畳のはずである。
だが、今回は都を目指すという戦略目標が先方にあったからよかったものの、そこでの目的を達成し、足固めができてしまえば、再び攻め寄せてくるのは間違いない。
何倍もの兵力をともなってだ。
そうなるまでに、手を打たなければならないが……。
「ほむら」
ようやく朝食を終えたらしいほむらに、俊哉は再び声をかける。
「おまえはおれに従うと言ったな」
「ああ。二言はないよ」
「だったら頼みがある」
「ほんとかい? うれしいな。なんでも言いつけておくれよ」
ほむらの表情がぱっと輝く。とても槍の豪傑とは思えない、無邪気な笑顔だ。
「山交の村まで、案内を頼みたい」
「そんなことでいいのかい? お安いご用だ」
笑って答えるほむら。
「嬉しいなあ。早いとこ親や師匠にも引き合わせたいよ。あたしの婿どのは、涼しげないい男だってね」
「なっ!?」
気色ばんだのは、しのぎである。立ち上がってなにか言い出そうとするより早く、
「あほか」
俊哉の指がほむらの額をはじいた。
「いてっ!」
ほむらが額を押さえてうずくまる。
「そんなに怒ることないだろ。ほんのたわ言だよう」
「そんなお気楽なものじゃないぞ。おれの頼みは領主との面会だからな」
「領主さま?」
俊哉の意図が瞬時にはわからず問いを返すほむら。
俊哉の意図を瞬時にさとり、視線を向けるしのぎ。
(それぞれの得意分野があるからな)
だが、しのぎの理解力は頼もしかった。
しのぎに視線を返す俊哉。
その脇には、なんとなく面白くなさそうな表情のほむらがいた。
いきおいよく差し出された茶碗を、しのぎは黙って受け取る。
ほむらは、ちゃっかりとお社の食客になっていた。
いわく、
「俊哉に従うと言っただろ? あるじの側に侍るのは当たり前だ」
なにかいろいろと突っ込みどころ満載な気がするが、にこにことご飯を頬張っているさまは無邪気な子供のようで、あまり邪険にするのも可哀想な気がしてくる。
「御使いどのの客人ならば大歓迎」と、神官どのは鷹揚に受け入れてくれたが、今目の前に座っているしのぎの心中は、怖くて聞けなかった。
「何度も言うが」
いちおう俊哉も抵抗を試みる。
「おまえだって自分のお役目があるだろう。放っておいていいのか?」
「そっちは大丈夫だよ。当分戦なんかないだろ。平時のあたしが頼りにならないのはみんな知ってるからさあ。あははは」
(あはははじゃない)
俊哉はひとつため息をついて追及をあきらめ、もうひとつ気になっていたことを訊いてみた。
「山交の村なら、街道のすぐ近くのはずだ。例の、刃の集団には会わなかったのか?」
「遣いだけはきたよ。我に従えとね」
「で?」
「その判断をするのはうちの領主さまだからね」
それはそうだ。槍の豪傑とはいえ、ほむらはまだ年若い。
実働部隊では実権を任されているだろうが、領地の意思決定にはまだ関与できないだろう。
「当面は様子見、となったよ。もちろん攻め込んでくれば相手するつもりだったけどね」
だがそうはならなかった。
「横からあんたがかっさらって行っちゃったからさあ。せっかくこっちはやる気で待ち構えてたのに」
「なるほど。それはすまなかった」
俊哉は苦笑して頭を下げる。
数こそ少なかったが、館脇率いる一団は戦力としてかなり脅威だったはずだ。
結果としてそれを戦わずに追い払えたのだから、近隣諸国としては重畳のはずである。
だが、今回は都を目指すという戦略目標が先方にあったからよかったものの、そこでの目的を達成し、足固めができてしまえば、再び攻め寄せてくるのは間違いない。
何倍もの兵力をともなってだ。
そうなるまでに、手を打たなければならないが……。
「ほむら」
ようやく朝食を終えたらしいほむらに、俊哉は再び声をかける。
「おまえはおれに従うと言ったな」
「ああ。二言はないよ」
「だったら頼みがある」
「ほんとかい? うれしいな。なんでも言いつけておくれよ」
ほむらの表情がぱっと輝く。とても槍の豪傑とは思えない、無邪気な笑顔だ。
「山交の村まで、案内を頼みたい」
「そんなことでいいのかい? お安いご用だ」
笑って答えるほむら。
「嬉しいなあ。早いとこ親や師匠にも引き合わせたいよ。あたしの婿どのは、涼しげないい男だってね」
「なっ!?」
気色ばんだのは、しのぎである。立ち上がってなにか言い出そうとするより早く、
「あほか」
俊哉の指がほむらの額をはじいた。
「いてっ!」
ほむらが額を押さえてうずくまる。
「そんなに怒ることないだろ。ほんのたわ言だよう」
「そんなお気楽なものじゃないぞ。おれの頼みは領主との面会だからな」
「領主さま?」
俊哉の意図が瞬時にはわからず問いを返すほむら。
俊哉の意図を瞬時にさとり、視線を向けるしのぎ。
(それぞれの得意分野があるからな)
だが、しのぎの理解力は頼もしかった。
しのぎに視線を返す俊哉。
その脇には、なんとなく面白くなさそうな表情のほむらがいた。
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