魔法少女の敵なんだが魔法少女に好意を寄せられて困ってる

ブロッコリークイーン

文字の大きさ
8 / 44

第7話

しおりを挟む
 桜井莉緒がヨガしながら書道をいつもやっていることは置いておいて。

 いや、置いておけねぇよ。

 何だ、ヨガしながら書道するって、生まれてきてから今まで聞いたことないぞ。

 ヨガしながら書道?自分で適当に絶対できないことを言ったつもりだったんだがな。まさかやってる奴がいるとはな。

 ただのバカかとてつもなく天才の二択かもかもしれないな。いや、ただのバカか。

 実際にヨガしながら書道ってどうやるんだ?無難に健康って書くのか?

 というか、無難ってなんだ?

 まぁまぁ、なんとか桜井莉緒が生きることになって桜井莉緒も喜んでいることだしもう良いだろう。

 いや、良くない。

 桜井莉緒のヨガしながら書道のインパクトが強すぎて忘れていたが、ここは敵のアジトだった。

 もう作戦なんかどうでもいい、勢いだけでなんとか乗り切ってやる。今からダッシュでこの家を出て行く。

 余は今まで鍛え上げてきた身体を信じて脚に思い切り力を入れる。

 ふぅー。



 良し。

 ここで逃げられなかったらもうお終いだ。

 ここから玄関までのこの一瞬に全てをかける。

 いくぞ。

 ダンッ

「えっ」

 桜井莉緒は余の急なダッシュに驚いているのだろう。

 一歩目は完璧、二歩目で玄関マットにまでたどり着いた。

 靴はどうする?履くか?いや、履いている時間なんてない、持って家を出るしか無い。

 靴をどうやって持つ?両手で持つか?いや、ドアを開ける時に両手が塞がっていては開けれなくなってしまう。だから片手の指二本で持つことにしよう。

 良し、片手で靴を救出することが出来た。

 今のところ何のミスもなく進んできている。あとは目の前のドアを開けるだけだ。

 そうだ、余はこんなところで終わってはいけないのだ。この地球を征服するまで余は終わらない。

 ドアに手をかけることが出来た。あとは押して外に出るだけだ。

 あれ?何かがおかしい。押したのは良かったけどやけに軽い。

「わぁビックリした」

 ドアを開けるとスーツを着た大人が驚いた顔で余を見ている。

「お父さん。その人捕まえて」

 お父さん?こいつ桜井莉緒の父親なのか?

「え、え?う、うん、分かったよ」

 桜井莉緒の父親?は余が逃げないように腕を掴んだ。

「ごめんね」

 何を謝っているんだ?

「お父さんそのままリビングにまで連れてきて」

「分かったよ」

「あ、先お父さんが行って。また宇野くんが逃げないように私が後ろで見張っておくから」

 なに、そんなことをされたらもう逃げるところがないではないか。
 
「どういう状況か全く分からないけどリビングに連れて行けばいいの?」

「うん」

 最後まで粘ってはみたが桜井莉緒の父親が帰ってきたタイミングだったとは。運は余の味方してくれなかったようだ。

 廊下を進んでいき、桜井莉緒の父親がガチャっとドアを開けた。

 もう終わったのか。

 地球を征服するのは来世になりそうだ。

 だが、来世では必ず地球を征服して人間共を余の下僕として従えてやる。
 
 ドアの向こうの景色を想像して思わずギュッと目を閉じてしまう。

「じゃあそこのソファーに座っておいて」

 ん?ソファー?

 思わず目を開けて目の前の場所を確認してみてみたが、誰がどう見ても普通のリビングだった。

 
 ん?

 どこからどう見ても普通のリビングだ。なぜだ、なぜ余はリビングに連れられたのだ。まだ理解が追いつかない。

「じゃあそこのソファーに座っておいて」

 桜井莉緒は余にソファーに座らせるように命令してどこかへ行った。

 もしかして、もしかしてなんだが、桜井莉緒のやつ余がナイトメアってことに気づいていないのか?そんなことあるのか?余のことをナイトメアだと気づいたから家に誘ったのだろう?そうでなかったら理由が分からん。

「莉緒のお友達?」

 桜井莉緒の父親?が余の隣に座ってきた。さっき余を捕まえる時にお父さんって言っていたから父親なのだろう。

 近くで見てみると猫背で髪もボサボサでナヨナヨした印象を受ける。

「いや、違う」

「え、違うの?」

「違う」

「え、じゃあクラスメイト?」

「クラスメイトだが少し違う」

 クラスメイトではあるが余は委員長だからなんて言えば良いんだ?王と市民か?

「クラスメイトでしょ」

 桜井莉緒が救急箱を持って帰ってきた。

「ほら、怪我したところ出して」

「余が怪我?何をバカなことを言っているんだ?」

「はいはい、じゃあ腕出して」

 桜井莉緒が無理矢理余の腕を掴んで怪我の対処をしていく。

「うわ、すごい怪我してるじゃん」

 やったのはお前らなんだけどな。
 
 怪我の対処を次々と終わらせていく桜井莉緒の手つきは慣れているように見えた。

「はい、終わり。じゃあ今からご飯つくるから宇野くんも食べていってね」

「いや、余はもう帰る」

 魔法少女にこれ以上施しを受けるわけにはいかない。

「帰ったら明日覚えておいてね」

 一体何をする気なんだよ。他の魔法少女たちに敵である余を治療したことを言うつもりなのか?だが、桜井莉緒は余がナイトメアということを知らないはずなのだがな。

「なんかごめんね」

 桜井莉緒の父親がぺこっと頭を下げてきた。

「別に謝る必要はない」

「早い頃からお母さんを亡くして莉緒はお母さんの代わりになろうと何でも自分で出来るように頑張ってきたんだよ」

 桜井莉緒の父親は悲しげに語っていく。

「だからさっきの怪我の処置や今の料理だってお母さんに代わりになれるように今まで自分でやってきたんだ。だから弱音もわがままも全部自分で抱え込むようになって」

 桜井莉緒の父親は語っていくうちに段々と頭が下がっていく。

 なぜだ?できるようになることは良いことではないか、なのになぜそんな悲痛な顔をする?

「なんかごめんね。こんな暗い話して」

「いや、構わない」

 ずっと謝っているな桜井莉緒の父親は、なぜそこまで謝るのだろうか?

* * *

「出来たよー」

 桜井莉緒の父親と学校について話していると料理が出来上がったらしい。話というかよりかは一方的に質問されて答えていただけなんだがな。

「「「いただきます」」」

 中々うまい。さすが小さい頃からつくってきたことだけはあるな。

「どうおいしい?」

「まぁ」

 首をコクコクと縦に揺らして肯定する。

「良かった。おかわりもあるから欲しかったら言ってね。お父さんも」

「うん」

 余も一人暮らしして料理のバリエーションが欲しかったところだから今度桜井莉緒に聞いておこうかな。

 いや、忘れてはならないこいつが魔法少女であることを。今だけだ、今だけ施しを受けるとしよう。

 ふとさっきの会話で気になったことがあったから聞いてみることにする。

「母親はいつ亡くなったんだ?」

 そう聞いた瞬間この場の空気が張り詰めたのが分かった。

 どうしたんだ?そんなおかしなことでも聞いたか?
 
「莉緒が小学4年生くらいの頃かな」

 一応桜井莉緒に聞いたつもりだったが桜井莉緒の父親が答えてくれたようだ。明らかに桜井莉緒の表情が厳しい。

「そうか、10年は母親と一緒にいれたんだな。それは良いことではないか」

 言い終えるとズズッと味噌汁を飲む。美味しいな、出汁はどうやって取ってるんだ?

 バンッ

 机を叩く音が部屋に響き割った。聞こえた方向を見ると桜井莉緒が椅子から立っていた。

 パシャ

 次は右手でコップを掴んで余に向かってお茶をかけてきた。おかげで余の髪や服が濡れてしまった。

「10年はお母さんと一緒にいれて良かった?良いわけないじゃん、なんでそんな酷いことが言えるの?ずっとずっと一緒にいたいに決まってるじゃん」

 あの桜井莉緒が怒っているのか?こいつのことは短い間しか知らないが怒ることがあるのだな。

 良かれと思って言ったのだがここまで桜井莉緒が怒るとは思いもよらなかった。強制的ではあったが恩があるのだから謝っておこう。

「悪かった。良かれと思ったが違ったようだ」

「良かれと思ったってなんでそれが良いことだと思ったの?そうだよね、宇野くんには両親がいるからそんなこと分からないよね」

 だいぶ怒っているな。桜井莉緒の父親が困ってオロオロしているではないか。

「いや、余に親がいたことがなかったから分からず良かれと思った。悪かったな」

「え」

「次からは気をつけるよう心がける」

 そうかそうか人間にとってこの話題はタブーだったのか、気をつけないといけないな。

「両親がいたことないって……」

「?言葉の通りだが」

「顔も見たことないの?」

「ああ」

「生まれてから一度も?」

「ああ」

「寂しくはないの?」

「元々いなかったからな、寂しくはない」

 そう言うと桜井莉緒は黙って下を向いたまま黙ってしまった。

 随分と空気を悪くしてしまったようだ。もう料理も食べたことだから家に帰るとしようか。

「空気を悪くしてすまなかったな。余はもう帰るとしよう。料理美味しかったぞ」

 椅子から立ち上がり、この部屋から出ようとドアのある方向へ歩を進める。

 ふぅーやっと帰れる。

「ちょっと待って」

 桜井莉緒が余の腕をガシッと掴んできた。

「待って。さっきお茶かけてごめん。そのまま帰ったら風邪ひくからうちでお風呂入っていって」

 余は一体いつになったら帰れるのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...