瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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臆病な僕ときみの嘘

1-2

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 4月の最初の日。
 キミはなぜか、サンタ帽をかぶり、白いつけひげを右手で押さえながら現れた。

「ふぉっふぉっふぉ、待たせたかの」

 僕はため息をついた。

 待ち合わせの1時間前に到着した僕はそわそわと落ち着かなくて、キミが現れるのを今か今かと待っていた。

 だから、全部見ていた。
 白い服にベージュのスカートというシンプルでおしゃれな服装のキミが、僕を見つけてその場に立ち止まり、かばんの中から真っ赤な帽子を取り出すところを。
 その帽子をすばやくかぶって、つけひげを取り出して顔に貼り付けたかと思ったら、つけひげがポロンと落ちて慌てているところも。

 エイプリルフール。キミの最初の嘘は、季節はずれの仮装のようだった。

「今来たところだよ、大丈夫。サンタさん、プレゼントが欲しいな」

 友人の「今来たところだと言え」というアドバイスを忘れず、ひとまず忠実に遂行したあと、キミの期待に応えた。

「もちろんじゃ!」

 嬉しそうに目を輝かせたキミは、かばんからラッピングされた何かを取り出した。

「これじゃよ」

 差し出されたプレゼントを慎重に受け取る。指に伝わる感触は柔らかい。

「ありがとう、サンタさん。開けてもいい?」

 設定を守りお礼を言う。一方で、キミは周囲から遠慮なくそそがれる視線に徐々に恥ずかしくなってきたようだった。

「い、いいよ」

 袋から出てきたのは、青いハンカチだった。僕が持っている他のハンカチとは比べ物にならないほどの優しい手触りに、「おお」と声をもらした。

「すごく嬉しいよ。こんな良いハンカチ、初めてだ。ありがとうサンタさん!」
「ヒロ、もういいから!」

 頬を軽く膨らませたキミは、髪を気にしながら帽子を脱ぎ、つけひげを押さえていた右手をぱっと離した。すっかり粘着力がなくなっていたつけひげはヒラリと舞い、キミの右手の中におさまった。

「大切にするよ」

 目を合わせて言うと、言葉にこめた心は無事にキミに伝わったようだった。

「大切にしてね」

 ふふふっと笑ったキミは、とてもかわいかった。
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