瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

文字の大きさ
9 / 21
臆病な僕ときみの嘘

2-4

しおりを挟む
 ぼんやりとしたまま帰宅し、君にもらったボールペンを無造作にペン立てに突っ込んで、寝室のベッドに倒れ込んだ。
 君からのプレゼントだから大切にしたいのに、過去を思い出させ、君を傷つけるきっかけにもなったそのボールペンをどう扱えば良いのか分からなかった。
 
 違う。傷つけたのはボールペンのせいじゃなくて、僕のせいで……。
 どう謝ればいいのだろう。

 メッセージアプリを開いて『ごめん』と入力してみるものの、送信ボタンが押せない。今日はエイプリルフールだから。

 ふと思い立ち、本棚の隅に置かれた箱から古い携帯電話を取り出した。折りたたみ式のその携帯を充電し、起動する。
 履歴に残った、彼女からの最後のメールを読み返した。

 エイプリルフールだけど、嘘をつくつもりはなかったこと。
 病気で死ぬのも好きという気持ちも、本当だということ。
 本当は、病気のことは言わないつもりだったこと。
 もうすぐ死ぬ自分の好意は僕の邪魔になると思ったこと。
 エイプリルフールなら、うっかり口を滑らせても嘘だと思い込んでくれると思ったこと。
 嘘だとだまされてくれるように誘導したのは自分だから、気に病まないでほしいということ。
 最初で最後のデートなのに暗い雰囲気になりたくなかったということ。
 たった一つだけ、「またね」と嘘をついたこと。

 彼女の母親によって亡くなった後に送信されたメールには、「娘のわがままを許してあげてね」と書き加えられていた。

 当時、何度も読み返して泣いた。
 彼女が「好き」と言ってくれたのに嘘だと思ってしまったことが、どれだけ傷つけてしまったかと考えて泣いた。
 どうしても「さようなら」が言えなくて、「またね」と言った彼女の気持ちを想像して、また泣いた。

 今はもう涙は出ない。ただ、後悔するだけだ。

 3年間同じクラスだった。
 嘘が嫌いな真っ直ぐな性格が好きだった。
 話すのが大好きで、秘密にしようと思っていたことまで言ってしまうところも可愛いと思っていた。

 どうして告白する勇気を出せなかったのだろう。

 嘘をつかない君がなぜ4月1日を選んだのかという疑問を持てていれば、何かが変わっただろうか。

 そして、僕はあの時のように、今日もまた好きな人を傷つけるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...