瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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梅雨明けは涙とともに

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 次の日、私はカミサマの館の近くに行ってみることにした。本当は危ないから館に近づいては駄目だと言われているのだが、もう一度カミサマに会ってみたかった。

 山の窪んだところに建っている館を見下ろせる木に登り、葉の陰に体を隠した。
 自然あふれる島で育ったから木登りもかくれんぼも得意だ。昨日は見つかったけど。

 初めて近くで見た館は想像より大きくて、学校みたいだった。砂が敷き詰められた庭では、カミサマたちだと思われる男の子たちが遊んでいた。

「ねえ君。昨日の子でしょ」

 完全に油断していたところを後ろから話しかけられて、驚きが全身を駆け抜けた。

「ご、ごめんなさい!」

 心臓がバクバクと音を立てる。
 振り向くと隣の木の上に男の子が立っていた。木の幹に体重を預けて、腕組みをしている。

「いいよ。女の子と会うなんて久しぶりだ」

 男の子はひょいっと身軽に枝を飛び移り、私のいる木に移動した。男の子の体重で木がゆさゆさと揺れる。

「昨日はどうして手を振り返してくれなかったの? ちょっと悲しかったんだけど」
「ご、ごめんなさい……」

 昨日のカミサマだ。
 木の幹に体を隠して視線を落とした。カミサマに興味があったとはいえ、こんなに近い距離で話す予定ではなかった。

「まあいいや。君、名前は?」
「ゆかり」
「ゆかりか。かわいいね。何歳?」

 思わぬ褒め言葉に顔が熱くなり、手で仰いで熱を冷まそうと試みた。手だけでは大した風は起きず、全く効果はなかった。

「13歳。カミサマの名前は?」
「え、カミサマ?」

 男の子はカミサマという単語に聞き覚えがないのか首を傾げた。

「島の人は、あなたたちのことをカミサマって呼んでるの」
「そうなんだ」

 教えると男の子は少し驚きを見せ、納得したように頷いた。

「280番だよ」

 私は意味が分からず、ぽかんと口を開けた。

「280番」

 男の子は繰り返した。何も言えないでいる私を見て、男の子は不思議そうにまた首を傾げた。

「おれ、4月2日生まれ。15歳になったばっかで一番年上だから280番。全員中三で、誕生日が遅いやつから順番に番号が付いてるんだよ」

 ……番号で呼ばれてるの?

「お誕生日、おめでとう……?」

 ひとまず誕生日を祝うと男の子は目を見開き、嬉しそうに笑った。

「ありがとう。誕生日って祝うもんだったな」

 私は笑顔を浮かべる男の子をまじまじと見つめた。カミサマも笑うんだ。
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