瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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梅雨明けは涙とともに

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「とにかく280番って呼べよ。慣れてるからさ」

 肩をすくめた男の子に、私は力いっぱい首を横に振った。番号で呼ぶなんて嫌だ。

「えー、他に名前なんてないんだけど。まあいいや、好きに呼べよ」

 私は男の子の呆れたようなため息に首をすくめながら、小さな声で口にした。

「ふうや」
「ん?」
「ふうや。280だから。ふうが2で、やが8」

 ふうや、ふうやと男の子は指で数字を描きながら口の中で音を転がした。

「0はどこに消えたんだよ」
「名前にしようとしたら不自然だから諦めた」

 男の子がフッと息だけで笑った。

「気に入った。ありがとう」

 男の子の、ふうやの笑顔にドキッとした。島に歳の近い男の子は一人もいないから、不思議な感覚だった。
 その時、緊張でかいた手汗のせいで枝に置いていた手がつるんと滑り、バランスを崩した。手を動かしたが、焦りのせいか何も掴むことができない。

 落ちる!

 覚悟を決めて目をつぶった瞬間だった。

「っぶね」

 伸ばしていた腕をガシッと掴まれ引っ張られた。顔がふうやの胸に当たる。

「ったく、気をつけろよ」
「ごめん、ありがとう……」

 語気が荒くなったふうやに、しゅんとして謝る。すると抱きしめるような体勢のまま背中をトントンと叩かれた。

「……泣いてる?」
「泣いてないよ!」

 女子がすぐ泣くと思ってるなら大間違いよ。人前では泣かないって決めてるの。
 ムッとして言い返すと、ふうやはケラケラと笑った。
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