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梅雨明けは涙とともに
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私たちは、平日の夕方や休日にあの木の下で待ち合わせて、人目を盗んで会うようになった。カミサマたちも島民との交流を禁止されているらしい。
一つ年上のふうやは頼りがいがあると感じる時もあったが、イタズラっぽく笑う時は年下のように感じることもあった。
そのギャップに惹かれ、いつの間にかふうやのことを好きになっていた。
5月下旬。テレビで流れる天気予報には傘マークがずらりと並ぶようになっていた。
傘を差して待っていると、びしょ濡れになったふうやが現れた。
「お待たせ」
「え、ちょっと!」
慌てて傘を差し掛けると、ふうやは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ありがとう。傘持ってないんだ」
「大丈夫。一緒に使お」
雨粒が傘を打つ音を聞く。肩が近くて少し緊張した。
「梅雨が始まっちゃったね」
相合傘から少しでも気を逸らそうと話しかけた。
「誕生日はいつも雨だから、梅雨は嫌いなの」
「そうなんだ。いつ?」
「6月29日」
「梅雨だなぁ」
ポツポツと言葉を交わす。
ふうやの手が傘の柄に添えられて、持つのを代わってくれた。
雨の音が全てを吸い込んでいく。傘の下の空間だけが世界から隔絶されている感覚だった。
「両親が家でお祝いしてくれる予定だから、雨でも別にいいんだけどね」
何気なく口にした言葉だったのに、ふうやは突然黙り込んだ。
「ふうや?」
「……羨ましいよ。ゆかりは親に祝ってもらえて」
ふうやの濡れた髪から水滴が落ちた。俯いた顔は髪に遮られて見えない。
「おれたちは全員孤児なんだ」
雨の音だけが響く。
私の中の複雑な思いも何もかも雨に吸い込まれて、声が出せない。
「親がいない中三男子が280人、あそこに住んでる」
ふうやが傘の外に手を出した。その手は一瞬で濡れていく。
「物心がつく前に孤児院に連れてこられるから、祝ってもらった記憶どころか親の顔すら覚えていない奴がほとんどだよ」
ふうやはキュッと口を引き結んだ。
配慮に欠けていた自分が恥ずかしかった。孤児じゃなかったとしても、子どもだけでこの島に来ているのだから、親と離ればなれでいることは間違いないのに。
気軽に親の話題を出してしまったことを後悔した。
「……ごめんなさい」
「おれこそごめん。こんなこと言われても困るよな」
伏せられた目に胸が締め付けられた。
「何の話してたっけ。誕生日が梅雨って話か」
頷くと、ふうやは小さく笑った。
「今年は無理だけどさ。来年の誕生日は雨以外の天気にできるかもって言ったら、どうする?」
驚いてふうやを見る。
笑みを浮かべているのに、その瞳はなぜか寂しそうだった。
一つ年上のふうやは頼りがいがあると感じる時もあったが、イタズラっぽく笑う時は年下のように感じることもあった。
そのギャップに惹かれ、いつの間にかふうやのことを好きになっていた。
5月下旬。テレビで流れる天気予報には傘マークがずらりと並ぶようになっていた。
傘を差して待っていると、びしょ濡れになったふうやが現れた。
「お待たせ」
「え、ちょっと!」
慌てて傘を差し掛けると、ふうやは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ありがとう。傘持ってないんだ」
「大丈夫。一緒に使お」
雨粒が傘を打つ音を聞く。肩が近くて少し緊張した。
「梅雨が始まっちゃったね」
相合傘から少しでも気を逸らそうと話しかけた。
「誕生日はいつも雨だから、梅雨は嫌いなの」
「そうなんだ。いつ?」
「6月29日」
「梅雨だなぁ」
ポツポツと言葉を交わす。
ふうやの手が傘の柄に添えられて、持つのを代わってくれた。
雨の音が全てを吸い込んでいく。傘の下の空間だけが世界から隔絶されている感覚だった。
「両親が家でお祝いしてくれる予定だから、雨でも別にいいんだけどね」
何気なく口にした言葉だったのに、ふうやは突然黙り込んだ。
「ふうや?」
「……羨ましいよ。ゆかりは親に祝ってもらえて」
ふうやの濡れた髪から水滴が落ちた。俯いた顔は髪に遮られて見えない。
「おれたちは全員孤児なんだ」
雨の音だけが響く。
私の中の複雑な思いも何もかも雨に吸い込まれて、声が出せない。
「親がいない中三男子が280人、あそこに住んでる」
ふうやが傘の外に手を出した。その手は一瞬で濡れていく。
「物心がつく前に孤児院に連れてこられるから、祝ってもらった記憶どころか親の顔すら覚えていない奴がほとんどだよ」
ふうやはキュッと口を引き結んだ。
配慮に欠けていた自分が恥ずかしかった。孤児じゃなかったとしても、子どもだけでこの島に来ているのだから、親と離ればなれでいることは間違いないのに。
気軽に親の話題を出してしまったことを後悔した。
「……ごめんなさい」
「おれこそごめん。こんなこと言われても困るよな」
伏せられた目に胸が締め付けられた。
「何の話してたっけ。誕生日が梅雨って話か」
頷くと、ふうやは小さく笑った。
「今年は無理だけどさ。来年の誕生日は雨以外の天気にできるかもって言ったら、どうする?」
驚いてふうやを見る。
笑みを浮かべているのに、その瞳はなぜか寂しそうだった。
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