瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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梅雨明けは涙とともに

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 その日、家に帰って母に尋ねた。

「ねえ、カミサマって何?」
「急にどうしたの」

 気のせいだろうか。振り向いた母の顔がどこか歪に感じる。
 私は舌で唇をなめた。

「同い年くらいの男の子がいた気がしたの」

 母は目を見開いた。

「そう」

 いつもとは違う表情に、声のトーン。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。

「そろそろあなたも知っておかないとね」

 母は食卓に向かい合って座るように促した。

「この島は、とても重要な役割を担っているのよ」

 ごくんと唾を飲み込んだ。耳の中で唾の音が異常に大きく響いた気がした。

「今は梅雨でしょ。カミサマがいなければ日本には一年中雨が降り続くのよ。カミサマは中学三年生の男の子。7月の上旬になると彼らはその身を捧げて神になり、一人につき一日雨を止ませてくれる」

 冗談だと思った。意味が理解できなかった。脳内で何度も母の言葉を反芻したが、全く受け入れられなかった。

「嘘でしょ。カミサマは普通の男の子なんでしょ? 身を捧げるって、死ぬってこと?」
「そうよ。だから梅雨が明けるの。この島では梅雨入りから梅雨明けまで毎日雨だし、カミサマの人数と雨が降らない日数は一致するんだけど、日本の他の場所ではズレちゃうのよね」

 そう話す母は、人間ではないように見えた。

 ヨロヨロと自室に戻り、ベッドに崩れ落ちた。

 孤児は死んでも悲しむ家族がいないから?
 ふうやは、7月になったら死んじゃうの?

 泣いているうちに、いつしか眠りに落ちていた。
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