瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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梅雨明けは涙とともに

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「7月になったら、ふうやは前にいた場所に戻るんだよね?」

 次に会った時、ふうやを傘の中に入れるやいなや、すがるように尋ねた。
 母のタチの悪い冗談だと信じたかった。

「いや? 海に飛び込んで梅雨を終わらせるんだよ」

 あっけらかんと言うふうやに、言葉が出なかった。15歳にして死ぬことを当然のように受け入れているのが、理解できなかった。
 身を捧げるって、海に飛び込むってことなの?

「ゆかりも晴れの方が好きだろ。おれたちは神になって、みんなで順番に一日ずつ雨を止ませる。日本中の人々の役に立てるんだ」

 生き生きとした、夢を語るかのような瞳に衝撃を受けた。
 身を捧げられることを誇りに思ってるんだ。

「……だけど、ゆかりと会えなくなるのは寂しいかな。死にたくないって思ったのは初めてだ」

 すっとふうやの表情が陰る。

 絶対に人前で泣かない。
 そう決めているのに、私の表情を見たふうやにぎこちなく背中を撫でられて、涙が込み上げた。

「嫌だよ。死んでほしくない。雨の日が一日多くてもいい」

 涙を堪えて訴えると、ふうやの顔が申し訳なさそうに歪んだ。

「ごめん。でも、これはおれの役目だから」

 決意を込めた瞳で見つめられて、目を伏せた。
 今声を出せば絶対に震えると分かっているから、何も言葉にできなかった。



 6月29日。
 誕生日は梅雨真っ只中で、当然のように雨がしとしと降っていた。
 家族に祝われながら、ふうやのことを考えた。

 カミサマたちの死で本当に雨が止むのだろうか。
 そう疑う自分もいたけれど、母もふうやも嘘を言っているようには見えなかった。

 ふうやには生きていてほしい。
 だけど「おれの役目だ」と決意しているふうやの誇りを否定することになる気がして、どうすればいいのか分からなかった。



 7月1日。
 ふうやに会いに行くと、ふうやは何とも言えない真剣な表情をしていた。

「ちょうど一週間後に決まったよ」

 何が、と言われなくてもすぐに分かった。
 私はどんな表情をしていたんだろうか。ふうやは黙って私の頭を撫でた。

 その日は何も話さなかった。
 二人で一つの傘を差し、もう聞き飽きた雨の音に包まれていた。
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