【完結】コドクニアラズ ~淫らな『なんでも屋』~

ナツキ

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3・依頼人なし⑤

一ノ瀬がするどい

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黒い『もや』が視えるようになったのは、今年の夏ごろだった。
cafeリコでバイトしてるときに、上半身を『もや』でまとったような男性を見かけたのだ。
他のスタッフには見えなかったようで、俺は自分の目がおかしくなったのかと思った。

病院に行くお金はなかったので、そのまま放置していると、今度は街のカラオケ店で見かけた。
このときも、周りの友人には見えていなかった。

そうして、ある日、初めて『もや』をまとった男性が、事件を起こしたことを知る。

河野裕太(29)という看護師が、感染した血液を、恋人に投与したというものだった。

寮のテレビで、彼が映し出されたときに、俺は驚いた。

もしかしたら、『もや』が関係しているのかもしれない。

戸惑う俺に、気付いたのは一ノ瀬だった。

『もや』を一ノ瀬に話したころ、ちょうど一ノ瀬の彼女(当時)に相談を受け、関係者に『もや』が確認取れた。
そうして、コドアラプロジェクト『なんでも屋』が始まった。

8月17日、後期課外に来ない友人を心配した一ノ瀬の依頼により、監禁された友人を救出する事件があった。その犯人、友人のお兄さんである森内光太(19)が強烈な『もや』をまとっていた。

『もや』は、狂暴性を秘めた殺意のようなものが具現化したものなのだろう。

相談事を受けているうちに、『もや』をまとった人に近付けると思った。ただ、『もや』が消えたのはケントさんしかまだ確認できていない。



依頼人なし、⑤

向井絢斗

8月3日(土)もや未確認(たぶん✕)
10月19日(土)もや○、暴力性○
11月2日(土)もや○、暴力性○、殺意指摘→もや✕



「現在オレの恋人、て書かないの」

「い、一ノ瀬ッ」

「ノックしたけど」

俺が『もや』の関連性について考えていると、いつの間にか一ノ瀬が来ていた。


「お泊まりどうだった?  やっぱ嫉妬だったろ」
と、一ノ瀬はニヤニヤしながら聞いてきた。

「謝られたよ」

「よしよし。それで、告白はされたんだよね?」

「された、かな」
恥ずかしくて小さな声で答えると、俺の頭をポンポンと優しく叩いてハグしてきた。

「おめでとう」

一ノ瀬はほんとにいい奴だ。

「あ、聞こうと思ってたんだけど、もしかして二次会のときケントさんと話した?  部屋で、ケントさんめちゃくちゃ素直に話してくれてさ」

「あー、トイレに行ったとき会って、あまねは鈍感て言っといたよ」

「それでかあー」

「なあ、『もや』のことは話したの? 」

「あー、いや、それはまだ。瞬間記憶のことは言ったよ。ていうか、ビンゴゲームのとき見てたみたいで。カメラアイって言われた」

「ケント先生がいるの気付いてたから、オレ敢えてあまね呼んだんだよ。オレのあまねはすごいんだぜーって。中2病発言にあったまきちゃってさ」

「俺も、そこに触れた。中2病みたいですみませんって。それで謝られて驚いた」

「お、あまねも言うじゃん。進歩、進歩」

「『もや』のことは、また今度改めて言うよ」

「よし。オレが知っててケント先生が知らなかったら、また、嫉妬しちゃうだろうし。あの人、根がSっぽいから、お仕置きとかされちゃうかもよ~」

とケラケラ笑いながら俺の肩を叩いた。

一ノ瀬の洞察力、恐るべし。

「なあー、これさ、ケント先生の番号振ってるのは、『もや』が見えたから?」

「そう」

そう答えると、一ノ瀬はコドアラノートを取り上げ、ペラペラとめくった。
依頼人①江崎葵(形見分け事件)
依頼人②一ノ瀬涼(サッカー部員行方不明事件)
依頼人③朝比奈海(中秋の名月事件)
依頼人④小野寺瑛二(薬剤転売事件)
依頼人なし⑤

ナンバリングなし
依頼人・一ノ瀬涼(秋吉の体調不良)

「②と⑤はわかるよ?  玲央の兄ちゃんと、ケント先生だろ。①も、まあわかる。でもさ、今回は『もや』視えてないんじゃないの?  馬場園さんて会ってないよね。④のナンバリングするのおかしくない?」

「するどいね」

「もしかして、あまねって、何か隠してる?  『もや』が視えたからじゃなくて、別の条件で数えてない?」

「一ノ瀬の方が探偵だなあ」
俺は、一ノ瀬の勘のするどさに感心した。

「言わないんだ」
一ノ瀬は口先を尖らせて、すねたような表情を見せた。

「うーん……ちょっと待ってて……」
今は確信が持てないから、言えない。困った顔で答えた。

フー、と諦めのため息をつき、一ノ瀬は
「ケント先生には、言えるといいな?」
と、残念そうに呟いた。

「もう少し……信憑性が増したら、必ず一ノ瀬に最初に言うよ。ごめん」

「オレに最初に言ってくれるの?  うわー、やっぱケント先生に刺されるわあ」

「だって一ノ瀬が、一緒に始めてくれたじゃん」


「ハハ、ありがと。……じゃあさ、そんな特別扱いしてくれるなら、そろそろオレのこと涼って呼んでよ」

おっと。

「気にしてた?  ごめん」

「前はcafeリコの女の子しか名前で呼ばなかったじゃん。でも、最近ケント先生もだし瑛二もだし、名前で呼んでるやついて、さすがに悔しい」
俺は、なるべく名字で呼ぶようにしている。それには小さな理由があるが、それは誰も知らないことだ。些末な信念である。だから相手が望むならば、名前を呼ぶことにしている。

「わかった、涼くん、でいい?」

ありがとう、と涼くんは嬉しそうに言った。
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