【完結】コドクニアラズ ~淫らな『なんでも屋』~

ナツキ

文字の大きさ
99 / 102
10・番外編 昔話をすこしだけ

入院生活

しおりを挟む
長いこと寝たきりだった身体はすっかり衰え、車椅子生活を余儀なくされた。まだ自分でこぐのも辛いけれど、リハビリだと思い座面にゆっくりと腰をおろす。
眠っている間、世の中は感染症が流行し、マスク必須の生活になっていた。そばの棚に置いたマスクを着用し、部屋を出る。

今日は中庭まで行ってみよう、とノロノロとこいでいると、池袋さんに会った。
「天音くん、途中まで押して上げるよ」

「ありがとうございます」

池袋さんは、以前俺に「もう電話してくるな」とケントさんのスマホから連絡してきた人だ。あの時はひどく落ち込んだが、今は良いお友だちになりかけている。ズバズバはっきりと言う姉御肌の池袋さんは、意外に俺と相性が良かった。無神経ではなく気遣いのできる人。
cafeリコにいた、亜矢子さんに似ているかも。

結局中庭まで押してもらい、池袋さんは噴水そばのベンチに座った。
「ちょっと私も休憩するわ」

そう言って、噴水そばで遊んでいた小さな子供に声をかけ、キャッキャとじゃれ始めた。

その様子を何気なく眺めていると、「天音~?」と声をかけられた。そのおじさんはマスクを下げて、ひげ面の口元を見せてくれた。

「あ。……ヒデさん?」

「あー、やっぱり天音だったか。具合悪いのか?」

「手術したけど、もうすぐ退院できると思います」

俺は簡潔に説明した。

「そうか、咲月学園の寮に入ったんだよな?  ごはん、食えてるか?」

「はい、」
揚げ物多いけど、あの時よりずっと食べれてます、と心の中でつぶやき、微笑んだ。

「俺もあれから色々あってな、なんと結婚したんだぜ」

「え!!  それは、おめでとうございます」

「ほんとに良い人でな。……あの残飯漁りが嘘みたいだ」

温かいごはんが食べれてるんだな。ヒデさん、幸せそうで良かった。

「お互い、糞みたいな生活してたけど、這い上がれて良かったな」

「はい、俺もあの頃よりずっと幸せです」

5分ほどお互いの近況を話したあと、ヒデさんは病棟へと戻った。手先が器用な人で、病棟の細々した補修を頼まれて来ていたらしい。

「今の人、知り合い?」

いつの間にか池袋さんがそばにいた。
話聞かれちゃったかな。


ヒデさん。
本名は知らない。
俺が人生のドン底にいたころに出会ったおじさんだ。

「中学生の時に、知り合ったおじさんです」

俺はまた、簡潔に述べた。























「あまね、ヒデさんて誰」

夕方、勤務を終えたケントさんが病室へとやってきた。
そして開口一番、昼間あったことを問われる。

い、池袋さんてば~~~っ。

なんで女の人ってすぐしゃべっちゃうのかな。

「糞みたいな生活、てどういうこと」

うわ~~~っ!!
そこも聞かれてた~~~っっっ。

冷や汗がダラダラと流れる状況に、俺はなんと返答すればよいか頭をフル回転させた。

「……中学生の時、ごはん食べさせてもらえなかったのか?」

池袋さんてば、話を全部聞いてて、推測して話したんだな。
俺はあきらめて、正直に話すことにした。

「母親が死んで、新しい家族に疎まれた、って話したことあるでしょ」

あの時も、病室のベッドで告白したな。俺の不幸話。簡潔バージョンだけど。

「隠してたわけじゃないよ、詳しく言わなかっただけ」

「今、詳しく聞きたい」

ケントさんは俺の手を両手で包み、優しく問いかけてくれた。
ほろり、と口から事実が漏れてしまいそうになる。でも待って。言葉を考えないと……。
上流階級の家庭に生まれて育ったケントさんに、俺の底辺な生活を理解できるとは思えない。なるべく、世間一般的な感じで……。

「お前、また適当に話しそうとしてるだろ。全部、そのまま言えって」


「もー。ケントさんは相変わらずだなあ。じゃあ俺がどんな生活していたか話すけど、絶対に殺意をもたないでね?」

俺のことが大好きすぎて、それが心配。
神崎家、惨殺されるんじゃないかな。

「コンビニとか、スーパーとか、廃棄される食品あるでしょ。それを食べてました」
3人の夕食は並べられていても、俺だけ用意されなかった。冷蔵庫のものを食べると、怒られた。飲み物だけは許された。
部屋は与えられたので、19時頃からこもって早朝起きて新聞配達をした。
その配達する先で、仲良くなった店員さんに廃棄の食品を恵んでもらった。
ヒデさんはいっしょに新聞配達をしていた仲間だ。最初はヒデさん、外に置いてあるゴミ箱から廃棄のものを取っていた。でも俺が加わろうとして、見かねた店員さんがレジ袋に入れて準備してくれるようになった。
24時間スーパーの唐揚げやトンカツといった揚げ物が、週に一度くらい大量に廃棄される日があったので、それをもらって数日かけて食べたこともある。給食のない土日や夏休みは本当に飢え、家出のための資金が食事に消えていくのが悲しくなった。
そんな生活を一年ほどしていた時に、同級生に見られてしまい、「あさましい」と言われた。
学校で言いふらされることはなかったが、この一言で俺の食への興味が失せた。
大量にもらえていた揚げ物も、身体が受け付けなくなった。
心配した配達先の店員さんが、青海市にある咲月学園の寮の存在を教えてくれた。特待生になれば、寮費も免除になると。
俺はカメラアイを駆使し、無事合格した。

「食事に関しては、こんな感じです」

ケントさんは言葉を詰まらせていた。

でしょうね。
俺だって、まだ信じられないもの。こんな生活送らされてたんだって。

「ケントさん、神崎家の人間に復讐とかしないでね?  めった刺しとかダメだよ」

「わかってる……でも壮太郎に会ったら殴るかも」

「もー、やめて。俺、今はすごく幸せだからね?」

ケントさんは、ギュウっと抱きしめてくれた。

「意外に秘密の多いやつだったんだな」

「そうかな」
ただ、いつも簡潔に言ってただけだ。

「……ひいてない?」

「ひくわけないだろ。あー、でもこれ以上聞いたら皆殺しだな」

「怖いなあ、ケントさんは」
ほんとにやりそうなんだから。

「あ……でも、高校に入る少し前に和解はしたんだよ?  お節介やいてくれた人がいてね、一応食事も家で取れるようになった。コンビニとかに売ってるお弁当用意してくれたんだ。賞味期限切れてないやつね。前は3人が焼き肉食べてるのに食パンだけ渡されるとかだった。それで家で食べなくなって、廃棄の食料もらってたって感じ。あー、話が戻っちゃったね。一応和解したから、入学準備のもろもろとかは神崎家が払ってくれたし、手続きも親父がしてくれた」

「次から次にエピソード出てくるな……涼はどこまで知ってるんだ?」

「涼くん?  俺が帰省しないし仕送りないから、薄々気づいた感じかな。たぶん親父と仲が悪いって思ってる。詳しく話したのは、今日が初めてだよ」

「そうか」

「新聞配達店の人も、配達先の店員さんも同情して色々よくしてくれたけど、それじゃ良くないなと思って、高校入ってからは話さないようにしてた。初めて会った時、苦労してるように見えなかったでしょ?  それが俺の小さなプライドかな~」

そう言って、俺は穏やかに微笑んだ。

「欲しいものはなんでも買ってやるから、絶対にオレに最初に言えよ」

「甘やかすなあ、ケントさん」

俺はケントさんにキスをした。
あ。病院でしちゃった。

「ごめん、ケントさん。キスしちゃった」

「病室ならいいだろ」

ケントさんは俺の顎を持ち上げて、今度はケントさんからキスをしてくれた。

「……髪、拭かないのも理由があるか?」

「え?」

「お前、いつも髪の毛ビチャビチャのままでいるだろ」

「あ、ああ~それ?  うーん」

いっつもビチャビチャなのは俺のズボラさって思わなかったのかな。そこにも過去が関係していると思ったの?

コンコン、と病室の扉がノックされ、夕食が運ばれてきた。

「神崎さん、夕食ですよ~。向井先生のも置いときますね」

「ありがとうございます」
ちょうど良いタイミングで邪魔が入ってくれた。
「ケントさん、いつもここで食べて寝てるでしょ。たまにはマンションでゆっくり寝なよ」

ケントさんは、夕食をいっしょにとりシャワーだけ浴びにマンションに帰るが、また病院に戻ってきて病室のソファで寝ている。俺が昏睡状態だったころからずっとこの状態が続いているって、池袋さんが言ってた。

「いやだ」

「ケントさんが体調崩したら、俺悲しいよ。湯船にも入ってないんじゃないの?  疲れ取ってきてよ」

「……そうだな。明日そうする」

「うん」









翌日、いつものようにケントさんと別れたが、すぐに戻ってきた。

「いっしょに帰るぞ」

「……え?」

ケントさんは、俺の外泊届けを出したそうだ。
いつのまにか主治医の許可を得たらしい。



「え、ええ━━━?!」












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

処理中です...