友達未満恋人未満

さぺろっと

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3話

第3話

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空は不安定な明るさを主張する。肌寒さに震える私の身体を温めたり冷やしたり…。私の心を焦らせて遊んでいるようにも思える。

近所の人に挨拶は交わさない。下を向いていて気づかなかったフリをする。

そろそろ…、あっ、ここだ。ここからはほとんど未知のエリア。脳内ホログラムナビゲーションを起動して、最近登録した地点まで導いてくれるように指示をした。

「一般の交通規制に従って、ロケハン時の記憶を頼りに自分で頑張って行ってください。」

だ、そうだ。

C山中学到着予想時間まで、あと十二分。

今日の日付は四月八日。お釈迦様がお産まれになった日だ。そんなおめでたい日付に同日開催されるのが、我が校、C山中学校入学式だ。…我が校?入学はまだしていないわけだから「自分の」という称し方は誤りかもしれない。

とにかく、私こと矢内歌奈はそのC山中学校に本日入学を約束されているのだ。嬉しいですか?と訊かれたら、素直にハイソーデスとは答えられないかもな。

「中学校」という言葉の響きは相当な重低音だ。義務教育最後の関門。いわばラスボス。なんだか、ここで失敗したら大人になるためのパスポートを発行してもらえないような気がするのだ。

あっ、太陽が雲に隠れた。

まあ、楽しみなことが全く無いということでもない。未知の領域に足を踏み入れるというワクワク感というのも否めないもので…。私は今、単なる好奇心のような動機によってこの足を歩ませているのかもしれない。つまり、意外と前向きに捉えることもできるわけだ。

あっ、雲がどいてくれた。
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