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王宮に到着し、主の執務室へ向かって歩き出す。
(報告が終わり次第訓練に合流だな。
当たり稽古には間に合うか…?)
この後の予定を頭に浮かべながら早足で廊下を歩く。騎士団の訓練場が見える外廊に差し掛かったところで、大きな声に呼び止められた。
「団長!」
足を止めてそちらに顔をむけると、赤毛の騎士が駆け寄ってくるのが見えた。
「…ウィンターか」
「お疲れ様です!いつお戻りに?」
「今さっきだ。これから報告に向かう。」
駆け寄ってきた部下のウィンターは、俺の所属する王宮騎士団の第三部隊隊長を勤めている。人懐っこい犬のような男で、今も千切れんばかりに振られている尻尾の幻覚が見える。
生暖かい目を向けながらウィンターに応じていると、彼の後ろからまた一人。
「ロン。今日もクリスティーナ嬢のところだろ?
陛下も毎週毎週まめなことだな」
「ザックか。
毎回留守を任せてすまないな」
「いや、気にするな。王命なんだから仕方ないさ
それより、今日の訓練で……」
俺をロンと愛称で呼ぶこいつはザック・ゴーウェン。騎士学校時代の同期でもあり、騎士団の副団長だ。
そのままザックから留守にした間の報告を簡単に受け、一段落したところでウィンターが口を開いた。
「あの、質問してもいいですか?」
遠慮がちに問いかけられ軽く頷く。
「元聖女様のところへの配達やご機嫌伺いは毎回団長ですが…何故なのでしょう?
それくらいでしたらわざわざ団長が足を運ばなくてもいいのでは?」
心底不思議そうに投げ掛けられた質問。確かに普通なら、いくら国王陛下からの手紙でも騎士団の団長である俺が届けに行く必要などない。いたって当たり前の疑問だ。
「あぁ、こいつの母上が陛下の乳母なんだよ。
だから幼なじみみたいなもんでな。よくこき使われてんだ」
「こき使われてるといったって…」
俺の代わりに答えたザックの返答では納得いかなかったのだろう。眉間に皺を寄せたウィンターに苦笑する。
「ザック、話を簡略化しすぎだ。それじゃわからんだろう」
「そうか?それくらい察して一人前だと思うがな」
肩を竦めるザックを窘め、いまだ不満げに眉を潜めるウィンターに向き直る。
「預かっているのは陛下の私信だ。
信のおけないものに預けて宛先だけ偽装されでもすれば事だろう?」
陛下にはまだ正妃がいらっしゃらない。
その座を狙う者は多く、万が一そういった者達に元聖女様に当てた手紙を偽装されれば…
そこまで言うとウェインターも察したらしい。納得したように何度か頷き、それでもまだ疑問が残るのか、ふと首をかしげる。
「…ん?てことは陛下は元聖女様を妃にお望みなんですか?」
「……」
今の流れであれば当然の質問。
だが、その言葉は俺の胸の内をぐっと締め付けた。
陛下が、聖女様を…か……
「……」
「?団長?」
俺が答えない事を不思議に思ったのだろう。
呼び掛けてくる彼に、なんとか言葉を返す。
「……さぁ、な。陛下のお考えは俺が語れるものではない。聞かれても困る。
…陛下のところへ報告に向かう。ザック、戻るまで頼んだぞ」
「はいよ」
ザックの軽い返事にうなずきを返して歩きだす。
胸の内のもやもやが陛下の執務室に到着するまでに収まることを願いながら…
(報告が終わり次第訓練に合流だな。
当たり稽古には間に合うか…?)
この後の予定を頭に浮かべながら早足で廊下を歩く。騎士団の訓練場が見える外廊に差し掛かったところで、大きな声に呼び止められた。
「団長!」
足を止めてそちらに顔をむけると、赤毛の騎士が駆け寄ってくるのが見えた。
「…ウィンターか」
「お疲れ様です!いつお戻りに?」
「今さっきだ。これから報告に向かう。」
駆け寄ってきた部下のウィンターは、俺の所属する王宮騎士団の第三部隊隊長を勤めている。人懐っこい犬のような男で、今も千切れんばかりに振られている尻尾の幻覚が見える。
生暖かい目を向けながらウィンターに応じていると、彼の後ろからまた一人。
「ロン。今日もクリスティーナ嬢のところだろ?
陛下も毎週毎週まめなことだな」
「ザックか。
毎回留守を任せてすまないな」
「いや、気にするな。王命なんだから仕方ないさ
それより、今日の訓練で……」
俺をロンと愛称で呼ぶこいつはザック・ゴーウェン。騎士学校時代の同期でもあり、騎士団の副団長だ。
そのままザックから留守にした間の報告を簡単に受け、一段落したところでウィンターが口を開いた。
「あの、質問してもいいですか?」
遠慮がちに問いかけられ軽く頷く。
「元聖女様のところへの配達やご機嫌伺いは毎回団長ですが…何故なのでしょう?
それくらいでしたらわざわざ団長が足を運ばなくてもいいのでは?」
心底不思議そうに投げ掛けられた質問。確かに普通なら、いくら国王陛下からの手紙でも騎士団の団長である俺が届けに行く必要などない。いたって当たり前の疑問だ。
「あぁ、こいつの母上が陛下の乳母なんだよ。
だから幼なじみみたいなもんでな。よくこき使われてんだ」
「こき使われてるといったって…」
俺の代わりに答えたザックの返答では納得いかなかったのだろう。眉間に皺を寄せたウィンターに苦笑する。
「ザック、話を簡略化しすぎだ。それじゃわからんだろう」
「そうか?それくらい察して一人前だと思うがな」
肩を竦めるザックを窘め、いまだ不満げに眉を潜めるウィンターに向き直る。
「預かっているのは陛下の私信だ。
信のおけないものに預けて宛先だけ偽装されでもすれば事だろう?」
陛下にはまだ正妃がいらっしゃらない。
その座を狙う者は多く、万が一そういった者達に元聖女様に当てた手紙を偽装されれば…
そこまで言うとウェインターも察したらしい。納得したように何度か頷き、それでもまだ疑問が残るのか、ふと首をかしげる。
「…ん?てことは陛下は元聖女様を妃にお望みなんですか?」
「……」
今の流れであれば当然の質問。
だが、その言葉は俺の胸の内をぐっと締め付けた。
陛下が、聖女様を…か……
「……」
「?団長?」
俺が答えない事を不思議に思ったのだろう。
呼び掛けてくる彼に、なんとか言葉を返す。
「……さぁ、な。陛下のお考えは俺が語れるものではない。聞かれても困る。
…陛下のところへ報告に向かう。ザック、戻るまで頼んだぞ」
「はいよ」
ザックの軽い返事にうなずきを返して歩きだす。
胸の内のもやもやが陛下の執務室に到着するまでに収まることを願いながら…
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