元聖女様は好きな人と結婚したい

れぐまき

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(三年前)

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少し時間を戻して、二人の出会いの話をしよう。
それは三年と少し前。
国王と聖女の即位・就任パーティーのことだった。


当時、クリスティーナはまだ14歳

公爵令嬢という身分であった彼女は、それなりに気に入って通っていた学園を自主退学し、出家によりその身分を捨て、家を出て聖女に就任した。

14歳の少女にひどい仕打ちであるが、聖女とは代々全てを捨てて就任するのが習わしで、彼女も仕方のないことだと受け入れていた。
そもそも、貴族の娘として産まれたからには自分の意思とは関係なく将来が決められることは当たり前だと思っていたし、それほど不満はなかったのだ。
そう、自分と同時に即位した王の姿をみるまでは……

____________________________


王宮の一室

クリスティーナはすでに聖女の正装である純白のドレスとベールを身に付け、案内人がくるのを待っていた。

(遅いわね……)

貴族へ向けてのお披露目パーティーの前に、国民参賀がある。
王宮のバルコニーから行われるその予定時刻は、刻一刻と迫っているはずだ。
そろそろ向かわねばきっと間に合わない。

(何をしているのかしら……)

クリスティーナは壁にかけられた鳩時計をチラリと確認し、後ろに控えるメイドに尋ねてみようと口を開いた。
それとほぼ同時に、扉が数度ノックされる。

(あぁ、やっとお呼びね)

案内のための従者が来たのだろう。
そう思ったクリスティーナはそっと姿勢を伸ばした。
しかし聞こえてきた声は予想とは違うもの。

「クリスティーナ、私だ。
少し面倒なことになっている」

聞こえてきたのは公爵であり、先王の時代から宰相を努める父の声だった。
入室してきた父は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「…どうなされましたの?お父様がそのようなお顔をなさるなんて……」
「……あれは、私や他のものではどうにもならん。
クリスティーナ、申し訳ないが少し力を貸してくれぬか?聖女としての最初の仕事だ」

父のこんな顔は今まで見たことがない。
クリスティーナは首をかしげながらも、自分に何かできるのならとこくりと頷いた。



先導されつつ廊下を歩く。
その道中、父から聞かされた話はこうだ。

賢王と名高い父と、正妃に似た出来のいい息子。
二人に挟まれたその男は、皇太子時代から正妃と息子に公務を丸投げし、側妃や愛人と宮にこもるのは当たり前。
その癖、皇太子という身分を傘に威張り散らし、周囲を威圧する。
跡継ぎがその男しかいなかった父王は常にその男に頭を悩ませ、なんとかその男がまともにならないかと手を尽くした。それでもダメならば王位につく時間を少しでも短く出来ないかと考えた結果、100を越える大往生で崩御するその瞬間まで、王位を譲ることはしなかったそうだ。


「しかし、いくら短い時間であろうとあれに王位は難しいのかもしれん…
王妃様や皇太子様がおられるため、政務はどうにかなるが…今回のように本人がやらねばならんことはお二人でもどうにもならん…」

父の疲れきった声と大きなため息に、クリスティーナの眉間にも皺が寄る。

「…一体何事ですの?
今から行われるのは参賀とパーティーでしょう?何も難しいことなどありませんのに…」
「それは……いや、見た方が早いだろう
あの無駄に権力を持った馬鹿を止められるのは、同じ立場に立ったお前しかいないんだ」

そう言って父は大きな扉の前で立ち止まる。
扉の横に控える騎士と一言二言言葉を交わすと、騎士によってその扉が開かれた。
そしてクリスティーナは扉の中の光景に絶句する。


「いやじゃ!なぜわしがそのような古めかしい衣装を着ねばならん!?」
「ですから、先ほどから申し上げているでしょう?こちらが王の正装なのです」
「いやじゃと申しておるじゃろう!
それにこのようにむさ苦しい男どもに囲まれてパーティーなど出とうないわ!!」
「父上、失礼なことを仰いますな。彼らは父上を守ってくださるのですよ」
「えぇい、うるさいうるさい!妃と息子の分際でそのように偉そうな口を利くな!わしは王になったのだぞ!!」

ゴテゴテとした派手な衣装を身にまとい、これまた派手な女性を侍らせて喚く太った老人
それを嗜める気品ある老婦人と紳士
王の衣装を持って困惑するメイド
同じく困惑する近衛騎士

(なんなの?これ……)

訳のわからない光景にしばし固まっていると、ぽんと肩を叩かれた
はっとして見上げると父が疲れた顔のまま小声で呟く

「先ほどからこれの繰り返しだ。王がごねて困っている…
だが、あれでも一応この空間の最高権力者であるため誰も無理に言うことを聞かせることが出来ない。
クリスティーナ、少し灸を据えてやってくれ」

そう言ってそっと背を押された。
クリスティーナはその言葉を聞き、改めて王とその回りの人間を見つめる。

王妃と皇太子、メイドが私に気がついた。
近衛騎士は流石というべきか…それよりも早く気がついたようで、すでに頭を下げている。

王だけがこちらに気づかず喚き散らしたまま。
しかも、内容がしょうもない。

(これが、私の時代の王…?
こんなしょうもない男が即位したから、私はすべてを捨てて就任したの……?)

そう思うと、頭のなかでぷつりと何かが切れる音がした。
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