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(三年前)sideロナウド
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「打首…」
少女が小さな声でつぶやき、顔を俯かせる。
純白のベールで隠され表情は見えないが、その声はわずかに掠れていた。
それを恐怖と捉えたであろう王が、勝ち誇ったように声を上げる。
「ふん!今更怯えても遅いわ!
早くこいつをつまみ出して処刑台に連れて行くのじゃ!」
飛び出た腹部と、首との境目のわからなくなった顎をそらし、高らかに命じるこの王は、この少女が何者であるかまだわかっていないのだろう。
「騎士たちよ、何をしておる!早うせい!!」
王の怒声に、後ろに控える部下達が困惑したように身じろぐ気配を感じた。
彼らが判断を誤る前に自分が動くべきだと判断した俺が脚を踏み出すのと、少女が俺に視線を向けたのはほぼ同時であった。
「!」
新緑を思わせる、煌めくエメラルドグリーンの瞳と目があい、俺は息を呑んだ。
これが、聖女様か…
一国の主となる王を引き立て、導き、時に諫める役割を担う、王と対を成す存在。
自分よりも遥かに年若い少女とは思えぬ、強い輝きから目を逸らせず見惚れていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「そこの貴方」
「!…はっ」
「今の、そこにいる、愚鈍な王のお言葉、聞きまして?」
一言づつ、わざと区切って問いかけられ、重々しく首肯する。
彼女はそれを見るとゆっくりと口角を上げた。
「私は打首らしいですわね。
さぁ、参りましょうか。処刑台まで行かずとも、参賀のバルコニーで首を跳ねてしまえばいいわ。そうすれば、この醜い豚のような男が玉座に座るのは、ほんの一瞬ですむのだから。」
聖女らしい朗らかな微笑みと明るい声音で紡がれる、言葉のギャップに室内の空気が凍る。
それを特に気にした様子もなく、彼女は行きますわよ、と俺や騎士達を促して部屋を出ようと踵を返した。
「ま、まて!小娘よ、待つのじゃ!」
王の叫ぶような静止の声に彼女は動きを止め、煩わしそうに視線を投げる。
「まだ何かございますの?」
問いかけられた王は、青ざめた顔のまま口をパクパクと開閉させていた。
「き、貴様…もしや、新たな聖女か…!?」
「ええ。それが、何か?」
「な、な…!な、無しじゃ!打ち首はなしじゃ…っ!」
王が肉の付いた首をぶるぶると激しく横に振りながら叫ぶのを、彼女は澄んだ瞳でじっと見つめる。
「前言を、撤回されますの?」
「あ、当たり前じゃ!聖女を打ち首にする王がどこにおる!馬鹿げたことを申すな!!」
「まぁ…一国の王ともあろうものが前言を撤回するなど…そんなに簡単なことではなくてよ?」
「う、うるさい!うるさい!無しと言ったらナシじゃ!!」
喚き散らす王。
引く気配を見せない聖女。
落とし所がわからず困惑する俺を含めた周囲。
混沌とした空間の終止符を打ったのはやはり彼女だった。
「お黙りなさい」
消して大きくはないのに、本能から従ってしまうような圧に満ちた声音に、王がピクリと方を揺らす。
喚きすぎたのか、ゼェゼェと息を切らす王を冷たく見据えつつ、彼女は王との距離を一歩づつ詰めていった。
「覚えておきなさい」
「お前の玉座は、全て私の手の中よ」
「無能ならば無能らしく、有能な者の言うことを聞いて傀儡に徹しなさいな」
「そうすれば、その無駄な命が自然と尽きるまでは、ハリボテの玉座は貴方のものだと約束してあげましょう」
彼女は、自らの命を立てに王を脅しているのだ。
まだ十代の少女の発言とは思えないほど恐ろしいことを言っている。
だが、そんなことは一切感じさせないほどの極上の笑みと、堂々と言葉を発した彼女の姿は、俺の心に深く刻み込まれたのだ。
少女が小さな声でつぶやき、顔を俯かせる。
純白のベールで隠され表情は見えないが、その声はわずかに掠れていた。
それを恐怖と捉えたであろう王が、勝ち誇ったように声を上げる。
「ふん!今更怯えても遅いわ!
早くこいつをつまみ出して処刑台に連れて行くのじゃ!」
飛び出た腹部と、首との境目のわからなくなった顎をそらし、高らかに命じるこの王は、この少女が何者であるかまだわかっていないのだろう。
「騎士たちよ、何をしておる!早うせい!!」
王の怒声に、後ろに控える部下達が困惑したように身じろぐ気配を感じた。
彼らが判断を誤る前に自分が動くべきだと判断した俺が脚を踏み出すのと、少女が俺に視線を向けたのはほぼ同時であった。
「!」
新緑を思わせる、煌めくエメラルドグリーンの瞳と目があい、俺は息を呑んだ。
これが、聖女様か…
一国の主となる王を引き立て、導き、時に諫める役割を担う、王と対を成す存在。
自分よりも遥かに年若い少女とは思えぬ、強い輝きから目を逸らせず見惚れていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「そこの貴方」
「!…はっ」
「今の、そこにいる、愚鈍な王のお言葉、聞きまして?」
一言づつ、わざと区切って問いかけられ、重々しく首肯する。
彼女はそれを見るとゆっくりと口角を上げた。
「私は打首らしいですわね。
さぁ、参りましょうか。処刑台まで行かずとも、参賀のバルコニーで首を跳ねてしまえばいいわ。そうすれば、この醜い豚のような男が玉座に座るのは、ほんの一瞬ですむのだから。」
聖女らしい朗らかな微笑みと明るい声音で紡がれる、言葉のギャップに室内の空気が凍る。
それを特に気にした様子もなく、彼女は行きますわよ、と俺や騎士達を促して部屋を出ようと踵を返した。
「ま、まて!小娘よ、待つのじゃ!」
王の叫ぶような静止の声に彼女は動きを止め、煩わしそうに視線を投げる。
「まだ何かございますの?」
問いかけられた王は、青ざめた顔のまま口をパクパクと開閉させていた。
「き、貴様…もしや、新たな聖女か…!?」
「ええ。それが、何か?」
「な、な…!な、無しじゃ!打ち首はなしじゃ…っ!」
王が肉の付いた首をぶるぶると激しく横に振りながら叫ぶのを、彼女は澄んだ瞳でじっと見つめる。
「前言を、撤回されますの?」
「あ、当たり前じゃ!聖女を打ち首にする王がどこにおる!馬鹿げたことを申すな!!」
「まぁ…一国の王ともあろうものが前言を撤回するなど…そんなに簡単なことではなくてよ?」
「う、うるさい!うるさい!無しと言ったらナシじゃ!!」
喚き散らす王。
引く気配を見せない聖女。
落とし所がわからず困惑する俺を含めた周囲。
混沌とした空間の終止符を打ったのはやはり彼女だった。
「お黙りなさい」
消して大きくはないのに、本能から従ってしまうような圧に満ちた声音に、王がピクリと方を揺らす。
喚きすぎたのか、ゼェゼェと息を切らす王を冷たく見据えつつ、彼女は王との距離を一歩づつ詰めていった。
「覚えておきなさい」
「お前の玉座は、全て私の手の中よ」
「無能ならば無能らしく、有能な者の言うことを聞いて傀儡に徹しなさいな」
「そうすれば、その無駄な命が自然と尽きるまでは、ハリボテの玉座は貴方のものだと約束してあげましょう」
彼女は、自らの命を立てに王を脅しているのだ。
まだ十代の少女の発言とは思えないほど恐ろしいことを言っている。
だが、そんなことは一切感じさせないほどの極上の笑みと、堂々と言葉を発した彼女の姿は、俺の心に深く刻み込まれたのだ。
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