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「お前、ホントに可愛げねーな。たまには男建てろよ」
仕方ないじゃないか。こっちは女だてらに冒険者なんてやってんだ。
お前が好みの看板娘みたいにナヨナヨしてたら既に死んでる。
「今回だって一月近く連絡すらないと思ったらいきなり家押しかけてきてさ」
ダンジョンに潜ってたんだから連絡なんて出来るわけないだろう。そんなことも分からないのか。
「あげくの果てにグチグチ言いやがって」
恋人の家に見知らぬ女物の靴やら紅やら香水やらが置いてあって尋ねないわけがないだろう。
「話し合いにもならねーじゃねーか」
話し合い?一方的に連れ出して、一方的にキレてるのはお前だろう。
「もういいわ。もう会わねーから。うちにも来んなよ」
そう言って去っていった男。
相手からしつこく言い寄られ、私が折れるようにして始まった交際は、2年の時を経てこんなに呆気なく終わってしまった。
悔しい。
たくさん言いたいことはあったのに、ひとつも口にできなかった。
怒り、哀しみ、やるせなさ。
ないまぜになった感情の制御が難しい。腹の中でもやもやしたものがうごめき、じわりと視界がゆがむ。
泣いてたまるか。あんなヤツのせいで。
ぐっと唇を噛みしめて俯いた。
「……アリア…?」
「!」
聞き慣れた低い声。弾かれたように勢いよく顔を向けると、見慣れた長身の男が困ったような笑みを浮かべて立っていた。
「ジークさん…」
声が震える。自分で思っていたより弱々しい声が出てしまい、バツが悪くて唇を噛んだ。
ジークは形のいい眉をますます下げてこちらに近寄ってくる。
「ん~…と、ゴメンね?盗み聞きするつもりとか無かったんだけど、聞こえちゃって」
「…」
「えと…俺、飯行くとこだったんだけど…飲みにでも行く?」
いえ、大丈夫です。お見苦しいものをお見せしてすみません。失礼します。
常時であればそう言って断るところだ。
でも今日は…
「あー…そんな気分じゃないかな…ゴメンね?気が利かなくて…またパーティのみんなとでも…」
「奢りなら」
誘いを引っ込めようとした言葉を遮り口を開く。
「ジークさんの奢りなら行きます。貴方も一人じゃさみしいでしょう?」
優しい彼が心配してくれているのはわかってる。気を使って誘ってくれているのも。なのにどうしても素直になれない。強がって余計な言葉をつけてしまった。
こういうところが可愛げないって言われるんだよ
変なこと言わずにありがとうございますっていえばよかった…
少しの後悔を隠すため、わざと挑むように長身の彼を見上げる。
ジークは一瞬びっくりしたように目を開き、すぐに優しく微笑んで頷いた。
「もちろん。奢るよ。」
大きな手のひらが頭に乗せられる。
ぽんぽんと宥めるように叩かれた頭。いつもなら子供扱いするなと怒るところだが、何故か声が出なかった。
「さ、行こう?俺お腹減っちゃった~」
おどけるように明るい声を出すジークに優しく背中を押されて足を動かす。
最近気に入っている居酒屋の話や、この間依頼で討伐したモンスターの話、さらにはパーティーメンバーの昔話など。特に意味のない話題をいつも通りの落ち着いた低い声がゆったりと紡いでいく。それに合わせて強張っていた気持ちが徐々に解れ、少しだけ軽くなるのを感じた。
「…っふふ、何それ。意味わかんない」
自分がパーティーに入る前のメンバーの失敗談に、思わず笑いが漏れた。くすくすと笑っていればぽんと優しく頭を叩かれる軽い衝撃。
笑みをそのままに彼を見上げて、息を呑んだ。
「…」
「…」
大通りに面した通りは騒がしいはずなのに、周囲の音が遠くに聞こえた。しばし無言で視線を交わす。徐々に顔に熱が集まる。たぶん、すでに耳まで赤くなっているのではないだろうか。
恥ずかしいのに、彼の優しい瞳から目が外せない。
「…」
先に視線を外したのは彼の方だった。
「…あ、店ついたよ。入ろ~」
「あ…はい…」
笑みの種類を、何時もの掴めない笑顔に変えたジーク。私もはっと我に返って俯き、店の扉に手をかけた彼に続く。
無意識に触れた自分の頬は、やっぱり燃えてしまうのではないかというくらいに熱かった。
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