翠の桜

満開

番外編(従妹姫の襲撃2)

とりあえず、黙っていてもどうにもならない

・・・だからと言って何を話せばいいのやら

目の前の彼女たちに気づかれないよう小さく息を吐くと、そっと私の女房が近づいてきた
耳打ちされた内容に軽く口元を上げそれを扇で隠しながら目の前の人物たちに向き合う


「こちらの二の姫様はずっと業平様をお慕いしていらっしゃいました」
「それを貴女様がいきなり御正室となられたために諦めろなどとは酷なことだと思われませんか？」


私に向かって異議を申し立てる、彼女付きの侍女たち
本人である姫様とやらは泣いているのか、袖を目元にあててうつむいて……ん？

・・・あれ、睨まれてる？
…すごい睨まれてる

うつむいて泣いているように見えた彼女はそう見せかけているだけでしっかりと私を睨みつけていた
その事に気がついて顔が引きつる

この子、せっかく雰囲気は可愛いのに性格が…
これでは業平殿が相手にしないわけだわ・・・

そんな事を考えつつも何とか表情を取り繕って口を開いた

「あなた方が私と彼との婚姻が気に入らないのはわかりました
ですが、私たちがすでに夫婦となった事実は変わりません
大体、私に文句を言ってどうなるのです？
あなた方は私になにを求めておいでなの？」

あくまでも余裕は崩さず、しかし困惑しきったように小首を傾げて訪ねると、侍女達がぐっと押し黙った

それも当たり前といえば当たり前
家の権力や立場がすべてだと言っても過言ではないこの世の中
明らかに上に位置する私に面と向かって何かを要求するなんてできるはずがない
ましてや男を譲れなど、恥知らずもいいところだ

まぁ、ある程度予想はしていたけど手応えのない方達・・・

内心呆れながらも表情には出さず、ゆっくりと言葉を続ける

「それに、私は彼に側室を置くなと言った覚えはありません
本当に彼のことをお慕いしているのならば、私のことなどお気になさらず直接おっしゃってはいかがです？」

そういいながらスッと扇で戸口の方を指し示す
そこには何とも表しがたい表情をした業平殿が立っていた