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お姉さん、僕の話を聞いてください
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★前回のあらすじ。
スラーさんしか来ていない朝の時間、僕はギルドにやって来ていた。
デッドロックさんからの借金取り立てが厳しく、上司のスラーさんに相談しに来ていたのだ。
僕は正直に心を打ち明け、スラ―さんは寛大にもお金を支払ってくれるらしい。
できるだけ一生ついて行きますと心に想い、仕事の話を始めるのだった。
今回の仕事は、ナンバーズと呼ばれる魔物の調査である。
僕はその仕事を引き受け、出社して来たデッドロックさんに、お金を返したのだった。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(ギルドで寝ている人)
★
今僕の目の前に居る女の人は、アリーア・クロフォード・ストラバスという防御職の人だ。
このギルドにおいて唯一防御専門職についているアーリアさんは、僕より年上のお姉さんである。
そんなアーリアさんのことを、僕は色々な感情を込めてお姉さんと呼んでいる。
確か今年で歳は二十一ぐらいになったと聞いたような気がする。
そのアーリアお姉さんは、ライトニングガードという珍しい職についている。
ライトニングガードとは、防御と言えば重装備とか、そんな常識を覆す職業なのだ。
手には攻撃を受け止めるグローブと、防具は小さな籠手と胸を覆うだけの鎧である。
軽い魔法程度なら、グローブで掴んで打ち消してしまうことも出来る。
盾や鎧が少ないから動きやすく、相手の動きを読み切り手で受け止めるという神業を使う。
攻撃手段はないけど、相手の武器を掴み攻撃を封じてしまえば優位に戦えるのだ。
確かレベルは二十四か五だったはずで、資料にある敵との差は殆どないだろう。
そのアーリアさんを一度誘ってさそってみようと、僕は話しかけてみる事にした。
「あのお姉さん、起きてますか?」
軽く後ろから声をかけるのだけど。
「何、今ちょっと落ち込んでいるから、後にしてくれません。私が立ち直る三ヶ月ぐらい後にしてよ」
何か良く分からないけど、今は落ち込んでいるらしい。
声にもやる気がない。
しかし三ヶ月も待っていられないので、僕はもう一度声を掛けた。
「あの、僕の頼みを聞いてくれませんか? 今日僕と一緒に外を回ってみませんか。出来れば護って欲しいんですけど」
「…………」
アーリアさんは随分と沈黙している。
まさか眠ってしまったのだろうか?
「……分かった。今日振られちゃったし、これも何かの縁なのね。私、クー・ライズ・ライトを一生護って。幸せな家庭でも作ろうと思います!」
アーリアさんガバっと立ち上がり、ギルドの中で大声を出して宣言している。
「えっ、何言ってるんですか! 僕が言ってるのは仕事で護ってくださいって言ってるだけですよ。お姉さん、僕の話をちゃんと聞いてください!」
このまま流されたらえらい事になると、僕も大声で否定する。
「お姉さんじゃ嫌? 私じゃ駄目なの?!」
甘えた声を出すアーリアさんだけど、これに乗ってはいけない。
アーリアさんには色々問題が多いのだ。
「お姉さんは綺麗かもしれませんけど、僕は今仕事の話をしているんです!」
「綺麗ならいいじゃない、私を幸せにしてよ!」
そう、はたから見ていてもお姉さんは綺麗な人だ。
しかし、このギルドの中でもお姉さんと付き合った人はいるのだけど、誰も上手くいった試しがない。
付き合った男の人は秒単位で管理され、トイレの中に入ってまで数を数えるぐらいのことはされると噂になっている。
食事の食べる順番や、体の洗う順番さえ言ってきて、間違えたら正座させられて怒られてしまうのだ。
一切の自由はなくなり、三日もったら勇者と呼ばれるほどだろう。
職業的に相手の動きを管理したいというのがあるのかも知れないけど、僕はそんな事にはなりたくはない。
「お姉さん、僕は駄目ですけど、仕事が終わったら一人紹介してあげてもいいですよ」
このところギルドに入った、デッドロックさんのことである。
まだ入って間もないから、あの人はアーリアさんの噂を知らないはずだ。
「お姉さんはその仕事受けようと思います。もし駄目だったらクーちゃんが私の恋人になってね」
一人の犠牲者が出るかもしれないけど、アーリアさんはやる気を出した。
「え~っと、嫌です」
「いけずなんだから。お姉さん何時までも待ってるぞ」
僕はキッパリ断るも、アーリアさんは待ち続けるのかもしれない。
まあ三人そろったから良いかなと思った僕は、移動の仕度を始める。
自分の机から道具を引っ張り出し、必要な資料をリュックに入れ、足りない物はギルドの備品から借りて準備を済ませた。
万端の準備を終えた僕は、待っていたファラさんを呼び寄せる。
そしてアーリアお姉さんを加えた僕達は、南にある街道への道を進んで行く。
「あ、そっちに行きましたよファラさん」
三体のゴブリンがファラさんに向かって行ったり。
「見れば分かるわ。三体ぐらい一人でもやれるわよ」
「あらあらそう言わずに、お姉さんが手伝ってあげるわよ」
アーリアさんが防御しファラさんが敵を倒したりと、そんな準備運動がてら魔物との戦闘を繰り返している。
たまにお喋りとかして歩いて行くと、僕達は広い森の入り口にまで到着した。
森と言っても、きちんとした真っ直ぐの道が伸びているので、基本的に迷うことはない。
街道沿いを進むだけだから、森の中に入る必要もない。
前に続いている道は、大型の馬車が一台通れるぐらいの幅だが、二台通るのは不可能だろう。
道の逆からの馬車とかち合ってしまえば、戻らざるを得ない広さだ。
そんな時には荷台の積み替えが行われて、そのまま引き返すこともあるという。
「ふう、やっと到着しましたね。このまま道を進んで、ナンバーズが出るのを待ちましょうか」
少しだけ警戒を強めた僕は、このまま進むことを提案した。
「ク―ちゃんは好きなように進みなさいな。どんな状態でもお姉さんが護ってあげるわね」
アーリアさんは防御に自信があるようで、僕は少し安心している。
「じゃあ私は敵の警戒しとくから、一番前を進むわよ」
僕が返事をする前に、ファラさんが前方に進んで行く。
「あ、はい。お二人共お任せしますね」
僕達は道を進み出したのだけど、今の所凄く平穏な時間が続いている。
このまま進んだら普通に町に到着してしまうんじゃないかと、妙な心配をしてしまう。
ここに魔物が居ることさえも忘れさせるほどだ。
まあ魔物も必ず出現するわけではないので、こんな事もあるのかもしれない。
そんな状況は森の出口付近にまで続くのだけど。
「クー、前に何かあるわよ」
「え、何ですか?」
ファラさんが前を指さし、それが少しずつ見えて来る。
横倒しになって車輪を向けている物は、きっとこの道を進んで来た馬車なのだろう。
道を塞ぎ、他の馬車が来ても通れそうもない。
「うあ、これは大変じゃないですか。二人共、怪我人が居ないか確認しましょう」
僕は馬車へ向かおうとするのだけど。
「お姉さんが思うに、慌てるのは早いんじゃない? 馬車を見て見なさいな。馬は無いし、人の声も聞こえないわよ。もう誰も居ないんじゃないかしら?」
キッチリしているこのアーリアさんは、色々観察して判断していた。
ちょっと困った人ではあるけど、戦闘に関してはそれなりに冷静に対応してくれるのが救いである。
「簡単にどかせそうにないってことは、むしろあの辺りが危険だわ。罠が張られているんじゃないの? クーは迂闊にとび込んだら駄目よ」
「はい、そうします」
僕はファラさんの言うことを聞き、慌てないように気を静める。
もし敵の罠があるとしたら、測量士の僕には何も出来ることはない。
兎に角今できることをしようと、僕測量士としての戦いを始める。
この場所から陣地を創り出そうと、僕は二人の護衛を連れて少し森の中に踏み入り、道の両側に一本ずつ鉄棒を地面に突き立てた。
「ふう、これで二本。じゃあ進んでみましょうか。どのみち調査なので敵が出て来てくれないと困りますから」
四つの棒使い陣地を作る、それが測量士としての最初の役割だ。
「じゃあ私はこのまま進むわ」
「あら、お姉さんが先頭になってもいいのよ?」
「いらないわ。あんたはクーの身でも案じてなさい」
前衛の二人は、頼もしく僕を護衛してくれている。
この二人なら大丈夫だと安心している僕は、ひっくり返った馬車の前にやって来た。
「……別に何も起こらないけど、敵は休憩中なのかしら?」
ファラさんが剣で馬車を突っついたりしている。
「何にもないとは予想外ですけど、とりあえず結界を作ってから馬車の中とか調べてみましょうか」
「じゃあお姉さんが付き添ってあげるわね。どうせだったら明日の朝まで……」
「それは遠慮しておきます。お姉さんには一人紹介するって言ったでしょ」
「もう、お姉さんはクーちゃんでもいいのよ?」
お姉さんは僕を誘惑しようとしてくるけど、僕はその手には乗らない。
「あんた達、私が真剣にやってんだから遊んでるんじゃないわよ! これ以上やってるならぶった斬ってやるからね!」
ファラさんは、変な魔物を相手にするより怖い殺気を放ち、僕に向かって剣の先を向けて来ている。
「ごめんなさい、ちゃんとやります」
僕はファラさんに素直に謝って結界を設置した。
それから馬車を調べるのだけど、荷物はそのままにされていて、中に人が死んでいるということもなさそうだ。
魔物に襲われて逃げたのだろう。
というか今も追い駆けられてるからここに魔物が居なかったり?
まあ結界を作ってしまったし、もうちょっと待ってみよう。
そう思ってずっと待っているのだけど、一時間経っても二時間経っても何にも襲い掛かってはこなかった。
もう日が暮れそうで引き上げようか迷ったのだけど、影に隠れる魔物にとっては夜の時間の方が出やすいだろう。
「ふう、もう出ないんじゃないかな。帰りましょうか?」
だからと言ってそれは僕のやる気とは比例しない。
時間が経つ度に僕のやる気がドンドン落ちて行っている。
「あんたが受けたんでしょうが。もうちょっと頑張りなさいよ。これじゃあ何の為に来たのか分からないじゃないの」
ファラさんが怒って、僕に掴み掛って来ようとしている。
「いや、でも来ないし」
「え……まさかクーちゃんったら、暗がりにお姉さんを連れ込みたいから嘘をついて?!」
アーリアさんは何かを勘違いしているようだ。
「全然違いますよ。僕は普通に仕事を受けただけですからね」
「ハッ、クーちゃん危ない!」
僕はちょっと背伸びをしようと腕を伸ばすのだけど、その攻撃は予想もしなかった馬車の影の中から伸びて来ていた。
しかし攻撃を見極めたアーリアさんが、僕を護って敵の攻撃を手で受け止めている。
まさか今まで僕達の油断を待っていたのだろうか?
随分と臆病な魔物である。
スラーさんしか来ていない朝の時間、僕はギルドにやって来ていた。
デッドロックさんからの借金取り立てが厳しく、上司のスラーさんに相談しに来ていたのだ。
僕は正直に心を打ち明け、スラ―さんは寛大にもお金を支払ってくれるらしい。
できるだけ一生ついて行きますと心に想い、仕事の話を始めるのだった。
今回の仕事は、ナンバーズと呼ばれる魔物の調査である。
僕はその仕事を引き受け、出社して来たデッドロックさんに、お金を返したのだった。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
アリーア・クロフォード・ストラバス(ギルドで寝ている人)
★
今僕の目の前に居る女の人は、アリーア・クロフォード・ストラバスという防御職の人だ。
このギルドにおいて唯一防御専門職についているアーリアさんは、僕より年上のお姉さんである。
そんなアーリアさんのことを、僕は色々な感情を込めてお姉さんと呼んでいる。
確か今年で歳は二十一ぐらいになったと聞いたような気がする。
そのアーリアお姉さんは、ライトニングガードという珍しい職についている。
ライトニングガードとは、防御と言えば重装備とか、そんな常識を覆す職業なのだ。
手には攻撃を受け止めるグローブと、防具は小さな籠手と胸を覆うだけの鎧である。
軽い魔法程度なら、グローブで掴んで打ち消してしまうことも出来る。
盾や鎧が少ないから動きやすく、相手の動きを読み切り手で受け止めるという神業を使う。
攻撃手段はないけど、相手の武器を掴み攻撃を封じてしまえば優位に戦えるのだ。
確かレベルは二十四か五だったはずで、資料にある敵との差は殆どないだろう。
そのアーリアさんを一度誘ってさそってみようと、僕は話しかけてみる事にした。
「あのお姉さん、起きてますか?」
軽く後ろから声をかけるのだけど。
「何、今ちょっと落ち込んでいるから、後にしてくれません。私が立ち直る三ヶ月ぐらい後にしてよ」
何か良く分からないけど、今は落ち込んでいるらしい。
声にもやる気がない。
しかし三ヶ月も待っていられないので、僕はもう一度声を掛けた。
「あの、僕の頼みを聞いてくれませんか? 今日僕と一緒に外を回ってみませんか。出来れば護って欲しいんですけど」
「…………」
アーリアさんは随分と沈黙している。
まさか眠ってしまったのだろうか?
「……分かった。今日振られちゃったし、これも何かの縁なのね。私、クー・ライズ・ライトを一生護って。幸せな家庭でも作ろうと思います!」
アーリアさんガバっと立ち上がり、ギルドの中で大声を出して宣言している。
「えっ、何言ってるんですか! 僕が言ってるのは仕事で護ってくださいって言ってるだけですよ。お姉さん、僕の話をちゃんと聞いてください!」
このまま流されたらえらい事になると、僕も大声で否定する。
「お姉さんじゃ嫌? 私じゃ駄目なの?!」
甘えた声を出すアーリアさんだけど、これに乗ってはいけない。
アーリアさんには色々問題が多いのだ。
「お姉さんは綺麗かもしれませんけど、僕は今仕事の話をしているんです!」
「綺麗ならいいじゃない、私を幸せにしてよ!」
そう、はたから見ていてもお姉さんは綺麗な人だ。
しかし、このギルドの中でもお姉さんと付き合った人はいるのだけど、誰も上手くいった試しがない。
付き合った男の人は秒単位で管理され、トイレの中に入ってまで数を数えるぐらいのことはされると噂になっている。
食事の食べる順番や、体の洗う順番さえ言ってきて、間違えたら正座させられて怒られてしまうのだ。
一切の自由はなくなり、三日もったら勇者と呼ばれるほどだろう。
職業的に相手の動きを管理したいというのがあるのかも知れないけど、僕はそんな事にはなりたくはない。
「お姉さん、僕は駄目ですけど、仕事が終わったら一人紹介してあげてもいいですよ」
このところギルドに入った、デッドロックさんのことである。
まだ入って間もないから、あの人はアーリアさんの噂を知らないはずだ。
「お姉さんはその仕事受けようと思います。もし駄目だったらクーちゃんが私の恋人になってね」
一人の犠牲者が出るかもしれないけど、アーリアさんはやる気を出した。
「え~っと、嫌です」
「いけずなんだから。お姉さん何時までも待ってるぞ」
僕はキッパリ断るも、アーリアさんは待ち続けるのかもしれない。
まあ三人そろったから良いかなと思った僕は、移動の仕度を始める。
自分の机から道具を引っ張り出し、必要な資料をリュックに入れ、足りない物はギルドの備品から借りて準備を済ませた。
万端の準備を終えた僕は、待っていたファラさんを呼び寄せる。
そしてアーリアお姉さんを加えた僕達は、南にある街道への道を進んで行く。
「あ、そっちに行きましたよファラさん」
三体のゴブリンがファラさんに向かって行ったり。
「見れば分かるわ。三体ぐらい一人でもやれるわよ」
「あらあらそう言わずに、お姉さんが手伝ってあげるわよ」
アーリアさんが防御しファラさんが敵を倒したりと、そんな準備運動がてら魔物との戦闘を繰り返している。
たまにお喋りとかして歩いて行くと、僕達は広い森の入り口にまで到着した。
森と言っても、きちんとした真っ直ぐの道が伸びているので、基本的に迷うことはない。
街道沿いを進むだけだから、森の中に入る必要もない。
前に続いている道は、大型の馬車が一台通れるぐらいの幅だが、二台通るのは不可能だろう。
道の逆からの馬車とかち合ってしまえば、戻らざるを得ない広さだ。
そんな時には荷台の積み替えが行われて、そのまま引き返すこともあるという。
「ふう、やっと到着しましたね。このまま道を進んで、ナンバーズが出るのを待ちましょうか」
少しだけ警戒を強めた僕は、このまま進むことを提案した。
「ク―ちゃんは好きなように進みなさいな。どんな状態でもお姉さんが護ってあげるわね」
アーリアさんは防御に自信があるようで、僕は少し安心している。
「じゃあ私は敵の警戒しとくから、一番前を進むわよ」
僕が返事をする前に、ファラさんが前方に進んで行く。
「あ、はい。お二人共お任せしますね」
僕達は道を進み出したのだけど、今の所凄く平穏な時間が続いている。
このまま進んだら普通に町に到着してしまうんじゃないかと、妙な心配をしてしまう。
ここに魔物が居ることさえも忘れさせるほどだ。
まあ魔物も必ず出現するわけではないので、こんな事もあるのかもしれない。
そんな状況は森の出口付近にまで続くのだけど。
「クー、前に何かあるわよ」
「え、何ですか?」
ファラさんが前を指さし、それが少しずつ見えて来る。
横倒しになって車輪を向けている物は、きっとこの道を進んで来た馬車なのだろう。
道を塞ぎ、他の馬車が来ても通れそうもない。
「うあ、これは大変じゃないですか。二人共、怪我人が居ないか確認しましょう」
僕は馬車へ向かおうとするのだけど。
「お姉さんが思うに、慌てるのは早いんじゃない? 馬車を見て見なさいな。馬は無いし、人の声も聞こえないわよ。もう誰も居ないんじゃないかしら?」
キッチリしているこのアーリアさんは、色々観察して判断していた。
ちょっと困った人ではあるけど、戦闘に関してはそれなりに冷静に対応してくれるのが救いである。
「簡単にどかせそうにないってことは、むしろあの辺りが危険だわ。罠が張られているんじゃないの? クーは迂闊にとび込んだら駄目よ」
「はい、そうします」
僕はファラさんの言うことを聞き、慌てないように気を静める。
もし敵の罠があるとしたら、測量士の僕には何も出来ることはない。
兎に角今できることをしようと、僕測量士としての戦いを始める。
この場所から陣地を創り出そうと、僕は二人の護衛を連れて少し森の中に踏み入り、道の両側に一本ずつ鉄棒を地面に突き立てた。
「ふう、これで二本。じゃあ進んでみましょうか。どのみち調査なので敵が出て来てくれないと困りますから」
四つの棒使い陣地を作る、それが測量士としての最初の役割だ。
「じゃあ私はこのまま進むわ」
「あら、お姉さんが先頭になってもいいのよ?」
「いらないわ。あんたはクーの身でも案じてなさい」
前衛の二人は、頼もしく僕を護衛してくれている。
この二人なら大丈夫だと安心している僕は、ひっくり返った馬車の前にやって来た。
「……別に何も起こらないけど、敵は休憩中なのかしら?」
ファラさんが剣で馬車を突っついたりしている。
「何にもないとは予想外ですけど、とりあえず結界を作ってから馬車の中とか調べてみましょうか」
「じゃあお姉さんが付き添ってあげるわね。どうせだったら明日の朝まで……」
「それは遠慮しておきます。お姉さんには一人紹介するって言ったでしょ」
「もう、お姉さんはクーちゃんでもいいのよ?」
お姉さんは僕を誘惑しようとしてくるけど、僕はその手には乗らない。
「あんた達、私が真剣にやってんだから遊んでるんじゃないわよ! これ以上やってるならぶった斬ってやるからね!」
ファラさんは、変な魔物を相手にするより怖い殺気を放ち、僕に向かって剣の先を向けて来ている。
「ごめんなさい、ちゃんとやります」
僕はファラさんに素直に謝って結界を設置した。
それから馬車を調べるのだけど、荷物はそのままにされていて、中に人が死んでいるということもなさそうだ。
魔物に襲われて逃げたのだろう。
というか今も追い駆けられてるからここに魔物が居なかったり?
まあ結界を作ってしまったし、もうちょっと待ってみよう。
そう思ってずっと待っているのだけど、一時間経っても二時間経っても何にも襲い掛かってはこなかった。
もう日が暮れそうで引き上げようか迷ったのだけど、影に隠れる魔物にとっては夜の時間の方が出やすいだろう。
「ふう、もう出ないんじゃないかな。帰りましょうか?」
だからと言ってそれは僕のやる気とは比例しない。
時間が経つ度に僕のやる気がドンドン落ちて行っている。
「あんたが受けたんでしょうが。もうちょっと頑張りなさいよ。これじゃあ何の為に来たのか分からないじゃないの」
ファラさんが怒って、僕に掴み掛って来ようとしている。
「いや、でも来ないし」
「え……まさかクーちゃんったら、暗がりにお姉さんを連れ込みたいから嘘をついて?!」
アーリアさんは何かを勘違いしているようだ。
「全然違いますよ。僕は普通に仕事を受けただけですからね」
「ハッ、クーちゃん危ない!」
僕はちょっと背伸びをしようと腕を伸ばすのだけど、その攻撃は予想もしなかった馬車の影の中から伸びて来ていた。
しかし攻撃を見極めたアーリアさんが、僕を護って敵の攻撃を手で受け止めている。
まさか今まで僕達の油断を待っていたのだろうか?
随分と臆病な魔物である。
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