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善意天逆 果て無く黒
三年前に出会ったフェイという人物に技術を渡すのだけど、また最近現れて手を貸せと脅されている。もう普通に暮らしたいジョージ
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★前回のちょっとしたあらすじ。
南の屋敷あとに向かった僕達だけど、道中の敵との戦いに苦戦しまくっている。
それでも何とか屋敷あとに到着し、僕達は結界を作り出した。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)
★
ちなみにキャンドルリザードの資料はというと。
名前 :キャンドルリザード
レベル:22
HP :180
MP :50
力 :85
速 :88
大 :200
危険度:3
技 :全速体当たり。咬み付き。幻熱の吐息。
考察 :背に炎が揺らめくトカゲ。
近づかなければ襲い掛かって来ない為に、危険度はそれほど高くない。
敵を見つけると背に炎が現れるが、幻影の様な物で熱くはない。
思った以上に素早く、油断していると一瞬で噛みつかれる。
素早く動く巨体に体当たりされれば、
人の体なんて簡単に吹き飛ばされてしまう。
口からは、幻熱の吐息と言われる熱い吐息を吐き出す。
炎というよりは、赤色のモヤのような物を飛ばす。
それに触ると、皮膚がただれて火傷状態になる。
トカゲの形状を考えれば分かるが、弱点は背面だ。
注意:キャンドルリザードが居る場所にはグリフォンが存在する。
得物にしているようだ。
僕達は何度か魔物に邪魔されながらも、結界を作り出し、グリフォンが居ない場所で退治できそうなキャンドルリザードを探しているのだけど。
「なかなか居ないですね」
僕達が探しても全然見つからないのである。
「兄ちゃん、もうちょっと移動してみようよ。たぶんあのデッカイ鳥が居る場所じゃないと居ないんだよ」
グリスが言うように、やっぱりキャンドルリザードが居ないからグリフォンが存在しないんだろう。
逆に言えば、グリフォンが居ればキャンドルリザードもどこかに居るといえる。
「お兄さん、これじゃあ何時まで経っても終われないよ」
リューナの言う通り、ここで待っていても時間が過ぎて行くだけだ。
やっぱり危険を冒してもグリフォンが居る場所を捜すべきだろう。
「う~ん、そうですね、じゃあ場所を移動してみましょう。その代わり、何かあったら直ぐに知らせてくださいよ」
僕は移動を宣言し。
「「は~い!」」
二人もそれに同意した。
「……結界の内なる炎よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」
とりあえず僕は移動する前に、魔法を唱えて結界の力を発動させる。
魔法の時間制限は無いから何時でも炎の力が変換されるだろう。
そしてキャンドルリザードが居る場所へ向かった僕達は、三体の群れを発見した。
上空にはグリフォンが旋回し、キャンドルリザードは何時でも逃げられるようにと屋敷の残骸を巣穴にしている。
そう、まだ残骸は残されたままなのだ。
ギルドでは片付ける費用は出ないし、造ったフェイさんは片付けてもくれないから、もうずっとこのままだろう。
「あっ、兄ちゃん、こっちに入れるところがあるぜ。ほら、ここ」
グリスは、壊れた屋敷の中へ入れる場所を見つけたらしい。
「おっ、本当だ」
どうやら僕でも入れそうな広さがある。
確かに内部に侵入した方がグリフォンに邪魔されずに済むけど。
「でも中に入っても大丈夫ですかねぇ?」
それはそれで逃げ場が無くなるのだよね。
「グリス、ここから行こう」
「分かったぜリューナ。兄ちゃん、俺っち先行くぜ。早くしろよな」
って僕が悩んでいる間に二人は中に入ろうとしていた。
「ちょっと、勝手に行かないでください!」
僕は二人を追い掛けて、壊れた屋敷の中へ入って行く。
「ぐおお、せまい!」
頑張って通り抜けると、まだ崩れていない空間に出た。
壊れた屋敷の中は、廃材が積み重なって一応立つことが出来るようだ。
しかしこれでは二階部分に行くことは出来ないだろう。
あるのは入れそうな部屋が三つで、そこは扉が壊れて入れそうではある。
「兄ちゃん、あの部屋に入ってみよう」
グリスが一番近くの部屋の中に入って行こうとしている。
「早く早く!」
続いてリューナも同様に、部屋の中へ。
敵とのレベル差が大きいのに、何故あんな簡単に入って行けるのか。
「ちょっとちょっと、危ないですから先に行かないでください!」
僕も二人を追い掛け部屋の中へ入って行く。
その部屋の中に、キャンドルリザードは見つかった。
ただし。
「な、数が多いですね……」
この部屋の壁や天井には、六体のキャンドルリザードが蠢いていた。
「よし、リューナ、やるぜ!」
物凄いやる気を出しているグリスと。
「ええ、グリス。先制攻撃よ! ファイ……」
もう攻撃をしようとしているリューナ。
「どわあああああああああ!」
僕は急いでリューナの口を塞ぎ、飛び出して行こうとするグリスを引っつかまえる。
「どは、ぶふぁ!」
そのまま部屋から引きづり出し、ギリギリのところで止められた。
「兄ちゃん、なんで止めるんだよ! 俺っちが折角見つけたのに!」
「お兄さん、まさかあたし達の邪魔する為について来たの!?」
しかし自分がやれると思い込んでいる二人は、すごく怒っている。
僕が居なかったら、命が幾つあっても足りなかっただろう。
「何でそうなるのか分かりませんけど、もうちょっとレベル差ってのを考えてください。まだ他の部屋もあるんですから、一度確かめてから、数の少ないところに行きましょうよ」
僕は、そう提案した。
「兄ちゃん、俺っち達の実力を舐めてるな? あのぐらいズババーンとやっつけれるんだぜ!」
グリス君はそう言っているが、どう考えてもそれはない。
「お兄さん、あたしの魔法は全てを焼き払うのよ!」
確かに炎の魔法を使えば、キャンドルリザードはおろか、この屋敷ごと全てが灰となるだろう。
んん?
「ああ、そうだ。別に僕達が戦わなくても、巣穴ごと燃やしちゃえばいいんじゃないですか? 倒しちゃうのは変わりないんですから。ほら、ギルド員の僕が居るんですから、証拠とかも要りませんし」
僕は一番楽な方法を選択したのだが。
「兄ちゃん、それは卑怯すぎる。絶対駄目だろう! 俺っちに経験値が入らないんだぜ!?」
「そうよお兄さん、そんなことまでして倒して嬉しいっていうの!? 反省して! あたしに経験値が入らないのよ!?」
二人にはそう言われてしまった。
しかし経験値が入ればいいのだろうか?
まあ言い合いをしていてもしょうがないし、隣の部屋に入ってみることにした。
そして入った部屋の中には、三体のキャンドルリザード存在している。
僕達に警戒してこちらを向いているようだ。
「やった、敵は半分に減ってるよ。俺っち達ならこれでいける! じゃあ行くぜ、たああああ!」
グリス君は剣を引き抜き走り出した。
「行けませんって!」
グリス君が敵の数を見て行こうとするが、当然僕は引き止める。
しかし、どうやらもう一人の方も暴走しているようだ。
「ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ!」
僕が気付いた時には攻撃魔法をぶっ放し、一体だけならまだしも三体全部に直撃させたのだ。
一体何故こんな時だけ当たるのか。
魔法を直撃されたトカゲは、瞳が攻撃体勢に入り、背中に炎が揺らぎ始めた。
「に、逃げますよおおおおお!」
僕は即座に撤退を決め、襟首を引っ掴んだ。
「に、兄ちゃん苦しい……」
「い、息が……」
「本当に死にますから、ちょっとだけ我慢してください!」
僕は二人を引きずって入り口に逃げたのだけど、全力で走ってもキャンドルリザードに追いつかれそうである。
仕方ないから掴んでいる二人を入り口に放り投げ、床を滑るように穴を通り抜けさせた。
あとは僕だけだと、四つん這いになって穴に入ろうとするが。
「ぬおおおおおおおおおおおお!」
キャンドルリザードは僕の尻に向かって体当たりを決行したらしい。
四つん這いのまま弾き飛ばされ、穴の中を見事通過したのだった。
僕達を追い掛けて来たキャンドルリザードだけど、一体目はグリフォンに攫われてしまう。
残りの二体は僕達を残して穴に引き返して行った。
★
★閑話タイトル。最近は一杯のお茶にハマって家に引きこもりがちのジョージ。のんびりしたいと考えるも、どうも周りがそうさせてはくれないようだ。
★
「ふぅ、あのグリフォンに感謝しないですね」
僕は空を回っているグリフォンの一体に手をふった。
「兄ちゃん、これじゃあ経験値が……薬代が稼げないじゃないか!」
「そうよ、けい……薬代が稼げないわ!」
何だろうか、この言い分だと経験値の方が欲しいように聞こえる。
薬が欲しいというのは嘘だったのか?
「あの、じつは経験値目的だったりします?」
僕は一応聞いてみた。
それならそれでも別に構わない。
むしろ安全な相手を選んで戦えばいいし、その方がやり易いのだけど。
「「ちがうちがう」」
二人は首を振って否定している。
経験値も欲しいけど、薬代も欲しいという所だろう。
まさかファラさんが仕組んで?
「とにかく、他のグリフォンはまだ居ますから、続けていればそのうち一体のが出て来るでしょう。僕達はそれを狙いますよ」
僕はそう宣言したけど。
「俺っちそんなやり方はあんまり好きくないなぁ……」
「正面から行かないと冒険者じゃないわ!」
っと二人は乗り気じゃないらしい。
冒険者を物語の勇者みたいに見ているのだろうか?
でもそれはあまり良いことじゃない。
冒険者で戦って生き残るためには、小手先の技術が必要なのだ。
まあ敵のレベルにもよるけど、正面からドーンと倒せる人なんて、片手で数えるほども居ないのである。
だからこそギルドは戦闘職業作ったり、レベルシステムを作ったのだ。
……あれ、まさか僕を同行させたのって、この子達の教育の為だったり?
しかし。
「じゃあ俺っちが行って来る。兄ちゃんとリューナは待ってろよ! 一人で大丈夫だから!」
「何言ってんんの! グリスとお兄さんは待っていて! あたし一人で充分だから!」
こんな状態の二人を教育なんてできそうもない。
どうせ一人で行かせたら、自分一人で倒せるぜって感じになるのだろう。
でも僕が行って、二人を残すのも心配だ。
「いえ、ここは三人で行きましょう」
僕は結局、三人行動が一番良いと判断した。
「ブーブー!」
「お兄さんのけちいいい!」
という訳で、嫌がる二人と一緒にまた屋敷の中へ入ったのだけど、通路には丁度よく一体のキャンドルリザードが残っていた。
たぶん逃げ帰った二体の内の一体だろう。
こちらを警戒しているが襲い掛かっては来ないようだ。
「兄ちゃん、まさか止めないよな!」
やる気充分のグリス君は、剣をキャンドルリザードに向けている。
「あたしの魔法が火を噴くわよ!」
リューナさんもやる気を見せている。
でもここまでいきなり魔法を使うことが多かったのだけど、今回魔法を使わなかったのだ。
もしかして、残りの魔力が少ないんじゃないだろうか?
「リューナさん、ちゃんと魔力は残ってますよね?」
僕は一応聞いてみたのだが。
「お兄さん、それは女の子の秘密よ?」
リューナさんはテヘっと舌を出し、ウィンクしている。
つまり魔力が無いのだろう。
これで一人使えなくなってしまったのだけど、元から使えなかったので問題は皆無である。
「じゃあ魔力が回復するまで大人しくしていてください。チャンスがあれば撃っていいですから。その代わり、僕達には当てないでくださいね」
むしろ背中から撃たれなくて、戦いやすくなった感じがしなくもない。
「うん、任せて!」
そんなスッキリ爽やかさを感じさせる僕の言葉に、リューナさんは元気に返事をした。
「じゃあ行きましょうかグリス君、無理はしないでくださいね」
僕はグリス君に声をかけた。
「おう!」
その声に返事をしたグリス君は、キャンドルリザードに向かってもう走っていた。
だから僕は。
「頑張れー」
っと応援したのだ。
だって今の僕は、武器もなくて役に立たないのである。
戦う為には相手の能力待ちなのだ。
しかしグリス君は一人でも躊躇わない。
すでに動き出したキャンドルリザードに攻撃を仕掛けている。
「てええええい! この、この!」
グリス君は、意外と上手く攻撃を当てているが、レベル差が大きすぎてダメージを与えられていない。
ダメージを与えられていないとはいえ、攻撃しているというのは事実。
怒ったキャンドルリザードに、反撃とばかりに大きく口を開けられ剣先をパクッと食われた。
「はなせえええええ!」
グリス君は蹴りつけたりして、剣を引っこ抜こうとしているのだけど、その力は歴然だ。
「ほわああああああああああ!」
剣を手放さないから体ごと振り回されて、ポーンと剣を放り投げられた。
最後まで剣を手放さなかったのは偉い……のかなぁ?
「この程度、俺には効かないんだぜ!」
床に突っ伏しながら言ってるグリス君の、根性だけは認めてあげたい。
まあ無事なのはいいのだけど、それに追い打ちをかけるように、キャンドルリザードは強烈な体当たりを決行している。
さっきの攻撃とも呼べない投げ飛ばしとは違い、今回は本物の攻撃だ。
子供がぶつかられたら最悪は……。
「リューナさん今です! 全力で撃ちまくってください!」
「了解よお兄さん! 必殺のおおおおお、ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ……ふぅ、ふぅ、ふぅ」
リューナさんの炎の魔法は、キャンドルリザードに全弾直撃した。
その熱さに顔を背け、体当たりは失敗したようだ。
グリス君の横を通り抜けて行く。
しかしリューネさん、本来は結構命中率がいいのかもしれない。
ってことは、やっぱり背中を狙ったのはワザとか!?
★
★閑話タイトル。魔王とジョージ、その存在が同一なのかは世界の謎である。もし本物であるならば、延々と冒険者やギルドに追われるだろう。
★
キャンドルリザードに幻熱の吐息を使わせたいところだけど、やはりここは二人の能力値を奪って強化を?
しかしそれをしたら、二人の力は幼児並みになるだろう。
それで戦えと言っても無謀だし、勝手に突っ込まれても困ってしまう。
でも、このまま待ち続けるのが正しいのかも分からない。
結局は運しだいである。
「俺っちが倒してやる。さあ来い!」
グリス君は、壁をはい回るキャンドルリザードに自分の剣を向けている。
しかし何度やってもダメージはないだろう。
「グリス、もうすぐ一回撃てるからちょっと待ってて!」
リューナさんは、魔力が回復するまで待機している。
こちらの魔力が回復したとしても、ダメージ元には程遠い。
やはり使うしかないだろう。
「……結界の内にいる仲間の値を集めよ。アディション・フィールド!」
僕は魔法を切り替えた。
奪うのは、なるべく影響が少なそうなものがいい。
速さを奪うのは攻撃が避けられなくなるから問題外。
「たああああ!」
グリス君は剣を振り下ろすが、キャンドルリザードの硬い鱗には通用しない。
どうせダメージが与えられないから、その力を奪うとしよう。
しかし、四十増えただけでは僕が力負けしてしまう。
他のものを奪うにしても、体力値を奪うのはグリス君を殺しかねない。
ここはリューナさんに我慢してもらって魔力値を奪うとしよう。
やはりもう一つ何かを奪わなければ。
「決めた! 僕が奪うのは力と、魔力値、それに知能です! さあ、結界の内なる数値よ、疾く現れよ!」
僕はパンと手を叩き、数値を見ることなく走り出した。
「うっ、なんか気持ち悪い」
「あぅ、お兄さん何かしたの?」
ほどなく二人の数値が奪われ、何かが落ちる音が聞こえた。
僕は二十を速度へ、あとは力の値へと変換させる。
「僕が相手をしてあげます!」
僕は手を前にして、キャンドルリザードの前に立ちはだかった。
すでに突進を行っていて、高速で迫って来てる。
「兄ちゃん危ない!」
「お兄さん!」
グリスとリューナの心配そうな声。
しかし今の僕ならば!
「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ!」
その強烈な突進を、床に足を滑らせながら受け止めきった。
相手に行動をさせまいと、両の手で大きな口を押さえこむ。
「うにににににににににににににににに!」
更に力を込めて、引っこ抜くようにキャンドルリザードの巨体を持ち上げた。
僕はそのまま投げようとするのだけど。
「おっとっと……」
そこまでの力はないようで、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。
いわゆるバックドロップの状態だけど、僕が出来る訳も無い。
「ぐおおおおおおおおお!?」
後頭部を打ち付けて、床をゴロゴロと転がっていた。
思わず手を放してしまったが、相手もフラフラしているようである。
「今だ、たああああああああ!」
グリス君は、腹を見せて悶えるキャンドルリザードに、剣を振り下ろそうとしているようだ。
しかし、力を奪ってしまった今のグリス君では、柔らかい腹であっても。
「お、お腹もかたい」
硬くないお腹に、ボヨンと弾き返されてしまっている。
「何で魔法が出ないの!? 何で!? 何でぇ!?」
そして魔力値を奪ったリューナさんは、魔法が出ないことに戸惑っている。
どうやら僕の奪う能力は、キッチリ二十になるまで奪い続けるらしい。
時間と共に落ちた数字が増えて行ってる。
そんなこんなで遊んでいる間に、キャンドルリザードは手足をバタつかせ、体を元の状態に戻してしまった。
僕もなんとか立ち上がって、構えを取るが。
「あっ、逃げたし」
キャンドルリザードは脱兎のごとく逃げ出した。
どう考えても追いつけないので、行先だけを確認している。
「あ~! あたしの経験値! 経験値ほしいのにー!」
「何してるんだ兄ちゃん、折角のチャンスだったのに! 経験値が逃げたじゃないか! 早く追い駆けよう!」
知能を奪った為か、もう隠すこともしていない。
しかもキャンドルリザードが入った場所とは違う場所へ行こうとしている。
知能を奪ったのは失敗だったのかも知れない。
「ちょっと、そっちじゃないですって。入ったのは二つ目の……話を聞いてください!」
僕は二人を追い掛け、一番奥の部屋へ向かった。
「いたああああ! 俺っちがぶっ倒してやるううう!」
「あたしの魔法で! ファイヤ!」
この部屋の中には、たった一体の魔物が存在している。
その魔物を相手に、二人は攻撃を続けているようだ。
でもそれは、明らかにキャンドルリザードではあり得ない。
体の大きさは倍ぐらに巨大で、体には青い模様が入っている。
これはただのキャンドルリザードをとは違うものだ。
背に見える炎の揺らめきも、普通のものとは違うらしい。
怒りに呼応するように、バチバチと小規模な爆発が起こっているのだ。
「これはまさか変異種!? それとも女王!? どちらにしてもボーナス確定じゃないですか! そうだ、姿を写さなければ。ボードは……」
僕は背負っていたリュックを探すのだが、いくら手を入れてもそれは見つからない。
「無かったああああああああああああああ!」
僕は両手をついて項垂れる。
しかし、何時までもそうしている訳にはいかないのだ。
「ぜ、全然刃が通らない。でも、俺っちは負けない! 絶対に!」
「ファイヤ! 魔力がまたなくなった!?」
大きなキャンドルリザード改に襲われようとしている。
「「うああああああ!?」」
尻尾を振り回してグリス君を弾き飛ばすと、魔法を使っていたリューナさんにぶつけてしまう。
あの巨体で、この二人よりも頭が良さそうだ。
キャンドルリザード改は、倒れた二人に向かい、巨大な口を開けている。
あんな物に咬み付かれれば、鎧ごと砕かれてしまうだろう。
僕は涙を拭いて立ち上がり、怒りをぶつけるようにキャンドルリザード改に戦いを挑んだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!」
僕は突進してきたキャンドルリザード改の頭を押さえつけるも、その力は先ほどのものとは比べ物にならなかった。
いくら踏ん張った所で、床に足が滑って進行は止まらないのである。
背後には壁が迫り、力尽きれば押しつぶされてしまいそうだ。
「てぇい、この、このおおお!」
「あたしも殴ってやる!」
二人の攻撃にも効果は見られないし、僕がやられてしまえば二人の命も危ういだろう。
だから僕は、その口に手を掴み、思い切って口を開けさせた。
「うぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
僕はそのまま押され続け、壁にバンと背中をぶつけると、限界ギリギリの力を込めて押し返す。
大きく開いた口からは、生臭い吐息がもれ出ている。
しかしこの状態が長く続くと、もれ出た臭いが変わり始めた。
生木が燃えるようなそんな臭いである。
「来るか!」
口の奥からは炎のようなものが見え始め、それが一気に解き放たれる。
これは霧のようなものではなく、本物の炎でだろう。
僕の体を包み込むように膨大に広がり出て行く。
だが、既に魔法は設置済みなのだ。
炎はダメージを与えることなく、何事も無く消え果た。
変換された数値は七百。
相手を倒すには充分過ぎる数値だ。
僕は四百を力に、百を速度へ、残りは秒数へと変換する。
「ぐおおおおおおおおおおおお!」
押さえつけられてた僕の体は、爆発的な力を得た。
相手の大きさをものともせず、逆側の壁へと突き進む。
そのまま強烈にぶつけると、止めの蹴りを食らわせた。
白目を向いているから、終わったと思いたい。
「ふうう、これで……」
僕は落ち着いて汗を拭ったのだけど。
「たあああああ!」
グリス君は剣を振り上げ。
「いくわよー!」
リューナさんはロッドを振り下ろす。
でももう安全だし反撃もされないから、放っておいても大丈夫だ。
「「うわああああああああ、むぎゅ……」」
しかしどうやらやり過ぎたようで、壁に立てかかっていた魔物の体が倒れてしまったようだ。
それに二人は押しつぶされて、パンの具材のようになっている。
まあ生きているし、僕としてはそれで反省してほしいところだ。
「兄ちゃん、出して……」
「お兄さん、助けて……」
僕は時間ギリギリまで放置し、それから二人を引っ張り出した。
「じゃあ急いで帰りましょう! ボードを持って来て撮影しないと証拠になりませんからね! さあ急いで、僕のボーナスの為に!」
僕はそう宣言し、二人の背中を押して行く。
「兄ちゃん、俺っち思ったんだけど、あれってキャンドルリザードと違わない?」
グリス君、何で今頃気付いたんです。
そのまま流してくれればよかったのに。
「言われればちょっと大きいような気がするわ」
リューナさん、一目見ただけで分かるぐらいビックサイズですよ。
やはり知能指数が低すぎるらしい。
「二人共、あれはたぶん変異種なので、キャンドルリザードに数えて良いですよ。だって僕はそれがいいですもの!」
何の根拠もない僕の願望をぶちまけた。
「そっかなー? う~ん、まあいいや」
「なんか考えるのが面倒だわ! もう行きましょう!」
それでも二人は納得するのだから都合がいい。
「じゃあ帰りましょ~♪ ……あれ?」
僕達は部屋の中から脱出しようとするが。
「何か妙な臭いが? 焦げ付いたような、燃えているような……」
僕が振り向くと、あの大きかったキャンドルリザード改の背中から炎が噴き出し、体をボウボウと燃やし尽くしていた。
「ぎゃあああああああ、ボーナスがあああああああ!」
しかもその炎は大きさを増し、近くにあった木材に燃え移っている。
それはドンドン燃え盛り、別の木材へと燃え移って行く。
「ぼ、僕のボーナス……ガク」
炎よりもボーナスが出ないことに項垂れる僕。
「兄ちゃん、逃げないと危ないぞ?」
「グリス、危ないから引きずって行きましょう」
「だな!」
そんな僕は、二人に引きずられて無事に屋敷から脱出したのだった。
南の屋敷あとに向かった僕達だけど、道中の敵との戦いに苦戦しまくっている。
それでも何とか屋敷あとに到着し、僕達は結界を作り出した。
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クー・ライズ・ライト (僕)
グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)
★
ちなみにキャンドルリザードの資料はというと。
名前 :キャンドルリザード
レベル:22
HP :180
MP :50
力 :85
速 :88
大 :200
危険度:3
技 :全速体当たり。咬み付き。幻熱の吐息。
考察 :背に炎が揺らめくトカゲ。
近づかなければ襲い掛かって来ない為に、危険度はそれほど高くない。
敵を見つけると背に炎が現れるが、幻影の様な物で熱くはない。
思った以上に素早く、油断していると一瞬で噛みつかれる。
素早く動く巨体に体当たりされれば、
人の体なんて簡単に吹き飛ばされてしまう。
口からは、幻熱の吐息と言われる熱い吐息を吐き出す。
炎というよりは、赤色のモヤのような物を飛ばす。
それに触ると、皮膚がただれて火傷状態になる。
トカゲの形状を考えれば分かるが、弱点は背面だ。
注意:キャンドルリザードが居る場所にはグリフォンが存在する。
得物にしているようだ。
僕達は何度か魔物に邪魔されながらも、結界を作り出し、グリフォンが居ない場所で退治できそうなキャンドルリザードを探しているのだけど。
「なかなか居ないですね」
僕達が探しても全然見つからないのである。
「兄ちゃん、もうちょっと移動してみようよ。たぶんあのデッカイ鳥が居る場所じゃないと居ないんだよ」
グリスが言うように、やっぱりキャンドルリザードが居ないからグリフォンが存在しないんだろう。
逆に言えば、グリフォンが居ればキャンドルリザードもどこかに居るといえる。
「お兄さん、これじゃあ何時まで経っても終われないよ」
リューナの言う通り、ここで待っていても時間が過ぎて行くだけだ。
やっぱり危険を冒してもグリフォンが居る場所を捜すべきだろう。
「う~ん、そうですね、じゃあ場所を移動してみましょう。その代わり、何かあったら直ぐに知らせてくださいよ」
僕は移動を宣言し。
「「は~い!」」
二人もそれに同意した。
「……結界の内なる炎よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」
とりあえず僕は移動する前に、魔法を唱えて結界の力を発動させる。
魔法の時間制限は無いから何時でも炎の力が変換されるだろう。
そしてキャンドルリザードが居る場所へ向かった僕達は、三体の群れを発見した。
上空にはグリフォンが旋回し、キャンドルリザードは何時でも逃げられるようにと屋敷の残骸を巣穴にしている。
そう、まだ残骸は残されたままなのだ。
ギルドでは片付ける費用は出ないし、造ったフェイさんは片付けてもくれないから、もうずっとこのままだろう。
「あっ、兄ちゃん、こっちに入れるところがあるぜ。ほら、ここ」
グリスは、壊れた屋敷の中へ入れる場所を見つけたらしい。
「おっ、本当だ」
どうやら僕でも入れそうな広さがある。
確かに内部に侵入した方がグリフォンに邪魔されずに済むけど。
「でも中に入っても大丈夫ですかねぇ?」
それはそれで逃げ場が無くなるのだよね。
「グリス、ここから行こう」
「分かったぜリューナ。兄ちゃん、俺っち先行くぜ。早くしろよな」
って僕が悩んでいる間に二人は中に入ろうとしていた。
「ちょっと、勝手に行かないでください!」
僕は二人を追い掛けて、壊れた屋敷の中へ入って行く。
「ぐおお、せまい!」
頑張って通り抜けると、まだ崩れていない空間に出た。
壊れた屋敷の中は、廃材が積み重なって一応立つことが出来るようだ。
しかしこれでは二階部分に行くことは出来ないだろう。
あるのは入れそうな部屋が三つで、そこは扉が壊れて入れそうではある。
「兄ちゃん、あの部屋に入ってみよう」
グリスが一番近くの部屋の中に入って行こうとしている。
「早く早く!」
続いてリューナも同様に、部屋の中へ。
敵とのレベル差が大きいのに、何故あんな簡単に入って行けるのか。
「ちょっとちょっと、危ないですから先に行かないでください!」
僕も二人を追い掛け部屋の中へ入って行く。
その部屋の中に、キャンドルリザードは見つかった。
ただし。
「な、数が多いですね……」
この部屋の壁や天井には、六体のキャンドルリザードが蠢いていた。
「よし、リューナ、やるぜ!」
物凄いやる気を出しているグリスと。
「ええ、グリス。先制攻撃よ! ファイ……」
もう攻撃をしようとしているリューナ。
「どわあああああああああ!」
僕は急いでリューナの口を塞ぎ、飛び出して行こうとするグリスを引っつかまえる。
「どは、ぶふぁ!」
そのまま部屋から引きづり出し、ギリギリのところで止められた。
「兄ちゃん、なんで止めるんだよ! 俺っちが折角見つけたのに!」
「お兄さん、まさかあたし達の邪魔する為について来たの!?」
しかし自分がやれると思い込んでいる二人は、すごく怒っている。
僕が居なかったら、命が幾つあっても足りなかっただろう。
「何でそうなるのか分かりませんけど、もうちょっとレベル差ってのを考えてください。まだ他の部屋もあるんですから、一度確かめてから、数の少ないところに行きましょうよ」
僕は、そう提案した。
「兄ちゃん、俺っち達の実力を舐めてるな? あのぐらいズババーンとやっつけれるんだぜ!」
グリス君はそう言っているが、どう考えてもそれはない。
「お兄さん、あたしの魔法は全てを焼き払うのよ!」
確かに炎の魔法を使えば、キャンドルリザードはおろか、この屋敷ごと全てが灰となるだろう。
んん?
「ああ、そうだ。別に僕達が戦わなくても、巣穴ごと燃やしちゃえばいいんじゃないですか? 倒しちゃうのは変わりないんですから。ほら、ギルド員の僕が居るんですから、証拠とかも要りませんし」
僕は一番楽な方法を選択したのだが。
「兄ちゃん、それは卑怯すぎる。絶対駄目だろう! 俺っちに経験値が入らないんだぜ!?」
「そうよお兄さん、そんなことまでして倒して嬉しいっていうの!? 反省して! あたしに経験値が入らないのよ!?」
二人にはそう言われてしまった。
しかし経験値が入ればいいのだろうか?
まあ言い合いをしていてもしょうがないし、隣の部屋に入ってみることにした。
そして入った部屋の中には、三体のキャンドルリザード存在している。
僕達に警戒してこちらを向いているようだ。
「やった、敵は半分に減ってるよ。俺っち達ならこれでいける! じゃあ行くぜ、たああああ!」
グリス君は剣を引き抜き走り出した。
「行けませんって!」
グリス君が敵の数を見て行こうとするが、当然僕は引き止める。
しかし、どうやらもう一人の方も暴走しているようだ。
「ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ!」
僕が気付いた時には攻撃魔法をぶっ放し、一体だけならまだしも三体全部に直撃させたのだ。
一体何故こんな時だけ当たるのか。
魔法を直撃されたトカゲは、瞳が攻撃体勢に入り、背中に炎が揺らぎ始めた。
「に、逃げますよおおおおお!」
僕は即座に撤退を決め、襟首を引っ掴んだ。
「に、兄ちゃん苦しい……」
「い、息が……」
「本当に死にますから、ちょっとだけ我慢してください!」
僕は二人を引きずって入り口に逃げたのだけど、全力で走ってもキャンドルリザードに追いつかれそうである。
仕方ないから掴んでいる二人を入り口に放り投げ、床を滑るように穴を通り抜けさせた。
あとは僕だけだと、四つん這いになって穴に入ろうとするが。
「ぬおおおおおおおおおおおお!」
キャンドルリザードは僕の尻に向かって体当たりを決行したらしい。
四つん這いのまま弾き飛ばされ、穴の中を見事通過したのだった。
僕達を追い掛けて来たキャンドルリザードだけど、一体目はグリフォンに攫われてしまう。
残りの二体は僕達を残して穴に引き返して行った。
★
★閑話タイトル。最近は一杯のお茶にハマって家に引きこもりがちのジョージ。のんびりしたいと考えるも、どうも周りがそうさせてはくれないようだ。
★
「ふぅ、あのグリフォンに感謝しないですね」
僕は空を回っているグリフォンの一体に手をふった。
「兄ちゃん、これじゃあ経験値が……薬代が稼げないじゃないか!」
「そうよ、けい……薬代が稼げないわ!」
何だろうか、この言い分だと経験値の方が欲しいように聞こえる。
薬が欲しいというのは嘘だったのか?
「あの、じつは経験値目的だったりします?」
僕は一応聞いてみた。
それならそれでも別に構わない。
むしろ安全な相手を選んで戦えばいいし、その方がやり易いのだけど。
「「ちがうちがう」」
二人は首を振って否定している。
経験値も欲しいけど、薬代も欲しいという所だろう。
まさかファラさんが仕組んで?
「とにかく、他のグリフォンはまだ居ますから、続けていればそのうち一体のが出て来るでしょう。僕達はそれを狙いますよ」
僕はそう宣言したけど。
「俺っちそんなやり方はあんまり好きくないなぁ……」
「正面から行かないと冒険者じゃないわ!」
っと二人は乗り気じゃないらしい。
冒険者を物語の勇者みたいに見ているのだろうか?
でもそれはあまり良いことじゃない。
冒険者で戦って生き残るためには、小手先の技術が必要なのだ。
まあ敵のレベルにもよるけど、正面からドーンと倒せる人なんて、片手で数えるほども居ないのである。
だからこそギルドは戦闘職業作ったり、レベルシステムを作ったのだ。
……あれ、まさか僕を同行させたのって、この子達の教育の為だったり?
しかし。
「じゃあ俺っちが行って来る。兄ちゃんとリューナは待ってろよ! 一人で大丈夫だから!」
「何言ってんんの! グリスとお兄さんは待っていて! あたし一人で充分だから!」
こんな状態の二人を教育なんてできそうもない。
どうせ一人で行かせたら、自分一人で倒せるぜって感じになるのだろう。
でも僕が行って、二人を残すのも心配だ。
「いえ、ここは三人で行きましょう」
僕は結局、三人行動が一番良いと判断した。
「ブーブー!」
「お兄さんのけちいいい!」
という訳で、嫌がる二人と一緒にまた屋敷の中へ入ったのだけど、通路には丁度よく一体のキャンドルリザードが残っていた。
たぶん逃げ帰った二体の内の一体だろう。
こちらを警戒しているが襲い掛かっては来ないようだ。
「兄ちゃん、まさか止めないよな!」
やる気充分のグリス君は、剣をキャンドルリザードに向けている。
「あたしの魔法が火を噴くわよ!」
リューナさんもやる気を見せている。
でもここまでいきなり魔法を使うことが多かったのだけど、今回魔法を使わなかったのだ。
もしかして、残りの魔力が少ないんじゃないだろうか?
「リューナさん、ちゃんと魔力は残ってますよね?」
僕は一応聞いてみたのだが。
「お兄さん、それは女の子の秘密よ?」
リューナさんはテヘっと舌を出し、ウィンクしている。
つまり魔力が無いのだろう。
これで一人使えなくなってしまったのだけど、元から使えなかったので問題は皆無である。
「じゃあ魔力が回復するまで大人しくしていてください。チャンスがあれば撃っていいですから。その代わり、僕達には当てないでくださいね」
むしろ背中から撃たれなくて、戦いやすくなった感じがしなくもない。
「うん、任せて!」
そんなスッキリ爽やかさを感じさせる僕の言葉に、リューナさんは元気に返事をした。
「じゃあ行きましょうかグリス君、無理はしないでくださいね」
僕はグリス君に声をかけた。
「おう!」
その声に返事をしたグリス君は、キャンドルリザードに向かってもう走っていた。
だから僕は。
「頑張れー」
っと応援したのだ。
だって今の僕は、武器もなくて役に立たないのである。
戦う為には相手の能力待ちなのだ。
しかしグリス君は一人でも躊躇わない。
すでに動き出したキャンドルリザードに攻撃を仕掛けている。
「てええええい! この、この!」
グリス君は、意外と上手く攻撃を当てているが、レベル差が大きすぎてダメージを与えられていない。
ダメージを与えられていないとはいえ、攻撃しているというのは事実。
怒ったキャンドルリザードに、反撃とばかりに大きく口を開けられ剣先をパクッと食われた。
「はなせえええええ!」
グリス君は蹴りつけたりして、剣を引っこ抜こうとしているのだけど、その力は歴然だ。
「ほわああああああああああ!」
剣を手放さないから体ごと振り回されて、ポーンと剣を放り投げられた。
最後まで剣を手放さなかったのは偉い……のかなぁ?
「この程度、俺には効かないんだぜ!」
床に突っ伏しながら言ってるグリス君の、根性だけは認めてあげたい。
まあ無事なのはいいのだけど、それに追い打ちをかけるように、キャンドルリザードは強烈な体当たりを決行している。
さっきの攻撃とも呼べない投げ飛ばしとは違い、今回は本物の攻撃だ。
子供がぶつかられたら最悪は……。
「リューナさん今です! 全力で撃ちまくってください!」
「了解よお兄さん! 必殺のおおおおお、ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ……ふぅ、ふぅ、ふぅ」
リューナさんの炎の魔法は、キャンドルリザードに全弾直撃した。
その熱さに顔を背け、体当たりは失敗したようだ。
グリス君の横を通り抜けて行く。
しかしリューネさん、本来は結構命中率がいいのかもしれない。
ってことは、やっぱり背中を狙ったのはワザとか!?
★
★閑話タイトル。魔王とジョージ、その存在が同一なのかは世界の謎である。もし本物であるならば、延々と冒険者やギルドに追われるだろう。
★
キャンドルリザードに幻熱の吐息を使わせたいところだけど、やはりここは二人の能力値を奪って強化を?
しかしそれをしたら、二人の力は幼児並みになるだろう。
それで戦えと言っても無謀だし、勝手に突っ込まれても困ってしまう。
でも、このまま待ち続けるのが正しいのかも分からない。
結局は運しだいである。
「俺っちが倒してやる。さあ来い!」
グリス君は、壁をはい回るキャンドルリザードに自分の剣を向けている。
しかし何度やってもダメージはないだろう。
「グリス、もうすぐ一回撃てるからちょっと待ってて!」
リューナさんは、魔力が回復するまで待機している。
こちらの魔力が回復したとしても、ダメージ元には程遠い。
やはり使うしかないだろう。
「……結界の内にいる仲間の値を集めよ。アディション・フィールド!」
僕は魔法を切り替えた。
奪うのは、なるべく影響が少なそうなものがいい。
速さを奪うのは攻撃が避けられなくなるから問題外。
「たああああ!」
グリス君は剣を振り下ろすが、キャンドルリザードの硬い鱗には通用しない。
どうせダメージが与えられないから、その力を奪うとしよう。
しかし、四十増えただけでは僕が力負けしてしまう。
他のものを奪うにしても、体力値を奪うのはグリス君を殺しかねない。
ここはリューナさんに我慢してもらって魔力値を奪うとしよう。
やはりもう一つ何かを奪わなければ。
「決めた! 僕が奪うのは力と、魔力値、それに知能です! さあ、結界の内なる数値よ、疾く現れよ!」
僕はパンと手を叩き、数値を見ることなく走り出した。
「うっ、なんか気持ち悪い」
「あぅ、お兄さん何かしたの?」
ほどなく二人の数値が奪われ、何かが落ちる音が聞こえた。
僕は二十を速度へ、あとは力の値へと変換させる。
「僕が相手をしてあげます!」
僕は手を前にして、キャンドルリザードの前に立ちはだかった。
すでに突進を行っていて、高速で迫って来てる。
「兄ちゃん危ない!」
「お兄さん!」
グリスとリューナの心配そうな声。
しかし今の僕ならば!
「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ!」
その強烈な突進を、床に足を滑らせながら受け止めきった。
相手に行動をさせまいと、両の手で大きな口を押さえこむ。
「うにににににににににににににににに!」
更に力を込めて、引っこ抜くようにキャンドルリザードの巨体を持ち上げた。
僕はそのまま投げようとするのだけど。
「おっとっと……」
そこまでの力はないようで、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。
いわゆるバックドロップの状態だけど、僕が出来る訳も無い。
「ぐおおおおおおおおお!?」
後頭部を打ち付けて、床をゴロゴロと転がっていた。
思わず手を放してしまったが、相手もフラフラしているようである。
「今だ、たああああああああ!」
グリス君は、腹を見せて悶えるキャンドルリザードに、剣を振り下ろそうとしているようだ。
しかし、力を奪ってしまった今のグリス君では、柔らかい腹であっても。
「お、お腹もかたい」
硬くないお腹に、ボヨンと弾き返されてしまっている。
「何で魔法が出ないの!? 何で!? 何でぇ!?」
そして魔力値を奪ったリューナさんは、魔法が出ないことに戸惑っている。
どうやら僕の奪う能力は、キッチリ二十になるまで奪い続けるらしい。
時間と共に落ちた数字が増えて行ってる。
そんなこんなで遊んでいる間に、キャンドルリザードは手足をバタつかせ、体を元の状態に戻してしまった。
僕もなんとか立ち上がって、構えを取るが。
「あっ、逃げたし」
キャンドルリザードは脱兎のごとく逃げ出した。
どう考えても追いつけないので、行先だけを確認している。
「あ~! あたしの経験値! 経験値ほしいのにー!」
「何してるんだ兄ちゃん、折角のチャンスだったのに! 経験値が逃げたじゃないか! 早く追い駆けよう!」
知能を奪った為か、もう隠すこともしていない。
しかもキャンドルリザードが入った場所とは違う場所へ行こうとしている。
知能を奪ったのは失敗だったのかも知れない。
「ちょっと、そっちじゃないですって。入ったのは二つ目の……話を聞いてください!」
僕は二人を追い掛け、一番奥の部屋へ向かった。
「いたああああ! 俺っちがぶっ倒してやるううう!」
「あたしの魔法で! ファイヤ!」
この部屋の中には、たった一体の魔物が存在している。
その魔物を相手に、二人は攻撃を続けているようだ。
でもそれは、明らかにキャンドルリザードではあり得ない。
体の大きさは倍ぐらに巨大で、体には青い模様が入っている。
これはただのキャンドルリザードをとは違うものだ。
背に見える炎の揺らめきも、普通のものとは違うらしい。
怒りに呼応するように、バチバチと小規模な爆発が起こっているのだ。
「これはまさか変異種!? それとも女王!? どちらにしてもボーナス確定じゃないですか! そうだ、姿を写さなければ。ボードは……」
僕は背負っていたリュックを探すのだが、いくら手を入れてもそれは見つからない。
「無かったああああああああああああああ!」
僕は両手をついて項垂れる。
しかし、何時までもそうしている訳にはいかないのだ。
「ぜ、全然刃が通らない。でも、俺っちは負けない! 絶対に!」
「ファイヤ! 魔力がまたなくなった!?」
大きなキャンドルリザード改に襲われようとしている。
「「うああああああ!?」」
尻尾を振り回してグリス君を弾き飛ばすと、魔法を使っていたリューナさんにぶつけてしまう。
あの巨体で、この二人よりも頭が良さそうだ。
キャンドルリザード改は、倒れた二人に向かい、巨大な口を開けている。
あんな物に咬み付かれれば、鎧ごと砕かれてしまうだろう。
僕は涙を拭いて立ち上がり、怒りをぶつけるようにキャンドルリザード改に戦いを挑んだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!」
僕は突進してきたキャンドルリザード改の頭を押さえつけるも、その力は先ほどのものとは比べ物にならなかった。
いくら踏ん張った所で、床に足が滑って進行は止まらないのである。
背後には壁が迫り、力尽きれば押しつぶされてしまいそうだ。
「てぇい、この、このおおお!」
「あたしも殴ってやる!」
二人の攻撃にも効果は見られないし、僕がやられてしまえば二人の命も危ういだろう。
だから僕は、その口に手を掴み、思い切って口を開けさせた。
「うぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
僕はそのまま押され続け、壁にバンと背中をぶつけると、限界ギリギリの力を込めて押し返す。
大きく開いた口からは、生臭い吐息がもれ出ている。
しかしこの状態が長く続くと、もれ出た臭いが変わり始めた。
生木が燃えるようなそんな臭いである。
「来るか!」
口の奥からは炎のようなものが見え始め、それが一気に解き放たれる。
これは霧のようなものではなく、本物の炎でだろう。
僕の体を包み込むように膨大に広がり出て行く。
だが、既に魔法は設置済みなのだ。
炎はダメージを与えることなく、何事も無く消え果た。
変換された数値は七百。
相手を倒すには充分過ぎる数値だ。
僕は四百を力に、百を速度へ、残りは秒数へと変換する。
「ぐおおおおおおおおおおおお!」
押さえつけられてた僕の体は、爆発的な力を得た。
相手の大きさをものともせず、逆側の壁へと突き進む。
そのまま強烈にぶつけると、止めの蹴りを食らわせた。
白目を向いているから、終わったと思いたい。
「ふうう、これで……」
僕は落ち着いて汗を拭ったのだけど。
「たあああああ!」
グリス君は剣を振り上げ。
「いくわよー!」
リューナさんはロッドを振り下ろす。
でももう安全だし反撃もされないから、放っておいても大丈夫だ。
「「うわああああああああ、むぎゅ……」」
しかしどうやらやり過ぎたようで、壁に立てかかっていた魔物の体が倒れてしまったようだ。
それに二人は押しつぶされて、パンの具材のようになっている。
まあ生きているし、僕としてはそれで反省してほしいところだ。
「兄ちゃん、出して……」
「お兄さん、助けて……」
僕は時間ギリギリまで放置し、それから二人を引っ張り出した。
「じゃあ急いで帰りましょう! ボードを持って来て撮影しないと証拠になりませんからね! さあ急いで、僕のボーナスの為に!」
僕はそう宣言し、二人の背中を押して行く。
「兄ちゃん、俺っち思ったんだけど、あれってキャンドルリザードと違わない?」
グリス君、何で今頃気付いたんです。
そのまま流してくれればよかったのに。
「言われればちょっと大きいような気がするわ」
リューナさん、一目見ただけで分かるぐらいビックサイズですよ。
やはり知能指数が低すぎるらしい。
「二人共、あれはたぶん変異種なので、キャンドルリザードに数えて良いですよ。だって僕はそれがいいですもの!」
何の根拠もない僕の願望をぶちまけた。
「そっかなー? う~ん、まあいいや」
「なんか考えるのが面倒だわ! もう行きましょう!」
それでも二人は納得するのだから都合がいい。
「じゃあ帰りましょ~♪ ……あれ?」
僕達は部屋の中から脱出しようとするが。
「何か妙な臭いが? 焦げ付いたような、燃えているような……」
僕が振り向くと、あの大きかったキャンドルリザード改の背中から炎が噴き出し、体をボウボウと燃やし尽くしていた。
「ぎゃあああああああ、ボーナスがあああああああ!」
しかもその炎は大きさを増し、近くにあった木材に燃え移っている。
それはドンドン燃え盛り、別の木材へと燃え移って行く。
「ぼ、僕のボーナス……ガク」
炎よりもボーナスが出ないことに項垂れる僕。
「兄ちゃん、逃げないと危ないぞ?」
「グリス、危ないから引きずって行きましょう」
「だな!」
そんな僕は、二人に引きずられて無事に屋敷から脱出したのだった。
応援ありがとうございます!
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