上 下
23 / 31
善意天逆 果て無く黒

三年前に出会ったフェイという人物に技術を渡すのだけど、また最近現れて手を貸せと脅されている。もう普通に暮らしたいジョージ

しおりを挟む
★前回のちょっとしたあらすじ。
 南の屋敷あとに向かった僕達だけど、道中の敵との戦いに苦戦しまくっている。
 それでも何とか屋敷あとに到着し、僕達は結界を作り出した。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
 リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
 ランズ・ライズ・ライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
 ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
 リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)


 ちなみにキャンドルリザードの資料はというと。


 名前 :キャンドルリザード
 レベル:22
 HP :180
 MP :50
 力  :85
 速  :88
 大  :200
 危険度:3
 技  :全速体当たり。咬み付き。幻熱の吐息。

 考察 :背に炎が揺らめくトカゲ。
     近づかなければ襲い掛かって来ない為に、危険度はそれほど高くない。
     敵を見つけると背に炎が現れるが、幻影の様な物で熱くはない。
     思った以上に素早く、油断していると一瞬で噛みつかれる。
     素早く動く巨体に体当たりされれば、

     人の体なんて簡単に吹き飛ばされてしまう。
     口からは、幻熱の吐息と言われる熱い吐息を吐き出す。
     炎というよりは、赤色のモヤのような物を飛ばす。
     それに触ると、皮膚がただれて火傷状態になる。
     トカゲの形状を考えれば分かるが、弱点は背面だ。

  注意:キャンドルリザードが居る場所にはグリフォンが存在する。
     得物にしているようだ。

 僕達は何度か魔物に邪魔されながらも、結界を作り出し、グリフォンが居ない場所で退治できそうなキャンドルリザードを探しているのだけど。

「なかなか居ないですね」

 僕達が探しても全然見つからないのである。

「兄ちゃん、もうちょっと移動してみようよ。たぶんあのデッカイ鳥が居る場所じゃないと居ないんだよ」

 グリスが言うように、やっぱりキャンドルリザードが居ないからグリフォンが存在しないんだろう。
 逆に言えば、グリフォンが居ればキャンドルリザードもどこかに居るといえる。

「お兄さん、これじゃあ何時まで経っても終われないよ」

 リューナの言う通り、ここで待っていても時間が過ぎて行くだけだ。
 やっぱり危険を冒してもグリフォンが居る場所を捜すべきだろう。

「う~ん、そうですね、じゃあ場所を移動してみましょう。その代わり、何かあったら直ぐに知らせてくださいよ」

 僕は移動を宣言し。

「「は~い!」」

 二人もそれに同意した。

「……結界の内なる炎よ、数値となって強さを示せ。ナンバーズ・フィールド!」

 とりあえず僕は移動する前に、魔法を唱えて結界の力を発動させる。
 魔法の時間制限は無いから何時でも炎の力が変換されるだろう。
 そしてキャンドルリザードが居る場所へ向かった僕達は、三体の群れを発見した。
 上空にはグリフォンが旋回し、キャンドルリザードは何時でも逃げられるようにと屋敷の残骸を巣穴にしている。

 そう、まだ残骸は残されたままなのだ。
 ギルドでは片付ける費用は出ないし、造ったフェイさんは片付けてもくれないから、もうずっとこのままだろう。

「あっ、兄ちゃん、こっちに入れるところがあるぜ。ほら、ここ」

 グリスは、壊れた屋敷の中へ入れる場所を見つけたらしい。

「おっ、本当だ」

 どうやら僕でも入れそうな広さがある。
 確かに内部に侵入した方がグリフォンに邪魔されずに済むけど。

「でも中に入っても大丈夫ですかねぇ?」

 それはそれで逃げ場が無くなるのだよね。

「グリス、ここから行こう」

「分かったぜリューナ。兄ちゃん、俺っち先行くぜ。早くしろよな」

 って僕が悩んでいる間に二人は中に入ろうとしていた。

「ちょっと、勝手に行かないでください!」

 僕は二人を追い掛けて、壊れた屋敷の中へ入って行く。

「ぐおお、せまい!」

 頑張って通り抜けると、まだ崩れていない空間に出た。
 壊れた屋敷の中は、廃材が積み重なって一応立つことが出来るようだ。
 しかしこれでは二階部分に行くことは出来ないだろう。
 あるのは入れそうな部屋が三つで、そこは扉が壊れて入れそうではある。

「兄ちゃん、あの部屋に入ってみよう」

 グリスが一番近くの部屋の中に入って行こうとしている。

「早く早く!」

 続いてリューナも同様に、部屋の中へ。
 敵とのレベル差が大きいのに、何故あんな簡単に入って行けるのか。

「ちょっとちょっと、危ないですから先に行かないでください!」

 僕も二人を追い掛け部屋の中へ入って行く。
 その部屋の中に、キャンドルリザードは見つかった。
 ただし。

「な、数が多いですね……」

 この部屋の壁や天井には、六体のキャンドルリザードが蠢いていた。

「よし、リューナ、やるぜ!」

 物凄いやる気を出しているグリスと。

「ええ、グリス。先制攻撃よ! ファイ……」

 もう攻撃をしようとしているリューナ。

「どわあああああああああ!」

 僕は急いでリューナの口を塞ぎ、飛び出して行こうとするグリスを引っつかまえる。

「どは、ぶふぁ!」

 そのまま部屋から引きづり出し、ギリギリのところで止められた。

「兄ちゃん、なんで止めるんだよ! 俺っちが折角見つけたのに!」

「お兄さん、まさかあたし達の邪魔する為について来たの!?」

 しかし自分がやれると思い込んでいる二人は、すごく怒っている。
 僕が居なかったら、命が幾つあっても足りなかっただろう。

「何でそうなるのか分かりませんけど、もうちょっとレベル差ってのを考えてください。まだ他の部屋もあるんですから、一度確かめてから、数の少ないところに行きましょうよ」

 僕は、そう提案した。

「兄ちゃん、俺っち達の実力を舐めてるな? あのぐらいズババーンとやっつけれるんだぜ!」

 グリス君はそう言っているが、どう考えてもそれはない。

「お兄さん、あたしの魔法は全てを焼き払うのよ!」

 確かに炎の魔法を使えば、キャンドルリザードはおろか、この屋敷ごと全てが灰となるだろう。
 んん?

「ああ、そうだ。別に僕達が戦わなくても、巣穴ごと燃やしちゃえばいいんじゃないですか? 倒しちゃうのは変わりないんですから。ほら、ギルド員の僕が居るんですから、証拠とかも要りませんし」

 僕は一番楽な方法を選択したのだが。

「兄ちゃん、それは卑怯すぎる。絶対駄目だろう! 俺っちに経験値が入らないんだぜ!?」

「そうよお兄さん、そんなことまでして倒して嬉しいっていうの!? 反省して! あたしに経験値が入らないのよ!?」

 二人にはそう言われてしまった。
 しかし経験値が入ればいいのだろうか?
 まあ言い合いをしていてもしょうがないし、隣の部屋に入ってみることにした。
 そして入った部屋の中には、三体のキャンドルリザード存在している。
 僕達に警戒してこちらを向いているようだ。

「やった、敵は半分に減ってるよ。俺っち達ならこれでいける! じゃあ行くぜ、たああああ!」

 グリス君は剣を引き抜き走り出した。

「行けませんって!」

 グリス君が敵の数を見て行こうとするが、当然僕は引き止める。
 しかし、どうやらもう一人の方も暴走しているようだ。

「ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ!」

 僕が気付いた時には攻撃魔法をぶっ放し、一体だけならまだしも三体全部に直撃させたのだ。
 一体何故こんな時だけ当たるのか。
 魔法を直撃されたトカゲは、瞳が攻撃体勢に入り、背中に炎が揺らぎ始めた。

「に、逃げますよおおおおお!」

 僕は即座に撤退を決め、襟首を引っ掴んだ。

「に、兄ちゃん苦しい……」

「い、息が……」

「本当に死にますから、ちょっとだけ我慢してください!」

 僕は二人を引きずって入り口に逃げたのだけど、全力で走ってもキャンドルリザードに追いつかれそうである。
 仕方ないから掴んでいる二人を入り口に放り投げ、床を滑るように穴を通り抜けさせた。
 あとは僕だけだと、四つん這いになって穴に入ろうとするが。

「ぬおおおおおおおおおおおお!」

 キャンドルリザードは僕の尻に向かって体当たりを決行したらしい。
 四つん這いのまま弾き飛ばされ、穴の中を見事通過したのだった。
 僕達を追い掛けて来たキャンドルリザードだけど、一体目はグリフォンに攫われてしまう。
 残りの二体は僕達を残して穴に引き返して行った。

★閑話タイトル。最近は一杯のお茶にハマって家に引きこもりがちのジョージ。のんびりしたいと考えるも、どうも周りがそうさせてはくれないようだ。


「ふぅ、あのグリフォンに感謝しないですね」

 僕は空を回っているグリフォンの一体に手をふった。

「兄ちゃん、これじゃあ経験値が……薬代が稼げないじゃないか!」

「そうよ、けい……薬代が稼げないわ!」

 何だろうか、この言い分だと経験値の方が欲しいように聞こえる。
 薬が欲しいというのは嘘だったのか?

「あの、じつは経験値目的だったりします?」

 僕は一応聞いてみた。
 それならそれでも別に構わない。
 むしろ安全な相手を選んで戦えばいいし、その方がやり易いのだけど。

「「ちがうちがう」」

 二人は首を振って否定している。
 経験値も欲しいけど、薬代も欲しいという所だろう。
 まさかファラさんが仕組んで?

「とにかく、他のグリフォンはまだ居ますから、続けていればそのうち一体のが出て来るでしょう。僕達はそれを狙いますよ」

 僕はそう宣言したけど。

「俺っちそんなやり方はあんまり好きくないなぁ……」

「正面から行かないと冒険者じゃないわ!」

 っと二人は乗り気じゃないらしい。
 冒険者を物語の勇者みたいに見ているのだろうか?
 でもそれはあまり良いことじゃない。

 冒険者で戦って生き残るためには、小手先の技術が必要なのだ。
 まあ敵のレベルにもよるけど、正面からドーンと倒せる人なんて、片手で数えるほども居ないのである。
 だからこそギルドは戦闘職業作ったり、レベルシステムを作ったのだ。

 ……あれ、まさか僕を同行させたのって、この子達の教育の為だったり?
 しかし。

「じゃあ俺っちが行って来る。兄ちゃんとリューナは待ってろよ! 一人で大丈夫だから!」

「何言ってんんの! グリスとお兄さんは待っていて! あたし一人で充分だから!」

 こんな状態の二人を教育なんてできそうもない。
 どうせ一人で行かせたら、自分一人で倒せるぜって感じになるのだろう。
 でも僕が行って、二人を残すのも心配だ。

「いえ、ここは三人で行きましょう」

 僕は結局、三人行動が一番良いと判断した。

「ブーブー!」

「お兄さんのけちいいい!」

 という訳で、嫌がる二人と一緒にまた屋敷の中へ入ったのだけど、通路には丁度よく一体のキャンドルリザードが残っていた。
 たぶん逃げ帰った二体の内の一体だろう。
 こちらを警戒しているが襲い掛かっては来ないようだ。

「兄ちゃん、まさか止めないよな!」

 やる気充分のグリス君は、剣をキャンドルリザードに向けている。

「あたしの魔法が火を噴くわよ!」

 リューナさんもやる気を見せている。
 でもここまでいきなり魔法を使うことが多かったのだけど、今回魔法を使わなかったのだ。
 もしかして、残りの魔力が少ないんじゃないだろうか?

「リューナさん、ちゃんと魔力は残ってますよね?」

 僕は一応聞いてみたのだが。

「お兄さん、それは女の子の秘密よ?」

 リューナさんはテヘっと舌を出し、ウィンクしている。
 つまり魔力が無いのだろう。
 これで一人使えなくなってしまったのだけど、元から使えなかったので問題は皆無である。

「じゃあ魔力が回復するまで大人しくしていてください。チャンスがあれば撃っていいですから。その代わり、僕達には当てないでくださいね」

 むしろ背中から撃たれなくて、戦いやすくなった感じがしなくもない。

「うん、任せて!」

 そんなスッキリ爽やかさを感じさせる僕の言葉に、リューナさんは元気に返事をした。

「じゃあ行きましょうかグリス君、無理はしないでくださいね」

 僕はグリス君に声をかけた。

「おう!」

 その声に返事をしたグリス君は、キャンドルリザードに向かってもう走っていた。
 だから僕は。

「頑張れー」

 っと応援したのだ。
 だって今の僕は、武器もなくて役に立たないのである。
 戦う為には相手の能力待ちなのだ。

 しかしグリス君は一人でも躊躇わない。
 すでに動き出したキャンドルリザードに攻撃を仕掛けている。

「てええええい! この、この!」

 グリス君は、意外と上手く攻撃を当てているが、レベル差が大きすぎてダメージを与えられていない。
 ダメージを与えられていないとはいえ、攻撃しているというのは事実。
 怒ったキャンドルリザードに、反撃とばかりに大きく口を開けられ剣先をパクッと食われた。

「はなせえええええ!」

 グリス君は蹴りつけたりして、剣を引っこ抜こうとしているのだけど、その力は歴然だ。

「ほわああああああああああ!」

 剣を手放さないから体ごと振り回されて、ポーンと剣を放り投げられた。
 最後まで剣を手放さなかったのは偉い……のかなぁ?

「この程度、俺には効かないんだぜ!」

 床に突っ伏しながら言ってるグリス君の、根性だけは認めてあげたい。
 まあ無事なのはいいのだけど、それに追い打ちをかけるように、キャンドルリザードは強烈な体当たりを決行している。
 さっきの攻撃とも呼べない投げ飛ばしとは違い、今回は本物の攻撃だ。
 子供がぶつかられたら最悪は……。

「リューナさん今です! 全力で撃ちまくってください!」

「了解よお兄さん! 必殺のおおおおお、ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ファイヤ! ……ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 リューナさんの炎の魔法は、キャンドルリザードに全弾直撃した。
 その熱さに顔を背け、体当たりは失敗したようだ。
 グリス君の横を通り抜けて行く。

 しかしリューネさん、本来は結構命中率がいいのかもしれない。
 ってことは、やっぱり背中を狙ったのはワザとか!?

★閑話タイトル。魔王とジョージ、その存在が同一なのかは世界の謎である。もし本物であるならば、延々と冒険者やギルドに追われるだろう。


 キャンドルリザードに幻熱の吐息を使わせたいところだけど、やはりここは二人の能力値を奪って強化を?
 しかしそれをしたら、二人の力は幼児並みになるだろう。
 それで戦えと言っても無謀だし、勝手に突っ込まれても困ってしまう。

 でも、このまま待ち続けるのが正しいのかも分からない。
 結局は運しだいである。

「俺っちが倒してやる。さあ来い!」

 グリス君は、壁をはい回るキャンドルリザードに自分の剣を向けている。
 しかし何度やってもダメージはないだろう。

「グリス、もうすぐ一回撃てるからちょっと待ってて!」

 リューナさんは、魔力が回復するまで待機している。
 こちらの魔力が回復したとしても、ダメージ元には程遠い。
 やはり使うしかないだろう。

「……結界の内にいる仲間の値を集めよ。アディション・フィールド!」

 僕は魔法を切り替えた。
 奪うのは、なるべく影響が少なそうなものがいい。
 速さを奪うのは攻撃が避けられなくなるから問題外。

「たああああ!」

 グリス君は剣を振り下ろすが、キャンドルリザードの硬い鱗には通用しない。
 どうせダメージが与えられないから、その力を奪うとしよう。
 しかし、四十増えただけでは僕が力負けしてしまう。
 他のものを奪うにしても、体力値を奪うのはグリス君を殺しかねない。

 ここはリューナさんに我慢してもらって魔力値を奪うとしよう。
 やはりもう一つ何かを奪わなければ。

「決めた! 僕が奪うのは力と、魔力値、それに知能です! さあ、結界の内なる数値よ、疾く現れよ!」

 僕はパンと手を叩き、数値を見ることなく走り出した。

「うっ、なんか気持ち悪い」

「あぅ、お兄さん何かしたの?」

 ほどなく二人の数値が奪われ、何かが落ちる音が聞こえた。
 僕は二十を速度へ、あとは力の値へと変換させる。

「僕が相手をしてあげます!」

 僕は手を前にして、キャンドルリザードの前に立ちはだかった。
 すでに突進を行っていて、高速で迫って来てる。

「兄ちゃん危ない!」

「お兄さん!」

 グリスとリューナの心配そうな声。
 しかし今の僕ならば!

「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ!」

 その強烈な突進を、床に足を滑らせながら受け止めきった。
 相手に行動をさせまいと、両の手で大きな口を押さえこむ。

「うにににににににににににににににに!」

 更に力を込めて、引っこ抜くようにキャンドルリザードの巨体を持ち上げた。
 僕はそのまま投げようとするのだけど。

「おっとっと……」

 そこまでの力はないようで、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。
 いわゆるバックドロップの状態だけど、僕が出来る訳も無い。

「ぐおおおおおおおおお!?」

 後頭部を打ち付けて、床をゴロゴロと転がっていた。
 思わず手を放してしまったが、相手もフラフラしているようである。

「今だ、たああああああああ!」

 グリス君は、腹を見せて悶えるキャンドルリザードに、剣を振り下ろそうとしているようだ。
 しかし、力を奪ってしまった今のグリス君では、柔らかい腹であっても。

「お、お腹もかたい」

 硬くないお腹に、ボヨンと弾き返されてしまっている。

「何で魔法が出ないの!? 何で!? 何でぇ!?」

 そして魔力値を奪ったリューナさんは、魔法が出ないことに戸惑っている。
 どうやら僕の奪う能力は、キッチリ二十になるまで奪い続けるらしい。
 時間と共に落ちた数字が増えて行ってる。

 そんなこんなで遊んでいる間に、キャンドルリザードは手足をバタつかせ、体を元の状態に戻してしまった。
 僕もなんとか立ち上がって、構えを取るが。

「あっ、逃げたし」

 キャンドルリザードは脱兎のごとく逃げ出した。
 どう考えても追いつけないので、行先だけを確認している。

「あ~! あたしの経験値! 経験値ほしいのにー!」

「何してるんだ兄ちゃん、折角のチャンスだったのに! 経験値が逃げたじゃないか! 早く追い駆けよう!」

 知能を奪った為か、もう隠すこともしていない。
 しかもキャンドルリザードが入った場所とは違う場所へ行こうとしている。
 知能を奪ったのは失敗だったのかも知れない。

「ちょっと、そっちじゃないですって。入ったのは二つ目の……話を聞いてください!」

 僕は二人を追い掛け、一番奥の部屋へ向かった。

「いたああああ! 俺っちがぶっ倒してやるううう!」

「あたしの魔法で! ファイヤ!」

 この部屋の中には、たった一体の魔物が存在している。
 その魔物を相手に、二人は攻撃を続けているようだ。
 でもそれは、明らかにキャンドルリザードではあり得ない。
 体の大きさは倍ぐらに巨大で、体には青い模様が入っている。
 これはただのキャンドルリザードをとは違うものだ。

 背に見える炎の揺らめきも、普通のものとは違うらしい。
 怒りに呼応するように、バチバチと小規模な爆発が起こっているのだ。

「これはまさか変異種!? それとも女王!? どちらにしてもボーナス確定じゃないですか! そうだ、姿を写さなければ。ボードは……」

 僕は背負っていたリュックを探すのだが、いくら手を入れてもそれは見つからない。

「無かったああああああああああああああ!」

 僕は両手をついて項垂れる。
 しかし、何時までもそうしている訳にはいかないのだ。

「ぜ、全然刃が通らない。でも、俺っちは負けない! 絶対に!」

「ファイヤ! 魔力がまたなくなった!?」

 大きなキャンドルリザード改に襲われようとしている。

「「うああああああ!?」」

 尻尾を振り回してグリス君を弾き飛ばすと、魔法を使っていたリューナさんにぶつけてしまう。
 あの巨体で、この二人よりも頭が良さそうだ。
 キャンドルリザード改は、倒れた二人に向かい、巨大な口を開けている。
 あんな物に咬み付かれれば、鎧ごと砕かれてしまうだろう。

 僕は涙を拭いて立ち上がり、怒りをぶつけるようにキャンドルリザード改に戦いを挑んだ。

「ぐおおおおおおおおおおおおお!」

 僕は突進してきたキャンドルリザード改の頭を押さえつけるも、その力は先ほどのものとは比べ物にならなかった。
 いくら踏ん張った所で、床に足が滑って進行は止まらないのである。
 背後には壁が迫り、力尽きれば押しつぶされてしまいそうだ。

「てぇい、この、このおおお!」

「あたしも殴ってやる!」

 二人の攻撃にも効果は見られないし、僕がやられてしまえば二人の命も危ういだろう。
 だから僕は、その口に手を掴み、思い切って口を開けさせた。

「うぬぬぬぬぬぬぬぬ!」

 僕はそのまま押され続け、壁にバンと背中をぶつけると、限界ギリギリの力を込めて押し返す。
 大きく開いた口からは、生臭い吐息がもれ出ている。
 しかしこの状態が長く続くと、もれ出た臭いが変わり始めた。
 生木が燃えるようなそんな臭いである。

「来るか!」

 口の奥からは炎のようなものが見え始め、それが一気に解き放たれる。
 これは霧のようなものではなく、本物の炎でだろう。
 僕の体を包み込むように膨大に広がり出て行く。

 だが、既に魔法は設置済みなのだ。
 炎はダメージを与えることなく、何事も無く消え果た。
 変換された数値は七百。
 相手を倒すには充分過ぎる数値だ。

 僕は四百を力に、百を速度へ、残りは秒数へと変換する。

「ぐおおおおおおおおおおおお!」

 押さえつけられてた僕の体は、爆発的な力を得た。
 相手の大きさをものともせず、逆側の壁へと突き進む。
 そのまま強烈にぶつけると、止めの蹴りを食らわせた。
 白目を向いているから、終わったと思いたい。

「ふうう、これで……」

 僕は落ち着いて汗を拭ったのだけど。

「たあああああ!」

 グリス君は剣を振り上げ。

「いくわよー!」

 リューナさんはロッドを振り下ろす。
 でももう安全だし反撃もされないから、放っておいても大丈夫だ。

「「うわああああああああ、むぎゅ……」」

 しかしどうやらやり過ぎたようで、壁に立てかかっていた魔物の体が倒れてしまったようだ。
 それに二人は押しつぶされて、パンの具材のようになっている。
 まあ生きているし、僕としてはそれで反省してほしいところだ。

「兄ちゃん、出して……」

「お兄さん、助けて……」

 僕は時間ギリギリまで放置し、それから二人を引っ張り出した。

「じゃあ急いで帰りましょう! ボードを持って来て撮影しないと証拠になりませんからね! さあ急いで、僕のボーナスの為に!」

 僕はそう宣言し、二人の背中を押して行く。

「兄ちゃん、俺っち思ったんだけど、あれってキャンドルリザードと違わない?」

 グリス君、何で今頃気付いたんです。
 そのまま流してくれればよかったのに。

「言われればちょっと大きいような気がするわ」

 リューナさん、一目見ただけで分かるぐらいビックサイズですよ。
 やはり知能指数が低すぎるらしい。

「二人共、あれはたぶん変異種なので、キャンドルリザードに数えて良いですよ。だって僕はそれがいいですもの!」

 何の根拠もない僕の願望をぶちまけた。

「そっかなー? う~ん、まあいいや」

「なんか考えるのが面倒だわ! もう行きましょう!」

 それでも二人は納得するのだから都合がいい。

「じゃあ帰りましょ~♪ ……あれ?」

 僕達は部屋の中から脱出しようとするが。

「何か妙な臭いが? 焦げ付いたような、燃えているような……」

 僕が振り向くと、あの大きかったキャンドルリザード改の背中から炎が噴き出し、体をボウボウと燃やし尽くしていた。

「ぎゃあああああああ、ボーナスがあああああああ!」

 しかもその炎は大きさを増し、近くにあった木材に燃え移っている。
 それはドンドン燃え盛り、別の木材へと燃え移って行く。

「ぼ、僕のボーナス……ガク」

 炎よりもボーナスが出ないことに項垂れる僕。

「兄ちゃん、逃げないと危ないぞ?」

「グリス、危ないから引きずって行きましょう」

「だな!」

 そんな僕は、二人に引きずられて無事に屋敷から脱出したのだった。
しおりを挟む

処理中です...