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善意天逆 果て無く黒
最近また魔王と自称する奴が出て来て、挨拶という名の暴力を受けたから返り討ちにするジョージ
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★前回のあらすじ。
キャンドルリザードと戦い、逃がしてしまった僕。
それを追い掛けて行く二人だが、知能を奪った為か、違う部屋入ってしまう。
その部屋に居たのは、更に凶暴そうなキャンドルリザード改(仮)だった。
大きささえ違うのに、気付いてもくれない二人は、もう攻撃をしかけている。
もう避けられない戦いだと、頑張って退治したのだった。
★
クー・ライズ・ライト (僕)
グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)
★
「うっく、ひっく……」
僕は瞳を濡らし、燃える屋敷を見続ける。
そして貰えるはずだったボーナスの行く末を思い煩う。
「兄ちゃんしっかりしろよ。帰らなきゃ終われないだろ」
グリス君は僕を慰めてくれている。
そうだ、帰ることが出来たなら、保護者様にお金を貰える可能性があるはずだ。
「お兄さん、何時までも泣いてないの。ほら、パンならまだあるよ?」
リューナさんは僕にパンを手渡した。
僕はそれを有難く受け取り、涙ながらに口に放り込む。
「リューナさんありがとうございます、僕元気が出ました。出来れば定期的にくれると嬉しいのですけど……」
「えっ、それはヤダ」
物の試しに言ってみただけだけど、やはりリューナさんに断られてしまった。
そう上手くはいかないらしい。
僕は涙を拭き、二人と共に町に戻って行った。
まずは薬の代金を貰いにギルドへ行ったのだけど。
「お帰り。じゃあこれ代金だから、クーはギルドの仕事に戻って……」
ファラさんは連れ戻そうとして来るようだ。
「僕はまだ用事があるので! 見届けなければならないんです! 絶対見届けなければならないんです!」
僕はファラさんの言葉を否定して、お金を二人に渡すと、その二人と共にギルドを脱出して行った。
そして保護者様にご挨拶したいと告げて案内されたのは。
「着いたぞ兄ちゃん」
「ここがあたし達の家よ」
僕の期待していたものとは違い、随分古そうな孤児院だった。
「えっ、ここは……」
建物はギルドの宿舎と同じぐらいに古ぼけていて、どう考えても金を持ってそうには見えない。
こんな所から金を貰ったら、僕が悪者になってしまうじゃないか。
「え~っとグリス君、その鎧買ったのって、本当にここの人ですか?」
僕は確認の為に聞いてみたのだけど。
「えっ、この鎧くれたのは別の兄ちゃんだよ。鎧のお礼の為に、兄ちゃんの薬を買いたいんだ」
予想とは随分違うが、その兄ちゃんとやらに会いに行くべきだろう。
果物の一つでもくれたら、僕にとっては超嬉しいから!
「という訳で、その人に会いに行きましょう」
僕は何所とも知れぬ目的地に指をさした。
「どういう訳なのかよく分からないけど、俺っちはかまわないぜ」
「あたしも別にいいわよ」
グリス君とリューナさんの了承を得て、僕はその場所へ向かって行く。
途中で薬を購入してその場所に来たのだけど。
「お兄さん、ここだよ!」
「兄ちゃん、俺っちの恩人の家なんだから変なことするなよな!」
随分とボロ……年期の入りまくった掘っ立て小屋だった。
幾つも扉がある所を見ると、アパートのようなものだろうか?
「これは……随分古い建物ですね……」
それを見た僕は、両肩を落としてやる気をなくした。
でもあんなオーダーメイドの鎧を買えるのなら、隠し財産があってもおかしくはない。
まあお茶ぐらいなら出してもらえるだろうか?
茶菓子がついたら御の字だろう。
「お兄さん、来たよー!」
「兄ちゃん兄ちゃん、薬持って来たぞー!」
二人は嬉しそうにドンドンと扉を叩き、中の人物を呼んでいる。
「兄ちゃん、兄ちゃ~ん!」
「お兄さん、お兄さ~ん!」
出てくるまで扉を叩き続ける二人の子供達。
風邪で頭が痛いなら、絶対煩いと思っているだろう。
「ああああああああうるさあああい! 折角寝てたのにいいいいいいい!」
部屋の中から大声が聞こえて、走って来るような足音がする。
勢いよく扉を開けるが、二人は無事に逃げたらしい。
出て来たのは黒髪の青年かな?
動きやすそうな広い袖口の服を着ていて、たぶん僕より年上だろう。
でもなんとなくどこかで見たことがある気がするけど、たぶん気のせいだ。
その青年が、げっそりと青い顔をして子供達を見ている。
「兄ちゃ~ん! 薬、薬!」
「お兄さん、買って来たわ!」
少し嫌な顔で睨まれているというのに、二人は全く気にしていない。
袋に入った薬を突き出し、褒められるのを待っているようだ。
「……はぁ、ありがとう。俺は頭が痛いんだ、もう帰ってくれ」
男はそう言って扉を閉めようとしている。
しかし、二人の用事が済んでも、僕の要件は終わってはいない。
閉められそうな扉の端を、ガッと掴んで引き止めた。
「まあまあそう言わずに、部屋の中でじっくり二人の活躍を聞かせてあげますよ。出来ればお茶とお菓子と食事なんて出してくれると嬉しいです。えっ、いいんですか? さあ二人共、お邪魔しましょう!」
「「わ~い!」」
僕の勝手な判断で、子供達も扉を掴んだ。
病人のくせに意外と力が強く、三人がかりでやっと扉が開いて行く。
「おいいい、待てえええ! 俺は一言も良いとは言っていないぞおおお!」
必死の抵抗をみせる青年だが。
「うう、頭が痛い。こっちの薬はちっとも効かないし、向うの世界から病院来てええええええええ!」
変なことを言っているし、幻覚でもみているのだろう。
早く薬を飲ませてやらないと大変だ。
力尽きて膝をついた青年に、僕は肩を貸して、奥にあるベッドへと運んで行った。
なんとなく部屋の中を見回すが、ごく一般的な物が並んでいる。
お金持ちとは程遠い生活を送っているようだ。
しかし、この僕よりは確実にお金を持っているだろう。
「き、貴様……フゥ、ハァ……この俺が何者か知っての狼藉か! まずは名乗ったらどうなのだ! フゥフゥ……」
青年はハァハァ言いながら僕の名前を聞いてきた。
「ああ、僕クー・ライズ・ライトっていいます。あなたの薬の為に、この子達と同行して魔物退治に言って来たんですよ。是非感謝して食事でも提供してくれると嬉しいです!」
「親切の押し売りか。有難迷惑だわ!」
この青年は強がって声を張りあげるのだけど。
「まあまあ落ち着いてください、まずこの薬を飲んでひと眠りすればきっと治りますから。さあどうぞ、グイっといってください」
僕が薬を進めると。
「兄ちゃん、飲んでくれ!」
「お兄さん、お水持ってきてあげる!」
グリス君とリューナさんもキラキラした瞳で青年を見つめる。
「うっ……分かった、飲んだら帰ってくれ」
子供達の手前か、青年は流石に断ることはせず、買って来た薬を飲み干した。
「薬も飲んでこれで大丈夫です! さあ二人共、次は料理です! 美味しい物を作って喜んでもらいましょう! 大丈夫、味見はキッチリしますから不味くなることはありえません! では作りましょう!」
そして食事は重大なことだと、僕は味見をしながら料理をすることを決めた。
「「お~!」」
グリス君とリューナさんも手伝てくれるようだ。
「ああ、頭が痛い……」
もう青年は諦めたらしく、僕達は保存された食材を使い、病人食を作りあげた。
青年は作ったものをペロリと平らげ、疲れて眠ってしまったらしい。
そして僕達も冒険の疲れが出たのか、グッスリと眠りこんでしまった。
★
「おい起きろ」
そう言われてかなりの強烈なビンタを食らった僕は。
「ふぐぁっ!」
あの青年に思いっきり叩き起こされた。
まだ寝ぼけていた僕は、辺りを見回して、ここが眠っていたアパートだと思い出す。
しかし、子供二人の姿は見えない。
先に帰されたのだろう。
「何するんです、すごい痛いじゃないですか」
僕は怒るのだけど。
「俺の懐の方が痛いんだよ! 見ず知らずのお前に何しにメシをご馳走しなきゃいかんのだ!」
どうやら風邪も治ったようで、元気に怒っている。
あの二人の薬が効いたのだろう。
しかし、僕にも言いたいことはあるのだ。
「そこはほら、同行した二人を護ってあげたお礼ですよ。僕が居なきゃ危なかったんですからね。レベル三でレベル二十二のキャンドルリザードとか無謀でしょう! あなたチームメイトなんでしょう? もうちょっとちゃんと教育してください!」
僕は相手の言葉に逆切れして、説教を始めた。
くどくどと続けた僕の言葉に。
「……お、おう、それは悪かったな。……でもそいつら、俺のチームという訳じゃ……」
僕野反論に、この人も怖じ気づいたようだ。
「チームメイトじゃなくても、知り合いであるなら魔物の危険度を教えるべきです! ギルドに行けば魔物の能力値とか見れますから、ちゃんと勉強させてください!」
勝手に上がり込んでメシまで食って説教するとは、我ながら無茶苦茶である。
しかし、二人の今後の為にも言わなければならないのだ。
「で、でも俺、ギルドには行けないし……」
この人は何故か目をそらしている。
まさか賞金首だったり?
そういえば見たことがある顔をしているんだった。
何処で見たんだったか……?
「ああ、思い出した。フデの人だ。あなたフデの魔王ですね!?」
「誰がフデだ! 俺はインフェニティ―・ダーク・ロード……って違ああああああう! 今のは冗談だ、俺は魔王でもなんでもない!」
この青年は否定しているが、間違いなく本人だろう。
名前が長いので、やはりフデの人と呼ぼう。
「まあまあまあ、本人かどうかはどうでもいいじゃないですか。僕の為に魔王として捕まってください」
そう言って僕は、部屋の中の四隅に鉄棒を立てかけて行く。
「絶対嫌だわ! というか何だその棒は!?」
「ああ、これは気にしないでください。ただの棒なんで」
僕は適当に流して小さく呪文を唱えた。
この部屋の中ならば、なんとなく属性を絞ることもできるのだ。
「じゃっ、フデさん、炎の魔法でも使ってみてください。部屋が焼けるかもしれませんけど。あっ、雷でもいいですよ、部屋が焼けるかもしれませんけど。水浸しになっていいなら水の魔法を使ってください。それとも土でグチャグチャにしますか?」
僕は魔法を使うことを進めると共に、その危険性を指摘した。
「誰がやるか、それに俺はフデじゃない! 魔王じゃないって言っているじゃないですか。もう勘弁してくださいよ、お願いします、もう二度としませんから!」
よく分からないが凄く効き目があったらしい。
口調がマイルドになって頭を下げ始めた。
もう認めているようなものだ。
「まあ落ち着いてくださいよ。ギルドだって反省する人に酷いことはしませんって」
そう、魔王であってもギルドの扱いは変わらない。
酷いことにはならないだろう。
ギルドとしては。
「そうかな!?」
フデの顔が明るく変わる。
「はい、苦しみも与えず一瞬で殺してもらえますよ」
しかし僕は、その先のことを伝えた。
残念ながら国に喧嘩を売ってしまったフデに慈悲はない。
国に引き渡されて処刑されるだろう。
「ぎゃああああああ、いやだあああああああああ! 若気の至りだったんや。堪忍して。堪忍してええええ!」
若気の至りで国を滅ぼそうとしないでほしい。
だがこれ以上追い詰めるのは危ないだろう。
あんまり追い詰めて僕の口封じとか考え出すと危ないし、そろそろフォローをいれるとしよう。
「まあ安心してください。僕はギルドに顔がきくので、色々と助けてあげられることもあるでしょう」
僕はそれっぽいことを言って丸め込んだ。
「本当に大丈夫かな!? 俺もう逃げ回るのは嫌なんだよ!」
フデも随分精神をやられているようで、ビクビクしている。
本来はもう少し魔王っぽかったのかもしれない。
「はい、大丈夫ですきっと」
たぶん、一割ぐらいの確立はあるんじゃないだろうか?
「でもなんで魔王なんてやろうとしたんですか? 人を襲ったら駄目でしょう?」
一応理由を聞いてみるも。
「仕方なかったんだ。だって魔王って名前が格好いいし、最強って響きがいいだろ? でも魔王じゃお金が入って来ないんだよ。だって魔王って職業じゃないし! 野草や虫を食う日々とか稀に野生動物を食べられても、美味しい料理じゃないんだよ? 俺は耐えられないんだ!」
まあ失敗した魔王様はこんなものだろう。
しかし、野草や虫を食べざるを得ない気持ちには理解ができる。
「あなたの気持ちは分かります! このお弁当を見てください!」
僕はまだ手を突けていなかったお弁当の一つを取り出した。
そう、野草しか入っていないお弁当だ。
「こ、これはまさか、同士!?」
そんなお弁当を見て、フデは僕を同士と呼んだ。
「僕は現在進行形で貧乏です!」
僕としては全然嬉しくないのだが、それでも言い切って相手の心を掴む。
「うおおおおおおおおおおお、俺と友達になってくれ!」
しかし効き目があり過ぎて、親近感を沸かせてしまったらしい。
「貧乏友達なんて嫌ですよ! 抜け出せなくなったらどうするんですか! それより、一つ聞きたいことがあります。フェイさんという人を知っていますよね?」
まあこの人のことは今は置いとくとして、フェイさんのことを聞かなければならないのだ。
「フェイ? ああ、あの人か。三年前に行き倒れているところを助けてなぁ。悪人に攫われた娘を助けたいからって俺の装備を貸してやったんだ。今頃どうしているかなぁ……」
フデは、遠い目をして過去を懐かしんでいる。
あの人が賞金首になっているって知らないのだろうか?
「あの人、自分は魔王の手下だって言って町で暴れてましたよ。魔王の名前が広まって良かったですね。あっそれと娘のファラさんは普通にギルドで働いてます」
僕はフェイさんがやらかしたことを告げた。
「ぎゃあああああああああ! 俺の悪行が勝手に広まっていくううううう!」
頭を抱えているこの人には、なんとなくシンパシーを感じる。
しかしいくら反省してても、この人は国を襲ったテロリストで大悪人だ。
もう聞くことも聞けたし、僕の生活費になってもらおう。
「じゃあ僕用事を思い出したので帰りますね。大丈夫、ギルドには上手く伝えておきますよ! 僕に任せてください!」
僕は胸をドンと叩き、部屋から出ようとするが。
「待て、お前まさか、俺のことを売ろうとしてないよな?」
背後から声をかけられた。
「そんなことはないですよ。僕達は同士じゃないですか! 同士の言葉を疑うんですか!?」
同士という言葉を全面に出し、否定したのだけど。
「だからこそだ! お前は金の為になんでもする。例え俺に恨まれようと、明日の食糧が欲しいのだろう!」
流石同士と言うだけのことはある。
フデも僕のことを理解しているらしい。
気付かれてしまえば、魔王から逃げ出すのは困難かな?
「ふう、落ち着いて話し合いましょう。確かに魔王である人に慈悲はないですが、本当に可能性はあります。僕のチームにも魔族の人が居るんですが、その能力を知る為にかなりの減刑を受けていますから。魔物を操るという力を国に役立てるというなら、その可能性もあるでしょう。ですから、大人しく僕に捕まって報奨金をください!」
僕はフデ相手に本音をぶちまけた。
「くっ、本音が出たな! しかし可能性があるならかけてみるべきか? いやいやでも、いやいやだがしかし……」
フデ本人も迷っているようだが、暫くして答えが出たようだ。
「分かった、お前にかけてみよう。危なくなれば逃げればいいのだしな」
フデはそう納得して、僕と共にギルドへ向かうのだった。
★
町はまだ静かで、小鳥がチュンチュン鳴いている。
「ぼーなああああああああああす!」
「自由への疾走だああああああ!」
そんな中で全力疾走してギルドに向かっているのが僕とフデだった。
道に建ち並ぶ住居からは、うるさいとか声が聞こえてくる。
しかし今の僕達は気にしてはいない。
贅沢じゃなくても、程よい暮らしが出来るかもしれないからだ。
「さあフデさん、ギルドですよ!」
僕はそう言って、ギルドの扉をバンと開けた。
既に出社して来ていたファラさんやミアさん、他の仲間達も驚き、こちらを振り向いている。
そこには、正装したかのように真っ黒な衣装に身を包んだ、魔王フデが居たからだ。
顔を知っていた人達からは、ザワっとしたどよめきが聞こえる。
「誰がフデか! というかそのフデっていうのはどこから来たんだ!?」
まあそのフデと呼ばれて怒っているこの人は、結構な小心者なのだけど。
「最後のファイナンス・デンデンの頭文字からとったんですよ」
そんな魔王の本心を知ってる僕は、適当にからかったりしている。
「そんな名前はどこにもついとらんわ!」
胸を張って偉そうにしているものの、その体はロープでグルグル巻きにしてある。
何もないと怖がらせるかもと言った僕の言葉を聞いてくれたのだ。
「はいはい魔王様、もういいですから上司に挨拶に行きますよ。こっちです、ついて来てください」
僕はスラーさんの下へ案内しようと、持っていたロープを引っ張った。
「そ、そうだな……お前、絶対フォローしろよな!」
フォローしろと言ってるこのフデの内心は、相当ドキドキしているんじゃないだろうか?
「ああ、はいはい」
僕は適当に答えて引っ張っていく。
そしてこちらを見続けているスラーさんの前。
「スラーさん、魔王を捕まえました! これでボーナスくれますよね!?」
僕はフデの魔王を突き出したのだけど。
「……確かに、本物ならそうなりますけど、偽物を連れて来ても意味はないんですよライズ・ライト君。むしろ不正を働こうとしたとしてそれなりの対応を……」
何故か信じてもらえなかった。
そんなに僕の信用はないのだろうか?
「いや、この人本物ですから!」
僕は不正をしていないと証明する為に、フデをずいっと突き出した。
「そうだ、俺は本物だ!」
自分でも宣言しているし、曲がり間違って僕の不正にはならないだろう。
「ふむ、顔も本物のようですし、一応本物ということで取り扱いましょうか。それで、覚悟を決めて死にに来た訳ですか」
スラーさんの瞳はギンと輝く。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う! こらお前、早く俺のフォローをするんだ!」
ブンブンと首を横に振るフデの人は、僕に丸投げして来た。
まあ約束したので少しは庇ってあげようか。
「え~っとスラーさん、もう追われたくないから魔王辞めたいらしいです。それで死にたくないから奉仕活動をしたいんですって。魔物を操る能力も結構有能ですし、町とか国を護るのに凄く有用なんじゃないですか?」
僕はそういったのだけど。
「そんな危なそうな能力じゃ町や王都を護らせる訳には行かないでしょう。魔物を操る人物が心変わりしたらどうするんですか? その能力が突然切れて町中で暴れたらどうするんですか?」
スラーさんは、あまり乗り気ではないらしい。
言わんとすることは分からなくもないが、それはこのフデの魔王と敵対するということだろう。
抵抗するって言ってたし、あんまりいいことにはなりそうもない。
「俺はそんなことはしない! だってもう草とか食いたくないし!」
もちろん反論しているフデの人だが。
「一度やってしまった人に信用があるとでも? 町を占領したほうが手っ取り早いと考えないとも限りませんし。死んでくれた方が手っ取り早いんですが……」
無慈悲なことを言ってるスラーさん。
「死ぬのはいやあああああああああああああ! しょ、処刑されるぐらいなら、俺だって徹底的に交戦するからな!」
処刑されると聞いて、魔王フデは暴れ出そうとしている。
「まあ落ち着いてください魔王さん。こちらとしても無駄に交戦をして死人を出す訳には行きません。ある程度の能力封印や拘束を受け入れるのなら、こちらとしても受け入れられる可能性は零じゃありませんよ。もし受け入れてもらえるのならば、食事の面はギルドで保障させてもらいましょう」
スラーさんは、徹底的に否定した上で譲歩したように見せた。
「食事つき……」
相当苦労して来たであろうフデの魔王は、その言葉に心を動かされている。
もう落ちるのも時間の問題だろう。
出来れば僕にも食事をください。
「足りませんか? ではギルドに奉仕してくれるのなら、それなりの給金や住居も用意出来ない事はないんですけどねぇ」
更に譲歩したスラーさんは、ボロ小屋のようなアパートに住むフデに畳み掛けた。
「やりま~す!」
色々なことにに目がくらんだ魔王フデは、もろ手を挙げて喜んでいる。
でも別にスラーさんが権限を持ってる訳ではないので、今の交渉が正しく上に伝わって、国に許可されなければ無駄なのだ。
「それはよかった。ではまず今後の仕事の為にその力を測定させてもらいましょうか。ライズ・ライト君、頼みましたよ」
スラーさんは、仕事の為とか言ってるけれど、たぶん裏切られた時の為の保険だろう。
「了解です!」
そのくらいなら問題はないと、僕は引き受けることにした。
どうせ連れて来た僕には拒否権はないし。
というわけで今日の仕事が決まったようだ。
僕はファラさん達を誘おうとするが。
「今日も受付よ。ミアが暇そうにしてたから誘ってあげたら?」
どうやら受付の人の風邪は治っていないらしい。
「分かりました! じゃあミアさんを誘いに行って来ます! 行きましょうかフデさん」
僕はフデのロープを引っ張った。
「もうジョージで良いから、フデと呼ぶな!」
フデの魔王は抗議しているが、もう定着しちゃったので諦めて欲しい。
「いってらっしゃい」
ファラさんに手をふられ、僕達はギルド寮へ向かって行く。
キャンドルリザードと戦い、逃がしてしまった僕。
それを追い掛けて行く二人だが、知能を奪った為か、違う部屋入ってしまう。
その部屋に居たのは、更に凶暴そうなキャンドルリザード改(仮)だった。
大きささえ違うのに、気付いてもくれない二人は、もう攻撃をしかけている。
もう避けられない戦いだと、頑張って退治したのだった。
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クー・ライズ・ライト (僕)
グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
ランズ・ライズ・ライト (父)
ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)
★
「うっく、ひっく……」
僕は瞳を濡らし、燃える屋敷を見続ける。
そして貰えるはずだったボーナスの行く末を思い煩う。
「兄ちゃんしっかりしろよ。帰らなきゃ終われないだろ」
グリス君は僕を慰めてくれている。
そうだ、帰ることが出来たなら、保護者様にお金を貰える可能性があるはずだ。
「お兄さん、何時までも泣いてないの。ほら、パンならまだあるよ?」
リューナさんは僕にパンを手渡した。
僕はそれを有難く受け取り、涙ながらに口に放り込む。
「リューナさんありがとうございます、僕元気が出ました。出来れば定期的にくれると嬉しいのですけど……」
「えっ、それはヤダ」
物の試しに言ってみただけだけど、やはりリューナさんに断られてしまった。
そう上手くはいかないらしい。
僕は涙を拭き、二人と共に町に戻って行った。
まずは薬の代金を貰いにギルドへ行ったのだけど。
「お帰り。じゃあこれ代金だから、クーはギルドの仕事に戻って……」
ファラさんは連れ戻そうとして来るようだ。
「僕はまだ用事があるので! 見届けなければならないんです! 絶対見届けなければならないんです!」
僕はファラさんの言葉を否定して、お金を二人に渡すと、その二人と共にギルドを脱出して行った。
そして保護者様にご挨拶したいと告げて案内されたのは。
「着いたぞ兄ちゃん」
「ここがあたし達の家よ」
僕の期待していたものとは違い、随分古そうな孤児院だった。
「えっ、ここは……」
建物はギルドの宿舎と同じぐらいに古ぼけていて、どう考えても金を持ってそうには見えない。
こんな所から金を貰ったら、僕が悪者になってしまうじゃないか。
「え~っとグリス君、その鎧買ったのって、本当にここの人ですか?」
僕は確認の為に聞いてみたのだけど。
「えっ、この鎧くれたのは別の兄ちゃんだよ。鎧のお礼の為に、兄ちゃんの薬を買いたいんだ」
予想とは随分違うが、その兄ちゃんとやらに会いに行くべきだろう。
果物の一つでもくれたら、僕にとっては超嬉しいから!
「という訳で、その人に会いに行きましょう」
僕は何所とも知れぬ目的地に指をさした。
「どういう訳なのかよく分からないけど、俺っちはかまわないぜ」
「あたしも別にいいわよ」
グリス君とリューナさんの了承を得て、僕はその場所へ向かって行く。
途中で薬を購入してその場所に来たのだけど。
「お兄さん、ここだよ!」
「兄ちゃん、俺っちの恩人の家なんだから変なことするなよな!」
随分とボロ……年期の入りまくった掘っ立て小屋だった。
幾つも扉がある所を見ると、アパートのようなものだろうか?
「これは……随分古い建物ですね……」
それを見た僕は、両肩を落としてやる気をなくした。
でもあんなオーダーメイドの鎧を買えるのなら、隠し財産があってもおかしくはない。
まあお茶ぐらいなら出してもらえるだろうか?
茶菓子がついたら御の字だろう。
「お兄さん、来たよー!」
「兄ちゃん兄ちゃん、薬持って来たぞー!」
二人は嬉しそうにドンドンと扉を叩き、中の人物を呼んでいる。
「兄ちゃん、兄ちゃ~ん!」
「お兄さん、お兄さ~ん!」
出てくるまで扉を叩き続ける二人の子供達。
風邪で頭が痛いなら、絶対煩いと思っているだろう。
「ああああああああうるさあああい! 折角寝てたのにいいいいいいい!」
部屋の中から大声が聞こえて、走って来るような足音がする。
勢いよく扉を開けるが、二人は無事に逃げたらしい。
出て来たのは黒髪の青年かな?
動きやすそうな広い袖口の服を着ていて、たぶん僕より年上だろう。
でもなんとなくどこかで見たことがある気がするけど、たぶん気のせいだ。
その青年が、げっそりと青い顔をして子供達を見ている。
「兄ちゃ~ん! 薬、薬!」
「お兄さん、買って来たわ!」
少し嫌な顔で睨まれているというのに、二人は全く気にしていない。
袋に入った薬を突き出し、褒められるのを待っているようだ。
「……はぁ、ありがとう。俺は頭が痛いんだ、もう帰ってくれ」
男はそう言って扉を閉めようとしている。
しかし、二人の用事が済んでも、僕の要件は終わってはいない。
閉められそうな扉の端を、ガッと掴んで引き止めた。
「まあまあそう言わずに、部屋の中でじっくり二人の活躍を聞かせてあげますよ。出来ればお茶とお菓子と食事なんて出してくれると嬉しいです。えっ、いいんですか? さあ二人共、お邪魔しましょう!」
「「わ~い!」」
僕の勝手な判断で、子供達も扉を掴んだ。
病人のくせに意外と力が強く、三人がかりでやっと扉が開いて行く。
「おいいい、待てえええ! 俺は一言も良いとは言っていないぞおおお!」
必死の抵抗をみせる青年だが。
「うう、頭が痛い。こっちの薬はちっとも効かないし、向うの世界から病院来てええええええええ!」
変なことを言っているし、幻覚でもみているのだろう。
早く薬を飲ませてやらないと大変だ。
力尽きて膝をついた青年に、僕は肩を貸して、奥にあるベッドへと運んで行った。
なんとなく部屋の中を見回すが、ごく一般的な物が並んでいる。
お金持ちとは程遠い生活を送っているようだ。
しかし、この僕よりは確実にお金を持っているだろう。
「き、貴様……フゥ、ハァ……この俺が何者か知っての狼藉か! まずは名乗ったらどうなのだ! フゥフゥ……」
青年はハァハァ言いながら僕の名前を聞いてきた。
「ああ、僕クー・ライズ・ライトっていいます。あなたの薬の為に、この子達と同行して魔物退治に言って来たんですよ。是非感謝して食事でも提供してくれると嬉しいです!」
「親切の押し売りか。有難迷惑だわ!」
この青年は強がって声を張りあげるのだけど。
「まあまあ落ち着いてください、まずこの薬を飲んでひと眠りすればきっと治りますから。さあどうぞ、グイっといってください」
僕が薬を進めると。
「兄ちゃん、飲んでくれ!」
「お兄さん、お水持ってきてあげる!」
グリス君とリューナさんもキラキラした瞳で青年を見つめる。
「うっ……分かった、飲んだら帰ってくれ」
子供達の手前か、青年は流石に断ることはせず、買って来た薬を飲み干した。
「薬も飲んでこれで大丈夫です! さあ二人共、次は料理です! 美味しい物を作って喜んでもらいましょう! 大丈夫、味見はキッチリしますから不味くなることはありえません! では作りましょう!」
そして食事は重大なことだと、僕は味見をしながら料理をすることを決めた。
「「お~!」」
グリス君とリューナさんも手伝てくれるようだ。
「ああ、頭が痛い……」
もう青年は諦めたらしく、僕達は保存された食材を使い、病人食を作りあげた。
青年は作ったものをペロリと平らげ、疲れて眠ってしまったらしい。
そして僕達も冒険の疲れが出たのか、グッスリと眠りこんでしまった。
★
「おい起きろ」
そう言われてかなりの強烈なビンタを食らった僕は。
「ふぐぁっ!」
あの青年に思いっきり叩き起こされた。
まだ寝ぼけていた僕は、辺りを見回して、ここが眠っていたアパートだと思い出す。
しかし、子供二人の姿は見えない。
先に帰されたのだろう。
「何するんです、すごい痛いじゃないですか」
僕は怒るのだけど。
「俺の懐の方が痛いんだよ! 見ず知らずのお前に何しにメシをご馳走しなきゃいかんのだ!」
どうやら風邪も治ったようで、元気に怒っている。
あの二人の薬が効いたのだろう。
しかし、僕にも言いたいことはあるのだ。
「そこはほら、同行した二人を護ってあげたお礼ですよ。僕が居なきゃ危なかったんですからね。レベル三でレベル二十二のキャンドルリザードとか無謀でしょう! あなたチームメイトなんでしょう? もうちょっとちゃんと教育してください!」
僕は相手の言葉に逆切れして、説教を始めた。
くどくどと続けた僕の言葉に。
「……お、おう、それは悪かったな。……でもそいつら、俺のチームという訳じゃ……」
僕野反論に、この人も怖じ気づいたようだ。
「チームメイトじゃなくても、知り合いであるなら魔物の危険度を教えるべきです! ギルドに行けば魔物の能力値とか見れますから、ちゃんと勉強させてください!」
勝手に上がり込んでメシまで食って説教するとは、我ながら無茶苦茶である。
しかし、二人の今後の為にも言わなければならないのだ。
「で、でも俺、ギルドには行けないし……」
この人は何故か目をそらしている。
まさか賞金首だったり?
そういえば見たことがある顔をしているんだった。
何処で見たんだったか……?
「ああ、思い出した。フデの人だ。あなたフデの魔王ですね!?」
「誰がフデだ! 俺はインフェニティ―・ダーク・ロード……って違ああああああう! 今のは冗談だ、俺は魔王でもなんでもない!」
この青年は否定しているが、間違いなく本人だろう。
名前が長いので、やはりフデの人と呼ぼう。
「まあまあまあ、本人かどうかはどうでもいいじゃないですか。僕の為に魔王として捕まってください」
そう言って僕は、部屋の中の四隅に鉄棒を立てかけて行く。
「絶対嫌だわ! というか何だその棒は!?」
「ああ、これは気にしないでください。ただの棒なんで」
僕は適当に流して小さく呪文を唱えた。
この部屋の中ならば、なんとなく属性を絞ることもできるのだ。
「じゃっ、フデさん、炎の魔法でも使ってみてください。部屋が焼けるかもしれませんけど。あっ、雷でもいいですよ、部屋が焼けるかもしれませんけど。水浸しになっていいなら水の魔法を使ってください。それとも土でグチャグチャにしますか?」
僕は魔法を使うことを進めると共に、その危険性を指摘した。
「誰がやるか、それに俺はフデじゃない! 魔王じゃないって言っているじゃないですか。もう勘弁してくださいよ、お願いします、もう二度としませんから!」
よく分からないが凄く効き目があったらしい。
口調がマイルドになって頭を下げ始めた。
もう認めているようなものだ。
「まあ落ち着いてくださいよ。ギルドだって反省する人に酷いことはしませんって」
そう、魔王であってもギルドの扱いは変わらない。
酷いことにはならないだろう。
ギルドとしては。
「そうかな!?」
フデの顔が明るく変わる。
「はい、苦しみも与えず一瞬で殺してもらえますよ」
しかし僕は、その先のことを伝えた。
残念ながら国に喧嘩を売ってしまったフデに慈悲はない。
国に引き渡されて処刑されるだろう。
「ぎゃああああああ、いやだあああああああああ! 若気の至りだったんや。堪忍して。堪忍してええええ!」
若気の至りで国を滅ぼそうとしないでほしい。
だがこれ以上追い詰めるのは危ないだろう。
あんまり追い詰めて僕の口封じとか考え出すと危ないし、そろそろフォローをいれるとしよう。
「まあ安心してください。僕はギルドに顔がきくので、色々と助けてあげられることもあるでしょう」
僕はそれっぽいことを言って丸め込んだ。
「本当に大丈夫かな!? 俺もう逃げ回るのは嫌なんだよ!」
フデも随分精神をやられているようで、ビクビクしている。
本来はもう少し魔王っぽかったのかもしれない。
「はい、大丈夫ですきっと」
たぶん、一割ぐらいの確立はあるんじゃないだろうか?
「でもなんで魔王なんてやろうとしたんですか? 人を襲ったら駄目でしょう?」
一応理由を聞いてみるも。
「仕方なかったんだ。だって魔王って名前が格好いいし、最強って響きがいいだろ? でも魔王じゃお金が入って来ないんだよ。だって魔王って職業じゃないし! 野草や虫を食う日々とか稀に野生動物を食べられても、美味しい料理じゃないんだよ? 俺は耐えられないんだ!」
まあ失敗した魔王様はこんなものだろう。
しかし、野草や虫を食べざるを得ない気持ちには理解ができる。
「あなたの気持ちは分かります! このお弁当を見てください!」
僕はまだ手を突けていなかったお弁当の一つを取り出した。
そう、野草しか入っていないお弁当だ。
「こ、これはまさか、同士!?」
そんなお弁当を見て、フデは僕を同士と呼んだ。
「僕は現在進行形で貧乏です!」
僕としては全然嬉しくないのだが、それでも言い切って相手の心を掴む。
「うおおおおおおおおおおお、俺と友達になってくれ!」
しかし効き目があり過ぎて、親近感を沸かせてしまったらしい。
「貧乏友達なんて嫌ですよ! 抜け出せなくなったらどうするんですか! それより、一つ聞きたいことがあります。フェイさんという人を知っていますよね?」
まあこの人のことは今は置いとくとして、フェイさんのことを聞かなければならないのだ。
「フェイ? ああ、あの人か。三年前に行き倒れているところを助けてなぁ。悪人に攫われた娘を助けたいからって俺の装備を貸してやったんだ。今頃どうしているかなぁ……」
フデは、遠い目をして過去を懐かしんでいる。
あの人が賞金首になっているって知らないのだろうか?
「あの人、自分は魔王の手下だって言って町で暴れてましたよ。魔王の名前が広まって良かったですね。あっそれと娘のファラさんは普通にギルドで働いてます」
僕はフェイさんがやらかしたことを告げた。
「ぎゃあああああああああ! 俺の悪行が勝手に広まっていくううううう!」
頭を抱えているこの人には、なんとなくシンパシーを感じる。
しかしいくら反省してても、この人は国を襲ったテロリストで大悪人だ。
もう聞くことも聞けたし、僕の生活費になってもらおう。
「じゃあ僕用事を思い出したので帰りますね。大丈夫、ギルドには上手く伝えておきますよ! 僕に任せてください!」
僕は胸をドンと叩き、部屋から出ようとするが。
「待て、お前まさか、俺のことを売ろうとしてないよな?」
背後から声をかけられた。
「そんなことはないですよ。僕達は同士じゃないですか! 同士の言葉を疑うんですか!?」
同士という言葉を全面に出し、否定したのだけど。
「だからこそだ! お前は金の為になんでもする。例え俺に恨まれようと、明日の食糧が欲しいのだろう!」
流石同士と言うだけのことはある。
フデも僕のことを理解しているらしい。
気付かれてしまえば、魔王から逃げ出すのは困難かな?
「ふう、落ち着いて話し合いましょう。確かに魔王である人に慈悲はないですが、本当に可能性はあります。僕のチームにも魔族の人が居るんですが、その能力を知る為にかなりの減刑を受けていますから。魔物を操るという力を国に役立てるというなら、その可能性もあるでしょう。ですから、大人しく僕に捕まって報奨金をください!」
僕はフデ相手に本音をぶちまけた。
「くっ、本音が出たな! しかし可能性があるならかけてみるべきか? いやいやでも、いやいやだがしかし……」
フデ本人も迷っているようだが、暫くして答えが出たようだ。
「分かった、お前にかけてみよう。危なくなれば逃げればいいのだしな」
フデはそう納得して、僕と共にギルドへ向かうのだった。
★
町はまだ静かで、小鳥がチュンチュン鳴いている。
「ぼーなああああああああああす!」
「自由への疾走だああああああ!」
そんな中で全力疾走してギルドに向かっているのが僕とフデだった。
道に建ち並ぶ住居からは、うるさいとか声が聞こえてくる。
しかし今の僕達は気にしてはいない。
贅沢じゃなくても、程よい暮らしが出来るかもしれないからだ。
「さあフデさん、ギルドですよ!」
僕はそう言って、ギルドの扉をバンと開けた。
既に出社して来ていたファラさんやミアさん、他の仲間達も驚き、こちらを振り向いている。
そこには、正装したかのように真っ黒な衣装に身を包んだ、魔王フデが居たからだ。
顔を知っていた人達からは、ザワっとしたどよめきが聞こえる。
「誰がフデか! というかそのフデっていうのはどこから来たんだ!?」
まあそのフデと呼ばれて怒っているこの人は、結構な小心者なのだけど。
「最後のファイナンス・デンデンの頭文字からとったんですよ」
そんな魔王の本心を知ってる僕は、適当にからかったりしている。
「そんな名前はどこにもついとらんわ!」
胸を張って偉そうにしているものの、その体はロープでグルグル巻きにしてある。
何もないと怖がらせるかもと言った僕の言葉を聞いてくれたのだ。
「はいはい魔王様、もういいですから上司に挨拶に行きますよ。こっちです、ついて来てください」
僕はスラーさんの下へ案内しようと、持っていたロープを引っ張った。
「そ、そうだな……お前、絶対フォローしろよな!」
フォローしろと言ってるこのフデの内心は、相当ドキドキしているんじゃないだろうか?
「ああ、はいはい」
僕は適当に答えて引っ張っていく。
そしてこちらを見続けているスラーさんの前。
「スラーさん、魔王を捕まえました! これでボーナスくれますよね!?」
僕はフデの魔王を突き出したのだけど。
「……確かに、本物ならそうなりますけど、偽物を連れて来ても意味はないんですよライズ・ライト君。むしろ不正を働こうとしたとしてそれなりの対応を……」
何故か信じてもらえなかった。
そんなに僕の信用はないのだろうか?
「いや、この人本物ですから!」
僕は不正をしていないと証明する為に、フデをずいっと突き出した。
「そうだ、俺は本物だ!」
自分でも宣言しているし、曲がり間違って僕の不正にはならないだろう。
「ふむ、顔も本物のようですし、一応本物ということで取り扱いましょうか。それで、覚悟を決めて死にに来た訳ですか」
スラーさんの瞳はギンと輝く。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う! こらお前、早く俺のフォローをするんだ!」
ブンブンと首を横に振るフデの人は、僕に丸投げして来た。
まあ約束したので少しは庇ってあげようか。
「え~っとスラーさん、もう追われたくないから魔王辞めたいらしいです。それで死にたくないから奉仕活動をしたいんですって。魔物を操る能力も結構有能ですし、町とか国を護るのに凄く有用なんじゃないですか?」
僕はそういったのだけど。
「そんな危なそうな能力じゃ町や王都を護らせる訳には行かないでしょう。魔物を操る人物が心変わりしたらどうするんですか? その能力が突然切れて町中で暴れたらどうするんですか?」
スラーさんは、あまり乗り気ではないらしい。
言わんとすることは分からなくもないが、それはこのフデの魔王と敵対するということだろう。
抵抗するって言ってたし、あんまりいいことにはなりそうもない。
「俺はそんなことはしない! だってもう草とか食いたくないし!」
もちろん反論しているフデの人だが。
「一度やってしまった人に信用があるとでも? 町を占領したほうが手っ取り早いと考えないとも限りませんし。死んでくれた方が手っ取り早いんですが……」
無慈悲なことを言ってるスラーさん。
「死ぬのはいやあああああああああああああ! しょ、処刑されるぐらいなら、俺だって徹底的に交戦するからな!」
処刑されると聞いて、魔王フデは暴れ出そうとしている。
「まあ落ち着いてください魔王さん。こちらとしても無駄に交戦をして死人を出す訳には行きません。ある程度の能力封印や拘束を受け入れるのなら、こちらとしても受け入れられる可能性は零じゃありませんよ。もし受け入れてもらえるのならば、食事の面はギルドで保障させてもらいましょう」
スラーさんは、徹底的に否定した上で譲歩したように見せた。
「食事つき……」
相当苦労して来たであろうフデの魔王は、その言葉に心を動かされている。
もう落ちるのも時間の問題だろう。
出来れば僕にも食事をください。
「足りませんか? ではギルドに奉仕してくれるのなら、それなりの給金や住居も用意出来ない事はないんですけどねぇ」
更に譲歩したスラーさんは、ボロ小屋のようなアパートに住むフデに畳み掛けた。
「やりま~す!」
色々なことにに目がくらんだ魔王フデは、もろ手を挙げて喜んでいる。
でも別にスラーさんが権限を持ってる訳ではないので、今の交渉が正しく上に伝わって、国に許可されなければ無駄なのだ。
「それはよかった。ではまず今後の仕事の為にその力を測定させてもらいましょうか。ライズ・ライト君、頼みましたよ」
スラーさんは、仕事の為とか言ってるけれど、たぶん裏切られた時の為の保険だろう。
「了解です!」
そのくらいなら問題はないと、僕は引き受けることにした。
どうせ連れて来た僕には拒否権はないし。
というわけで今日の仕事が決まったようだ。
僕はファラさん達を誘おうとするが。
「今日も受付よ。ミアが暇そうにしてたから誘ってあげたら?」
どうやら受付の人の風邪は治っていないらしい。
「分かりました! じゃあミアさんを誘いに行って来ます! 行きましょうかフデさん」
僕はフデのロープを引っ張った。
「もうジョージで良いから、フデと呼ぶな!」
フデの魔王は抗議しているが、もう定着しちゃったので諦めて欲しい。
「いってらっしゃい」
ファラさんに手をふられ、僕達はギルド寮へ向かって行く。
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